日本先進糖尿病治療研究会雑誌
Online ISSN : 2436-0058
レビュー
1型糖尿病の持続皮下インスリン注入療法とQOLに関するシステマティックレビュー
坂根 直樹
著者情報
キーワード: 1型糖尿病, CSII, QOL
研究報告書・技術報告書 オープンアクセス HTML

2022 年 16 巻 1 号 p. 8-16

詳細
Abstract

1型糖尿病では生活の質(QOL)が低下している。持続皮下インスリン注入療法(CSII)は、1型糖尿病に対し、血糖コントロールとQOLを改善させることに関して、頻回注射療法(MDI)の代替となる可能性がある。CSIIを使用している患者のQOLに関する文献は限られている。本研究の目的はCSIIを使用している1型糖尿病を持つ人のQOLに関する文献レビューを行うことである。検索エンジンPubMedで“type 1 diabetes”、“CSII”、“QOL”とした。選択論文は、2010年1月~2021年7月に発行された査読付き原著論文とした。QOL測定には、全般的な尺度(SF-36とEQ-5D)、糖尿病に特化した尺度(DQOL、KINDL-DM、PedsQL)、CSIIに特化した尺度(CSII-QOL)が用いられていた。2件のランダム化比較試験、11件の観察研究(縦断研究と横断研究)、2件の質的研究がみつかった。PedsQLでQOLを評価した1,007名の被験者を含んだ3つのランダム化比較試験のメタ解析では、MDIに比べ、CSIIでQOLの有意な改善が認められた(平均値の差=6.33、95%信頼区間=0.91-11.76、P=0.022)。CSIIは1型糖尿病を持つ人のQOLを改善させる可能性がある。この事実を確認するためには、さらに大きなサンプルサイズとCSIIに特化したQOL尺度を用いたランダム化比較試験が必要であろう。

Translated Abstract

Type 1 diabetes (T1D) is associated with lower quality of life (QOL). Continuous Subcutaneous Insulin Infusion (CSII) is an effective and safe alternative to multiple daily injections (MDI) for T1D, with the potential to improve both glycemic control and QOL. Literature offers limited information regarding the QOL in people using CSII. The aim of the study was to comprehensively review the published literature about QOL in people with type 1 diabetes. The electronic databases (Pubmed) were searched for peer-reviewed articles published between January 2010 and July 2021 by using the keywords "type 1 diabetes, CSII, AND QOL" in English. QOL measured using general (SF-36 and EQ-5D), diabetes-specific (DQOL, KINDL-DM, and PedsQL), and CSII specific scale (CSII-QOL). Two RCT, 11 observational (longitudinal and cross-sectional), and 2 qualitive studies were identified. Meta-analysis of three studies involving 1,007 people with T1D and CSII/MDI demonstrated that CSII was associated with significant increase in QOL score by PedsQL (MD = 6.33, 95% CI = 0.91 to 11.76, P =0.022) compared to MDI. CSII could improve QOL in people with T1D and CSII. More RCTs with larger samples and CSII-specific QOL scale are needed to confirm these issues.

略語

  • CSII: continuous subcutaneous insulin infusion
  • CSS: cross-sectional study
  • CSII-QOL: Continuous Subcutaneous Insulin Infusion-Quality of life
  • DCCT: Diabetes Control and Complications Trial
  • DQOL: Diabetes Quality of Life
  • DTSQ: Diabetes Treatment Satisfaction Questionnaire
  • EQ-5D: Euro-QOL 5 dimensions
  • KINDL-DM: specific diabetes module of KINDL-R
  • MD: mean difference
  • MDI: multiple daily injections
  • PAID: Problem Areas In Diabetes
  • PedsQL: Pediatric Quality of Life Inventory
  • PSQI: Pittsburgh Sleep Quality Index
  • QOL: Quality of Life
  • RCT: randomized controlled trial
  • SAP: Sensor-Augmented Pump therapy
  • SF-36: Short-form Health Survey-36

