アジア動向年報
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各国・地域の動向
2018年のパキスタン 新政権の発足で民主化の進展なるか
井上 あえか牧野 百恵
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2019 年 2019 巻 p. 565-590

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2018年のパキスタン

概 況

パキスタン下院は5月に任期を満了し,7月に総選挙が実施された。2大政党であるパキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)とパキスタン人民党(PPP)に,イムラン・ハーン率いるパキスタン正義運動党(PTI)がどこまで迫れるかが焦点となったが,結果はPTIが予想を上回る躍進を果たし,イムラン・ハーン首相が誕生した。州議会においても,ハイバル・パフトゥンハー(KP)州とパンジャーブ州でPTIが与党となった。選挙前には候補者や政党事務所へのテロが頻発した。

2017/18年度のGDP成長率は5.8%で,前年度に引き続き好調であった。その一方で,国際原油価格の高騰,中パ経済回廊(CPEC)に関連した機械類の輸入により,経常収支赤字は史上最悪の水準となり,外貨準備高が減少した。パキスタン中央銀行(SBP)は5度にわたる通貨切り下げで対応するも,対外債務は悪化した。国際収支危機回避のため,ハーン新政権はIMFからの融資を模索したが,条件で合意に至らず,中国,サウジアラビア,アラブ首長国連邦(UAE)といった友好国に対し,なりふり構わずに支援を求めた結果,支援確保に至った。

外交ではトランプ米大統領がパキスタン非難を繰り返す一方,元来アメリカの無人機攻撃を批判してきたイムラン・ハーンが首相になり,米パ関係は改善の見通しが立たない。インドに対しては,ハーン首相は対話の意思を示しているが,インド側は厳しい姿勢を崩しておらず,テロをめぐっては双方の非難の応酬があった。一方中国に対しては,CPECに対する内外の疑念が聞こえてくるなかで,ハーン政権は慎重な姿勢も見せつつ,良好な関係が続いている。しかし中国人に対する市民レベルの反感は変わらず,中国人を標的としたテロや誘拐も発生した。

国内政治

選挙の実施

上院の半数にあたる52議席について,州議会と下院の議員による投票が,3月3日に実施された。上院は104議席からなり,6年ごとに半数が改選される。単独政党としては30議席を有するPML-Nが最多であるが,PTIが4政党,すなわちバロチスタン人民党(BAP),統一民族運動(MQM),バロチスタン民族党(BNP),民主大連合(GDA)と無所属議員とともに連立を組み,40議席で与党を構成することとなった。MQMやGDAはともにシンドでPPPの地盤に挑戦する政党でありバロチスタンのBAPやBNPとともに,パンジャーブとシンドを地盤とする大政党を下野させたことになる。ちなみに,上院議長となったサディク・サンジラニは,初のバロチスタン出身かつ史上最も若い(40歳)上院議長である。

一方,下院は5月31日をもって任期を満了し,6月1日に発足した選挙管理内閣の下,2017年の選挙管理法に則って下院および州議会の選挙が7月25日に実施された。2008年に史上初めて下院が任期を全うして以来,今回で3度目の任期満了による選挙の実施となり,民主化プロセスが軌道に乗ったことを示しているといえよう。

今回の選挙は,大政党のPML-NとPPPに新興のPTIを加えた3党を軸に,宗教勢力と地方政党をまじえて争う構図となった。PPPは2007年にベーナジール・ブットー前党首が暗殺されて以降,夫のザルダリと長男ビラーワルが共同総裁を務め,2008年選挙で政権を担ったが,前回選挙(2013年)ではPML-Nに与党の座を譲り,全国的な指導力の低下が続いていた。一方,PML-Nは,2月に最高裁がナワーズ・シャリーフ元首相には党首の資格なしと判決,さらに4月には終身にわたって議員資格なしとの判決を下した。2月の判決には51ページに及ぶ理由がつけられ,「資格を欠いた人物が選挙プロセスを経ずに操り人形を操るように糸を引き,政権を我が物のように動かしている」と厳しく指摘した。さらに7月にはシャリーフ元首相に10年の禁錮刑判決が下されたことにより,彼は事実上政界を追放されたも同然となった。加えて後継者の1人と目されていた長女マリヤム・ナワーズ・シャリーフも禁錮7年の判決を受け,PML-Nは大きな打撃を受けることになった。

そのようななか,第3の政党としてPTIが存在感を増していたが,政権交代の可能性には懐疑的な見方が多かった。PTIはクリケットのナショナル・チーム主将であったイムラン・ハーンが1996年に結成した政党で,2002年にイムラン・ハーン自身が初当選し,前回2013年の選挙で初めて第3党となった。彼は今回の選挙戦において若年層を中心に広範な支持を集め,さらに躍進することが予想されていた。とはいえ,彼は議会において実質的な成果を上げておらず,果たして2大政党に取って代わるほどに広範な支持を得ているのか,結局のところPML-Nの全国的な力には及ばないのではないかとの予測もあり,7月4日の"National Survey of Current Political Situation in Pakistan"による世論調査でもPML-Nが3ポイント優勢と出ていた(http://ipor.com.pk/wp-content/uploads/2018/07/National-Survey-of-Current-Political-Situation-in-Pakistan.pdf アクセス日2019年1月31日)。

しかし結果はPTIが選出議席272のうち116議席を獲得して大勝し,PML-Nが64議席,PPPが42議席などとなった(図1の数字は,これに女性60と少数派10の留保議席を加えた議席数。議席総数は342議席)。首都イスラマバードや,PML-Nの支持基盤として磐石と思われたパンジャーブの広い範囲で,PTIが圧倒的な強さを見せた。またKP州ではPTI支持がさらに拡大し,パシュトゥーンの民族政党であるアワーミー民族党(ANP)は1議席にまで落ち込んだ。シンドでは全体としてPPPが強さを見せたが,改選前はMQMの地盤であったカラチ選挙区をPTIが席巻し,MQMは17議席を失った。宗教政党は統一行動評議会(MMA)として連合を組んで候補者を立てたが,連合を組まなかった前回の各政党の議席合計と比べて5議席減らした。1971年の民主化以来PPPとPML-N以外の政党が与党となるのも,地主でも資本家でもない人物が首相の座に就くのも初めてのことである。「Naya Pakistan」(新しいパキスタン)あるいは汚職摘発など,彼が掲げる清新な公約への期待は大きいといえよう。

図1  2018年連邦議会上院議員選挙,下院議員選挙の各党の獲得議席(2018年末現在)

(注)1)政党名はパキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N),パキスタン人民党(PPP),パキスタン正義運動党(PTI),バロチスタン人民党(BAP),統一行動評議会(MMA),統一民族運動(MQM)。PTI,BAP,MQMなどが連立し,40議席で与党を構成する。

   2)7月25日の投票後,複数の選挙区で当選した候補が出たことで生じた空席を埋めるため,10月14日と21日に,下院と州議会の補欠選挙が実施された。政党名は,注1のほか,パキスタン・ムスリム連盟カーイデ・アーザム派(PML-Q),バロチスタン民族党(BNP)。

(出所)Election Commission of Pakistan,Senate of Pakistan.

