2006 年 5 巻 p. 2-50
アーカイブズの整理原則としては、一般に出所原則と原秩序尊重の原則の二つがあげられる。たしかにこれはアーカイブズが一次的記録情報資源という特殊性にもとづいたものである。しかし、わが国の中世アーカイブズ整理の立場からすると、この二つでは十分ではないと考える。アーカイブズ整理の原則(史料管理論)としては、I 原形態の尊重、II 原秩序の尊重、III 原伝存の尊重という三つがあげられると思う。これはI かたち、II かたまり、III かさなりというアーカイブズ学の研究課題、またI 形態論、II 構造論、III 伝来論という史料認識論の課題に相おうずるものでもある。さらにこれは、アーカイブズの生成から保存にいたるアーカイブズのライフサイクルの全過程を考察の対象とするものでもある。このような考えに到達したのは、近世アーカイブズ学の成果と東寺百合文書をはじめとする約10万通の東寺文書の整理の経験によるものである。そして、東寺関係文書は、わが国のアーカイブズとしてもっとも望ましい形で保存されていると考えられ、そのことについて具体的に述べた。