データ分析の理論と応用
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論文
多層クラスター分析
—ソフトドリンク間のブランドスイッチングの分析—
岡太 彬訓横山 暁
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2015 年 4 巻 1 号 p. 3-15

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要 旨

多層クラスター分析法は,あらかじめ想定しておいた複数の層からなる階層クラスター構造のクラスターに対象を所属させるクラスター分析法である.本稿では,実データの分析を通じて多層クラスター分析法を評価する.すなわち,多層クラスター分析法を用いて,8つのソフトドリンクについて,消費者が購入したブランド(銘柄)の変更を表すブランドスイッチングデータを分析する.分析で得られた結果は2つのグループの差,すなわち,第1のグループはダイエットでないコーラ味のブランドであるCokeとPepsiという2つのブランド,第2のグループはそれ以外のブランド(全てのダイエットブランドとダイエットでないレモンライム味のブランド)が消費者のブランドスイッチングにおいて最も重要であることを明らかにした.これは,2つのグループの差異を強調したマーケティング戦略が必要であることを示唆しており,多層クラスター分析法がブランドスイッチング行列という実際のデータを分析する上で有用であることを示している.ブランドスイッチング行列を多層クラスター分析法により分析した場合には,非対称多次元尺度構成法や非対称クラスター分析法により分析した場合のように,ブランドスイッチングの非対称関係を直接表現することはできない.一方,多層クラスター分析法による分析は,ブランドスイッチング元のブランド違いに基づいたブランドスイッチング先のブランド間の関係を表現することができる.これは,商品陳列などに有用な情報をもたらすと考えられる.

1. はじめに

本研究ではソフトドリンクのブランド間に生じたブランドスイッチング行列を多層クラスター分析法(Okada&Yokoyama, 2011, 2013; 岡太・横山, 2010, 2013) により分析することにより.実際のデータへの適用を通じて多層クラスター分析法を評価する.ブランドスイッチング行列は,あるブランド(ブランドスイッチング元)が購入された後に,同じカテゴリーの商品のどのブランド(ブランドスイッチング先)が購入されたのかを表す行列である.ある消費者の集団における,行の対応するブランド(ブランドスイッチング元)から列の対応するブランド(ブランドスイッチング先)へのブランド変更(同一のブランドの場合もある)の頻度あるいは比率を要素にもつ行列である.なお,ブランドスイッチング行列は,これ以外の方法で導出することもできる.例えば,ある期間に最も多く購入されたブランドと,次の期間に最も多く購入されたブランドの間の変化をブランドスイッチング行列として表すこともできる(Okada&Tsurumi, 2014).

多層クラスター分析法では事前に多層クラスター構造を想定しておき(図1 を参照),その多層クラスター構造に対して,すなわち,全ての層におけるクラスターに対して同時に全てのブランドを所属させる(Okada&Yokoyama, 2013).したがって,結果として得られる樹状図は,ブランドのもつどの属性が消費者のブランドスイッチングにおいて重要であるのかということを明らかにすることができる(Arabie&Hubert, 1994; Wind, 1982).これにより,例えば,ブランドの味が重要なのか,あるいは,製造会社が重要なのかということを把握することができる.

このように,多層クラスター分析法は階層クラスター構造を事前に想定しており,クラスター構造に外部から制約を設けているという意味で制約付クラスター分析法(Basu, Davidson, & Wagstaff, 2009; Everitt, Landau, Leese,&Stahl, 2011; Gordon, 1996, 1999; Murtagh, 1985)と考えることができる.従来の制約付クラスター分析法は対象間の類似度にさまざまな条件を課して制約を設けたり,クラスターに所属する対象の数に制約を設けている(足立, 2011) が,これらは樹状図に対して制約を設けるものではない.本研究で用いる多層クラスター分析法は樹状図に対して制約を設けている.すなわち,事前に多層クラスター構造を想定し,想定した多層クラスター構造に最も良く適合するように多層クラスター構造の各層でクラスターのどれか1 つにブランドを所属させる.したがって,多次元尺度構成法において布置を類似度だけから求めるのではなく,布置の一部を事前に与える外部分析(Carroll&Chang, 1970; 岡太・今泉, 1994, p. 58)と同様に,多層クラスター分析法はクラスター構造を類似度などだけから求めるのではなく分析前に外部からクラスター構造の一部を与えた階層クラスター分析法であり,その意味ではクラスター分析における外部分析法と考えることもできる(Okada&Yokoyama, 2013).

