日本先進糖尿病治療研究会雑誌
Online ISSN : 2436-0058
レビュー
1型糖尿病に対する免疫療法の現状と展望
及川 洋一 島田 朗
著者情報
研究報告書・技術報告書 オープンアクセス HTML

2024 年 18 巻 1 号 p. 14-39

詳細

略語一覧

  • AbATE, Autoimmunity-Blocking Antibody for Tolerance;
  • alum, aluminium hydroxide;
  • ATG, anti-thymocyte globulin;
  • AUC, area under the curve;
  • BCG, Bacille de Calmette et Guérin;
  • CFA, complete Freund's adjuvant;
  • CTLA-4, cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4;
  • DEFEND-1, Durable Response Therapy Evaluation for Early or New-Onset Type 1 Diabetes;
  • DENIS, The Deutsche Nicotinamide Intervention Study;
  • DIAGNODE, GAD-Alum[Diamyd®] Administered Into Lymph Nodes in Combination With Vitamin D in Type 1 Diabetes;
  • DIPP, The Type 1 Diabetes Prediction and Prevention study;
  • DPT-1, The Diabetes Prevention Trial of Type 1 Diabetes;
  • EB, Epstein-Barr;
  • ENDIT, European Nicotinamide Diabetes Intervention Trial;
  • FDA, U.S. Food and Drug Administration;
  • GAD, glutamic acid decarboxylase;
  • G-CSF, granulocyte colony-stimulating factor;
  • GIST, gastrointestinal stromal tumor;
  • GLP-1, glucagon-like peptide-1;
  • GPPAD-POInT, Global Platform of Autoimmune Diabetes - Primary Oral Insulin Trial;
  • HSP, heat shock protein;
  • IFN, interferon;
  • Ig, immunoglobulin;
  • IGRP, islet-specific glucose-6-phosphatase catalytic subunit-related protein;
  • IL, interleukin;
  • JDF, Juvenile Diabetes Foundation;
  • LADA, latent autoimmune diabetes in adults;
  • LFA-3, lymphocyte function-associated antigen-3;
  • MHC, major histocompatibility complex;
  • MMTT, mixed meal tolerance test;
  • NAD, nicotinamide adenine dinucleotide;
  • NADP, nicotinamide adenine dinucleotide phosphate;
  • NF-kB, nuclear factor-kappa B;
  • NOD, non-obese diabetic;
  • PD-1, programmed death-1;
  • SD, standard deviation;
  • T1GER, SIMPONI® to Arrest β-cell Loss in Type 1 Diabetes;
  • TCR, T cell receptor;
  • Th1, T helper 1;
  • TLR2, Toll-like receptor 2;
  • TN-10, TrialNet 10;
  • TNF, tumor necrosis factor;
  • Treg, regulatory T cell;
  • ZnT8, zinc transporter 8.

はじめに

主として1型糖尿病の優れたモデルマウスであるnon-obese diabetic(NOD)マウスを用いた多くの基礎研究の結果から、1型糖尿病の多くは膵β細胞を標的とする自己免疫疾患と考えられている。一般的にTリンパ球(T細胞)やマクロファージ、樹状細胞など様々な炎症性細胞が膵島内に浸潤して膵島炎を形成し、β細胞の傷害を経て絶対的なインスリン欠乏状態に陥る。したがって、1型糖尿病の発症予防や治療介入には病態形成の早い段階から自己免疫を制御し膵島炎の進展を阻止することが重要であり、欧米を中心にこれまで多くの免疫療法が試みられてきた。一部の免疫療法においては一時的なβ細胞保護効果が観察されているが、長期的な保護効果や1型糖尿病の寛解・根治にいたるような成果は今のところ得られていない。しかし、医学は日進月歩で進歩しており、1型糖尿病の免疫療法の分野も今後大きな発展がみられるものと期待したい。本稿でははじめに1型糖尿病の病態に関わる自己抗原の中から2つの分子について解説する。続いて1型糖尿病に対する免疫療法の現状についてレビューし、最後にその将来展望について触れてみたい。

1型糖尿病における主な自己抗原

これまでに1型糖尿病におけるT細胞の標的抗原の候補として(プロ)インスリンやglutamic acid decarboxylase (GAD)、islet-specific glucose-6-phosphatase catalytic subunit-related protein(IGRP)、heat shock protein(HSP)、zinc transporter 8(ZnT8)などの膵島関連分子が報告されており、1型糖尿病において想定されているT細胞の標的自己抗原は多岐にわたると推測される1,2)。ここでは特に多くの基礎的検討が行われてきたインスリンとGADの2つの分子に着目し、1型糖尿病の病態における自己抗原としての免疫学的な意義について解説する。

1)インスリン

インスリン分子は胸腺ならびにβ細胞に限局して産生される蛋白であり、1型糖尿病の自己抗原として重要な役割を担っている可能性が議論されてきた。Wegmannらは、糖尿病発症直前のNODマウスの膵島浸潤細胞から複数のT細胞クローンを作製し、そのクローンの半数以上がインスリンに対して反応性を有することを報告した3)。これらのクローンはinterferon(IFN)-γ産生性を示し、β細胞に対して傷害作用を有する可能性が示唆された。その後、インスリンB鎖の9番~23番のアミノ酸からなるペプチド(B:9-23)が、マウスmajor histocompatibility complex(MHC)クラスⅡのI-Ag7拘束性にT 細胞応答性を示すことが報告され4)、B:9-23は1型糖尿病における重要なエピトープとして注目されるようになった。

Nakayamaらは、内因性インスリンを欠損させ、さらにアミノ酸の一部を置換した(プロ)インスリン遺伝子をβ細胞特異的に発現させたトランスジェニックNODマウスを作製し、同マウスにおいて糖尿病の発症が完全に抑制されることを報告した5)。このマウスで強制発現させたインスリンは、B鎖の16番目のチロシンがアラニンに置換されていることから、インスリン反応性T細胞に対する抗原性が失われ、β細胞を標的とした自己免疫応答が生じなかったものと推察されている。インスリン分子が1型糖尿病のprimary antigen(主要抗原)である可能性を最初に示した重要な研究成果である。

インスリンに対する細胞性免疫応答は、1型糖尿病患者においても確認されている。Kentらは、インスリンA鎖のペプチド(A:1-15)に対してDR4拘束性に反応性を示すT細胞を1型糖尿病患者の膵リンパ節から単離することに成功し、インスリン分子が細胞性免疫の標的自己抗原である可能性を報告した6)。またAllevaらは、B:9-23に対する免疫応答が1型糖尿病患者由来のリンパ球において観察されることを報告した7)。本邦からは、2型糖尿病患者へのインスリン治療を契機に1型糖尿病の発症をみたケースが報告されており8)、インスリンが1型糖尿病における自己免疫の標的抗原として重要な役割を担っている可能性を示唆する所見と考えられる。

