抄録
本研究の第I部で定義した踵骨の距骨関節面にみられる形態変異の5型分類を,前・中関節面が連続する型(Continuous/Demarcated Type)と分離する型(Separate Type)に分類し直して,それぞれの出現頻度を,縄文人,弥生人,北海道アイヌ,現代日本人で比較した。その結果,1)現代日本人におけるSeparate Typeの出現頻度は35%~40%程度で,地域差はみられなかった;2)縄文人全体におけるSeparate Typeの出現頻度は28.4%であったが,著しい地域差がみられ,北海道・東北で低く(18.1%),関東以西で高率であった(33.1%~37.6%);3)Separate Typeの出現頻度は北海道アイヌと北海道・東北縄文人の間に有意差はなく,弥生人,現代日本人と西日本縄文人の間にも有意差はなかった。このような所見から判断すると,踵骨の距骨関節面にみられる形態変異は,遺伝的背景の濃い“形態小変異”のひとつとみなされるよりも,生業の違いによってもたらされる足の機能的多様性に強く影響された形質であると考えられるべきであろう。