人類學雜誌
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衣服と体温調節
永田 久紀
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1978 年 86 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

体温調節の面からみると,ヒトはもともと寒い地域では生存できない生物である。今日人類が地球上のあらゆる地域で生存し繁栄しているのは,人類が衣服,住居,暖冷房などによって気候を人工的に調節する方法を考案したからにほかならない。この一事をみても衣服がヒトの体温調節の補助手段として非常に重要なものであることがわかるが,衣服の体温調節に果す役割が科学的に解明されはじめたのはそんなに古い時代のことではない。勿論,19世紀にMaxvon Pettenkoferが近代衛生学を確立した時点ですでに衣服の重要性は認識され,次いでMax Rubnerによって衣服の研究が行われたが,本格的に衣服の衛生学的,体温生理学的研究が始められたのは,わが国では昭和のはじめ頃,世界的には(主に米国で)第2次世界大戦のはじまる少し前の頃であった。その後研究は急速に進展し,衣服の体温調節に果す役割についていろいろな重要な事実があきらかにされたが,最近十数年は研究の進展にやや頭打ちの傾向が認められる。しかし勿論,衣服の体温調節に果す役割についてすべてが解明されたわけではない。いくつかの重要な問題がほとんど解明されないままになっている。この小文では,著者の乏しい知識の範囲内に限定されるが,衣服による気候調節,あるいは衣服の体温生理学的研究に関する従来の研究の経過をふりかえるとともに,今後いかなる研究が必要であるかを考えてみたい。

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