緒言

最近、持続皮下インスリン注入療法(CSII)など先進的な糖尿病関連デバイスが、めざましい進歩を遂げている1)。このCSIIは、煩雑な手順を踏まずに注射しなくてよく、食事の際や高血糖時など、目標とする血糖値まで速やかに修正でき、血糖コントロールが改善するメリットがある2,3)。一方、常に装着しておかなければならず、装着部位のかゆみや服の制約などのデメリットもある。1型糖尿病では合併症の併発により生活の質(QOL)が低下していることが報告されているが、QOLの測定には、様々な尺度が用いられている4-6)。しかし、文献的なレビューは限られている。そこで、本研究の目的は、1型糖尿病を持つ人のQOLを測定する尺度とCSIIと頻回注射療法(MDI)のQOLの比較のシステマティックレビューを行うことである。

方法

レビューの対象となった論文は、以下の適格基準に基づいて抽出された。適格基準は、英語で書かれている、peer review journalである、1型糖尿病の診断基準を満たしている、CSIIで治療されている群がある、QOLの指標がとられている、である。除外基準は、2型糖尿病である。

文献の検索にはPubMedのデータベースを使用し、電子検索を行った。検索条件として、“Type 1 diabetes”、“CSII”、“QOL”のキーワードを用いた。最終検索日は2021年7月とした。さらに、上記の電子検索に各論文の引用文献によるハンドサーチを行った。各研究から抽出された情報は、研究者名(発表年)、発表国、人数、年齢の範囲/平均年齢±標準偏差(歳)、研究デザイン、追跡日数、QOL尺度、主な結果である。

複数の論文を統合する場合には平均値の差(mean difference: MD)を用い、95%信頼区間により有効性を評価した。統合結果の不均一性(heterogeneity)をQ検定(P<0.10を有意)により評価した。

結果

その結果、電子検索によってCSIIとMDIを比較した2件のRCT7,8)、11件の観察研究(縦断研究、横断研究)9-19)、2件の質的研究が抽出された20,21)

CSII治療中の1型糖尿病の全般的なQOLを測定する尺度(SF-36、SF-12、EQ-5D)、糖尿病に特化したQOLを測定する尺度(DQOL、KINDL-DM、PedsQL)、CSIIに特化した尺度としてCSII-QOL尺度など3つに分類された。QOL尺度ではないが、その他の尺度として、diabetes distressを測定する尺度として、糖尿病問題領域別質問表(PAID)、低血糖の不安を測定する低血糖不安調査(HFS)、糖尿病治療満足度を測定する尺度として糖尿病治療満足度質問表(DTSQ)、保護者の睡眠の質を測定するピッツバーグ睡眠質問表(PSQI)などが用いられていた22)表1)。

表1.1型糖尿病で用いられる主なQOL尺度

CSII-QOL: Continuous Subcutaneous Insulin Infusion-Quality of Life. DCCT: Diabetes Control and Complications Trial. DQOL: Diabetes Quality of Life. KINDL-DM: specific diabetes module of KINDL-R. PedsQL: Pediatric Quality of Life Inventory. QOL: Quality of Life. SF-36: Short-Form Health Survey-36.

図1 Results of pooled QOL score (MD) between people with type 1 diabetes following CSII and MDI therapy.

CSII治療あるいはMDIをしている1型糖尿病1,007名を含む3件の研究のメタ解析では、MDIに比べ、CSIIでQOLの有意な改善がみられた (MD=6.33, 95% CI=0.91-11.76, P=0.022) (図1)。

CSII-QOL尺度は15歳以上の1型糖尿病患者50例(平均年齢47.6±17.0歳、糖尿病歴14.7±9.7年、CSII歴:6.1±3.3年、平均HbA1c:7.4±0.8%)を対象に我々が開発したCSII治療に特化したQOL尺度である(https://researchmap.jp/tmurata/published_papers/30968502)。