著者らは、インスリンB鎖のB:9-23ならびにその隣接ペプチド(B:10-24、B:11-25、B:12-26)(以下、B:9-23関連分子と称す)に特異的に反応して炎症性サイトカインであるIFN-γ産生性(=T helper 1[Th1]応答能)を示す単核球に着目し、患者末梢血における同単核球の頻度について調査した。その結果、B:9-23関連分子特異的IFN-γ産生単核球数は2型糖尿病患者と比べて急性発症1型糖尿病患者の末梢血中で有意に増えていることを見いだし、同分子が1型糖尿病の病態形成において重要な役割を担っている可能性を提唱した9)。さらに緩徐進行1型糖尿病患者では同単核球数と血清Cペプチド値に有意な負の相関を認めており、B:9-23関連分子特異的Th1応答は1型糖尿病の病勢を反映している可能性が示唆された。

2)GAD

1990年にBaekkeskovらによって同定された抗GAD抗体10)は、急性発症1型糖尿病の病初期に80%程度の陽性率を示すことから11)、GADに対する自己免疫応答が1型糖尿病の病態形成に深く関わっている可能性がこれまで考えられてきた。TischらはNODマウスを用いた検討において、膵島炎の形成が始まる4週齢ころからGADに対するT細胞反応性が出現し、その後24週齢まで、あるいは糖尿病発症後も反応性が認められることを報告した12)。また、Kaufmanらも8週齢をピークとする同様の反応性を確認したが、その一方でインスリンに対するT細胞反応性が弱いながらも12~15週齢で検出されることを見出した13)。そしてこれら2つの研究成果はGADが自己免疫性糖尿病の初期抗原である可能性を示唆する成果として脚光を浴びた。1999年にYoonらは、anti-sense GAD遺伝子をβ細胞特異的に発現させたトランスジェニックNODマウスを用い、β細胞におけるGAD発現を人為的に抑制したところ、膵島炎がほとんど観察されず、糖尿病の発症も抑制された14)。GADに対するT細胞反応性は有意に低下し、さらに一部の週齢ではインスリンに対する反応性の低下も観察されたことから、初期抗原としてのGADの重要性がさらに注目された。一方、ヒトを対象とした研究については、膵臓移植を受けた1型糖尿病患者の糖尿病再発例において、これらの患者から単離されたGAD反応性CD4リンパ球がβ細胞に対して細胞傷害性を有していることなどが報告されている15)。しかし、β細胞傷害性を有するGAD反応性T細胞あるいはそのクローンに関する研究は、その後インスリンほどの進展をみていない。

一方、Yamamotoらは、GAD欠損NODマウスを作製するもGAD欠損は糖尿病発症に何ら影響を与えないことを報告した16)。また、Kanazawaらは、GAD欠損あるいは野生型NODマウスの脾細胞をNOD-scidマウスに移入したところ、GAD欠損由来の脾細胞を移入したレシピエントでは糖尿病の移入率が低く、また免疫制御に関わるinterleukin(IL)-10産生性のT細胞がGAD特異的にみられることを報告した17)。FunaeらはNODマウスの自然経過において、GADに対する脾細胞の反応性が糖尿病発症前ではIL-10産生性であるが、発症直後はその産生性が低下していることを見出した18)。以上より、GADは1型糖尿病の病態形成に対して必ずしも必須の抗原ではなく、むしろ病態形成に対して抑制的な役割を担っている可能性が示唆された。

3)インスリンならびにGADに対する自己免疫応答の出現順序

上述したように、当初、NODマウスではGADに対するT細胞反応性(増殖反応)は4週齢で、インスリンに対するT細胞反応性は12週齢以降に検出されると報告されていた12,13)。また、GAD抗体は4週齢の時点ですでに検出されるが、インスリン自己抗体は8週齢以降で検出されるとの報告もある12,19)。その一方でFunaeらは、インスリンに対するT細胞反応性(Th1応答)が4週齢以降に、GADに対するTh1応答が8週齢以降に検出されることを報告している18)。このようにNODマウスの場合、インスリンならびにGAD特異的免疫応答の出現順序については一定の見解がないというのが実状である。

一方、ヒトについては1型糖尿病のハイリスク児を対象とする自己抗体の追跡調査の結果が示されている。ドイツで行われたThe German BABYDIAB Studyでは、1型糖尿病の親(父・母を問わず)を持つ子供たちの自己抗体について出生時から追跡調査が行われた20)。その結果、2歳までの自己抗体陽転化率はGAD抗体が2.9%であったのに対してインスリン自己抗体は10.9%であった。少なくとも小児では初めにインスリン自己抗体が出現し、その後GAD抗体の陽転化がみられるパターンが多いと考えられ、インスリン分子の方がprimary antigenとして免疫学的により重要な役割を担っている可能性が高いものと推察される。

新規発症1型糖尿病のβ細胞の保護効果を目的とした主な免疫療法(表1)

1)免疫抑制剤

1980年代から1990年初頭にかけて、小規模ではあるが免疫抑制剤を用いた臨床試験がいくつか行われた。新規発症小児1型糖尿病患者に対してシクロスポリンを連日投与し続けた研究では、投与開始4か月以内に67%のケースにおいてインスリン治療が不要となり、そのうちの50%は12か月後もインスリン治療が不要のままであった21)。また、新規発症の成人1型糖尿病患者を対象としたアザチオプリンに関するパイロット研究においても、アザチオプリン群において内因性インスリン分泌能が保持され、一部の症例ではインスリン非依存状態への寛解がみられた22)。これらの結果は1型糖尿病の病態に自己免疫が関連していることを支持するものであり、1型糖尿病の発症直後であれば(非特異的な)免疫抑制関連薬による寛解誘導が可能なのかもしれない。しかし、シクロスポリンを用いた他の臨床試験で示されているように23,24)、寛解状態を維持するためには免疫抑制関連薬を使い続けなければならず、それに付随して副作用の問題も無視できないことから、その後も様々な工夫が行われてきたが臨床応用には至っていない25)

2)チロシンキナーゼ阻害薬(Imatinib)

慢性骨髄性白血病やgastrointestinal stromal tumor(GIST)の治療薬として使われているチロシンキナーゼ阻害薬Imatinibは、これまでの基礎研究においてβ細胞における小胞体ストレスやアポトーシスを減らし、インスリン感受性を改善させる作用が報告されている26,27,28,29)。さらにImatinibはNODマウスにおける糖尿病の発症抑制29)や糖尿病の寛解誘導30)をもたらすことが報告されており、将来的な1型糖尿病への臨床応用が期待されていた。

近年、1型糖尿病の診断を受けて間もない(診断後100日未満)67名の患者(18-45歳)を対象としてImatinibを用いたランダム化二重盲検プラセボ対照試験(第Ⅱ相試験)の結果が報告された31)。Imatinib群では実薬(400mg/日)が26週間にわたって連日投与され、主要評価項目は12か月後に実施した4時間混合食負荷試験(mixed meal tolerance test:MMTT)の初めの2時間分の血清Cペプチド値の時間曲線下面積(以下、Cペプチドarea under the curve[AUC])とした。その結果、コントロール群に比べてImatinib群ではCペプチドAUCで評価されたインスリン分泌能が有意に高いことが示された31)。しかし、この有意差は24か月後には消失し、長期にわたるβ細胞保護効果は認められなかった31)