2. 方法

多層クラスター分析法の方法については,すでに詳らかにされており(Okada&Yokoyama,2013),本稿ではその要点だけを述べる.図1 は事前に想定する多層クラスター構造の一例である.層0 では全てのブランドが1 つのクラスターに所属している.層1 では,層0 で全てのブランドが所属していたクラスターが2 つのクラスターに分かれている.階層クラスター分析法で得られる樹状図と異なり,層1 での2 つのクラスター(クラスターA とB)は,どちらか一方が他のクラスターよりも早くクラスターを構成する(あるいはクラスターを構成する際の類似度が大きい)というわけではない.層1 の2 つのクラスターはそれぞれが層2 の2 つのクラスターに分かれている.層2 の4 つのクラスター(クラスターA1 とA2,および,B1 とB2)も,どれか1 つのクラスターが他のクラスタよりも早くクラスターを構成する(あるいはクラスターを構成する際の類似度が大きい)というわけではない.したがって,多層クラスター構造は,階層クラスター構造と類似してはいるが,階層クラスター分析で得られる階層構造とはやや異なっている.多層クラスター構造は,動植物の分類における綱,目,科,属,種などからなる階層構造と類似している(Gordon, 1999; Mirkin, 1996).

多層クラスター分析法は2 相2 元データ,例えばブランド(対象)× 属性からなるデータ,を分析する方法である.ブランドj の属性t の値をxjt とする.層n におけるクラスターm に所属す4るブランドの属性t の値の平均をとする.層n の不適合度SSWn

とする.ただし

であり,Mn は層n におけるクラスターの個数,Jn(m) は層n におけるクラスターm に所属するブランドの個数,P は属性の個数である.全ての層についてのSSWn の和

を最小化するように全てのブランドを層毎に各クラスターへ所属させる.ただし,N は層の個数である(層0 を含む).

図1 多層クラスターの例

層が3 つの場合(層0, 1, 2)の場合について具体的な手順の概略を以下に示す.

(1) 層1 の各クラスターについて中心ブランドをランダムに選び,中心ブランドに選ばれなかったブランドを最も距離(ユークリッド距離)が小さい中心ブランドのクラスターに所属させる.

(2) 層2 のクラスターの中心ブランドを,各クラスターが所属する層1 のクラスターに所属しているブランドからランダムに選び,中心ブランド以外のブランドを最も距離(ユークリッド距離)が小さい中心ブランドのクラスターに所属させる.この場合,あるブランドが層1 で所属しているクラスターに所属していない層2 のクラスターに所属することも可能である.

(3) 層1 の各クラスターに所属するブランドの重心を求め,各ブランドを重心から最も距離(ユークリッド距離)が小さいクラスターに所属させる.

(4) 層1 の各クラスターに所属する層2 のクラスターに所属するブランドの重心を求め,各ブランドを重心から最も距離(ユークリッド距離)が小さいクラスターに所属させる.ここでも,あるブランドが層1 で所属しているクラスターに所属していない層2 のクラスターに所属することが可能である.

(5) 上記(3) と(4) をブランドのクラスターへの所属が安定するまで反復する.

(6) 上記(1) から(5) を,(1) と(2) の中心ブランドをランダムに何種類か選んで繰り返し,得られた結果からSSW が最小な結果を解とする(1,000 回程度の繰り返しを行う).

3. データ

本研究で分析するデータは,表1 に示す8 つのソフトドリンクの間のブランドスイッチング行列である(DeSarbo&De Soete, 1984, p. 602, Table).データは280 名の被験者から3 週間にわたって収集された(Bass, Pessemier,&Lehman, 1972).表1 には,ブランド名と各ブランドについて,味,ダイエットかどうか,製造会社という3 つの属性,および,各属性のとる2 つの値が示されている.8 つのブランドの間のブランドスイッチング行列は8×8 の正方行列で表される.

