抄録
牡丹平遺跡は阿武隈山系に位置し, 1977年に1個体分の人骨を納めた弥生前期の壺形土器を出土した。本例はほぼ全身の部位を遺す弥生時代成年人骨として東北地方で唯一である。性別は中橋(1988)の保存不良骨の性判定法と四肢骨に基づく正準判別分析から, 女性と判断される。四肢骨の断面形態は縄文人的で, 骨幹部計測値から縄文人と渡来系弥生人の各男女4集団間で正準判別分析を実施したところ, 高的中率で縄文人女性に判別された。この結果の要因は不明だが, 渡来系集団が本個体の形質に影響を与えた可能性は小さい。なお壺棺再葬や壼形条痕紋土器, 下顎の全切歯•犬歯の抜歯という文化要素は東北地方由来のものでなく, その出自に関心が持たれる。