抄録
ライオンタマリンは絶滅にひんした新世界ザル(New World monkeys)であり,世界中の博物館が保有している骨標本の数も,きわめて少ない。この研究では,比較的多くの資料を用い,マーモセット科(Cal-litrichidae)のなかでしめるライオンタマリンの分岐的位置,およびライオンタマリン3種(Leonto-pithecus chrysopygus, Leontopithecus rosalia,Leon-topithecus chrysomelas)の関係を,歯と頭骨の形質に基づいて解析した。ライオンタマリンとマーモセット(Callithrix)•ピグミーマーモセット (Cebuella)グループは,上顎第1大臼歯のハイポコーン(hy-pocone)がほとんど退化していること,鼓室のなかに板状構造が存在すること,という子孫形質(apo-morphy)を共有していた。このことは,ライオンタマリンとマーモセット•ピグミーマーモセットグループが単系統群になることを示している。ライオンタマリンの種間関係では,L.chrysopygus と L rosaliaは,上顎第2小臼歯の輪郭が円形に近いという子孫形質を持っているので,この2種は L.chrysomelas よりも分岐的に近いと考えられる。
ライオンタマリン,マーモセットを含め,ブラジル南東海岸の霊長類の分化は,refuge の形成によって起こったとみなされている(KINZEY,1983)。 KINZEY(1982)はこの地域に4つの refuge,すなわち,Paulista refuge, Rio Doce refuge, Bahia refuge,Pernambco refuge を想定した。 L. rosalia の refugeは,KINZEY(1982)指摘と異なり, Rio Doce refugeではなく,JACKSON(1978)の Orgaos refuge の可能性がきわめて高いことが,ラィオンタマリンとマーモセットの種間関係を解析することによって明らかになった。