抄録
日本栽培漁業協会百島実験地(広島県)のマダイ種苗生産池で,ハルパクチクス類群集の変動に関する研究を行った.調査は,1979年4~8月,1980年5~8月のマダイ種苗生産期に行った.両年のハルパクチクス類群集を比較すると,平均出現個体数は1979年(41.87±37.77個体/10cm2)の方が1980年(18.35±12.25個体/10cm2)よりも多かったが,種多様度(H'),均衡性指数(J')は,1979年(H'=1.30±0.64,J'=0.49±0.24)の方が1980年(H'=2.71±0.38,J'=0.84±0.07)よりも小さかった.両年の種組成の変化を比較すると,1979年は5月から6月中旬までAmonardia normani(BRADY)が多く,その後Longipedia sp.が増加した.8月には,Longipedia sp.は全個体数の80.1~88.5%を占めた.一方,1980年は優占種はなく,調査期間を通じて7種が均衡していた.また,両年のA. normaniとLongipedia sp.の体長頻度分布の変化を比較すると,1980年は両種とも小さなサイズと大きなサイズの個体は出現しなかった.これら両年の差異は,次の理由によると考えられる.池の海水は種苗生産が終わると排出され,池は干出される.そして,種苗生産開始前に地先海水が池に導入される.ハルパクチクス類群集は,池の干出によって破壊され,海水の導入に伴い新たな群集が形成される.このため,年により群集構造は異なることになる.また,マダイ種苗の収容数は,生産開始時で1980年(4937.5万匹)は1979年(549万匹)に比べて約10倍多かった.マダイ収容数の増加がハルパクチクス類への補食圧の増加を招き,ハルパクチクス類の減少と体長頻度分布の変化をもたらしたと考えられる.