今回の選挙はスマートフォンのアプリを使った新しい集計方法によって,午前2時までには結果が発表される予定だった。しかし,選管の説明によれば,全国の投票所で開票作業に当たった選管の人員がシステムに不慣れであったため,かえって時間がかかった。そのため,結局8月上旬にかけて選挙区ごとに順次開票結果が発表されていった。投票率は51.6%で前回より3.4ポイント下がった。

投票所の運営それ自体は比較的良好である。筆者は今回と1997年に選挙監視団に加わったが,1997年の時点では,投票所となった学校では机や椅子が教室の一角に雑然と積み上げられ,記入用ブースは背後から記入を見ることができる状態だった。しかし今回はどの投票所も整然と片付いており,記入用ブースは共通の白いプラスチック製らしい折りたたみ式で,視察したイスラマバードの14の投票所では統一されたものが使われていた。いずれも政党立会人や選管人員から離れた位置に,動作を見られずに記入できるよう配置されていた。政党立会人は,候補者を出した政党から1人ずつすべての投票所に派遣され,投票の初めから開票までを監視する役目の人であるが,今回は格段に女性の立会人が増えていた。さらに国内の選挙監視NGOの活発な活動が見られた。少数派のための権利を守る団体の例では,女性,障害者,トランスジェンダー等,それぞれの代表が監視活動に従事していた。ここでも若い女性の姿が目立った。いずれも筆者の端的な観察ながら,パキスタン社会に選挙の運営や参加が定着してきていることの表れのように思われる。

新政権発足

8月15日下院が招集され,下院議長にPTIのアサド・カイセルが選出された。17日には首相選挙が行われ,イムラン・ハーンがPML-Nのシャハバーズ・シャリーフを破って首相に選出された。PTIの連立政権は177議席となった(過半数は172)。

ハーン首相は投票日翌日に勝利宣言して以来,第一の公約として改革と汚職摘発に取り組むことを強調し,「新しいパキスタン」というスローガンを掲げた。また改めてアメリカの対テロ戦略を批判する立場を表明し,CPECについてもパキスタンの利益を考えて見直しを行うとした。そして最初の100日を見て欲しいと国民に呼び掛けた。彼はこの100日の間に,さまざまな検討を行うための委員会を設置し,4月に発表した11項目の政策課題に取り組んだ。11項目の内容は,教育への投資増大,KP州で成功した保険制度の全国拡大,徴税の拡大,汚職追放,投資の誘致,雇用促進,農業改革,連邦制強化,環境改善,観光振興,司法制度改革である。汚職撲滅や教育,保険制度が重視されていることは,大規模なインフラ事業が多かったシャリーフ政権との対比で好意的に受け入れられている。一方で,汚職摘発が政治的な魔女狩りになっているという非難もあり,汚職審査局(NAB)を政治的に使っているとして,その独立性に疑問を呈する論評も見受けられる。

KP州議会では,PTIは前回から与党であったが過半数に達していなかった。今回は3分の2の議席を獲得して他を圧倒した。ANPとPPPが前回よりそれぞれ2議席,4議席増やした一方,PML-Nは7議席失った。パンジャーブ州議会でPTIが政権を取ったことは,今後の首相の政権運営を助けることになるだろう。しかし下院もパンジャーブ州議会も単独では過半数に達してはおらず,PTIは政権運営にあたって連立政党や無所属議員を離反させないための配慮が不可欠である。

11月26日に,ハーン首相はバジュワ陸軍参謀長を伴って,就任後初めて,連邦直轄部族地域(FATA)の北ワジリスタンを訪れてパシュトゥーンの部族議会であるジルガで演説した。「私たちは外から持ち込まれた戦争を,我が戦争として戦ってきた。そのために多くの汗と血を流し,社会経済的な力を失ってきたのだ」と述べた。首相は従来,これまでの政権がアメリカの無人機攻撃によるパキスタン人の巻き添え被害を防げていないことを批判してきたが,首相としてさらにワジリスタンへ寄り添う姿勢を明示した。なお,ワジリスタンを含むFATAを2年後にKP州に合併する法案が5月25日に上下院を通過し,31日にフサイン大統領が承認して成立した。

9月にフサイン大統領が任期を終え,上下両院と州議会議員による大統領選挙が行われた。PTIのアリフ・アルヴィ,MMAのファズルル・ラフマーン,PPPのエーティザズ・アハサンの3人が立候補し,アリフ・アルヴィが53%の票を獲得して当選し,9日に宣誓式を行って第13代大統領に就任した。

アーシア・ノーリーンへの無罪判決

貧しいキリスト教徒の農業労働者で,5人の子の母であるアーシア・ノーリーンは,2009年,近隣の人からイスラームへの改宗を勧められた際,キリストは人間の罪を背負ったが,ムハンマドは何をしてくれたか,と問い返した。このことが地元のイスラーム指導者の耳に入ると,彼女は冒涜的であるとして警察に通報され,1年以上の拘留の後,2010年にシェイフプラの治安判事により冒涜罪で絞首刑の判決が下された。この一件はラホール高裁で争われた段階で国際的な関心を集め,さまざまな少数派擁護団体がアーシアの釈放を求め,ローマ教皇ベネディクト16世やフランシスコが訴えの棄却を呼び掛けるに至った。国内では,当時の連邦少数派相(現宗教問題・異教徒間調和相)シャハバーズ・バッティや,同パンジャーブ州知事サルマン・バシールがアーシアを擁護し,冒涜法という法律自体を批判する立場を表明したが,のちに2人とも暗殺された。

