生物物理
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支部だより
支部だより
~北海道支部活動~
相沢 智康
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2022 年 62 巻 1 号 p. 71-72

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はじめに

2020年初春からのコロナ禍は,少なくとも本稿を書いている時点では未だ収束への出口が見えない状態が続いており,北海道地区の学会員の教育・研究活動にも大きな影響を与え続けています.研究活動や交流の制限は,研究室や大学から国内外まで,多岐にわたっており,無論その大半が深刻な問題となっています.しかしながら,他の様々な分野と同様,我々の教育・研究の中でもこの危機的な状況を乗り越えるための新たな取組も多数生まれ,DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています.

今回の支部だよりでは,私が所属する北海道大学の活動を中心として,北海道支部が体験しているコロナとの格闘と新たな息吹について述べさせていただきたいと思います.

生物物理学会北海道支部-東北支部合同例会

北海道支部の最も大きな活動の一つであり長年にわたり継続されてきた北海道支部例会ですが,旭川医科大学を会場に2020年3月に開催予定だった2019年度の例会はコロナ禍のため残念ながら中止になりました.2020年の第58回の日本生物物理学会年会の群馬開催もオンラインに代わり,北海道支部例会も現実的な選択としてオンライン開催で準備を進めることになりました.

このような状況の中,むしろこれをチャンスとして活かす試みとして,北海道支部長の芳賀 永先生,東北支部長の田中 良和先生の発案で,北海道と東北のオンライン合同例会が2021年の3月18日に開催されました.北海道地区からは11題,東北地区からは13題の口頭発表があり,東北大学多元物質科学研究所の南後恵理子先生の特別講演「高速分子動画法のこれまでとこれから」にも多くの参加者が集まりました.夕方からはRemoを用いたオンライン懇親会も実施され,例会全体の参加登録者は計119名にもなりました.

また,優秀な学生の発表に授与される「優秀発表賞」が以下の方々に送られました.

・福島 悠朔(東北大)「深層学習の視点に基づいたタンパク質水和分布法の高度化」

・志賀 翔多(山形大)「Design of metal ion-induced domain swapped dimers」

・伴野 詢太(東北大)「クライオ電子顕微鏡単粒子解析を用いたアミノ配糖体抗菌薬の新規作用機序の探索」

・北 智輝(東北大)「病気の回復に重要な分子モーターKIF1Aの運動性の1分子ナノ計測」

・木本 円花(北大)「麻疹ウイルスVタンパク質によるType I IFN経路阻害機構の解明」

・南 未来(北大)「狂犬病ウイルスのPタンパク質によるJAK-STATシグナル伝達経路阻害機構の解明」

このように離れた支部同士が連携した行事を,経費の問題を最小限に抑えつつ実行できることが,オンライン化の強みであることは間違いありません.対面でのディスカッションや交流の重要さは今後も変わることは無いと思いますが,予算の限られた支部の活動においては,オンライン化の促進で,国内外問わず広く連携した講演会やセミナー等を開催することができるようになると期待されます.

北海道大学の機器共用の促進とオンライン化

現在,文部科学省の進める「研究機器の共用促進」が大きく注目されています.大型放射光施設「Spring-8」やスーパーコンピューター「富岳」などは,一つの大学や研究機関で整備可能な規模ではないため,従来から「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に基づき,集中的にその共用環境の整備が進められてきました.世界最先端の大型研究施設等の共用は,産学官の研究開発を支える重要な基盤となっています.このような背景から,さらに大学や研究機関が保有する先端研究設備についても,産業界をはじめとする幅広い研究者への共用を促進することで,研究開発投資効果を向上させ,科学技術イノベーションや日本企業の産業競争力の強化につなげていくという狙いで,これらの共用を促進する事業が展開されています.2009年には文部科学省の「先端研究施設共用促進事業」により,個別の機関が保有する設備を利用時間(マシンタイム)を確保し,有償等で外部に提供する取組への支援が開始されました.

