要旨 : 加齢において認知機能が保たれる機序を理解し, 認知症の発症プロセスや進展様式を考える上で, 脳のネットワークの空間的な関係や形状を可視化し, ネットワークの持つ可塑性や抵抗性を理解することは重要である。特に, 多種感覚統合ネットワークやデフォルトモードネットワークを中心とする脳のハブ領域は, 加齢において良く保たれるとともに, 様々な代償において重要な働きを示す。一方, アルツハイマー病をはじめとする神経変性性認知症では, このハブ領域が病変の好発部位となる。我々の研究結果は, 聴覚, 視覚, 運動感覚など一次情報処理関連ネットワークの破綻が, それらの上位に位置する多種感覚統合ネットワークの過活動を引き起こし, 認知症の原因となる病的タンパク質の蓄積を引き起こしている可能性を示唆している。中年期における聴力低下が, 長いプロセスを経て認知症を引き起こすプロセスを推定する上でも有用であると考えている。