2018年10月31日,最高裁がアーシア・ノーリーンに逆転無罪判決を下し,彼女は即時釈放された。これに対してイスラーム主義政党のパキスタン・ラバイク運動(TLP)が全国的な抗議行動を呼び掛けた結果,各地で都市機能が麻痺し,バスへの放火や女性への暴力,ひったくりが発生し,11月中に3000人以上が逮捕される事態となった。TLPが11月25日にラホールで大規模な座り込みを計画していたことに対し,警察は再三中止を申し入れたが聞き入れられなかったため,23日に創設者カーディム・フサインら幹部2人を反逆とテロを行ったとして拘束した。なお本件は2019年1月29日に最高裁で控訴が棄却された。また,アーシアと家族は希望により2019年2月にカナダに亡命した。この一件では,パキスタンにおいて冒涜法の名の下に少数宗派の迫害や殺人が行われてきた事実が問われた。宗教的な強硬派の動向に対して,最高裁が毅然として,少数派への不寛容を認めないという判断を示したことは重大な意義のあることといえよう。

治安

選挙に絡み,7月には候補者襲撃や自爆テロが相次いだ(「重要日誌」参照)。特に犠牲者が多かったのは,7月13日にバロチスタン州マストゥングとKP州バンヌーで起きた爆弾テロである。マストゥングでは,BAPのシーラジ・ライザニ下院議員候補を標的として犯人が自爆,ライザニ候補と付近にいた149人が死亡,186人が負傷した。IS(「イスラーム国」)が犯行声明を出した。また,バンヌーではアクラム・ドゥッラーニ元州首相を狙ってオートバイに仕掛けられた爆弾が遠隔操作で爆破され5人死亡,ドゥッラーニ元州首相を含む37人が負傷した。過激派組織イッテハードゥル・ムジャーヒディーンが犯行声明を出した。

投票日は37万人の兵が治安を確保すると報じられてきたが,当日にもクエッタで爆弾テロが起こり31人が死亡した。治安への不安や一部のイスラーム主義勢力の妨害が原因で,投票の意思はあっても権利を行使できない国民が国内各地に存在することが示唆されている。

11月23日早朝,武装した3人がカラチの中国総領事館を襲撃した。警察と襲撃犯らの間で交戦となり,襲撃犯3人全員が射殺され,警察官2人が死亡した。非合法化されているバロチスタン解放軍(BLA)が犯行声明を出した。中国外務省報道官は定例記者会見で襲撃を強く非難し,パキスタン政府に対して中国市民の安全を守るよう強く求める一方で,迅速な対応をした警察への謝意を表し,「中国とパキスタンの関係を損なおうとするいかなる試みも失敗に終わる」と述べた。

中国に関連する事件としては,2月にカラチで民間の海運会社の社員の中国人が銃撃され,病院に運ばれたが死亡した。また8月にもバロチスタンで鉱山開発に関わる技術者を乗せたバスが自爆テロに遭い,3人が死亡,6人が負傷した。バロチスタンにくすぶる政府への反発が,CPECに関わって滞在する中国人らに向けられている感は否めない。

中国総領事館が襲撃を受けた同日,KP州の野菜果物市場でも爆弾テロがあり,31人が死亡した。オラクザイ県のシーア派が多いカラヤ地区で,以前は宗派抗争で破壊されたこともあるが,近年は収束していた。またオラクザイはFATAの7県の一つで,唯一アフガニスタンと接していない。2014年の大規模掃討作戦までは,テロリストがアフガンへ入る際の経由地と見られていた。犯行声明はなく,中国総領事館襲撃との関連は確認できていない。

そのほかKP州とバロチスタン州を中心に,軍の車両や駐屯地を狙ったテロが起きている。テロ件数は前年より29%減少しているものの,パキスタン・ターリバーン運動(TTP)とその関連団体が依然治安上の脅威である。今やパキスタン国内にはISのパキスタン支部と見られる集団が存在しており,バロチスタン民族主義の急進派が合流しているという見方がある。

(井上)

経 済

2017/18年度の経済概況

パキスタンの2017/18年度(2017年7月~2018年6月)の実質国内総生産(GDP)成長率は5.8%で,前年度に引き続き堅調な伸びであった(Economic Survey[経済白書],2018年4月26日)。前年度と同様に好調であったのは,農業部門,CPEC関連の建設業である。加えて2017/18年度は,電力供給の改善,資金調達コストの低下,耐久消費財需要と鉄鋼やセメントといった建設関連産業に支えられて,製造業が活況であった。セクター別では,農業部門が3.8%増,工業部門が5.8%増,サービス業部門が6.4%増(いずれも対前年度比)であった。

経常収支赤字は190億ドルと,史上最悪の規模であった。670億ドルという輸入額の激増(対前年度比14.4%増)が最大の要因である。輸出は4年ぶりに好調で,対前年度比9.4%増であったが,輸入の激増を相殺するには至らず,貿易収支赤字は拡大した。国際原油価格の高騰(同32%増)が,パキスタン輸入額のうち最大のシェアを占めるエネルギー関連の輸入に与えた影響が大きい。また,CPEC関連事業での機械類の輸入も前年度に引き続き伸びた(同17.4%増)。過去10年以上にわたりパキスタンの外貨獲得に最大に貢献してきた海外労働者送金は,対前年度比1.4%増にとどまった。海外労働者送金は2015/16年度にピークを迎え,その後は伸び悩んでいるが,送金元国の変化をみると,むしろ楽観的に評価すべきだろう。サウジアラビアやUAEが依然として主要な送金元国であることに変わりはないが,これらの湾岸諸国からの送金額が停滞しており,代わってアメリカやイギリスからの送金額が伸びている。湾岸諸国からの労働者送金は,国際原油価格の変動に影響を受けやすいため,送金元国が多様化してきたことは好ましいことである。輸入の激増に加え,海外労働者送金の緩慢な伸び,アフガン和平協力への見返りであったアメリカからの連合支援基金(Coalition Support Fund:CSF)の停止によりサービス輸出が減少したことなどの影響を受け,経常収支が記録的な赤字となったことで,外貨準備高は前年度より30.5%減の164億ドルとなった。これを受けて,SBPは2018年を通して5度の通貨切り下げを行った。前年度末に1ドル=104.8パキスタン・ルピーであった為替相場は2017/18年度末には1ドル=121.3パキスタン・ルピーまで下落した。通貨は下落の一途をたどり,「国際収支危機」で後述するように2018年末には,1ドル=138.4パキスタン・ルピーまで下落した。

消費者物価指数(CPI)はここ4年ほど目標値を達成しているが,今年度は2003年度以来の低水準で,3.9%にとどまった。為替相場の下落により,石油をはじめとする輸入価格が上昇したことによるインフレ圧力は,主要食糧の供給が安定したことで食糧価格が安定し相殺された。