3)GADワクチン

比較的罹病期間の短い(急性発症)1型糖尿病患者を対象とし、GAD-alum(水酸化アルミニウム[aluminium hydroxide]配合のGAD65蛋白)を用いたGADワクチン(1か月あけて1回あたり20 μgずつ2回皮下注射)に関する臨床試験がこれまでいくつか報告されてきたが、これらの結果は一貫性に欠けるものであった。はじめに、発症後18か月以内の1型糖尿病患者70名を対象とした第Ⅱ相試験(欧州)では、GADワクチンによるβ細胞保護効果(プラセボ群よりもインスリン分泌能が高い状態で保持)が示された32)。また、この効果は発症6か月以内の患者においてのみ観察され、かつ4年後も継続してみられた33)。免疫学的検討の結果、GAD-alum群では抗GAD抗体価が上昇し、末梢血単核球のサイトカイン易産生性がGAD特異的に認められたことから、GAD-alumによるGAD特異的な免疫応答の誘導が示唆された32)。β細胞保護効果の詳細な機序は不明であるが、末梢血単核球において免疫制御に関わる制御性T細胞(regulatory T cell[Treg])関連マーカーの遺伝子発現が上昇していたことから、GAD-alumによってTregが誘導され、免疫寛容につながった可能性が議論されている32)

これらの結果を受け、発症後3か月以内の新規発症1型糖尿病患者を対象として、第Ⅱ相試験(米国)34)ならびに第Ⅲ相試験(欧州)35)が行われた。ところが、いずれの試験においても、各々12か月間ならびに15か月間の観察期間においてインスリン分泌能の経時的な低下を抑えることができず、HbA1cやインスリン必要量についてもプラセボ群との差を見出すことができなかった。先行研究との乖離をみた理由については、免疫系の季節変動の影響やインフルエンザワクチンの接種頻度の違い、対象年齢の分布の違いなどが議論されているが、詳細は不明のままである35)

一方、これら3つの臨床試験を組み合わせてGADワクチンによる内因性インスリン分泌能を解析したところ、欧米の1型糖尿病疾患感受性HLAであるDR3-DQ2を有する患者群においてGADワクチンによる有意なβ細胞保護効果がみられた36)。もともとDR3-DQ2はGADに対する自己免疫との関連性が報告されており37,38)、疾患感受性HLAの観点からGADワクチンの有用性が期待される対象者を限定することによって、将来GADワクチンの有用性が見直されるかもしれない。参考までに欧州において、12歳~24歳の新規発症1型糖尿病患者に対してGAD-alumの鼠径リンパ節内投与によるGADワクチン療法(± ビタミンDの経口投与)が後期第II相試験(第IIb相試験)として行われたが、被験者全体ではGADワクチン療法の有用性が実証できなかったものの、DR3-DQ2を有する群に絞った場合、プラセボ群に比べてβ細胞保護効果や血糖コントロール指標の改善が認められている(GAD-Alum[Diamyd®] Administered Into Lymph Nodes in Combination With Vitamin D in Type 1 Diabetes[DIAGNODE]-2 Study)39,40)

一方、GADワクチンはlatent autoimmune diabetes in adults(LADA)患者に対してワクチンの接種量別に第Ⅱ相試験が行われており、上述したGADワクチンの臨床試験における至適投与量の決定(1回あたり20 μg)につながった41)。また、1回あたり4 μg、20 μg、100 μgの各投与群では5年間にわたってインスリン分泌能が保持され、特に20 μg群ではプラセボ群に比べてインスリン分泌能の有意な改善がみられた42)。しかし、その後の臨床試験等に関する情報は文献検索では把握できない状況にある。LADA患者に対するGADワクチン療法については、是非とも続報を期待したい。

4)副刺激分子阻害薬

①Alefacept

Alefaceptは、抗原提示細胞に発現するlymphocyte function-associated antigen-3(LFA-3)とヒトimmunoglobulin(Ig)GのFc領域との融合蛋白である。LFA-3はCD4ならびにCD8陽性エフェクターメモリーT細胞上に主に発現しているCD2のリガンドであり、AlefaceptはCD2とLFA-3の接着を阻止することによって抗原提示細胞からT細胞への副刺激シグナルを阻害するとともに、Natural killer細胞の働きを介してT細胞を除去する作用を有する。米国を中心に中等度~重度の局面型皮疹を有する乾癬の治療薬として使われていた(乾癬に対してより効果的な他の薬剤の開発により、2011年に製造中止)。

2015年に、新規発症1型糖尿病患者を対象としてAlefaceptによる臨床試験の結果が報告された43)。49名と少数例での検討ではあるが投与開始2年の時点においてプラセボ群に比べてインスリン分泌能が有意に保持され、インスリン必要量が少なく、また低血糖の頻度も半分程度に抑えられていた。Alefacept群ではメモリーT細胞に対するTregの比率が有意に高く、また免疫チェックポイント分子であるprogrammed death-1(PD-1)を発現するCD4陽性エフェクターメモリーT細胞数が有意に増加していたことから、Alefaceptによって自己免疫が制御され、あるいは免疫チェックポイント機構が作用し、β細胞保護効果がもたらされた可能性が議論されている。

②Abatacept

Abataceptは、cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4(CTLA-4)の細胞外ドメインとIgGのFc領域との融合蛋白であり、CTLA-4-Igとも呼ばれる。Abataceptは抗原提示細胞上のB7分子に結合してT細胞表面上のCD28分子とB7分子との結合を阻止し、CD28を介したT細胞への副刺激シグナル伝達を阻害することによってT細胞の活性を抑制する。本邦では関節リウマチの治療薬として用いられている。

過去に112名の新規発症1型糖尿病患者を対象とし、そのうちの77名にAbataceptを2年間投与し続け、β細胞保護効果(インスリン分泌能の推移)の検証を試みた臨床試験の結果が報告された44)。その結果、投与開始2年目の時点におけるインスリン分泌能がプラセボ群と比べてAbatacept群において有意に高く、またHbA1cがより低い値を呈していた。しかし、最初の6か月を過ぎた辺りから、インスリン分泌能はプラセボ群と同様の低下傾向を示すようになり、β細胞保護効果は限定的である可能性が示唆された。

5)抗CD3抗体療法

抗CD3抗体はT細胞受容体複合体(T cell receptor[TCR]/CD3)に結合して効果を発揮する抗体である。1994年にChatenoudらは、糖尿病発症直後のNODマウスに抗CD3抗体を少量・短期間投与することによって、投与後2~4週間で糖尿病を寛解(血糖の正常化)させることに成功した45,46)。この寛解状態はマウスの生涯にわたって維持されるが、抗CD3抗体投与マウスは異種の皮膚移植片に対する拒絶反応を正常に呈することから、この長期寛解は全身性の免疫抑制によるものではなく、膵島抗原特異的な免疫寛容状態を示している可能性が示唆された。このメカニズムについては、T細胞受容体の内在化やT細胞のアネルギー、アポトーシスなどによるエフェクターT細胞の数的・質的低下の関与が考えられている47)。また、抗CD3抗体の刺激を受けたT細胞が免疫制御に関わるTregへと分化し、免疫寛容の誘導に関与した可能性なども議論されている47)

