抄録
ニホンザル1,000例以上の調査ののち,伊豆半島伊浜の群集団に異常ヘモグロビンの出現することを見出した.この異常ヘモグロビンはカニクイザル変異ヘモグロビンの1種Hb-Pmiに類似してin vitroで分子重合を示す特異な性質が認められた.しかしカニクイザルの場合と異なり,重合体は比較的均一で正常ヘモグロビン2分子に対応する分子量を示すこと,このヘモグロビン異常はβ鎖に由来しβTp10ペプチドのノアミノ酸のシスティン置換で生じたと推測された.
この異常ヘモグロビンは伊浜および近接する湯河原の群集団のみにかなり高頻度に分布していた.変異遺伝子が一部群集団のみに限って出現する現象はニホンザルについてこれまで調査された多くの多型性形質に共通して認められる.
この異常ヘモグロビンをHb-Pfus Ihamaまたはfuscata Hb-Ihamaとよぶよう提案されている.