財政赤字は,対GDP比6.6%と目標値(同4.1%)を大幅に上回ったほか,前年度(対GDP比5.8%)を上回るかたちで悪化した。選挙を控えて財政支出が大幅に膨らんだことが大きい。税収それ自体は,「税金恩赦スキーム」(4月8日公布)により一時的に増加し,年間でも14.3%増加した。しかし,それでも対GDP比税収は,前年度の12.4%から13.0%へとわずかに拡大したのみであり,相変わらず南アジアで最も低い水準である。税基盤を拡大するような構造改革が不可欠だろう。

財政赤字,経常収支赤字に為替相場の下落が拍車をかけるかたちで,2017/18年度末の公的債務は951億ドルに増大した(対前年度比16.5%増)。これにより対GDP比公的債務は,前年度の67.0%から72.5%に膨らんだ。「2005年財政責任および債務制限法」で定めた同60.0%を大幅に上回る危険な水準である。前年度と異なり,2017/18年度増加分のうち,6割超は対外債務の増大によるものであり,うち半分は為替相場の下落によるものである。今年度増加した対外債務のうち,比較的利子率が高く償還期限を早く迎える海外の商業銀行からの借り入れが多く,国際収支危機のリスクがさらに現実味を帯びている。

国際収支危機

前年度から続く経常収支赤字の悪化が,2017/18年度はさらに加速した。最大の要因は,前述のとおり輸入額の激増である。経常収支の記録的な赤字を受けて,外貨準備高は2017/18年度末で前年度より30.5%減の164億ドル(うちSBP保有残高98億ドル),2018年末には138億ドル(同72億ドル)まで減少した。

経常収支赤字は史上最悪の規模で,対GDP比5.8%と,2008年(同8.2%)以来の国際収支危機を迎えた(図2)。2017年12月17日に,SBPは4.4%の通貨切り下げを行っていたが,国際収支危機が現実味を帯びたことで,2018年に入って五月雨式に通貨切り下げを行った。3月18日4.3%切り下げ,6月11日4.9%切り下げ,7月16日5.3%切り下げ,10月9日7.0%切り下げ,11月30日6.0%切り下げである。為替相場は,1年で27.3%下落した。

図2  国際収支危機

(注)経常収支黒字はマイナスで表示。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Supplement, 各号。

国際収支危機を打開すべく,10月11日,政府は公式にIMFに支援を要請した。IMFの融資プログラムとしては1988年以来13回目となる予定で,前日に首相がコメントしたところによると,「100億~120億ドルの支援が必要」(Nation,2018年10月11日)とのことであった。IMFの融資プログラムは条件が厳しく,融資条件を満たして打ち切られずに終了したプログラムは,過去12回のうち3回しかない。直近の拡大信用供与措置(EFF)は途中で打ち切られることなく2016年9月に完了したが,それでも条件は当初よりかなり緩和された。今回も,財政赤字を減らすべく,厳しい条件を課されることは必至であったため,パキスタン政府は同時に中国,サウジアラビア,UAEといった友好国にも援助要請のアプローチを開始した。

もともと,イムラン・ハーン首相は就任以来,IMFに支援を要請することを渋ってきた。選挙キャンペーン時より,これまでのPML-NやPPP政権がIMFをはじめとする融資機関に支援を要請してきたことを批判し,自身は「托鉢の椀」(Dawn,2018年5月6日)を持つことはしない,と公言してきた。このため,IMFに公式に支援を要請した際には,IMFの融資条件はパキスタン国民の身を切る内容が予想されることもあり,首相に対する批判が上がった。一方で,IMFではなくても,友好国になりふり構わず支援を要請している姿勢がまさしく「托鉢の椀」を持っているではないか,と揶揄する世論もあった。「托鉢の椀」作戦が実を結んだのか,パキスタン政府は10月24日,サウジアラビアから60億ドルの支援を得ることで合意に至った。内容は,SBPの外貨準備への充当資金30億ドルを融資し(1年満期),石油輸入代金30億ドルの支払いを1年猶予するというものである。引き続き11月2~5日,ハーン首相は中国を訪問し,中国政府から同様の支援を得ることで合意したとされるが,支援額は公表されていない。これらを受けて6日,ウマル財務相は,パキスタンの国際収支危機が収束したことを宣言した。さらに18日,ハーン首相はUAEを訪問して財政支援を要請した。UAEは12月21日,SBPの外貨準備に充てるための30億ドルの融資を発表した。28日,ハーン首相は国際収支危機の収束を宣言した。

IMFとパキスタン政府は,融資の事前審査および条件のすり合わせのため,11月7日から20日まで会合をもった。IMFの条件は,電力・ガス料金の引き上げ,通貨および利子率のさらなる切り下げ,増税であった。友好国からの支援を取り付けたこともあってアウトサイドオプションができたパキスタン政府は,これらの条件を呑めないとして,13回目の融資プログラムは合意されないまま,2019年まで交渉が持ち越されることになった。合意に至らないことは初めてのことであったが,この解釈は一義的にできない。一方では,パキスタンの交渉力が上昇し,条件を受け入れる必要がなかったということが考えられる。他方では,IMFが条件の緩和に応じなかったとも考えられる。過去にも同様の融資プログラムで,パキスタンの財政改革が必ずしも十分でないにもかかわらず融資がなされたが,その背景には,IMFの妥協もあった。IMFがアメリカの意向を強く受けることは周知の事実であり,対米関係悪化の影響は否定できない。さらに,IMFは融資の前提として,これまでの条件である財政赤字改善とは毛色の異なる,対中国債務を透明にすることを条件として要求しており,米中関係の悪化も影響していると考えられる。

中パ経済回廊

1月4日アメリカ政府は,軍事協力に関する支援としてすでに議会で承認された9億ドル分に当たる,CSFおよび対外軍事基金(FMF)の凍結を発表した。それとは対照的に2018年は,「全天候型友好関係」にあるとされる中国への経済依存および影響がますます増大した。それに先立つ1月2日,SBPは中パ二国間貿易・投資において中国人民元を取引通貨として承認したが,これまでのドル建てに代わるものである。

中パ経済回廊(CPEC)のメリットとして最も期待されていることは,慢性的なエネルギー不足の解消である。公約でもあった安定した電力供給を実現できなかったことが,PML-N前政権の大きな敗因の一つと考えられており,パキスタンの深刻なエネルギー不足は政治問題でもある。2017/18年度の製造業の伸びの一因として,電力供給が改善したことが挙げられており,CPEC事業の成果と評価する向きもある。

