地域高齢者の転倒防止策においては運動が有効であったとする一方,施設高齢者においては推奨される転倒防止策に標準的なものはなく何が有効かは未解明である。本研究は修正可能な内的因子(個人要因)に焦点を当て,施設高齢者の転倒に関連する因子を視機能から明らかにすることを目的とした前向きコホート研究である。椅子からの立ち上がりが可能な施設高齢者62例中,深視力検査が可能な29例[平均年齢 83.3歳(SD=7.3)]を分析の対象に,視機能(視力,深視力,瞬間視力を設定),筋力,関節可動域,バランス能力,歩行能力,認知機能,栄養状態(Mini Nutritional Assessment: MNA),服薬状況などの個人要因を評価し,転倒発生の有無を1年間追跡した。その結果,1年以内の転倒に影響を及ぼし得る有意な因子は,深視力と MNA のみであることがわかった。深視力の衰えは施設高齢者の移乗や歩行の姿勢制御に大きな影響を及ぼすと考えられた。施設高齢者の転倒防止には深視力の回復が重要である。