2016 年 65 巻 9 号 p. 1201-1208
【背景・目的】我々の過去の検討において,中等症持続型喘息患者を対象に吸入ステロイド(ICS)に長時間作用性吸入β2刺激薬(LABA,サルメテロール)またはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA,モンテルカスト)を追加投与したところ,LABAと比較してLTRAでより大きな気管支拡張効果が得られる患者群が存在し,LABAとLTRAとの薬剤反応性に大きな個体差が認められた.一方,β2受容体遺伝子(ADRB2)におけるGly16Arg多型とLABAとLTRAとの治療効果の差に関連はなかった.本研究ではロイコトリエン受容体遺伝子(CYSLTR1,CYSLTR2)及びプロスタグランジンE2受容体遺伝子(PTGER2,PTGER4)がLABAとLTRAとの治療効果の差に及ぼす遺伝的影響を検討した.
【方法】対象はADRB2 Gly16Arg遺伝子型がArg/ArgまたはGly/Glyの成人喘息患者(76名).ロイコトリエン受容体遺伝子(CYSLTR1,2)及びプロスタグランジンE2 受容体遺伝子(PTGER2,4)において,それぞれrs321029,rs912278,rs1254600,rs4133101の遺伝子型を決定.ICSにLABAまたはLTRAを16週間追加投与したことによるピークフロー(PF)の改善の差とこれらの遺伝子型との関連を検討した.さらに各ロイコトリエン関連遺伝子とADRB2 Gly16Argとの交互作用についても検討した.
【結果】PTGER4遺伝子はLABAとLTRAとによるPFの改善の差に有意に関連した(p=0.0032,rs4133101).さらに,PTGER4遺伝子とADRB2遺伝子との間に有意な交互作用が認められた(p=0.010).
【結語】PTGER4遺伝子は喘息患者において,ICSに追加投与したLABAとLTRAとの治療効果の差やADRB2 Arg16Gly多型の遺伝的効果に影響を与えている可能性がある.