2015年に打ち立てられたCPEC事業では,プロジェクト総額620億ドルのうち280億ドルに上る優先事業が「早期収穫」プロジェクトに指定され,2018年末までの完成を目指すとしていた。しかし,実際にはその多くが期限内に完成できず,現在ではそれらの完成期限は延長されている。その一部である17のエネルギー関連プロジェクトは,2020年末までに現容量の約30%に当たる発電容量1万MWの追加を実現し,エネルギー危機の早期解決を担うことが期待されている。カラチのカースィム港石炭火力発電所(1号機は2017年11月に竣工)は,2号機が4月25日に竣工して操業を開始し,合わせて1320MWの発電容量をもつに至った。同じくシンド州では,タール石炭火力発電所(2機合わせて660MWの発電容量)の建設がすでに始まっており,当初は2018年末までには完成予定であったが遅れ,2019年1月に竣工が予定されている。ただし,発電容量が向上したとしても,漏電や盗電の問題,電力規制庁(NEPRA)による政策――低く設定される電力料金とそれを賄う補助金――の非効率性,補助金の支払い遅延によるサーキュラーデットの膨張などによって効果が半減することが懸念されており,発電所を建設しさえすればよいという単純な問題ではないだろう。

エネルギー部門におけるCPECの貢献が期待される背後で,国際収支赤字と対外債務の増大に直面している。CPEC事業に関連した中国からの輸入は,前年度に激増したほどのインパクトはないが,それでも引き続き伸びている(対前年度比4%増)。同様に対中国貿易赤字も膨らみ,総貿易収支赤字の37.4%を占めている。また前述のとおり,2017/18年度の対外債務は対GDP比で72.5%に膨らんだが,うち約20%は対中国債務である。姚敬駐パキスタン中国大使の談とする報道によると,CPECのエネルギー関連事業で2億ドルの返済が滞っているという(Business Recorder, 2018年7月14日)。ただし,これらの対中国債務の詳細は十分明らかにされておらず,IMFが融資の条件として提示した「完全に透明」(The News, 2018年10月11日)という状況には程遠い。パキスタン政府は,対中国債務は「返済は2021年から年に3億~4億ドルのペースで始まる」(Dawn, 2018年10月12日)と対中国債務を原因とする債務危機を否定した。中国も同様に,駐パキスタン中国大使館がわざわざ覚書を発表するなど(Nation,2018年12月29日),否定に躍起になっている。

10月1日,ラシード鉄道相は,CPEC関連事業のカラチ=ペシャーワル間鉄道改修計画について,費用を82億ドルから62億ドルに減額することを発表した。ただ,このような小手先の対策だけでは不十分である。IMFによると,CPEC関連投資の返済は2024年にピークを迎え,年間返済額は35億~45億ドルに上るといわれる。それにより,2019年は対GDP比0.1%とされる資本流出は,2024年には同1.6%に上昇すると予想されている。アメリカは,現在パキスタンが直面する国際収支危機の一要因として,中国への債務があると指摘している。これらの財政的な問題のほか,事業が進められている地域(バロチスタン州など)の治安,非効率性,軍・政府・裁判所および各州政府間の意見の不一致などにより,CPEC事業は予定通り進んでいない。2018年完成予定プロジェクトでは目玉事業であり,もともと3月に操業予定であったパキスタン初の地下鉄となる,ラホールの「オレンジ・ライン」建設は大幅に遅れ,年内に完成には至らなかった。

(牧野)

対外関係

中国

ハーン政権は前述のとおり,CPECに関してパキスタンの利益にかなうか否かを基準として見直しもあるとの立場で一貫している。実際に鉄道補修の案件について,長期にわたりパキスタン側の負担が大きいとして費用が減額された(「経済」の項参照)。今後,ハーン首相がどのように中国に対していくのか注目される。

ただ中国側からのパキスタンに対する姿勢は積極的である。11月の総領事館襲撃事件後,北京の外務報道官が「中国政府は,テロ攻撃の影響を受けて新疆とアラビア海のグワーダル港を結ぶCPECへのコミットメントを変えることはない。中国とパキスタンは全天候型の戦略パートナーである。両国民の広範な支持によって,CPECは手順通りに進んでいく。中国はこれからもパキスタンと確実にCPECの建設のために前進する」と述べた。さらに駐パキスタン中国大使館Twitterでは,公使(DCM)が「中国とパキスタンは鉄の絆で結ばれた兄弟だ」とし,「この襲撃から中国総領事を守ろうとして亡くなったシンド警察官2人と警備員1人の遺族のために中国人が自発的に寄付を集め始めた」とツイートするなどこの一件の中パ関係への影響をきわめて強く否定している。

インド

イムラン・ハーン首相は7月の投票日の翌日に勝利宣言を行った際,カシミール問題解決のためにインドと話し合うと発言し,モディ印首相に対話再開を求める書簡を送った。また現在インドのパンジャーブ州内閣の閣僚で元クリケットのインド代表選手であったナブジョト・シン氏を首相就任式に招待したり,2019年がグル・ナーナク(スィク教の教祖)生誕550年にあたることから,パキスタン国内に位置するグル・ナーナクが没したとされるカルタールプルのグルドワーラーをインド人スィク教徒が訪問できるように専用道路建設に着工するなど,インドへの配慮を見せていた。しかし9月にインド側カシミールで警官3人が武装勢力に殺害される事件が起こると,インドはこれをパキスタンが関与するヒズブル・ムジャーヒディーンの犯行であるとして,9月下旬に国連総会の場で予定されていた外相会談の延期を発表した。折しもムンバイでのテロ事件から10年を迎え,インドが実行犯としているラシュカレ・タイバのハーフェズ・サイードらの処罰が行われていないなど,インドのパキスタンへの不信は強い。

一方パキスタンも,11月の中国総領事館襲撃事件後,犯行声明を出したBLAは従来インドの情報機関(RAW)がパキスタン国内での工作のため支援してきた組織であり,今回の襲撃もRAWが関与していると非難した。政権が改まったことで対インド関係が改善に向かう見通しは立っていない。

アメリカ

トランプ大統領は1月1日にTwitterで,アメリカは馬鹿げたことにパキスタンに対し15年にわたって330億ドルの援助を行ってきたのに,パキスタンが我々にしてきたのは嘘と詐欺だけだ,などとツイートした。8月には「パキスタンがしばしば,混乱や暴力,テロの要員に安全な避難場所を与えている」と発言したのに対してクレーシー外相は,これに抗議してアメリカとの間の協議と相互訪問を停止し,外相自身も訪米を延期したと発表した。さらに外相は「7万人以上のパキスタン人がテロの犠牲になっており,1230億ドルの経済的損失を被っている」と指摘した。その後,下院がトランプ発言への非難を決議した。

