2022 年 62 巻 1 号 p. 73-74
こんにちは,篠 元輝(しの げんき)と申します.2018年の若手の会だよりに「私の研究今昔物語」1)を寄稿し,それから2020年に生物物理若手の会の会長を務めました.会長時代にいくつか仕事を行いましたが,そのうちの1つに同会での輪読会設立があり,現在もその運営に携わっています.今回は,輪読会の詳細や扱っている題材についてお話したいと思います.
昨今はインターネットで情報を見つけることが多くなりましたが,本から得られる情報もいまだ有益です.特に,生物物理学関連の専門書(特に和書)は他分野に比べて数が少ない一方,最先端の情報が含まれるものはとても貴重です.私は常日頃から本屋に足を運び,新刊を漁ってきました.しかし,普段の研究活動や重なり続く仕事により,きちんと本を読んで考える時間がひとりでは取りづらくなり,長らく家の本棚に放置されていました.まさしく宝の持ち腐れになっていたのです.
購入した本に興味はあるが,ひとりではなかなか進められない.読者のなかには似たような経験をお持ちの方もいるかもしれません.実際,Twitterでは同じ本に興味を持ちつつも,自身にとって未知の分野に対する不安や知識の乏しさからくる自信のなさに起因し,手を出すことが億劫になっている方もいました.
そこで私は思い立ちました.これまで,新型コロナウイルスの蔓延により,ゼミ活動や学会などをオンラインで行うことがスタンダードになってきました.オンラインイベントの最大のメリットは,活動場所を物理的に用意する必要がなく,インターネットを通じて全国ないし全世界にいる多くの同志と交流することができる点です.毎年夏に開催される生物物理若手の会夏の学校も,今年および昨年はオンラインで開催されましたが,その参加人数は現地開催の約3倍であり,かつて現地開催時にスタッフとして活動した私から見ても凄まじい盛況ぶりでした.それらをきっかけに,輪読会をオンラインで行うことに決めました.
当輪読会は題材確定後,生物物理若手の会のメーリングリストやTwitterにて広報を行い,都度参加者を募っています.そして,半年に1冊のペースで題材を変えながら輪読会を運営しています(題材は後述).2021年12月現在,輪読会は第3回を迎え,参加人数も増えてきています.
先述の通り,当輪読会はオンライン開催ですが,輪読会で扱う題材をより深く理解し,参加者どうしが議論できるための場を別途作る必要があります.そこでSlackを用いて輪読会専用のワークスペースを作成し,輪読会に関する連絡や資料配付を行ったり,各章について議論する場や参加者どうしが交流できる場を用意したりしました.
また,題材1冊を半年で終えるのはなかなかにハイペースであるため,途中で議論に置いて行かれることも珍しくなく,復習に重きを置く方もいます.加えて,固定曜日に輪読会を行う都合上,当日参加することが難しい方もいます.そこで,各回は必ず録画し,後日録画映像を共有フォルダにアップロードすることで,オンデマンドに視聴できるようにしました.さらに,各回終了後に感想アンケートを記入してもらうことで,発表者へのフィードバックを行います.このように,発表者にとっても視聴者にとっても,この輪読会が有意義だと感じてもらえるように尽力しています.
なお,当輪読会は今年度より,日本生物物理学会が実施している「サブグループ」支援制度に採択され,資金援助を受けております.資金は輪読会参加者の教材支援にあてています(希望者多数の場合は抽選).専門書は高額なものが多いので,この資金援助は当輪読会においてとてもありがたいです.
当輪読会では,これまで3冊の題材を扱ってきました.ここでは本の紹介とともに,題材を扱った感想や輪読会に関する思い出を語っていきます.
1. 「細胞の理論生物学:ダイナミクスの視点から」2)
―2020年9月~2021年2月実施,参加登録者:46人
記念すべき初回で扱ったこの本は,酵素反応,拡散,ゆらぎ,細胞分化および相互作用といった生体内のダイナミクスを,数理的手法により表現することを目指しています.本書は例題・問題を通じて知識と応用を身に着ける教科書であり,この本に出会ったとき,生物物理学に関してここまでまとまった和書はいままでなかったと私は思いました.
当然,この本に興味を持った方も多く,私も普段の研究でプログラミングを扱っているので取り組みやすいと考え,最初の題材に選びました.数式を細かく議論することが多く,拡散方程式を扱った回では2時間以上時間をかけたこともありました.
また,本書では力学系を駆使しているため,その考えをさらに深めるために,新たな輪読会が派生しました.私が立ち上げた輪読会を発端にして,別の輪読会が開かれるのは,感慨深いものがあります.
2. 「数でとらえる細胞生物学」3)
―2021年4月~2021年8月実施,参加登録者:54人
第1回の題材を選定するとき,いくつか候補を挙げて,どちらを輪読会で扱ってほしいか,アンケートを取りました.「数でとらえる~」はその候補の1つです.投票数は「細胞の~」と僅差だったと思います.
本書は,生物に関する定量的な情報をまとめた,データブックの側面を持つ本です.もともとは洋書ですが,その内容から興味を持つ方が多かったと思います.2020年3月に待望の訳書が出版されたのは,非常にインパクトがあったでしょう.実際,当輪読会で募集した発表者の数は,第3回までのなかで最大でした.
細胞内にある物質の濃度や個数だけでなく,生命現象の時間や反応速度,必要なエネルギー量など,こと細かに分野が押さえられているのは目を見張りました.さらに,“BioNumbers”というデータベースと連携し,最新の数値情報を確認することができたのも利点です.
ただ,正直な話,輪読会で扱うには少し難しかったです.というのも,議論の深めるには数値情報だけでは厳しいからです.発表者には,ただデータを説明するだけでなく,データを測定するために使った手法などを,元論文を参考にしてまとめてきてもらうようお願いしましたが,それでも「細胞の~」の方が個人的に議論しがいがありました.
3. 「理論生物学概論」4)
―2021年10月~現在実施中,参加登録者:85人
輪読会で扱う本は,なるべく新しいものを採用しているのですが,本書も2021年4月発刊とできたてほやほやです.内容は「細胞の~」と似ている部分も多いですが,著者である望月先生が開発したネットワーク理論である構造理論について触れることができるのは最大の相違点です.また,同じ数理的手法でも著者によって表現が変わるので,その違いについて知ることも勉強になると考えています.

これまでの輪読会で取り組んできた教材
2021年11月現在,当輪読会が進行中ですが,それまでの輪読会と比べて数学科・物理科出身の参加者が比較的多いです.これにより,本書で出てくる数式についてより厳密に議論できていますが,個人的に難易度は「細胞の~」よりも高いと思いました.あまり数式に深入りしすぎると本質を見過ごしてしまうので,重要事項は押さえつつ,生物への応用をきちんと理解できるよう心掛けて進行しています.
当輪読会は今後も題材を変え,様々な分野に触れていきたいと考えています.例えば,分子動力学シミュレーションで大事となる統計力学や,構造解析の基礎を検討しています.題材選びのコンセプトは「生物と物理が関連するもの」と広くしていますが,良い題材を選びたいと思い,常日頃探しています.もし当輪読会で扱ってほしいものがあれば,是非ご連絡ください.