2011 年 15 巻 p. 62-88
本稿において筆者は、かつての帝国と植民地にまたがって記録が不均衡に残存する構造を分析するために,日本と植民地朝鮮の山林資源分野の行政決裁システムと原本の保存構造について検討した。その結果、法令、予算、人事に関する決定権限は日本の内閣にあり、主要な事項はすべて天皇の決裁を受けたことが明らかになった。これに伴い、関連する主要な記録の原本は全て日本の国立公文書館に所蔵されることとなり、韓国の国家記録院に残されている山林資源関連記録の原本は、そのほとんどが施行に関連する記録であることを示す。すなわち、朝鮮総督府記録が日韓に不均衡な形で残存することになったのは、戦争、日本人の引揚げなどによる廃棄・散逸も大きな原因だが、より根本的な理由として帝国と植民地の決裁システムにあることを指摘する。