一方、抗CD3抗体療法の臨床応用については、サイトカイン放出症候群などの副作用が軽減されたFc受容体非結合性ヒト化抗CD3抗体(TeplizumabならびにOtelixizumab)が開発され、これまで新規発症1型糖尿病患者を対象とした臨床試験がいくつか行われた。

①Teplizumab

24名の新規発症1型糖尿病患者を対象としてTeplizumabの効果を検討した第Ⅰ/Ⅱ相試験では、投与開始後1年の時点においてインスリン分泌能はベースラインを維持、あるいは一時的な改善をみた48)。基礎的検討の結果、TeplizumabによってIL-10(免疫制御に関わるサイトカイン)産生性CD4リンパ球が末梢血で一過性に増加しており49)、Teplizumabによる免疫寛容の誘導効果が示唆された。

77名の新規発症1型糖尿病患者を対象とした別の臨床試験(Autoimmunity-blocking Antibody for Tolerance[AbATE]Study)では2年間にわたってTeplizumabによるインスリン分泌能の経時的推移が検討された50)。その結果、コントロール群に比べてTeplizumab群では2年後のインスリン分泌能が75%高いレベルで維持されていた。ただし、インスリン分泌能はTeplizumab投与開始後6か月目まではベースラインと同レベルであったが、その後は経時的な低下がみられており、結果的にTeplizumabによるβ細胞保護効果が期待される期間は投与開始から16か月間程度と一時的であることが示された。

一方、516名の新規発症1型糖尿病患者を対象として行われたTeplizumabの第Ⅲ相試験(Protégé trial)では、投与開始1年後の主要複合アウトカム(試験開始1年の時点でインスリン必要量が0.5 U/kg/日未満かつHbA1cが6.5%未満を満たす症例の割合)について、プラセボ群との有意な違いを示すことができなかった51)。ただし、①11歳以下の症例に限定した場合、インスリン分泌の経時的低下が有意に抑制されていたこと、②本研究では投与量別に3群にわけて介入が行われたが、投与量が最も多い群のみを対象とし、さらに複合アウトカムを「インスリン必要量が0.25 U/kg/日未満、かつHbA1cが7.0%未満を満たす症例の割合」に設定すると、プラセボ群よりも有意にアウトカムを満たす症例の割合が多かったことなどから、対象例の選定条件や試験プロトコールの見直しによって、今後、臨床効果の改善が期待できるかもしれない。なお、その後、Teplizumab投与開始2年後のインスリン分泌能(4時間混合食負荷試験における血清Cペプチド値の時間曲線下面積[事前に指定された副次的評価項目])が評価され、プラセボ群に比べてTeplizumab群ではインスリン分泌能が有意に高い状態であることが示されている52)

②Otelixizumab

Teplizumabと同様、Otelixizumabについても新規発症1型糖尿病患者を対象とした臨床試験が過去に行われており、第Ⅱ相試験ではOtelixizumabによる有意なβ細胞保護効果が認められた。しかし、有害事象(Epstein-Barr[EB]ウイルスの再活性化など)が高頻度にみられ、それが問題視された53)。そこで第Ⅲ相試験(Durable Response Therapy Evaluation for Early or New-Onset Type 1 Diabetes[DEFEND-1]study)では、有害事象のリスクを減らす目的でOtelixizumabの投与量を大幅に減量(第Ⅱ相試験時の1/15~1/20)し、β細胞保護効果が検討された54)。しかし、投与開始1年の時点において有益な効果が得られず、また各種血糖関連マーカーについてもプラセボとの差を見出すことができなかった。その要因として、Otelixizumabの投与量が不十分であった点が議論されている。

6)抗CD20抗体療法(Rituximab)

T細胞同様、B細胞もまた膵島炎の形成に重要な役割を担っているが、CD20(B細胞表面マーカー)に対する抗体によるB細胞の除去が1型糖尿病の免疫療法として注目されている。実際、糖尿病未発症NODマウスに抗CD20抗体を投与してB細胞を除去すると糖尿病の自然発症が抑制され、さらに糖尿病発症直後のNODマウスからB細胞を除去すると、一部の個体において糖尿病の寛解が観察される55)。その詳細なメカニズムは不明であるが、抗CD20抗体の投与によって脾細胞中の制御性T細胞の割合が増加していた。さらに抗CD20抗体によって一旦末梢血からB細胞が除去された後、nadirからの数的な回復をみたB細胞には養子移植の系において自己免疫性糖尿病の発症抑制効果が観察された55)。制御性T細胞に加えてこのような免疫制御能を有するB細胞が自己免疫性糖尿病の発症抑制や寛解誘導に寄与していた可能性があり、大変興味深い。

1型糖尿病患者については、多くの血液疾患や自己免疫疾患(B細胞性非ホジキンリンパ腫や慢性特発性血小板減少性紫斑病、全身性強皮症など)に対して既に臨床応用されている抗CD20抗体・Rituximabに関する臨床試験が米国を中心に行われた56)。その結果、Rituximab群ではHbA1cやインスリン使用量に有意な改善がみられ、インスリン分泌能の改善が治療後3か月目まで観察された。なお、介入開始後1年間はインスリン分泌能がプラセボ群よりも有意に高いレベルで保持されていたが、3か月目以降経時的な低下を認めたことから、免疫寛容の誘導は必ずしも十分ではなかった可能性が示唆された。

7)低用量抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(± 顆粒球コロニー刺激因子)

抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG)はヒト胸腺細胞をウサギに免疫することにより得られるポリクローナル抗体であり、IgGを主成分とする免疫抑制薬である。現在、再生不良性貧血や臓器移植後の拒絶反応の抑制などを目的として使われている。T細胞を中心とするあらゆる免疫担当細胞を末梢血中から除去する作用を有していることから、この作用を利用して1型糖尿病の病態形成に関わるT細胞などを除去し、さらに顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF)を用いて免疫系の再構築を促すことによって免疫寛容の状態を誘導しようとする試みが行われている。実際、マウスATGとG-CSFの併用療法を糖尿病発症NODマウスに行うと、糖尿病の寛解が観察される57)。興味深いことに、併用療法のマウスでは脾細胞におけるTregの頻度が増加していた57)

25名の1型糖尿病患者(罹病期間4か月以上2年未満)を対象としたランダム化単盲検プラセボ対照試験(早期第Ⅱ相試験)では、プラセボ群に比べて低用量ATG(2.5 mg/kg)とG-CSFの併用療法群において1年後におけるインスリン分泌能が高く保持される傾向があり(P = 0.05)、同様に末梢血中のTreg頻度が増加していることが示された58,59)。そこでTrialNet(1型糖尿病に関する国際共同研究グループ)は89名の発症後間もない1型糖尿病患者(罹病期間100日以内)を対象とし、後期第Ⅱ相試験を実施した60)。対象者はプラセボ群、低用量ATG単独群(2.5 mg/kg)、低用量ATGとG-CSFの併用群の3群に割り付けられ、1年後におけるインスリン分泌能(2時間MMTTによるCペプチドAUC値で評価)が比較検討された。その結果、低用量ATG単独群ではプラセボよりもCペプチドAUC値が有意に高かったが、低用量ATGとG-CSFの併用群ではプラセボ群との有意な差がみられず、G-CSFを追加することのメリットが見いだせなかった。今後、低用量G-CSFの必要性を含め、さらに長期的な効果についても検証を試みる必要がある。