表1 ソフトドリンクの8 つのブランドと3 つの属性とその値

DeSarbo and De Soete (1984) のブランドスイッチング行列は,行に対応するt 期のブランドから列に対応するt+1 期のブランドへのブランドスイッチングの比率を示している.すなわち,このブランドスイッチング行列の(j, k) 要素は,t 期に購入されたブランドj の内で,t + 1 期にブランドk を購入した頻度の比率(各行の和は1 である)である.行も列も同じ8 つのソフトドリンクのブランドに対応しており,ブランドスイッチング行列は単相2 元データである.ブランドスイッチング行列は,単相2 元データを分析するための多次元尺度構成法あるいはクラスター分析法により分析することができる.このような分析では,ブランドスイッチング元からブランドスイッチング先へのブランドスイッチングの頻度や比率(類似度)が,多次元布置における点間距離や樹状図における距離により表現される.しかし,ブランドスイッチング行列は一般的には非対称であり,通常のすなわち対称な関係を扱うための多次元尺度構成法あるいはクラスター分析法を用いたのではブランドスイッチング行列の非対称な関係を明らかにすることはできない.

前節で述べたように,多層クラスター分析法は2 相2 元データを分析するための方法である.ブランドスイッチング行列を2 相2 元データと考え,t + 1 期のブランドを対象としt 期のブランドを属性として2 相2 元データを分析するための方法を適用すれば,t 期のブランドからt+1期のブランドへのブランドスイッチングにもとづいて,t + 1 期のブランド間の関係を明らかにすることができる.本研究では多層クラスター分析法を用いて.DeSarbo and De Soete (1984)のブランドスイッチング行列を2 相2 元データとして分析した.このような分析により,ブランドスイッチング元の違いに基づくブランドスイッチング先の関係が多層クラスター構造により表現される.ブランドスイッチング行列を単相2 元データとして,非対称多次元尺度構成法や非対称クラスター分析法によって分析した場合には,ブランドスイッチングの非対称関係を明らかにすることができるが,ブランドスイッチング先のブランド間の関係を直接表現することはできない.一方,ブランドスイッチング行列を2 相2 元データとして多層クラスター分析法によって分析した場合には,ブランドスイッチングの非対称関係は直接的には明らかにされないが,ブランドスイッチング先のブランド間の関係がブランドスイッチング元の違いに基づいて表現される.

4. 分析と結果

層1 に2 つのクラスターを考え,それぞれのクラスターが層2 の2 つのクラスターから構成される多層クラスター構造を想定した(岡太・横山, 2013).この多層クラスター構造は図1 に示されている.このような多層クラスター構造を想定した理由は以下の通りである.表1 が示すように,8 つのブランドは,味,ダイエットかどうか,製造会社という3 つの属性を備えている.3 つの属性はいずれも2 つの値をとる.したがって,多層クラスター構造の各層が属性に対応するとすれば,層1 の2 つのクラスターを層1 が対応する属性のもつ2 つの値に対応させることができる.層2 は,層1 の2 つのクラスターの各々が2 つに分割された4 つのクラスターからなる.層1 で同じクラスターが分割されて得られた層2 の2 つのクラスターを層2 に対応する属性のもつ2 つの値に対応させることができる.多層クラスター構造により層1 に対応する属性と層2 に対応する属性の階層的関係が樹状図により表現されると考えられる.そして,表1 の8 つのソフトドリンクのブランド間のブランドスイッチングにおいて重要である2 つの属性が2 つの層に対応すると考えられるのである(2 つの層に対応しない第3 の属性は,他の2 つの属性と比較してブランドスイッチングにおける重要性が低いと考えられる).

多層クラスター分析で得られた樹状図を図2 に示す.層2 では,Tab,Like,Diet Pepsi,および,Fresca という4 つのダイエットのブランドが1 つのクラスターにまとまり,7-Up とSpriteという2 つの非ダイエットでレモンライム味のブランドが1 つのクラスターにまとまっている.一方,非ダイエットのコーラ味のブランドであるCoke とPepsi はそれぞれ単独で1 つのクラスターを構成している.層1 では,全てのダイエットのブランドと非ダイエットでレモンライム味のブランドが1 つのクラスターを構成している.このクラスターは,全てのダイエットのブランドと全てのレモンライム味のブランドから構成されているということもできる.他方のクラスターは,Coke とPepsi から構成されている.

