2022 年 62 巻 1 号 p. 58-61
タンパク質複合体の動的な性質を理解するため,3次元グラフィックスソフトウェアを活用したモデリング手法を開発している.微小管で構成した人工筋肉の試料を共焦点顕微鏡で撮影した3次元像を解析し,微小管の円柱モデルのあてはめを試みた.得られた剛体モデルの物理演算を試行して動的な性質を考察した.

タンパク質の機能を構造に立脚して理解するためにメゾスケールの分子の形状モデルを計算機で扱う手法を開発している.多様なタンパク質の原子座標モデルが報告されているが,複数のタンパク質によって構成される巨大な超分子システムの構造を扱う場合には粗視化した形状のポリゴンモデルが便利である.Blenderはアニメーション機能の充実した汎用の3次元グラフィックス(3DCG)ソフトウェアで近年の汎用PCで利用可能なフリーソフトウェアである1).我々は分子人工筋肉の共焦点顕微鏡による3次元構造の解析のため,Blenderを活用したメゾスケールのモデリング手法を報告し2),構築したモデルをweb(GitHub)に公開した3).近年,運動タンパク質を用いて構成した収縮機能のある分子集合体が開発され,人工筋肉の素材として大きな期待がある.分子間相互作用を最適化してより大きな張力とその制御機能が研究されている中で,目的とする機能に効果的な構造のデザインを試行できる計算機モデルの活用を進めている.
北海道大学と関西大学で共同開発された人工筋肉4)は微小管に化学修飾によるDNAオリガミ構造を導入して結合することによってアスター状の構造を持つ様に調整されている.そして,ストレプトアビジンを用いて会合させたキネシン多量体が作用することによって収縮するネットワーク構造を構成させている(図1).

分子人工筋肉の概念図.文献4のVisual Abstractより引用.微小管のプラス端をDNA 修飾し(左図の赤)それに結合するDNA オリガミ構造体(左図の青)を混合させることで微小管のアスター構造(中央図)を自発的に形成する手法を開発した.微小管のプラス端に向かって移動するキネシンを多量体として構成し(左図の黄)ATPのエネルギーで引き寄せる.筋肉の様に収縮する(右図,スケールバー500 μm).
蛍光分子TAMRA-SE(tetramethylrhodamine succinimidyl ester, ThermoFischer Scientific)で標識したチューブリンを重合することでシード(核)となる微小管を作成した.さらに蛍光分子Alexa Flour® 488(ThermoFischer Scientific)で標識したチューブリンを重合することで,ジブロックタイプの微小管を得た.シードとなる微小管にはDNAオリガミと相互作用可能な相補的なDNAをクリック反応を利用してタグ付けした.作成したジブロック微小管とDNAオリガミを混合すると,DNAオリガミと相互作用したシード微小管(赤色)を中心としたアスター状の微小管構造体(周辺部は緑色)ができあがる.文献4では,キネシンと微小管でネットワーク状に構成された分子集合体がATPの化学エネルギーで収縮する実験を報告している.蛍光顕微鏡による観察で想定したネットワーク構造であることが確認されている.
そこで,共焦点顕微鏡を用いた高解像法で3次元像を取得し,分子人工筋肉のネットワーク構造モデルの構築を試みた.そして,どの様に収縮が起こるのかを理解するため,キネシン分子が微小管上を移動することによってネットワーク構造が収縮するモデルの構築を試みた.
目的の構造モデルを構築するにあたり,実際の微小管の構造を高解像度で実験的に取得できれば理想的である.解像度の高い3次元像データは分子の相互作用を確認し改良するのにも有益となる.我々は,共焦点顕微鏡(Nikon A1)を利用し,ピンホールを絞った画像を取得し,デコンボリューション処理をすることで超解像顕微鏡に近い分解能で観察した5).レーザ光(487.2 nm, 561.5 nm)で蛍光色素を励起し,60倍の対物レンズで共焦点のピンホールを絞って観察し(0.3 AU),3次元スタック画像を得た.Nis Element(Nikon社)でデコンボリューション処理(Nikon 3D Auto)して高解像度の画像を得た(解像度160 nm程度).
微小管の濃度を10 μMとしたサンプルの2次元像(図2)では,アスター構造の周りにさらに微小管が集積して,ほとんどは平行に重なることなく角度を持って接合しており,溶媒を多く含み全体として柔らかい状態にあると考えられた.導入したキネシン分子が微小管上をスライドして毛細構造が収縮するのに充分な空間的余裕が見られた.