8)抗サイトカイン療法

①Golimumab

Golimumabは抗腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-αに対するヒトIgG1-κタイプのモノクローナル抗体であり、欧米では成人の関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、欧州等では多関節型若年性特発性関節炎や小児の非X線的軸性脊椎関節炎等の治療法として用いられている61)。これまでの基礎研究の結果、1型糖尿病におけるTNF-αの関与が推測されることから、Golimumabによるβ細胞保護効果を評価する目的で臨床試験(SIMPONI® to Arrest β-cell Loss in Type 1 Diabetes[T1GER]試験)が実施された61)

対象は新規に診断された小児・若年1型糖尿病患者(6~21歳)であり、4時間 MMTTにて血清Cペプチドのピーク値が0.2 pmol/mL(0.6 ng/mL)以上のケースとした。被験者は診断後100日以内にGolimumab群とプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けられ、52週間にわたって追跡調査が行われた。Golimumabは、体重別に初期量(0週目、2週目)と維持量(4週目以降)が設定され、2週ごとに52週間にわたって皮下投与された。主要評価項目は、52週後の内因性インスリン分泌能とし、4時間MMTTにおけるCペプチドAUCで評価された。

最終的に84例が登録され、56例がGolimumab群に、28例がプラセボ群に割り付けられた。52週の時点における4時間CペプチドAUCの平均値(±標準偏差)は、プラセボ群と比べてGolimumab群において有意に高値であった(0.43±0.39 pmol/mL vs. 0.64±0.42 pmol/mL, P < 0.001)。4時間CペプチドAUCのベースラインからの平均変化量は、Golimumab群が-0.13 pmol/mL、プラセボ群が-0.49 pmol/mLであり、平均低下率はそれぞれ12%および56%であった。以上より、Golimumabによるβ細胞保護効果が示された。

TNF-αを標的とした免疫療法については、18名の小児1型糖尿病患者を対象とした 完全ヒト型可溶性TNF-α/リンフォトキシンα(LTα,TNF-βともいう)レセプター製剤Etanercept(TNF-α/β阻害薬)による介入試験(第Ⅰ相試験)が過去に行われており、T1GER試験と同様、Etanerceptによるβ細胞保護効果などが報告されている62)。一方、TNF誘導分子(完全フロイントアジュバント[complete Freund's adjuvant:CFA])による抗原提示細胞由来のTNF-αが、1型糖尿病関連の自己反応性T細胞にアポトーシスをもたらすことや63)、TNF-αの受容体の1つであるTNF receptor 2 (TNFR2)に対してアゴニスト作用を有する抗体が、健常人ならびに1型糖尿病患者の制御性T細胞を増殖させることが報告されている64)。すなわち、TNF-αはその作用ポイントによっては自己免疫反応を制御し、1型糖尿病の病態形成に対して抑制的に働く可能性がある。今後、Golimumabの真の有用性を評価するにあたり、膵島関連の自己免疫応答にどのような影響を与えるのか、逆に1型糖尿病の病態に悪影響を与えてしまう可能性はないのか、などについても着目していく必要がある。

②抗IL-21抗体とリラグルチドによる併用療法

IL-21は活性化CD4リンパ球などによって産生されるⅠ型サイトカインの1つであり、あらゆる免疫担当細胞に多様な作用を有することが知られている65)。IL-21は動物モデル66,67)やヒト68,69)において1型糖尿病の病態形成に関わっている可能性が示されており、特に膵所属リンパ節や膵外分泌領域から膵島局所へのCD8リンパ球の遊走促進にIL-21が中心的な役割を担っていると考えられている70)。そこで抗IL-21抗体によるIL-21の作用阻害は1型糖尿病の免疫療法として役に立つものと期待されていた。一方、glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬は、血糖コントロールや体重、心血管リスクに対して有利に働くことに加えて71,72)、β細胞のストレス軽減やアポトーシスの阻止73)、炎症性サイトカインによるインスリン分泌抑制の阻止74)、プロインスリンからインスリンへのプロセッシング異常の改善効果75)などが示されている。以上から、抗IL-21抗体とGLP-1受容体作動薬の併用療法は1型糖尿病においてより効果的なβ細胞保護効果をもたらすものとかねてから期待されていた。実際、1型糖尿病のマウスモデルにおいてこの併用療法による糖尿病の寛解誘導が報告されている76)

その後、抗IL-21抗体とリラグルチドの併用療法によるβ細胞保護効果を検証する目的で第Ⅱ相試験が海外で行われた77)。発症後間もない1型糖尿病患者308名(18歳~45歳)を対象とし、被験者はプラセボ群、リラグルチド単独群(最大用量1.8mg/日)、抗IL-21抗体単独群(1回あたり12 mg/kg、6週ごとに静脈内投与)、抗IL-21抗体とリラグルチドの併用療法群の4群に均等に割り付けられ、54週間にわたって投薬が行われた。4時間MMTTのCペプチドAUC値でインスリン分泌能が評価され、主要評価項目は54週の時点におけるベースラインからのインスリン分泌能の低下率と定義された。その結果、プラセボ群と比較して併用療法群においてインスリン分泌能の低下率が有意に低いことが示され、併用療法によるβ細胞の保護効果が認められた。一方、抗IL-21抗体単独群とリラグルチド単独群ではそのような効果はみられなかった。ただし、併用療法終了後26週の時点でこの効果は消失することも示されており、54週以降も併用療法を続けることの有用性について今後検証する意義があると思われる。

なお、抗IL-21(モノクローナル)抗体(NNC0114–0006)は、現在、1型糖尿病のほかに全身性エリテマトーデスや関節リウマチ、乾癬など複数の自己免疫疾患に対して臨床試験が行われている段階であり、臨床応用はされていない78)

③IL-1阻害薬(Anakinra、Canakinumab)

基礎研究の結果から1型糖尿病では自然免疫にかかわる主要なサイトカインの1つであるIL-1の関与が想定されており、IL-1阻害薬によるβ細胞保護効果が期待されていた79)。しかし、新規発症1型糖尿病患者を対象とし、IL-1受容体拮抗薬(Anakinra;欧米では関節リウマチやクリオピリン関連周期性症候群、家族性地中海熱、Still病などの治療薬として使用[本邦では未承認])あるいは抗IL-1βモノクローナル抗体(Canakinumab;本邦ではクリオピリン関連周期性症候群、家族性地中海熱、全身型若年性特発性関節炎などの治療薬として使用)を用いたランダム化二重盲検プラセボ対照試験(早期第Ⅱ相試験)では、どちらの薬剤も(各々投与開始9か月ならびに12か月の時点における)インスリン分泌能の改善効果は認められなかった80)