イムラン・ハーン首相は以前からアメリカとの対テロ協力に批判的であったが,首相就任後,「パキスタンは我が国内において二度と,外から持ち込まれた戦争はしない」「これからは,私たちは我が国民にとって,また我が国の利益のためにベストなことをする」と述べるなど,アメリカへの厳しい対応を示唆している。

アフガニスタン

パキスタンはアフガニスタンとの良好な関係を求めているが,パキスタンとターリバーンとの関係など,アフガニスタン側には懸念がある。4月にアバーシー首相がカーブルを訪問してガニー大統領と会談して両国の協力関係を確認した際に,パキスタンからアフガニスタンへの新たな食糧支援が決まった。選挙のため実施が遅れたが,9月15日に小麦4万トンがトルハム国境に到着し,引き渡しのセレモニーが行われた。その直後,アメリカのバス駐アフガニスタン大使が,インド・アフガニスタン間の支援物資輸送のためにインドにパキスタン領を通過させることをパキスタン政府が検討していると発言した。パキスタンのクレーシー外相は,そのような検討はまったくしていないと即日否定した。バス大使の発言は,アメリカが主導してこの域内関係を動かそうとする情報操作を意図した発言のようにも見えるが,現在の米パ関係を考えれば無理があろう。

12月にはカーブルで,中国の王毅外相,パキスタンのクレーシー外相,アフガニスタンのラバニ外相が,3カ国の協力関係を確認する覚書に署名した。その後の共同記者会見でクレーシー外相が,地域のテロリズムと戦う共同戦略を呼び掛けると,ラバニ外相もテロリズムに対して結束して当たる必要性を強調した。これを受けて王毅外相は,パキスタンとアフガニスタンはともに中国の友人であるから,中国政府は両国間に信頼関係を構築するためにできることはなんでもする,と述べ,中国が主導して域内の信頼醸成を進める姿勢をアピールしている。

パキスタンとアフガニスタンの国境沿いには,2017年から密輸とテロリストの侵入を阻む目的でフェンスの建設が始まっている。12月27日,治安当局が報道関係者を招いてトルハム国境で行った説明によると,すでに482キロメートルに及ぶフェンスが設置済みで,さらにアフガン国境の1403キロメートルには堡塁が233個建設されていると言う。これについては古代の万里の長城のようだと揶揄する声がある一方で,密輸やテロの阻止以外に,バロチスタンでのバローチーとパシュトゥーンの対立を避ける意味があるという見方もある。相対的に経済的優位にあるパシュトゥーンが国境を自由に越えてバロチスタンに流入することで,貧しいバロチスタンの反発が高まり紛争を誘発することへの懸念が政府にはあるということである。

(井上)

2019年の課題

イムラン・ハーン首相の政権運営が第一の注目点である。彼の政権が成立したこと自体,地主や資本家という首相のパターンを破ったという意味があるが,軍との良好な関係のもとでこそ成し得たという点は同じである。これを変えることは一朝一夕には難しいにしても,貧困対策や教育,保険といった庶民に寄り添う政策で,2大政党と実質的な違いを国民に実感させることができるかが問われる。

2018年を通して暴落した為替相場のさらなる下落が予想されている。経常収支赤字がさらに悪化すれば,国際収支危機を迎えるだろう。2018年末に友好国の支援により危機を乗り切ったパキスタンであるが,一時的な止血であったにすぎない。今後IMFに支援を要請すれば構造改革を要請されるが,IMFに関係なく,そういった改革が避けて通れないことは事実である。財政赤字,経常収支赤字の解消のため,これまでにない抜本的な改革ができるか,PML-NやPPP政権のようなしがらみがないとされるPTI新政権の実力が問われるだろう。

対外関係では,アメリカよりも中国との強い結びつきが当面のパキスタン外交の基調になることは間違いない。中国との関係をパキスタンの利益に沿う形で構築するという首相の言葉は,具体的にどのようなことを想定しているのかが今後明らかになろう。対インド関係は,ハーン政権からはすでに関係改善を期待する種々のボールが投げられた。むしろインド側の意向に左右されるものと思われる。アフガニスタンとの信頼醸成は未だ途上にあるが,PTIがKP州に基盤を持ち,ハーン政権が早々にFATAを訪問する配慮を見せたことが,ひいてはアフガン関係にも意味を持つ可能性があろう。

(井上:就実大学教授)(牧野:在ニューヨーク海外調査員)