図2 ソフトドリンク8ブランドの多層クラスター分析で得られた樹状図

2 は,分析で得られた各層のSSWn と各クラスターのSSWn(m) である.したがって,図2に示す分析結果のSSW は層1 のSSW1 である0.532 と層2 のSSW2 である0.175 の和である0.706 である(0.707 でないのは丸めの誤差である).層1 のSSW1 = 0.532 の内で,クラスターA のSSW1(A) は0.188 であり,クラスターB のSSW1(B) は0.344 である.これには,層1 のクラスターA とクラスターB を構成するブランドの同質性すなわちブランドスイッチングにおける近さ(ブランドスイッチングの起きやすさ)の大小とクラスターを構成するブランドの数が反映されている.すなわち,クラスターA を構成するCoke とPepsi という2 つのブランドは,非ダイエットでコーラ味のブランドであり,製造会社だけが異なっており比較的共通性が高い.一方,クラスターB を構成する6 つのブランドは,味(コーラ/レモンライム),ダイエットかどうか(ダイエット/非ダイエット),また,製造会社(コカコーラ/ペプシ)において異なる6 つのブランドであり比較的共通性が低い.

表2 層1 と層2 のSSWn とSSWn(m)

層2 のSSW2 = 0.175 の内で,クラスターA1 とクラスターA2 はそれぞれCoke およびPepsiという1 つだけのブランドからなりSSW2(A1)SSW2(A2) は0.000 である.これはCoke およびPepsi が他のブランドとブランドスイッチングが起きにくいこと,また,Coke とPepsi の間のブランドスイッチングは,分析した8 つのブランドの間で最もブランドスイッチングが起きにくいことを示している.クラスターB1 のSSW2(B1) とクラスターB2 のSSW2(B2) は0.085 と0.090 である.クラスターB1 とクラスターB2 はそれぞれ2 つのブランドと4 つのブランドから構成されており,クラスターB1 を構成する2 つのブランドは非ダイエットのレモンライム味であり製造会社だけが異なっている.クラスターB2 を構成する4 つのブランドは全てダイエットのブランドであるが,味と製造会社は異なっている.SSW2(B1)SSW2(B2) を比較すると,SSW2(B1) の方が僅かに小さいが,クラスターB1 は2 つのブランドから構成されており,クラスターB2 が4 つのブランドから構成されていることを考えると,クラスターB2 を構成する4つのダイエットのブランドは,味(コーラ/レモンライム)の違いや製造会社(コカコーラ/ペプシ)の違いに拘らずブランドスイッチングにおいては同質性が高い(ブランドスイッチングが起きやすい)といえる.層2 では,非ダイエットの4 つのブランドは3 つのクラスター(クラスターA1,A2,B1)に分かれて所属しており,この点からも非ダイエットのブランドはダイエットのブランドよりも同質性が低い(ブランドスイッチングが起きにくい)ことがわかる.

5. 検討

ソフトドリンクの8 つのブランドの間のブランドスイッチングを多層クラスター分析した.多層クラスター分析で得られた図2 の樹状図から,「Coke およびPepsi」と「それ以外のブランド」の違い,あるいは,「非ダイエットでコーラ味のブランド」と「レモンライム味およびダイエットのブランド」の違いが,消費者にとってブランドスイッチングで最も重要な働きをしていることがわかる.これは,マーケティング戦略において「Coke およびPepsi」と「それ以外のブランド」の間の違いに基づいた方策をとることが重要であることを示唆している.Coke とPepsi は,ブランドスイッチをしない(同一ブランドを続けて購入する)比率が最も大きい2 つのブランドであり(DeSarbo&De Soete, 1984),市場占有率が最大である2 つのブランドでもある(Bass et al.,1972).その意味では,これら2 つのブランドが他のブランドとは別のクラスターに所属しているということは当然であるともいえる.また,層2 のクラスターから,非ダイエットのブランドではレモンライム味,Coke,および,Pepsi の違いがブランドスイッチングで大きな意味をもつことがわかる.さらに,製造会社であるコカコーラ社とペプシ社の違いについては,層2 でCokeとPepsi が別個のクラスターを構成しているが,それ以外のクラスターでは両者のブランドが同時に含まれており,製造会社の違いは多層クラスター構造においては大きくは反映されていない.したがって,Coke とPepsi の間以外では製造会社がブランドスイッチングに与える影響は小さいと考えられる.Coke とPepsi が単独でクラスターを構成していることは,両者ともに他ブランドとブランドスイッチングが起きにくいことを示している.

分析前に想定した図1 の多層クラスター構造を用いた分析では,味,ダイエットかどうか,また,製造会社という3 つの属性の中の2 つの属性が2 つの層に対応し,3 つの属性の中からブランドスイッチングで重要な働きをする2 つの属性が明らかになることを期待した.実際に分析で得られた多層クラスター構造(図2)はこれらの属性そのものの重要性を直接明らかにするものではなかったが,ブランドスイッチングにおいて,「Coke およびPepsi」と「それ以外のブランド」の間の違いがブランドスイッチングで重要であること,また,ダイエットのブランドの同質性の高さ,非ダイエットのブランドの同質性の低さなどを示した.