「インスリンポンプ療法は高血糖の修正に役立つ」など「利便性」について6項目、「インスリンポンプ療法のために余暇の活動(レジャーや趣味)が制限される」など「社会的制約」が9項目、「インスリンポンプの装着は不快である」「自動車やバイク運転時の低血糖が不安である」など「心理的負担」が10項目の計3因子、25項目が抽出された。内部一貫性(クロンバックのα信頼性係数=0.870)も妥当性が認められている23)。CSIIを使用している1型糖尿病患者46名(平均年齢 44.1±15.0歳、平均HbA1c 7.7±1.0%)のセンサー装着率を検討したPARCS研究では、センサー装着率が良好なアドヒアランス良好群の者はCSIIの使用歴が長く(4.3±2.3と2.7±2.4年、それぞれ;P=0.028)、PAIDの総得点が有意に高かった(38.1±18.2と29.4±13.8点、それぞれ;P=0.044)。CSII-QOLの総得点(特に、心理的負担)は、アドヒアランス良好群で低かったが(57.0±13.9と65.1±13.8点、それぞれ;P=0.045)、1年後には利便性のサブスケールは両群で有意に改善した。低血糖不安の尺度であるHFSとPAID、EQ-5D utilityに両群間に差はなかったが、EQ-5D utilityがアドヒアランス不良群で有意に低下したのに対し、アドヒアランス良好群では有意な変化を認めなかった(-0.093±0.123と0.026±0.140、それぞれ;P=0.007)24)

QOL以外の尺度として、PAIDを用いたOldhamらの研究では、47名の1型糖尿病を対象として、CSII前後比較でPAIDスコアが改善した25)。7-10歳の1型糖尿病13名を対象に、U.S. Food and Drug Administration (FDA)で認証されたインスリン自動投与デバイスからパーソナルCGM機能を搭載したインスリンポンプ療法(SAP)にスイッチした前後比較試験では、低血糖の割合の低下とともにtime in range (70-180 mg/dL) は増加し、保護者のPSQIで測定した睡眠の質は低下していた26)

一方、量的研究では特論的であるが、質的研究では探索的に全体論的な研究が可能である。カナダのHaynesらが行った質的研究では、CSIIを受けている25歳以下の23名の1型糖尿病では、財政的なサポートが必要か、生活と糖尿病管理について、論じられたが、その結果はライフステージにより異なっていた。CSIIを恥と感じ、ポンプを隠すなどを行う人がいる一方で、ポンプを巧みに扱うことでプライドや自信を持つようになった人もいた20)。サウジアラビアのMesbahらのCSII中の1型糖尿病18名(平均年齢31.4±6.4 歳)に対しては6つのテーマ(健康へのベネフィット、生活の自由度、気分や情緒の改善、実践上の問題、身体的・個人的な効果、糖尿病管理に対する自信)についてインタビューが行われ、CSIIはQOLに好影響を与え、特に生活に自由度を与えることとなった21)表2)。

表2 CSIIとMDIのQOLを比較した主な研究

CDLQI; childeren’s dermatology life quality index. CSS: cross-sectional study. DDS-17: diabetes distress screening scale-17. DQoL-BCI: Diabetes Quality of life Brief Clinical Inventory. DQOL-Y: Diabetes Quality of Life Youth Version. EQ-5D: EuroQol 5 dimensions. IDSRQ: The Insulin Delivery System Rating Questionnaire. KINDL-DM: specific diabetes module of KINDL-R. MDI: multiple daily injections. PedsQL: Pediatric Quality of Life Inventory. QOL: Quality of Life. RCT: randomized controlled trial. SF-12: 12-Item Short-Form Survey. WHOQOL-BREF: WHO Quality of Life-BREF.

