人類學雜誌
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二次元図形を認識するための簡便な方法とその旧石器への応用
遠藤 萬里
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1979 年 87 巻 4 号 p. 473-481

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抄録

先史学や人類学の研究における対象標本はかなり不規則な形態をもつものが多い。このような形態に対しては,ふつう行われているような直線距離計測や2直線交角の測定はあまり有効でないことがしばしばある。このような場合,近年発達しつつあるパターン認識法を適用することが良いように見える。しかし,多数の標本を処理しなければならない先史学や人類学においては,高価な装置やオンライン•コンピューターを長時間使用せねばならず,そのようなことは通常困難であろう。したがつて,通常のパターン認識法よりはるかに簡単で,大掛りな装置なしに行なえるような測定法も必要である。
そのため本報告において,二次元図形を慣性モーメントを中心とする9個の特性値で表現する簡便な方法を構成した。この場合,パターン認識における画像関数に相当するものとして,二次元図形を簡略化して薄板になぞらえ,その面に直交する方向への加速度の方程式を導入した。したがつて,この方法は通常の計測法とパターン認識法の中間的なものであり,一方では復雑な計測法であるともいえ,他方では最も簡略化したパターン認識法であるともいえる。ただし,この方法は通常のパターン認識法と異なり,得られる特性値はそれぞれ分りやすい具体的意味をもち,それが従来の記述的特徴に対応させることができる。また,この方法では慣性主軸座標系をもちいるため,図形の長軸や短軸を一義的に決定できる。本報告ではこの方法を「慣性モーメント法」と呼んだ。この方法による具体的な測定と計算についての詳細な説明は別の報告(遠藤i,1978:考古学
と自然科学11号)に和文で述べてあるので,必要ならば参照されたい。
この慣性モーメント法を西アジアのドゥアラ遺跡の中期旧石器の分析に適用することを試みた。その結果は,この方法が実際の研究に有効に使用しうることを示した。

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