分析ではダイエットのブランドの同質性の高さが明らかになった.層1 で同じクラスターに所属していたCoke とPepsi は,層2 ではそれぞれだけのブランド1 つからなるクラスターを構成し,層1 でCoke とPepsi 以外の6 つのブランドがもう1 つのクラスターを構成し,このクラスターは層2 においては非ダイエットでレモンライム味の2 つのブランド(7-Up とSprite)からなるクラスターおよび4 つのダイエットのブランドからなるクラスターを構成した.ここで,非ダイエットのブランドの同質性を,7-Up とSprite の同質性と比較するため,層1 が2 つのクラスターからなり,層2 では層1 の2 つのクラスターが,それぞれ2 つのクラスターと3 つのクラスターに分かれる多層構造を想定して分析した.層1 でCoke とPepsi 以外の6 つのブランドが1つのクラスターを構成し,このクラスターが,層2 で3 つのクラスターに分割されると考えた時に,ダイエットの4 つのブランドが,味あるいは製造会社により2 つのクラスターを構成するのか,あるいは,これら4 つのブランドが図2 と同様に1 つのクラスターを構成するのかを確かめることができる.これにより,ダイエットの4 つのブランドの同質性が,非ダイエットでレモンライム味の2 つのブランド(7-Up とSprite)の同質性よりも高いのかあるいは低いのかということが明らかになる.

図3 層1が2つのクラスターで層2 で各クラスターが2 つと3 つのクラスターに分かれる多層クラスター構造を用いた分析で得られた樹状図

3 は,層1 が2 つのクラスターからなり,各クラスターが層2 で2 つのクラスターと3 つのクラスターに分かれる多層クラスター構造を想定して分析した結果である(SSW = 0.600).図3 と図2(層1 の2 つクラスターの各々が層2 で2 つのクラスターに分かれる多層クラスター構造を用いた多層クラスター分析で得られた樹状図)の違いは以下の通りである.7-Up が層1 ではCoke およびPepsi (コーラ味の非ダイエットのブランド)と同じクラスター(左側のクラスター)を構成しており,このクラスターを構成している3 つのブランドは層2 でそれぞれのブランド1 つだけからなる3 つのクラスターに分かれる.また,図3 の層1 のもう1 つのクラスター(右側のクラスター)は図2 の対応するクラスター同様にダイエットの全ブランドを含んでいるが,7-Upは含まれていない.このクラスターを構成しているブランドは,層2 では全てのダイエットのブランドからなるクラスターとSprite だけからなるクラスターに分かれる.前者は図2 の層2 の右端のクラスターと同一であるが,後者は図2 の層2 の右から2 番目のクラスターと異なっている(Sprite だけからなり7-Up を含まない).この分析においても,Coke およびPepsi は他のブランドとブランドスイッチングが起きにくいことを示している.図2 の層2 で同じクラスターに含まれていた4 つのダイエットのブランドは,図3 の層2 でも同じクラスターに含まれており,レモンライム味で非ダイエットのブランドである7-Up とSprite は層1 においてすでに別個のクラスターに含まれている.このことから,4 つのダイエットのブランドの同質性は,レモンライム味で非ダイエットのブランドの同質性よりも高いということができる.

本研究で分析したデータは多くの場合単相2 元データとして分析されているが,De Sarbo andDe Soete (1984) は同じデータを本研究同様に2 相2 元データとして扱い2 相クラスター分析法により分析した.得られた樹状図(DeSarbo and De Soete, 1984, Figure H) は,図2 と同様にダイエットであるかどうかということがブランドスイッチングで最も重要であることを示しているが,ダイエットのブランド間の同質性が非ダイエットのブランドに比べて高いことは示されていない(cf. Takeuchi, Saito,&Yadohisa, 2007).本分析で得られた結果は,同じブランドスイッチング行列を非対称多次元尺度構成法で分析した結果(Okada, 2013) が表す内容を含んでいる.すなわち,次元2 (Okada, 2013, Figure 2) においてCoke が他ブランドとブランドスイッチングが少ないこと,次元4 (Okada, 2013, Figure 4) においてPepsi が他ブランドとブランドスイッチングが少ないことを表している(図2 の樹状図の層2 の左側の2 つのクラスターと同様な意味を表している),また,次元2 (Okada, 2013, Figure 2) では,全ての非ダイエットブランドとSprite が同一の象限にあり,7-Up も同じ象限ではないもののこれらと極めて近くに位置しており,図2 の樹状図の層1 の右側のクラスターと同様な意味を表している.Okada (2013) では,ブランドスイッチング元のブランドからブランドスイッチング先のブランドへの非対称な関係が表現されているが,図2 が表すような階層的関係はわからない.これに対して,多層クラスター分析は,非対称多次元尺度構成法や非対称クラスター分析法のように,ブランドスイッチングにおける非対称性を直接表現してはいないが,ブランドスイッチング先であるブランド間の関係をブランドスイッチング元のブランドに基づいて明らかにしている.したがって,多層クラスター分析で同じクラスターに含まれているブランドはブランドスイッチング元が類似したブランドである.後述するように,これは商品陳列の改善などに役立てることができる.