考察

本研究では、CSIIを使用している1型糖尿病を持つ人のQOL測定のシステマティックレビューを行ったところ、QOLの測定には全般的な尺度、糖尿病に特化した尺度とCSIIに特化した尺度が用いられていた。その中で、CSIIとMDIの比較にはモジュラー方式のPedsQOLなどがよく用いられており、今回の研究ではQOLの有意な改善が確認することができた。QOL以外の尺度として、diabetes distressを測定する尺度としてPAIDやDTSQが用いられている27,28)。PAIDを用いたOldhamらの研究では、CSII前後比較でPAIDスコアが改善されている25)。DTSQは糖尿病の治療法(インスリン、経口剤、食事療法を含む)と過去数週間の体験に関する度合いを尋ねるもので、現在の治療満足度、望ましくない高血糖、望ましくない低血糖、便利度、融通性、理解度、お勧め度、継続への満足度について、大変満足(6)から全く満足していない(0)などの7件法で尋ねている。治療中断に対する糖尿病治療満足度[最適カットオフ値は 22.5(感度63.2%,特異度70.8%)]であり、治療中断の予測に役立つ29)。QOL尺度とPAIDなどの尺度を同時に測定することで包括的に心理学的な要因を把握することが可能と考えられる。

しかし、横断研究ではバイアスの入る余地がある。クウェートのMajedahらは、326名のCSIIと326名のMDIを後方視的に比較し、CSIIにスイッチした理由について調査を行い、良好な血糖コントロールと低血糖の減少に加え、QOLの改善を挙げている30)。QOLの改善を望む人がCSIIを選んだことも考慮に入れておく必要がある。

Rossらは、15研究のメタ解析でMDIと比べて、CSIIは0.18~0.7%のHbA1cの低下を認めたが、すべての研究を通じて結果は一致していなかったと報告している31)。Rosnerらは、子どもの1型糖尿病においてMDIに比べてCSIIがQOLや血糖コントロールが良好であったとしているが、さらなる質の高い研究が望まれると報告している32)

QOLに与える因子について探索した研究もみられる。Lukácsらは、239名の1型糖尿病男女を20分のシャトルラン試験で最大酸素摂取量を測定したところ最大酸素摂取量とCSIIがQOLに好影響を与えたと報告している33)。今後の研究では、運動能力についても検討を加える必要があると考えられた。 

一方、1型糖尿病の子どもを持つ保護者のQOLに与える研究のLiらのメタ解析では、ひとつの研究ではCSIIでQOLの有意な改善が認められず、もう一つの研究では糖尿病に関連した心配事は減ったと報告されたが、子どものメディカルケアに関連したストレスが増加したとも報告している34)。今後はCSIIを使用している子どもと保護者、成人なら家族を含めた研究が必要となるであろう。

CSII-QOL尺度には3つの下位尺度(利便性、社会的制約、心理的負担)がある。利便性スコアが低い人に対してはインスリンポンプの有用性について説明を加え、「余暇の活動(レジャーや趣味)が制限される」など社会的制約を感じている人には、誤解をとく補足を行う。心理的な負担を感じている人には、それぞれの項目に応じた不安や負担感について聞き出すとよい。従来CSIIとMDIの比較には全般的なQOL尺度や糖尿病に特化したQOL尺度が用いられることが多かったが、CSII間の比較にはCSIIに特化したCSII-QOL尺度を用いることで、その差異が明らかになるであろう。

結論

CSII治療とMDIの比較には全般的なQOL尺度や糖尿病に特化したQOL尺度が用いられていた。しかし、新しいデバイスが血糖コントロールやQOLに及ぼす影響に関するメタ解析や費用対効果に関するエビデンスはまだまだ不足している35-37)。今後は、CSII間の比較や新しいデバイスの比較には、CSII治療に特化したQOL尺度が用いられることになろう。

謝辞

CSII-QOL尺度の開発研究グループである村田 敬氏(国立病院機構京都医療センター糖尿病センター)、利根 淳仁氏(岡山済生会総合病院)、豊田 雅夫氏(東海大学医学部)に深謝する。なお、本尺度は研究グループの同意により、研究に自由に活用できる。

また、本研究は、NHOネットワーク共同研究「無自覚低血糖の頻度と重症低血糖予防に関する研究(PR-IAH study)(H31-NHO(内腎)-01)」から助成の一部を受けた。

References
 
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