抄録
中山間地域における耕作放棄地の増加傾向は著しい。農業を主たる産業とする中山間地域において、生産基盤である農地の減少は深刻な問題であり、その対策が求められる。耕作放棄の研究は、まず中山間地域を対象として行われてきた。その中で、中川らは中山間地域の耕作放棄の要因は、地形が急峻であるため、農地の形状が小さく不整形であること、基盤整備が行われていないこと、高齢化により農業労働力が減少していること等を指摘している。その後、耕作放棄地の研究は、都市的地域にも対象が広がり、服部らは、都市近郊の耕作放棄の発生要因は、田と畑では傾向が異なり、農業内部に存在する要因の他に、都市から受ける影響が要因として作用していることを明らかにした。そして、その都市から受ける影響を、都市近郊の耕作放棄の特徴として指摘している2) 。また、木村は、耕作放棄の要因を立地・物理的条件による素因と社会経済的な誘因にわけて分析し、耕作放棄地の対策を検討している3) 。これらの研究は、耕作放棄の要因として通作道の有無、農地勾配、土壌条件、水利条件等をあげ、分析の対象としている。中山間地では、高齢化のため、水管理、施設管理が困難となっている。そのため、水利条件をより深めた分析も必要であると考えた。そこで本研究では、用水路と受益水田の両者を考慮するために「潅概システム」を研究の単位とした (2研究方法1潅流農地と連担農地の定義参照) 。この単位を用いると、水路と水田の関係を水利条件を含めて調査することが容易になる。また、これまでの研究において耕作放棄の問題は、耕作放棄率を指標として耕作放棄の量について論じられたものが多い。しかしどのような耕作放棄地であるのかという定性的な分類も重要な視点だと考えた。分類方法の一つとして、農地が連続し、ある程度まとまって耕作放棄されているのか、虫食い状に分散的に放棄されているのか等の空間分布を指標としたものがある。この指標を用いて、耕作放棄地のタイブを検討した。本研究では、中山間地の潅概システムである熊本県矢部町の通潤用水地区を対象とし、「潅洗システム」を単位として、耕作放棄地の分類と分析い、この結果をもとに中山間地における耕作放棄地の対策を検討した。