9)BCGワクチン

BCG(Bacille de Calmette et Guérin:カルメット・ゲラン桿菌)は、弱毒化したウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)の変異株であり、結核予防のためにこの菌を用いて開発されたワクチンがBCGワクチンである。体内に投与されたBCGは、Toll-like receptor 2(TLR2)やTLR9を介して局所のマクロファージを活性化させ、TNF(主としてTNF-α)やIL-6、IL-12などの炎症性サイトカインの産生を促すことが報告されており、膀胱癌に対して行われるBCG膀胱内注入療法の抗腫瘍効果にも関連している81)

通常、T細胞はTNFの刺激を受けるとNF-kB(nuclear factor-kappa B)経路を介して一連の抗アポトーシス蛋白が誘導されるため、TNF刺激によるアポトーシスに対して抵抗性を示す82)。ところが、1型糖尿病の病態に関わる自己反応性T細胞は、CD8リンパ球を中心にNF-kB経路のシグナル経路に障害があることが示されており、TNF刺激を受けるとアポトーシスに陥りやすいという特性を有している83)。BCGワクチンによる1型糖尿病への治療介入はこの特性を利用したものであり、ワクチン接種後に産生されるTNFの刺激を受けて自己反応性T細胞がアポトーシスに陥り、1型糖尿病の発症予防や寛解に繋がると考えられている84)。また、TNFは免疫の制御に関わるTregの増殖を促すことも示されている85)

これまでに1型糖尿病患者を対象としたBCGワクチンに関するランダム化比較試験がいくつか行われており、その中から4つの試験を対象としたメタ解析が近年報告された86)。その結果、評価項目である内因性インスリン分泌能やHbA1c値についてはプラセボ群と差がなく、BCGによるβ細胞保護効果や血糖改善効果は認められなかった。しかし、いずれの試験も被験者数が比較的少なく、被験者の年齢や罹病期間、試験の観察期間、BCGの投与量や投与回数、使用した株など、研究間で患者背景や研究プロトコールが大きく異なっており、これらの点が解析結果に影響していた可能性が議論されている。BCGワクチンの有用性については、今後大規模なランダム化比較試験等による検証を要する状況である。

10)自家末梢血幹細胞移植

自家末梢血幹細胞移植は、血液悪性疾患や一部の固形癌に対する治療法として既に確立しているが、全身性エリテマトーデスや全身性強皮症など一部の難治性自己免疫疾患に対する治療法としてもその有用性が注目されている。1型糖尿病においては、膵島関連自己免疫応答が一旦リセットされることによるβ細胞保護効果が期待されている。海外ではすでに多施設研究(シングルアーム試験)の成果が報告されており、インスリン治療の高い離脱率(移植後2年以内は40~50%程度)、インスリン必要量の減少、血糖コントロールの改善、インスリン分泌能の改善等が報告されている87)。これらの所見は大変興味深いものではあるが、大量の抗癌剤や全身放射線照射などの前処置による生体への負担や長期的な安全性の問題等を考えると、比較的若い年齢層が主体である1型糖尿病患者への適応については慎重な議論が望まれる。

表1 新規発症例のβ細胞の保護効果を目的とした1型糖尿病の免疫療法に関する主なプラセボ対照試験

カテゴリー 免疫療法 被験者 観察期間 主要評価項目 結果
非特異的抗炎症薬 Cyclosporine 23) 無作為化オープンラベル試験(The Canadian-European Randomized Control Trial) 新規発症1型糖尿病患者(高血糖症状出現後14週以内かつインスリン治療開始後6週以内)187名
年齢:10-35歳
1年 インスリン療法からの離脱(インスリン療法なしで食前血糖値140 mg/dL以下の維持が可能)あるいはグルカゴン負荷試験で血漿Cペプチド値≧0.6nM(≒1.82ng/mL) 1年後の時点で有益性に有意傾向あり(P <0.06)
チロシンキナーゼ阻害薬 Imatinib 31) 第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)67名
年齢:18-45歳
12か月 12か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 有意な有益性あり
GADワクチン GAD-alum 32)
第Ⅱ相試験 1型糖尿病患者(診断後18か月以内)70名
年齢:10-18歳
15か月 15か月後の空腹時血清Cペプチド値のベースラインからの変化量 有意な有益性あり
GAD-alum 34)
(20 μg×3回、20 μg×2回+プラセボ×1回、プラセボ×3回皮下注射の3群)
第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)280名
年齢:3-45歳
12か月 12か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 有意差なし
GAD-alum 35)
(20 μg×4回、20 μg×2回+プラセボ×2回、プラセボ×4回皮下注射の3群)
第Ⅲ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後3か月以内)334名
年齢:10-20歳
15か月 15か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値のベースラインからの変化量 有意差なし
副刺激分子阻害薬 Alefacept (抗CD2抗体) 43) 第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)49名
年齢:12-35歳
24か月 24か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値のベースラインからの低下量、その他(HbA1c、インスリン使用量、重症低血糖の頻度など) 有意な有益性あり
Abatacept (CTLA-4-Ig) 44) 第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)112名
年齢:6-45歳
24か月 24か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 有意な有益性あり
抗CD3抗体療法 Teplizumab 48) 50) 第Ⅰ-Ⅱ相試験


新規発症1型糖尿病患者(診断後6週間以内)24名
年齢:7歳半-30歳
12か月


12か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値
有意な有益性あり

ランダム化比較試験 (AbATE Study)
新規発症1型糖尿病患者(診断後8週間以内)77名
年齢:8-30歳
2年 2年後のMMTTにおけるCペプチドAUC値
有意な有益性あり
第Ⅲ相試験(Protégé trial)
新規発症1型糖尿病患者(診断後12週以内)516名
年齢:8-35歳
1年 1年後にインスリン必要量が0.5 U/kg/日未満、かつHbA1cが6.5%未満を満たす症例の割合 有意差なし
Otelixizumab 53)
(一部の被験者を除き、1日1回8mgを連続6日間静脈内投与)
第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(インスリン治療開始後4週以内)80名
年齢:12-39歳
18か月 6か月後のグルコースクランプ試験+グルカゴン負荷試験における CペプチドAUC値のベースラインからの変化量 有意な有益性あり
ただし、EBウイルス活性化の問題あり
Otelixizumab 54)
(毎日少量ずつ静脈内投与し、8日間で計3.1mgを投与)
第Ⅲ相試験
(DEFEND-1 study)
新規発症1型糖尿病患者(診断後90日以内)281名
年齢:12-45歳
12か月 12か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値のベースラインからの変化量 有意差なし
抗CD20抗体療法 Rituximab 56) 第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後平均80-83日)87名
年齢:8-40歳
1年 1年後のMMTTにおけるCペプチドAUC値
有意な有益性あり
ATG (± G-CSF) 低用量ATG + G-CSF 58)