DeSarbo and De Soete (1984) は同じデータの上三角部分,下三角部分,および,上三角部分と下三角部分を平均して階層クラスター分析(平均法)した.得られた樹状図は(Figure A,FigureB,および,Figures C),下三角部分の分析(Figure B)以外はダイエットのブランドと非ダイエットのブランドの違いがブランドスイッチングで最も重要であることを示し,上三角部分,および,上三角部分と下三角部分の平均を分析した結果(Figure AとFigure C)においては,Coke とPepsiの間のブランドスイッチングは,分析した8 つのブランドの間で最もブランドスイッチングが起きにくいことを示している.しかし,対称でないブランドスイッチング行列の上三角部分,下三角部分,あるいは両者の平均を分析するということは,ブランドスイッチングにおける非対称性を無視して分析することになり,得られた樹状図にはブランド間の非対称な関係は表現されていない.

多層クラスター分析により消費者のブランドスイッチングに大きな影響を与える属性が明らかになるため,商品の陳列を考える際にブランドスイッチングが生じやすいブランドを近くに配置して,消費者が売場であまり移動しないで複数のブランドを比較することができるように商品陳列を行うなど分析結果を役立てることが考えられる(Okada&Imaizumi, 2003).本研究の分析結果であれば,ダイエットの全てのブランドを近い棚に配置し,Coke とPepsi はそれぞれ離れた,また,ダイエットのブランドとも離れた棚に配置することができる.すなわち,本手法は棚割開発などのスペースが制約される条件下での商品陳列の改善などに活用されることが期待される.

6. 多層クラスター分析法の考察

ソフトドリンクのブランドスイッチング行列の分析を通じて,多層クラスター分析法を評価した.多層クラスター分析で得られた結果は,分析の対象である8 つのブランドのもつ3 つの属性である,味,ダイエットかどうか,製造会社について,属性そのもののブランドスイッチングでの重要性を明らかにするような多層クラスター構造は得られなかった.しかし,この分析により,「Coke とPepsi という2 つのブランド(非ダイエットのコーラ味)」と「全てのダイエットのブランドおよび非ダイエットでレモンライム味のブランド」との間の違いが,消費者のブランドスイッチングにおいて最も重要であることが明らかになった.すなわち,味(コーラ/レモンライム),ダイエットかどうか,製造会社(コカコーラ/ペプシ)というブランドの既知の属性そのもののブランドスイッチングにおける重要性を明らかにしたわけではないが,ブランドスイッチングにおける重要な特性を明らかにすることができた.したがって,多層クラスター分析法を利用する場合には,対象がもっている事前に明らかな属性だけに注目して多層クラスター構造を想定して分析するだけではなく,多層クラスター分析によって得られた結果に基づいて新たな多層クラスター構造を想定して分析し,ブランドスイッチングにおいて重要な特性を明らかにする必要がある.