重要日誌 パキスタン 2018年
   1月
1日トランプ米大統領,パキスタンを非難するツイート。
2日パキスタン中央銀行(SBP),中国人民元を二国間貿易の取引通貨として承認。
4日アメリカ政府,連合支援基金(CSF)7億ドル,および対外軍事基金(FMF)2.55億ドルの凍結を発表。
9日バロチスタン州首相辞任。
19日国連安保理でサリバン米国務副長官,パキスタンがテロリストに聖域を与えるなら米,中,アフガニスタンはパキスタンと共闘しないと発言。
24日クッラムのアフガン難民キャンプを米無人機が爆撃。翌日,パキスタン外務省がアメリカを強く非難。アメリカは誤爆であり標的としてはいないとして非難を退ける。
26日SBP,政策金利を0.25ポイント引き上げ6.0%に。引き上げは4年ぶり。
   2月
8日南ワジリスタンのパキスタン・ターリバーン運動(TTP)のリーダー,ハーリド・メヘスードが無人機攻撃で死亡。
11日人権活動家の弁護士アスマ・ジャハンギールが死去。
16日首相,パキスタン航空(PIA)とパキスタン製鉄(PSM)の民営化を承認。アジーズ民営化相は3カ月の期限を発表するも,現実には民営化されず。
21日最高裁,ナワーズ・シャリーフ元首相には党首の資格なしとの判決。
22日パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)幹部会議がシャハバーズ・シャリーフを次期党首に決定と発表。27日,選出。
24日ユニセフ,パキスタンは新生児死亡率が高い10カ国の一つとのレポート発表。
   3月
3日上院の半数改選の投票実施。
6日アバーシー首相,ネパール訪問(~7日)。
12日上院議長および副議長の選出。両者とも野党連合推薦候補が選ばれる。
16日アバーシー首相,ワシントンでペンス米副大統領とアフガン和平について会談。
18日SBP,通貨を4.3%切り下げ。
22日スリランカ大統領来訪(~24日)。
23日パキスタン人民党(PPP)のシェーリー・ラフマーン,女性初の上院野党代表に指名される。
29日マラーラ・ユースフザイ,銃撃後初の帰国。アバーシー首相と会談。
   4月
6日アバーシー首相,カーブルでガニー大統領と会談,小麦4万トン贈与で合意。
8日フサイン大統領,「税金恩赦スキーム」を公布。
13日最高裁,ナワーズ・シャリーフは終身にわたって議員資格なしとの判決。
20日イスラマバード新国際空港が開港。
23日中パ経済回廊(CPEC)サミット開催(~24日,カラチ)。
24日10年以上遅れていた「国家水政策」が初めて承認される。
25日CPEC事業であるカラチのカースィム港石炭火力発電所2号機が竣工,操業開始。
26日イスマイール財務担当首相顧問,経済白書発表。2017/18年度のGDP成長率は5.8%。
26日高裁,アーシフ外相の議員資格無効判決。
27日イスマイール財務担当首相顧問,財務相に就任。
27日財務相,2017/18年度予算案発表。財政赤字目標は対GDP比4.9%。
29日イムラン・ハーン・パキスタン正義運動党(PTI) 党首,11項目の政策課題を発表。
   5月
8日中国アリババ社,パキスタンネット通販事業ダラズグループの全株式を,独ロケット・インターネット社から購入。
8日米外交官の特権に制限。14日,国外脱出が認められる。
20日イムラン・ハーンPTI党首,政権獲得の場合の「100日プラン」を発表。
22日政府,金融サービスの電子化を促すため,初の「デジタル・パキスタン政策」を承認。
25日世銀,パンジャーブ州環境保護のため4億ドル支援を承認。
25日連邦直轄部族地域(FATA)を2年後にハイバル・パフトゥンハー(KP)州と合併する法案を含む,第31次憲法改正案が上下院で可決。31日,フサイン大統領が承認。
26日首相,CPEC道路事業では最大となる,ペシャーワル=カラチ高速道路のうち,ムルターン=サッカル間第1フェーズ竣工式に出席。
28日SBP,政策金利を0.5ポイント引き上げ6.5%に。
31日下院が任期満了。
   6月
1日選挙管理内閣発足。ナースィルル・ムルク前最高裁長官が暫定内閣首相に任命される。
8日ポンペオ米国務長官,バジュワ陸軍参謀長と電話会談。アフガニスタンについて。
9日フサイン大統領,中国訪問。上海協力機構(SCO)首脳会議(~10日,青島)出席。
11日SBP,通貨を4.9%切り下げ。
14日世銀,ハイバル峠経済回廊輸送のため,4.6億ドル融資を承認。
15日アフガニスタンのガニー大統領,バジュワ陸軍参謀長に電話で,TTP最高指導者ファズルッラーがアメリカのドローンで殺害されたと連絡。3月8日より懸賞金500万ドルがかけられていた。23日,TTPは新指導者にヌール・ワリ・マスード師を選出。
28日ADB,送電システム改善のため,2.8億ドル融資を承認。12月13日,調印。
   7月
1日カラチで,PPPのビラーワル・ブットー党首の車列が,100人近くの抗議者により投石や棒での殴打を受ける。
3日KP州北ワジリスタンのラズマックで,PTI候補者の選挙事務所に対して手榴弾が投擲され10人が負傷。
6日シャリーフ元首相に禁錮10年,マリヤム・シャリーフに禁錮7年と罰金200万ポンドの判決。
7日KP州バンヌー近郊で,統一行動評議会(MMA)の下院議員候補の政治集会でバイクの仕掛け爆弾が爆発,候補ら7人負傷。
10日KP州ペシャーワルで,アワーミー民族党(ANP)の政治集会で自爆テロ。下院議員候補ら21人死亡,65人負傷。TTPが犯行声明。
13日シャリーフ元首相とマリヤム・シャリーフが汚職審査局(NAB)に拘束されラーワルピンディのアディヤラ刑務所に収監される。
13日KP州バンヌーで,MMAの選挙集会中,バイクの仕掛け爆弾が爆発。5人死亡,37人負傷。
13日バロチスタン州マストゥングで,バロチスタン人民党(BAP)の選挙集会中,自爆テロ。下院議員候補を含む149人が死亡,186人負傷。IS(「イスラーム国」)が犯行声明を発出。
13日首相,CPECのうち唯一の情報通信事業である光ファイバー敷設の竣工式に出席。
14日SBP,政策金利を1.0ポイント引き上げ7.5%に。
15日バロチスタン州チャマンで,ANPの事務所へ発砲事件,数人が負傷。
16日パンジャーブ州アトックで,PML-Nの候補者の車両が銃撃される。
16日イランのバーゲリー陸軍参謀長,来訪。バジュワ陸軍参謀長と会談,両国の軍事的協力関係を深めると発表。
16日SBP,通貨を5.3%切り下げ。
17日KP州カラックで,無所属候補者の選挙事務所が複数の抗議者に攻撃される。
25日下院と州議会の議員選挙実施。クエッタの投票所で自爆テロ,31人死亡。翌26日,イムラン・ハーンPTI党首が勝利宣言。
30日モディ印首相,ハーンPTI党首に電話で祝意を述べ,印パ関係の新たな章を開くため協力したいと伝える。
   8月
15日下院が招集される。議長にアサド・カイセルを選出。
17日イムラン・ハーン,第22代首相に選出される。
18日首相宣誓式。インドの元クリケット選手であるパンジャーブ州内閣閣僚を招待。
19日ハーン首相,初記者会見。真の「イスラーム福祉国家」建設を言明。
21日新内閣が宣誓し発足。
21日トランプ米大統領,「パキスタンはしばしば,混乱や暴力,テロの要員に安全な避難場所を与えている」と発言。28日クレーシー外相,トランプ発言に抗議してアメリカとの協議と相互訪問を停止。外相自身も,訪米を延期。30日下院,トランプ発言への非難決議。
   9月
4日上下院,州議会で大統領選挙実施。
4日バーバル・アーワーン議会担当首相顧問,汚職の嫌疑により辞職。
5日ポンペオ米国務長官来訪。凍結されたCSFの3億ドル分につき,解除にテロ対策の強化を要請。ハーン首相,クレーシー外相,バジュワ陸軍参謀長と会談。
9日アリフ・アルヴィ(PTI),第13代大統領に就任。
11日シャリーフ元首相夫人クルスームの死去により,元首相とマリヤム・シャリーフが仮釈放され葬儀に参列。17日に再収監。
15日トルハム国境でアフガニスタンへの支援物資引き渡し式。
17日駐アフガニスタン米大使,パキスタンはインドがアフガン支援物資を運ぶためパキスタン領内を通過させることを検討し始めたと発言。即日,クレーシー外相がそのような可能性を完全否定。
17日マレーシア政府系携帯通信会社アシアタ・グループ子会社イードットコー,パキスタン携帯通信最大手パキスタン・モバイル・コミュニケーションズ(PMCL)所有の1.3万基通信塔,9.4億ドル買収計画の中止を発表。パキスタン規制当局による承認が遅れたため。
19日ハーン首相,サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を歴訪。就任後初の外遊。国際収支危機回避のため120億ドル分の支援を得る目的。サウジアラビアと20日,3つのCPEC事業への補助金支援について調印。
19日シャリーフ元首相とマリヤム・シャリーフが保釈される。保釈金は1人50万ルピー。
20日インド,「国連総会に出席する印パ外相が27日に会談する」と発表。翌日カシミールでの越境襲撃を理由に外相会談延期を発表。
   10月
1日SBP,政策金利を1ポイント引き上げ8.5%に。
1日ラシード鉄道相,CPEC事業のカラチ=ペシャーワル間鉄道改修計画について,82億ドルから62億ドルへの費用縮小を発表。
4日グワーダル港の製油所新設に,サウジアラビア国営会社アラムコが投資を合意。パキスタン国営石油(PSO)と提携。
7日ADB,パキスタンに対し,2020年まで包括的な開発プロジェクトに関し,合わせて71億ドル融資の予定を発表。
9日SBP,通貨を7.0%切り下げ。
9日軍,中国から48機の無人機を購入するとの報道。同様の取引では最大規模。
11日政府,国際収支危機の打開のため,IMFに支援を要請。
14日下院,州議会の補欠選挙実施。21日も同様に実施。
19日アフガニスタンの選挙前日と当日に際し,チャマンとトルハムの国境を閉鎖。
22日ハーン首相,サウジアラビア訪問(~24日)。60億ドルの支援を合意。
27日クレーシー外相,主要国駐在外交官の異動発表。アサド・マジード・ハーン駐日大使は駐米大使へ。
31日冒涜罪で死刑判決を受けていたアーシア・ノーリーンに最高裁が逆転無罪判決。
   11月
1日宗教政党のパキスタン・ラバイク運動(TLP),アーシア・ノーリーン無罪判決に抗議する運動を扇動。
2日ハーン首相,中国初訪問(~5日)。中国はパキスタンとのパートナーシップ強化と「新しい時代」を築くことを約束。合意された支援額は公表されず。
2日ターリバーンの精神的指導者とされるサミウル・ハク師がラーワルピンディで殺害される。
6日ウマル財務相,サウジアラビア,中国からの支援合意を受け,国際収支危機が収束したことを宣言。ハーン首相は12月28日に同様の宣言。
7日IMFの融資プログラム事前審査ミッション,来訪(~20日)。政府,IMFの条件を受け入れず。
9日ロシアでアフガン平和会議。アメリカ,インド,イラン,中国,パキスタンほか中央アジア5カ国が参加。
18日ハーン首相,UAE訪問。
20日ハーン首相,マレーシア訪問(~21日)。
22日インド・パキスタン両国がスィク教徒の巡礼のためカルタールプル回廊の国境を開くことで合意と発表。
23日カラチの中国総領事館を武装グループが襲撃。
23日KP州オラクザイの市場で爆弾テロ,31人死亡。
23日警察はTLP幹部2人を反逆とテロの容疑で拘束。再三の抗議行動中止要請に応じなかったため。
26日ハーン首相,北ワジリスタンを訪問,ジルガで演説。
28日インドのスィク教徒がビザなしで聖地巡礼できる専用道路建設着工。ハーン首相,起工式に出席。
30日SBP,通貨を6.0%切り下げ。
   12月
3日SBP,政策金利を1.5ポイント引き上げ10.0%に。
3日トランプ米大統領,ハーン首相に書簡を送り,アフガンでのターリバーン対策に関し協力を求める。
6日アーザム・スワーティ科学技術相,辞職。
11日ポンペオ米国務長官,信教の自由が侵害されているとして,パキスタンを「特定懸念国」に指定を発表。
15日カーブルで中国,パキスタン,アフガン外相が会談,テロ対策協力で覚書に署名。
21日UAE,SBPの外貨準備に充てるため,30億ドルの支援を発表。
24日最高裁,シャリーフ元首相に対し,再結審。7年の禁錮判決。
27日政府,初の人民元建て国債となるパンダ債の発行を承認。

