日本における古病理学研究の歴史は130年以上遡り,最古の研究成果はアイヌの骨に見られる梅毒による骨の変化に焦点を当てたものである(Koganei, 1894)。日本の古病理学研究史におけるこの黎明期(1890年代から1920年代)は,「古病理学」という用語の導入と,「石器時代」(ほぼ縄文時代に相当;紀元前14,000年~紀元前300年)の人骨に比較的高頻度に見られる外傷,良性骨腫,変形性関節症などの病変の記述によって特徴づけられる。
第二次世界大戦後の1950年代から1960年代にかけて,日本の古病理学は再び日本人の成立と疾病の関わり,なかでも外傷に関する研究が進展した。特に西暦1世紀初頭の縄文時代から弥生時代への移行期において,大陸からの渡来人によってもたらされた金属器の導入と稲作の普及そして人口集中などの新たな社会構造が移行するなかにあって,単に身体的形質の変容のみならず,古病理学的観点からも,金属器による戦闘外傷に関する研究などが進んだ。
1970年代以降,古病理学研究は大きく発展を遂げ,特有の骨侵襲をもたらす悪性骨腫瘍や感染症(特に結核,梅毒,ハンセン病),先天性疾患,加齢に伴う退行性骨関節疾患(変形性関節症),そして特有の生態環境や生活習慣に起因するストレスマーカなど,幅広い病態にまで及ぶようになった。研究対象となる疾病の特性や対象とする骨格集団の規模,骨格の数が増えるにつれ,研究は症例報告にとどまらず,異なる時代や地域の骨格母集団を対象として疫学的な分析研究へと拡大し,日本列島における時代や地域における集団の健康問題や疾病流行の特徴が解明され始め,2000年以降のより多面的な研究の進展につながっている。
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