2006 年 54 巻 1 号 p. 107-114
水産施設の汚損生物であるイバラワレカラCaprella acanthogasterの生活史を明らかにするために, 1999-2000年および2002-2003年に北海道のコンブ養殖筏で調査を行った。個体群は4月に大型個体の移入によって形成され, その後水温の上昇とともに密度が増加して8月に最大となった。しかし水温が最も高くなる9月に移出によって個体数は激減し, 翌年の春まで低密度で推移した。晩春に越冬大型世代と新たな世代の交代が確認できた。それ以降は夏まで継続的な繁殖が見られたことから, この期間は複数世代が混在していると考えられた。本種にとって人工基質は春から夏にかけての重要な生息場所であり, 個体群を増大させる場ではあるが, 季節的利用という側面が強かった。春の移入と夏の移出を考えると, 本種は人工基質と他の生息場所間を積極的に移動することで個体群を維持しているのかもしれない。