私の所属する北海道大学は,こういった国の取組に先立ち,先駆的な機器共用事業を展開してきました.2005年には「オープンファシリティシステム」という機器共用の仕組を立ち上げ,学内のみならず学外の研究機関や民間企業への機器共用を開始しました.この仕組の特徴的な点は,機器分析センター等に集約した装置だけでなく,各研究室の研究者が供出した個々の装置の共用が可能な点です.装置利用者からの機器の予約,利用料金体系の確立や収納といった,研究者にとって手続き等が煩雑な部分は,システムが集約して行います.装置供出者には利用料金が配分され,装置の維持管理等に充当することを可能としています.現在は200台を超える機器が登録され,年間利用時間は延べ約120,000時間,そのうち学外利用が8,000時間を超えるシステムへと成長しています.このような北海道大学の取組は,全国的にも機器共用のモデルとして注目され,先に述べた文部科学省の「先端研究施設共用促進事業」だけでなく,機器共用を進める全国の大学,機関を連携させ,ワンストップ化や技術・人材交流を促進させることを目的とした「共用プラットフォーム形成支援プログラム」や,より汎用的な研究機器の共用の促進を目指す「新たな共用システム導入支援プログラム」等に学内の多くの施設等が採択されながら,さらに前進を進めています.

私が専門とする核磁気共鳴(NMR)法の分光装置についても,学内機器の共用を積極的に推進してきました.2013年に「北海道大学先端NMRファシリティ」を立ち上げ,現在は超高感度プローブを装備した2台の800 MHzから,冷媒不要で低磁場ながら高性能の卓上60 MHzまで,様々な特徴を持つ11台のNMR装置の機器共用を行っています.専任スタッフや教員が高度なNMR研究のノウハウによるサポートを行うことで,民間の受託機器分析とは異なる付加価値を有するサービスを提供しています.特に,我々北海道の地域的な特徴を持つ研究分野といえる,農林水産・食品分野での共用利用促進に力を入れており,従来からの我々のNMR研究の中心であった蛋白質の立体構造や相互作用解析に加え,NMRメタボロミクス等の生体分子全般の分析分野での利用が広がっています.また,2016年からは,理化学研究所,横浜市立大学,大阪大学が形成する「NMR共用プラットフォーム」の一員となり,各種講習会やオンライン教材の提供など,特にその教育・人材育成面での活動を支えてきました.このプラットフォームは,2021年度から新たな機関が加わり,計8機関で「NMRプラットフォーム」として活動を続けています.

北海道大学先端NMRファシリティ・800 MHz NMR装置

もちろん,これらの事業の中でも,コロナ禍下でのDX推進は重要な課題となっています.我々は,北海道という地域的な特性もあり,コロナ禍以前から学内のオンライン教育部門である「オープンエデュケーションセンター」の協力を受け,NMR教育のオンライン教材の開発を続けていました(実はこの経験のおかげで,私自身は,コロナ禍でのオンライン授業への切替えが非常にスムーズに進められる,という恩恵がありました).しかし,コロナ禍により,NMR装置そのものの利用や装置実習等についてもオンライン化を進める取組が必要となり,セキュリティーや教育効果など多面的な問題を解決しながら,運営を進めています.

第60回生物物理学会年会の北海道開催へ向けて

2022年度の生物物理学会年会は,北海道大学大学院先端生命科学研究院の金城 政孝先生を年会長として北海道の函館市で開催することが決まりました.現在,実行委員会を組織し鋭意準備を進めています.コロナ禍の状況について先行きが見えない現在,あくまで函館アリーナ,函館市民会館での対面実施を中心に据えながらも,状況によりオンライン参加が可能なハイブリッド型での開催方法を模索しています.このような開催方式により,アジアを中心とした海外からの参加・発表を促進する効果も期待できます.

コロナ禍は,DXというキーワードを通して,北海道という地方の研究活動の未来を考える上でも重要な「課題」と「ヒント」の両方を与え続けています.

 

 
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