2016 Volume 50 Issue 1 Pages 63-83
本論文では,Les fantômes n'existent pas のような存在を否定する総称文における定冠詞の複数形について考察する.肯定文Les fantômes existent という文における定名詞句の複数形les fantômes によって「幽霊」という種の存在が前提とされているのだとすれば,その否定文であるLes fantômes n'existent pas においては存在前提をもつles fantômes の存在が否定されているという矛盾した意味になってしまう.このような場合において,「幽霊」の存在が否定されているにも拘らず,定名詞句の複数形が用いられるのは一体何故だろうか.本論文はその問いに答えることを通じ,定冠詞の指示する対象において,指示表出は述語の行為者項としての役割を担っていることを明らかにする.