人類學雜誌
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歯における類モーコ形質群-とくにアイヌの歯について
埴原 和郎
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1970 年 78 巻 1 号 p. 3-17

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抄録

私はさきに,モーコ系人種の乳歯に共通して,他の人種よりとくに多く現われる形質を分析し,これらをまとめて乳歯の類モーコ形質群とよんだ(埴原,1966).同様な形質群は当然,永久歯にも存在すると予想されるが,現在のところ永久歯では,上顎切歯のシャベル型,下顎第1大臼歯の第6咬頭,第7咬頭ならびにprotostylid がこのような形質群の構成要素として考えられる.同時に,上顎第1大臼歯の CARABELLI 結節は乳歯と同様に Caucasoid に多く出現するので,これはコーカソイド形質群とよばれるべきものと考えられる.
この論文では,このような形質群を基礎としてアイヌの歯冠形質の特徴を分析した.とくにシャベル型に関しては従来の肉眼的分類の代りに,切歯の舌側面窩の深さを直接計測する方法を試みた.今回対象としたアイヌの歯は少数ではあるが,家系調査の結果,ほとんど純血と考えてよい集団である.
一般にアイヌでは,乳歯,永久歯ともに類モーコ形質群の頻度が高く,とくに日本人(和人)に近い特徴を示す.シャベル型の程度はやや弱いが,白人に比較するとかなり強いといえる.一方,白人に多い CARABELLI結節はアイヌには少なく,この点でもアイヌはモーコ系人種に近い.アイヌの歯に関してはさらに資料を追加しているので,今后は和人との混血集団に重点をおき,また資料数を増加して集団遺伝学的分析を行なう予定である.

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