第Ⅱa相試験 1型糖尿病患者(平均罹病期間:1年)25名
平均(±SD)年齢:24.6±10歳
1年 1年後のMMTTにおけるCペプチドAUC値のベースラインからの変化量 有益性に有意傾向あり(P = 0.06)
低用量ATG ± G-CSF 60)
(低用量ATGとG-CSFの併用群、低用量ATG単独群、プラセボ群の3群)
第Ⅱb相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)89名
年齢:12-45歳
1年 1年後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 低用量ATG単独群のみ有意な有益性あり
抗サイトカイン療法 Golimumab (抗TNF-α抗体) 61) 第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)84名
年齢:6-21歳
52週 52週後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 有意な有益性あり
Etanercept (完全ヒト型可溶性TNF-α/βレセプター) 62) パイロット研究 新規発症1型糖尿病患者(診断後4週以内)18名
年齢:7.8-18.2歳
24週 食事負荷試験におけるCペプチドAUC値、HbA1c値、インスリン使用量のベースラインからの変化、24週の時点におけるHbA1c値 有意な有益性あり
抗IL-21抗体とリラグルチドの併用療法77) 第Ⅱ相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後平均11週間程度)308名
年齢:18-45歳
54週 54週後のMMTTにおけるCペプチドAUC値のベースラインからの低下率 有意な有益性あり
Anakinra(IL-1受容体拮抗薬)80) 第Ⅱa相試験 新規発症1型糖尿病患者(発症後12週以内)
年齢:18-35歳
9か月 9か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 有意差なし
Canakinumab(抗IL-1βモノクローナル抗体 80) 第Ⅱa相試験 新規発症1型糖尿病患者(診断後100日以内)
年齢:6-45歳
12か月 12か月後のMMTTにおけるCペプチドAUC値 有意差なし
BCGワクチン Freeze-dried BCG(株の情報なし)107) 
ランダム化比較試験(実薬・プラセボの両群ともニコチン酸アミドを併用) 新規発症1型糖尿病患者(診断後4週間以内)72名
平均(±SD)年齢:14.5±6歳
1年 インスリン必要量、HbA1c値、血清Cペプチド値、臨床的寛解状態への移行 有意差なし
BCG(Connaught株)108)
ランダム化比較試験 1型糖尿病患者(診断後1年以内)26名
平均年齢:13.1歳
18か月 18か月間の観察期間中におけるグルカゴン負荷試験、HbA1c値など 有意差なし
BCG(TICE株)109)
ランダム化比較試験 新規発症1型糖尿病患者(罹病期間不明)94名
年齢:5-18歳
2年 インスリン療法の中止(少なくとも4週間にわたって空腹時血糖値140 mg/dL未満ならびに食後2時間血糖値200 mg/dL未満を維持できる状態) 有意差なし
BCG(Connaught株)110)
ランダム化比較試験 1型糖尿病患者(平均罹病期間20年以上)6名
平均年齢:42歳
8年 HbA1c値、グルカゴン負荷試験 BCG群において、HbA1c値の有意な改善あり

AbATE, Autoimmunity-Blocking Antibody for Tolerance; alum, aluminium hydroxide; AUC, area under the curve; ATG, anti-thymocyte globulin; BCG, Bacille de Calmette et Guérin; CTLA-4, cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4; DEFEND-1, Durable Response Therapy Evaluation for Early or New-Onset Type 1 Diabetes; EB, Epstein-Barr; GAD, glutamic acid decarboxylase; G-CSF, granulocyte colony-stimulating factor; IL, interleukin; Ig, immunoglobulin; MMTT, mixed meal tolerance test; SD, standard deviation; TNF, tumor necrosis factor.

1型糖尿病の発症予防を目的とした主な免疫療法(表2)

1)インスリン

インスリン分子は1型糖尿病のprimary antigenとして免疫学的に重要な役割を担っている可能性があることから、古くからインスリン分子による抗原特異的免疫療法(ワクチン療法)の有用性が期待されていた。そして、1型糖尿病の発症リスクを有する個体を対象とし、これまで経鼻88)、経口89)、非経口(皮下注射+定期的な速効型インスリン静脈内投与)90)の3つの投与ルートで1型糖尿病の発症予防(遅延)効果やβ細胞保護効果が検証されてきたが、いずれの投与ルートにおいても有益な効果を実証することはできなかった。ただし、インスリン自己抗体の高値例に限定した場合(サブ解析)、経口インスリン製剤による1型糖尿病の発症遅延効果が認められたことから89)、TrialNet主導で1型糖尿病患者を近親に持つインスリン自己抗体陽性者を対象として経口インスリン製剤による1型糖尿病の発症遅延効果が検証されたが、期待された効果は得られなかった91)。一方、1型糖尿病のハイリスク乳幼児(4~7か月児)を対象として、経口インスリン製剤の連日投与が3歳までの時点における自己抗体の陽性率や1型糖尿病の発症率にどのような影響をもたらすかについて現在欧州で追跡調査中であり、2025年には結果が公開される予定である(GPPAD-POInT[Global Platform of Autoimmune Diabetes - Primary Oral Insulin Trial])92)

2)ニコチン酸アミド

ニコチン酸アミド(ナイアシンの一種)は酸化・還元反応を媒介する補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)やニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:NADP)の構成成分であり、動物実験93,94,95)やヒトを対象とした小規模な研究96)においてβ細胞保護効果が認められていた。しかし、ニコチン酸アミドの1型糖尿病発症予防効果を検証した代表的なランダム化比較試験である「The Deutsche Nicotinamide Intervention Study(DENIS)」97)や「European Nicotinamide Diabetes Intervention Trial(ENDIT)」98)では、ニコチン酸アミドによる1型糖尿病の発症予防効果が実証されなかった。

3)Teplizumab

近年、Teplizumabを用いた1型糖尿病の発症予防効果が、TrialNet主導によるランダム化二重盲検プラセボ対照試験で検証された99)。76名の1型糖尿病未発症のハイリスク者が被験者として試験に組み入れられ、Teplizumab群(44名)とプラセボ群(32名)の2群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は1型糖尿病の診断に至るまでの期間とした。追跡期間中、42名(55%)が1型糖尿病と診断され、内訳はTeplizumab群が19名(43%)、プラセボ群が23名(72%)であった。また、1型糖尿病の診断に至るまでの期間(中央値)は、Teplizumab群で48.4か月、プラセボ群では24.4か月であり、ハザード比は0.41(P = 0.006)であった。1型糖尿病と診断された42名中17名が介入後1年以内の発症だったが、内訳はTeplizumab群でわずか3名(7%)であったのに対してプラセボ群では14名(44%)であり、Teplizumabは投与後1年以内の発症予防効果が高いことが示された。しかし、投与後1年目以降はTeplizumab群においてもプラセボ群と同様のペースで糖尿病の累積発症がみられたことから、結果的にTeplizumabによる1型糖尿病の発症予防効果ではなく発症遅延(発症のタイミングを2年程度遅らせる)効果が明らかになった。そして、この臨床試験の結果を契機に、2022年11月、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)は膵島関連自己抗体が少なくとも2つ以上陽性である8歳以上の耐糖能異常者に対して1型糖尿病の発症遅延を目的としたTeplizmabの使用を承認した100)

