抄録
クモガニ上科の中で原始的な位置づけのクモガニ科のなかで、ヒラアシクモガニ属(Platymaia)は10種が知られ、この内4種がわが国に分布しているが、いずれも深海種であるため初期発育史に関する知見に乏しい。これまでに本属ではヒラアシクモガニ(Platymaia alcocki)の第1ゾエアが、また韓国産のヒラアシクモガニモドキ(P. wyvillethomsoni)の第2ゾエアまでが記載されている。今回、ヒラアシクモガニの抱卵雌からふ化ゾエアを得て、これまでに知られている本属の幼生形態と比較した。これらの種において主要な幼生形質ではほぼ一致したが、頭胸甲長や第1小顎の剛毛配列などで異なる部分もみられた。特に重要形質の1つである第1小顎内肢の毛式は寺田(1985)では「1,5」であるが、今回の結果では「1,6」で、ヒラアシクモガニモドキと同じであった。また、本属の小顎・顎脚の内肢毛式、第2触角や尾節の形状は、これまでに知られる中ではオーストンガニ属(Cyrtomaia)に近いが、その他の属とは異なっている。クモガニ科内においては属によるゾエア形質の変異が大きく、今後より多くの種での記載が望まれる。