参考資料 パキスタン 2018年
①  国家機構図(2018年12月末現在)
②  政府等主要人物(2018年12月末現在)
②  政府等主要人物(2018年12月末現在)(続き)

(注)1)PTI(Pakistan Tehreek-i-Insaf)パキスタン正義運動党

   2)BAP(Balochistan Awami Party)バロチスタン人民党

   3)PML-Q(Pakistan Muslim League Quaid-e-Azam)パキスタン・ムスリム連盟カーイデ・アーザム派

   4)MQM(Muttahida Qaumi Movement)統一民族運動

   5)GDA(Grand Democratic Alliance)民主大連合

   6)PPP(Pakistan People's Party)パキスタン人民党

   7)PML-N(Pakistan Muslim League Nawaz)パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派

主要統計 パキスタン 2018年
1  基礎統計1)

(注)1)会計年度は7月1日~翌年6月30日。以下,同。人口,労働力人口は毎年6月30日現在の数値,その他は各年度平均値。 2)2017年国勢調査(Population and Housing Census)による暫定値。

(出所)Government of Pakistan, Finance Division, Economic Survey 2017-18; Pakistan Bureau of Statistics, Population and Housing Census 2017; 同,Labour Force Survey 2017-18; State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。

2  支出別国内総生産(名目価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)Government of Pakistan, Finance Division, Economic Survey 2017-18.

3  産業別国内総生産(要素費用表示 2005/06年度価格)

(注)1)修正値。2)暫定値。

(出所)表2に同じ。

4  国・地域別貿易1)

(注)1)再輸出/輸入を除く。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。関税統計ベース。

5  国際収支

(注)1)暫定値。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。 銀行統計ベース。

6  国家財政

(注)1)暫定値。

(出所)State Bank of Pakistan, Statistical Bulletin, 各号。

 
© 2019 日本貿易振興機構 アジア経済研究所
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