生物物理
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巻頭言
太田 元規
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2022 年 62 巻 3 号 p. 155

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自分達のデータを解釈して次の解析方針を決める時や,論文を批判的に読んで自分達の結果と対比する時にはある種の判断が求められる.これを行うために研究者の中には軸がある.僕の軸には目盛りがついていて松竹梅が返ってくる.対象と直交すると何も感じない.羅針盤も兼ねていて,目的地への最短経路や難所を教えてくれる.絶対的なものではないから判断を誤ることもある.苦い経験は軸を再調整する.でも若い頃はもっとちゃらんぽらんでノリでやっていたような気がする.そういう方が勢いはあるが軸の安定性は低い.軸は長年かけて培われてきたものらしい.その形成過程では,多くの先生,同僚との議論や,研究経験が重要なのだと思う.データを読んで深く議論し,仮説をたてて検証する.このような作業を通して,何が本質的で何が些末であるのかを探っていく.それが自分の仕事をリファインすることになるし,他者のデータや言説を見立てる力を養う.軸の成長に参画してくださった多くの関係者(含む生物物理学会)には感謝の念しかない.

ある程度軸が似ていないと共同研究をする時は辛い.でも,軸は各人ユニークで,全く同じ人はいないと思う.むしろ,軸がちょっと違うから共同研究は楽しい.自分と違う見解が聞ける.研究に幅がでる.全てと直交してしまうと困るかもしれないけど,他者と異なる軸は新しい自由度を与えるから貴重だ.マイノリティな天の邪鬼ほど独創的な研究ができる.一般的な社会生活には支障を来すかもしれないが.

さて,最近私の軸は時代の波を受けてちょっとざわざわしているようだ.原因はおそらくAIの台頭である.僕の松認定に「複雑な現象の因果関係を言語化できた時」というものがある.AIは立派な成績をだしてくるが多くを語らない.さてどうしたものか.まあ,軸だって未来永劫不変ではないから.そのうち自然と脱皮するかもしれない(軸を意識的に操作することは難しい).それはそれで面白いのではないか.

みなさんの軸はどんな様子ですか?久しぶりに何処かで会えたらいろいろお話しましょう.

 
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