分子人工筋肉となる微小管ネットワークのレーザ走査蛍光画像.直線状の微小管が網目状に重なった構造が観察された.微小管同士を結合させるDNAオリガミを有する部分が赤く観察された.
微小管濃度を100倍に希釈して網目構造の一部分に注目して3次元像を取得したものを図3に示した.設計したDNAオリガミによって微小管が接続されている部位も確認された.ブラウン運動により揺らいでおり,3次元像のデータ取得においては断層面の撮影に数十秒はかかってしまう.高速なレゾナントスキャンを利用しても,断層面像ごとに微小管が移動してずれたり像がぶれる場合もあった.

微小管ネットワークの3次元像.直線状の微小管が角度を持って重なっていた.高速撮影のためにノイズも多くなるが,デコンボリューションによる回復で微小管の立体的な配置が認識できた.白色の直方体枠の観測体積は35 × 35 × 14 μmである.
キネシンを作用させてネットワークが形成された後は比較的ブラウン運動が抑えられていた.幾つかの3次元像を取得し,その体積データをポリゴンデータ化し,3DCGソフトウェアBlenderを用いて円柱構造をあてはめることを試みた.微小管モデルの円柱の位置と場所はマウス操作で変更できる.
まず,ImageJ(v1.51n Fiji)を用いて3D ViewerからDisplay Surfaceを選択して等値表面ポリゴンを作成した.画素データは8bit/pixelにしておきthresholdを0-255の値で指定して密度の濃い領域とおおむね全体の体積を表す表面領域の2つを作成しexport STLで保存した.全体を半透明表示して重ねてBlenderで表示して微小管の円柱モデルをマウス操作による手作業であてはめた.
その結果,フィラメントの長さ約4 μmのものが多く,7.5 μm程度に長いものも観察されていた.図4における2つの集合体から約50本の微小管を推定したが,接合部位についてはDNAオリガミ含有部位である赤色蛍光が円柱状ではない塊であり,形状を把握することは難しかった.接合部位の形状は微小管の様な直線構造ではないため,デコンボリューションによって形状が回復される程の明瞭さは得られなかった.微小管の長さが4 μmではほとんど湾曲がなく直線状態と考えられた.接合部位では微小管の長さも考慮する必要があり,一致度を算出して合わせることはできず,目視による一致の確認に留まった.

微小管体積データのポリゴン表示および円柱の微小管モデルをあてはめた例.(上)3次元像は密度であるボクセル値の等値曲面をポリゴンデータとして表示した.茶色で示した密度の高い領域が主要な骨格部分となるが,青色で示した密度の低い領域で全体像に対応する.(下)円柱の微小管をあてはめた例.交差部分の詳細構造の解釈は難しいが,こうした円柱モデルで良く表現された.実際の微小管は直径50 nmで円柱の中心に描いた線に相当する.
観察された微小管ネットワークのモデルにおいてキネシン多量体によって微小管を引き寄せる動作がどの様になっているのかを確認することは発生する力の増強や収縮制御を改良するために欠かせない.実際にATPを添加して収縮する過程を時系列として観測することも今後の課題である.さらにキネシン多量体の場所を観測すれば今回構築した微小管のモデルに導入してキネシンの動作をシミュレーションすることも現実的になる.今回は静的な微小管ネットワーク構造モデルを元に動作の仮説を検証した.まず,キネシン頭部が微小管のスライディング動作を行える距離まで近接していると仮定して,反対側のキネシン頭部も同様な動作を与えた時の振舞いを調べてみた(図5).