Teplizumabによる発症遅延効果の詳細な機序は不明だが、先述したメカニズム以外に、Teplizumabによってリンパ球に免疫チェックポイント機構が働き、自己免疫の制御につながった可能性が推察されている99,101)。また、TeplizumabによってIL-10産生性のCD4リンパ球がヒト末梢血中で増加することが確認されており49)、このような機序を介して自己免疫が制御され1型糖尿病の発症遅延に関与した可能性なども議論されている。ただし、Teplizumabに対する抗体産生が20~55%のケースで認められており、診療上の懸念材料の1つとなっている52,99,102)

4)Abatacept

Abataceptによる耐糖能異常/1型糖尿病への進展抑制・遅延効果を検証するための臨床試験が行われ、その結果が近年報告された103)。対象は(インスリン自己抗体を除く)2つ以上の自己抗体が陽性だが、経口ブドウ糖負荷試験で正常耐糖能のパターンを示す1型糖尿病患者の血縁者212名(6-45歳)であり、101名がAbatacept群に、111名がプラセボ群に割り付けられ、12か月間にわたって毎月経静脈的に投薬が行われた。主要評価項目は経口ブドウ糖負荷試験で耐糖能異常を示すか1型糖尿病と診断されるまでの期間とし、プラセボ群と比較検討された。その結果、Abatacept群において35名、プラセボ群において46名が主要評価項目を達成したが両群間で有意差がみられず、Abataceptによる耐糖能異常/1型糖尿病への進展抑制・遅延効果は実証されなかった。Abatacept投与期間中は末梢血中のTregの頻度がプラセボ群よりも有意に低く、Abataceptに期待された効果が相殺されてしまった可能性などが議論されている。

5)BCGワクチン

結核予防目的で投与された集団を含むコホート研究が複数行われており、そのメタ解析の結果が近年報告された104)。5つのコホート研究が採択され対象者は総勢86万人以上に上った。結果的に1型糖尿病の発症のリスク比はBCGワクチン接種群と非接種群で有意差を認めず、BCGワクチンによる1型糖尿病の発症予防効果は示されなかった。ただし、コホート研究の性質上、BCGワクチンの有用性を正確に評価するには限界があり、詳細についてはランダム化比較試験等による検証が望ましいと考える。

表2  1型糖尿病の発症予防を目的とした免疫療法に関する主なプラセボ対照試験

臨床試験 免疫療法 被験者 主要評価項目 結果
DPT-1
Parenteral insulin 90)
インスリン非経口投与 339名
年齢(中央値):11.2歳
1型糖尿病患者の近親者
自己抗体陽性
5年以内の1型糖尿病発症リスク50%以上
1型糖尿病の
診断までの期間
プラセボ群との有意差なし
DPT-1
Oral insulin 89)
経口インスリン製剤 372名
年齢(中央値):10.25歳
1型糖尿病患者の近親者
自己抗体陽性
5年以内の1型糖尿病は症リスク26-50%
1型糖尿病の
診断までの期間
プラセボ群との有意差なし
TrialNET
Oral insulin 91)
経口インスリン製剤 389名
年齢(中央値):8.4歳
1型糖尿病患者の近親者
1型糖尿病の
診断までの期間
プラセボ群との有意差なし
DIPP 88) 経鼻インスリン製剤 ①224名(幼児)
平均年齢:2.7-2.8歳
HLAリスクあり
2つ以上の自己抗体が陽性
②40名(①の兄姉)
平均年齢:7.0-7.5歳
HLAリスクあり
2つ以上の自己抗体が陽性
1型糖尿病の診断 プラセボ群との有意差なし
ENDIT 98) ニコチン酸アミド 552名
年齢:3-40歳
1型糖尿病患者の第1度近親者
ICA陽性(≧20 JDF)
ブドウ糖負荷試験正常
1型糖尿病の
診断までの期間
プラセボ群との有意差なし
DENIS 97) ニコチン酸アミド 55名
年齢:3-12歳
1型糖尿病患者の兄妹姉妹
ICA陽性(≧20 JDF)
1型糖尿病の
診断までの期間
プラセボ群との有意差なし
TN-10 99) Teplizumab 76名
年齢(中央値):13-14歳
1型糖尿病患者の血縁者
2つ以上の自己抗体が陽性
経口ブドウ糖負荷試験で耐糖能異常あり
1型糖尿病の
診断までの期間
プラセボ群に比べて1型糖尿病の診断(発症)までの期間が有意に長い
TrialNet 103)
Abatacept 212名
年齢:6-45歳
1型糖尿病患者の血縁者
(インスリン自己抗体を除く)2つ以上の自己抗体が陽性
経口ブドウ糖負荷試験で正常耐糖能
経口ブドウ糖負荷試験で耐糖能異常または1型糖尿病と診断されるまでの期間 プラセボ群との有意差なし

DENIS, The Deutsche Nicotinamide Intervention Study; DIPP, The Type 1 Diabetes Prediction and Prevention study; DPT-1, The Diabetes Prevention Trial of Type 1 Diabetes; ENDIT, European Nicotinamide Diabetes Intervention Trial; JDF, Juvenile Diabetes Foundation; TN-10, TrialNet 10.

1型糖尿病における免疫療法の将来展望

今回紹介した免疫療法では1型糖尿病の寛解や根治はみられておらず、β細胞保護効果も限定的なものが大半である。一方、1型糖尿病の発症予防についてはTeplizumabによる免疫療法がFDAの承認を得たが、あくまでも発症のタイミングを2年程度遅らせる効果を期待したものであり、現状、免疫療法の有用性は十分とは言いがたい。いずれの免疫療法も被験者の適切な選定や投与法に関するプロトコールの見直しなど、更なる改良や工夫を要するものと思われる。一方、少なくとも1型糖尿病の寛解や根治には免疫療法による免疫寛容の誘導だけでは不十分であり、β細胞の再生療法やβ細胞保護効果が期待される薬物療法との併用療法を考慮すべきであろう。現在、2型糖尿病に対して使用されているGLP-1受容体作動薬は、β細胞の再生やアポトーシス抑制、β細胞保護効果などが期待されていること105)、また、緩徐進行1型糖尿病(probable)患者ではsitagliptinのβ細胞保護効果が報告されていることから106)、先に示した抗IL-21抗体療法との併用療法77)に代表されるように、インクレチン関連薬と免疫療法との併用によるより効果的な1型糖尿病の寛解に期待したい。一方、わが国では1型糖尿病患者を対象とした免疫療法の臨床研究が全く行われていないのが実状である。将来的には日本人を対象とした免疫療法の臨床試験を実施し、わが国においても1型糖尿病の寛解や根治を目指した免疫療法の確立を本気で目指していく必要があると思われる。

著者の COI(conflicts of interest)開示

及川 洋一:なし、島田 朗:なし。

参考文献
 
© 2024 日本先進糖尿病治療研究会
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