人類學雜誌
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釧路市緑ケ岡遺跡出土繩文時代人骨にみられた上顎裂の一例
山口 敏
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1984 年 92 巻 2 号 p. 105-108

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抄録

縄文時代の土偶や土器の人面把手に,上唇裂を表現したと思われるもののあることは,すでによく知られた事実である(野口,1964;大塚,1975)が,縄文時代の人骨に上顎裂の直接の証拠が発見されたのは,ここに報告する例が最初であろうと考えられる。
この人骨は,1963年に北海道釧路市緑ケ岡遺跡の縄文晩期の第29号墓壙で,土器片,石斧,石槍等を伴い,大量のべんがらにおおわれた状態で発見された,熟年女性と推定される骨格である。骨の保存状態は良好ではなく,頭骨では左右上顎骨の歯槽部と下顎体しか保存されていない。左上顎骨は前顎骨に相当する部分を欠いているが,歯槽突起の外側面と内側面とが,犬歯歯槽の近心縁から内上後方に走る稜線で直接にあい接しており、この部に上顎裂があったことは疑いない(第1図)。これは,生前においては,上唇裂を伴っていたものと考えられる。口蓋突起が破損しているため,口蓋裂が伴ったかどうかは明らかでない。なお,右上顎骨の歯槽突起には異常は認められない。
小臼歯と大臼歯の磨耗は,左右とも著しく進行しており,しかも咬合面が,通常の場合とは反対に,頬側上方から舌側下方に傾斜している。これは上下の歯列の大きさの関係に異常があったために生じたものと推測される。

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