前述のように,多層クラスター分析は2 相2 元データを分析するための方法である.本来は単相2 元データであるブランドスイッチング行列を2 相2 元データとして扱い,多層クラスター分析法により分析することは,非対称多次元構成法や非対称クラスター分析法で分析した場合のようにブランド間の非対称関係を直接的に表現することができないという短所をもつ反面,ブランドスイッチング先のブランドを対象として分析すれば,ブランドスイッチング元の違いに基づいたブランドスイッチング先のブランド間の関係を明らかにしたり,属性の間の階層的関係を明らかにすることができるという長所をもつ.本稿5 節の末尾で述べたように,棚割開発などへの利用を考えた場合には,ブランドスイッチング先のブランド間の関係を明らかにするため,ブランドスイッチング先のブランドを対象として(ブランドスイッチング元のブランドを属性として)分析する.一方,ブランドスイッチング元のブランドを対象として(ブランドスイッチング先のブランドを属性として)分析すれば,ブランドスイッチング先の違いに基づいたブランドスイッチング元の関係を明らかにすることができる.このような分析から得られたクラスターは,ブランドスイッチング先が類似したブランドから構成されており,同一のクラスターに所属するブランドの属性,および,それらのブランドスイッチング先となっているブランドの属性を明らかにすることで,特定のクラスターに所属するブランドのブランドスイッチングを防いだり,あるいは,特定のブランドへのブランドスイッチングを促進させるために利用することが考えられる.

ブランドスイッチングデータを単相2 元データとして分析した場合には,対角要素,すなわち,ブランドスイッチングをしない比率や頻度は通常無視され,分析では用いられない.一方,2 相2 元データとして分析した場合には対角要素は分析に含まれ,分析結果は対角要素を反映している.ただし,ブランドスイッチングデータを単相2 元データとして,非対称クラスター分析法によって分析した場合には,対角要素を樹状図に表現することもできる(岡太・岩本, 1995; Okada & Iwamoto, 1996; Takeuchi et al., 2007).

本研究では,層の数が3 つの多層クラスター構造を用いたが,Okada&Yokoyama (2013) で述べたように層が4 つ以上でも同じアルゴリズムが利用できる.多層クラスター分析法は,図1に示すように階層構造を想定している.層1 でクラスターA に所属する層2 のクラスターに所属するブランドは層1 でも必ずクラスターA に所属するという性質をもつ構造である.図2 と図3 に示す多層クラスター分析の結果もこのような階層構造をもっている.しかし,アルゴリズムには現在のところこのような制約を設けていない,そのため式(3) のSSW を最小化するクラスターが,このような階層構造の条件を満たさないことがあり得る.この場合,前述した具体的な手順の(5) で収束せず,特定のブランドが手順の(3) と(4) において,例えば,図1 の層1 ではクラスターA に所属していたのに,層2 ではクラスターB1 に所属するということになる.このような場合には,当初想定したブランドの階層構造を保ちなおかつ式(3) のSSW を最小化するように,そのブランドの層1 あるいは層2 でのクラスターへの所属を手作業で決定する.図2に示す樹状図は,このような手作業を経て求められた.SSW が最小になる結果は,7-Up が層1ではCoke およびPepsi と同じ左側のクラスターに所属し,層2 では図2 に示すようにSprite と同じクラスターに所属する.この場合,(a) 層1 で7-Up を右側のクラスターに所属させる,層1 の左側のクラスターに7-Up を所属させたままで,(b) 層2 でCoke とPepsi,および,7-Upからなる2 つのクラスターに分ける,(c) 層2 でCoke と7-Up,および,Pepsi からなる2 つのクラスターに分ける,(d) 層2 でPepsi と7-Up,および,Coke からなる2 つのクラスターに分けるという4 種類の多層クラスター構造を作ることができる.それぞれのSSW は,(a) 0.706,(b) 0.752,(c) 0.800,および,(d) 0.752 であり,SSW が最小である(a) を解とした.この点について方法を改善する必要性が大きい.なお,図3 ではこのような手作業は不要であり,多層クラスター分析により得られた樹状図は層1 と層2 の間で階層関係が満たされている.改善を要するもう1 つの点は,異なる多層クラスター構造の下で分析した際のSSW の評価である.例えば,図2 のSSW = 0.706 と図3 のSSW = 0.600 をどのように比較すればよいのかという基準がないため,値のもつ意味を評価することが難しい.分析前に注目した対象がもつ属性だけについて多層クラスター構造を想定して分析するだけであれば,これは大きな問題ではないが,それ以外の多層クラスター構造を想定して分析する場合にはSSW の比較が必要である.

謝 辞

本稿を執筆するにあたり,樹状図とブランドスイッチングでのprimary concern の関係,および,応用の可能性について横浜国立大学大学院准教授鶴見裕之氏からご助言を頂いた.ここに記して謝意を表す次第である.また,3 名の匿名の査読者からは有益なご助言を頂いたことにお礼を申し上げたい.

References
 
© 2015 日本分類学会
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