モータタンパク質の動作による微小管の収縮動作の例.(左)2本の微小管がキネシン多量体の滑り運動によって引き寄せられる単位動作モデル.キネシン多量体が定速度で2つの微小管を矢印の様にスライドする動作を与えた.キネシン多量体は固定されていないので,微小管の向きを変える方向にも引っ張る.(右)さらに複数の微小管を連結させたアスターの部分構造を6個作成し色分けした.キネシン多量体3つを含む単位動作モデルを配置させて,人工筋肉と同様の構造で全体が収縮動作する様子を再現した例.
Blenderでは円柱やポリゴンで表現したモデルを剛体として物理演算機能により力を与えた際の動作をシミュレートすることができる.その計算手法は文献6等に紹介されている.円柱の配列で表現した微小管に対してキネシン分子による作用を導入し微小管を引っ張る力を与えてみた.しかしながら,2つの頭部が2つの微小管を引っ張るため,片方のキネシンの動作はもう1つのキネシンが微小管を引っ張るのを妨げる力になるため,2つの微小管同士を引き合う様に動作させることは難しかった.試行錯誤して得た動作モデルの例を図5(左)に示した.微小管の周囲の水による粘性を考慮すると軸方向の動き以外はある程度は抑えられている.そこで,キネシン頭部が微小管から離れない様な拘束条件(物理演算の設定で剛体コンストレイントpiston)を導入し,キネシンを動作させる力として速度一定になる力(剛体コンストレイントMotor)を付与し,微小管上を接触させながら動作させた.キネシンの拘束条件を過剰な力により解除可能にすれば図5(左)の動作は最終的に解離していく.
この様なキネシン多量体の動作モデルを素過程として微小管ネットワーク全体の収縮を説明することができた.実際には微小管に対して複数のキネシン多量体が様々な部位から相互作用するので微小管は向きを大きく変えずにキネシンから離れずに進むことも推測された.より正確なシミュレーションは今後の課題であり,キネシン1分子ステップ動作で発生する力やブラウン運動,溶媒の粘性等も考慮した計算も可能になると思われた.
観測された様なネットワーク構造では,微小管がお互いにある程度の角度をなして集合していることによって,微小管の長軸の向きに動きやすくなる様な緩い拘束となり,複数のキネシン頭部からの力で微小管同士のスライドが起こるであろうと考えている.この動作モデルの詳細は文献3のweb公開サイトから利用できる.
運動タンパク質を用いた人工筋肉の研究開発はさらに進んでいる.佐藤らは細胞を模した小胞にキネシン頭部を固定して小胞内の微小管をスライド動作させる系を報告した7).また新田らは複数のキネシンをフィラメント状に構成することで我々と類似のアスター構造の微小管を収縮させる高効率の系を報告した8).そうした研究を支援するために,運動タンパク質の動的な特性と動作の素過程を理解し,メゾスケールの超分子システムを再構築し運動を再現する動作シミュレーションが望まれている.その中では生物の骨格筋や平滑筋の構造に学ぶ人工筋肉の改良案も貴重であり,これまでにアクチンとミオシンによる力発生の分子間相互作用を確認するモデル構築も進めてweb公開している3).Blenderを活用すると複雑なプログラムを作成することなくグラフィカルユーザインターフェイス操作だけで動的なモデルを検証しファイルを共有して改良ができる.図5のキネシンの概形ポリゴンモデルは,原子モデル表示ソフトウェアUCSF Chimeraを用いてPDBデータベースより取得した構造からポリゴンモデルを作成してBlenderで利用した(multiscale modelのメニューから作成しSTLあるいは多色のX3Dでexport).そうした原子モデルから機能を理解するアニメーション構築手法の開拓も進めている9).近年特に機能向上した3DCGソフトウェア技術を活用した生物物理学の研究手法を共有し生命機能の理解にも繋げたいと考えている.
本研究は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究の結果得られたものである.
上野 豊(うえの ゆたか)
産業技術総合研究所主任研究員
松田健人(まつだ けんと)
北海道大学大学院総合化学院総合化学専攻物質化学研究室
加藤 薫(かとう かおる)
産業技術総合研究所主任研究員
角五 彰(かくご あきら)
北海道大学大学院理学研究院化学部門 物質化学研究室准教授
葛谷明紀(くずや あきのり)
関西大学化学生命工学部知能分子学研究室教授
小長谷明彦(こながや あきひこ)
東京工業大学情報理工学院名誉教授