農村計画学会誌
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論文特集号
農村振興プロジェクトに見る農村社会のリアリティ
-ベトナム紅河デルタ3農村集落の比較研究-
井上 果子グエン チ・ガーファム ティエン・ズン山路 永司
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2016 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 266-273

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抄録
筆者らは,ベトナム紅河デルタの異なる集落営農体制を有する3つの集落で2012年5月から5作期に渡り,①低投入型稲作技術としてのSRI農法の技術移転,および②トレーサビリティ確保,品質管理,消費者への直売を含む集落農業ビジネス能力向上にむけたアクションリサーチ事業を行った。本論では,事業開始前の農村社会や農業体制の実態把握期間,事業実施期間である5作期及び事業後の2作期の期間を含む長期間の観察結果を踏まえ,各集落が事業を受け入れ,継続する推移について,各農業集落の農業経営体制上の特性,各主体の態度や行動,農家の意思決定に影響を及ぼしうる生産性や収益性,農家の事業に対する意識等をもって示した。事業後においても集落農業ビジネスを持続的に展開している集落は3つのうち集落aであるが,同集落では,個別農家は,農業ビジネスの比較的高い収益性をもって継続意思を持続させ得るものの,その収益性を維持させるためには集落営農を可能とする地域自治力が必要とされ,それを有し得たのが集落aのみであったと考えられる。また,農業ビジネスを展開する上では,消費者側のニーズを踏まえ,生産性は劣るものの比較的高価格での一定の需要を見込める有機SRI農法が採用されるなど,生産側の論理のみでは対応しえない現実がある。地域・農家特性は多様であり,また農家を取り巻く環境や地域の各主体と農家の関係性も複雑で変化しうるものである。農業技術の移転や農家の能力向上に向けた事業については,それらの複雑かつ多様な特性を踏まえたものでなくてはならないリアリティを浮き彫りにした。
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© 2016 農村計画学会
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