生物物理
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総説
脂質交換タンパク質が司るナノスケールの脂質膜環境
西村 多喜
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2022 年 62 巻 3 号 p. 170-174

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Abstract

生体膜は様々な脂質分子種から構成されており,微小領域における脂質膜環境は細胞機能において重要な役割を果たしている.このようなナノスケールの脂質膜環境が細胞内でどのように形成され,さらに感知されるのかについて,脂質交換タンパク質と脂質代謝酵素の機能連関から概説する.

Translated Abstract

Cellular membranes are composed of a complex lipid mixture that forms a membrane lipid environment, which establishes organelle identity and contributes to organelle function. Yet, how small-scale membrane environment organizes physiological events remains obscure. Our recent study shows that a nanoscale membrane lipid environment created by Osh lipid transfer proteins drives phosphatidylinositol 4-phosphate 5-kinase (PIP5K) activity and phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate [PI(4,5)P2] synthesis. In addition, we demonstrate that an amphipathic α-helix conserved in PIP5K serves as a lipid sensor for the nanoscale lipid environment.

1.  脂質交換タンパク質ORP/Oshファミリー

生体膜を構成する膜脂質は細胞内のダイナミックな膜動態に伴い,各オルガネラ間を行き来する.例えば,一つの膜小胞vesicleがendoplasmic reticulum(ER)からゴルジ体に輸送されると積荷のタンパク質だけでなく,vesicleを構成する膜脂質も同時に輸送される.このような受動的かつ非選択的な脂質輸送経路に対し,一部の膜脂質は脂質輸送タンパク質により選択的に目的のオルガネラへ輸送される1).ORP/Osh分子は機能解析が最も進んでいる脂質輸送タンパク質ファミリーの一つであり,ホスファチジルセリン(PS)やステロールをERからplasma membrane(PM)などの他のオルガネラへ輸送する機能を有することが知られている.最近,Bruno Antonny博士らのグループから,酵母Osh分子の脂質輸送がホスファチジルイノシトール4-リン酸(PI4P)の合成&分解とカップルしており,PI4PとPS(またはPI4Pとステロール)を一つずつ交換することで標的オルガネラにPSやステロールを選択的に輸送するというモデル,PI4P濃度勾配依存的な脂質輸送機構が提唱された2)-4).培養細胞を用いた解析から哺乳類ORP分子でも同様の機構が存在することも示されており5),現在では種を超えて高度に保存された脂質輸送分子メカニズムの一つとして考えられている.この詳細な分子機構については他の優れた総説を参照されたい6),7).本総説では,最近私達が見出したORP/Osh分子の生理機能に関して概説する8)図1).

図1

ORP/Osh分子は脂質交換反応を介してPI4,5P2合成酵素PIP5Kの活性を正に制御する.文献8より一部改変して引用.

2.  脂質膜環境依存的なホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼPIP5K活性の変化

それでは,なぜORP/Osh分子は膜脂質を一つずつ輸送しないといけないのだろうか?輸送効率だけを考えると,vesicleで一度に輸送した方が1サイクル当たりの膜脂質輸送量は明らかに多く,例えば60 nmのvesicleの場合には1 vesicle当たり~30,000の脂質分子が輸送されると算出されている6).これはつまり,ORP/Osh分子が単なる脂質を輸送するという役割だけでなく,さらに重要な生理機能を果たしていることを示唆している.そこで私達のグループは酵母に存在するOsh1-7の全7分子が機能不全である酵母変異体Δosh1-7/osh4tsが致死であることを利用し9),細胞生存に必須なORP/Osh分子の機能を探ることにした.

まず,Δosh1-7/osh4ts変異体の脂質解析により,Osh機能阻害によるリン脂質代謝系への影響を調べた.その結果,Δosh1-7/osh4ts変異体の生育が阻害される38°Cで培養した条件下ではPM上のホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PI4,5P2)量が野生型と比べて著しく減少していることを見出した.その一方で,PI4,5P2の前駆体であるPI4PはPM上に過剰に蓄積していることから,PI4P-5キナーゼPIP5KによるPI4PからPI4,5P2へのリン酸化反応が阻害されていることが分かってきた.そこで私達は,Osh分子のリガンドであるPSやステロールがPIP5Kの活性化に必要なのではないかと仮説を立て検証実験を行なうことにした.蛍光色素NBDの蛍光強度をレポーターとし,その増加量(ΔEm530)を測定することでPIP5K酵素活性をモニターするアッセイ系を構築し(図2a10),PSやステロールによる影響を調べた.その結果,PSやステロールが存在する条件下ではPIP5Kの酵素活性が著しく増加することが分かった(図2b,c:Km値がPI4Pの低濃度側に移動).以上の結果より,Osh分子はPSやステロールをPMに輸送することでPI4,5P2の合成を促進するという重要な役割を果たしていることが明らかになった.PI4,5P2はエンドサイトーシスや細胞分裂制御に関わる細胞生存に必須の膜脂質であることから,PI4,5P2の合成阻害がΔosh1-7/osh4tsが致死である理由の一つであると考えられた.

図2

PI4,5P2合成酵素PIP5Kの酵素活性はPS,ステロール存在下で増加する.a)in vitro real-time PIP5K assay系の説明.NBDが疎水性環境では蛍光強度が増加することを利用して,PI4,5P2量依存的にPI4,5P2脂質プローブ(PHPLCδ)がリポソームと結合した量を蛍光分光光度計で計測.b,c)PI4Pに対する見掛けKm値(ViがVmaxの1/2の時の基質濃度で矢頭で示す部分)の6.2 mol%が,10 mol%のPS存在下では1.5 mol%に(b),20 mol%のコレステロール存在下では3.0 mol%に減少する(c).文献8より一部改変して引用.

3.  PIP5Kによる脂質膜認識機構

それでは,PI4,5P2合成酵素PIP5KはPSやステロールをどのように認識しているのだろうか?PIP5Kには約20アミノ酸からなるactivation loop(5Kloop)と呼ばれる酵素活性に必要な領域があり11),両親媒性αヘリックスを形成することが知られていた(図3a-c12).そこで私達はこの両親媒性αヘリックス5KloopがPM上に存在する膜脂質を直接感知するセンサーとして機能しているのではないかと考え,その可能性を検証することにした.

図3

PI4,5P2合成酵素PIP5KのPM局在には5Kloopの正電荷及び両親媒性αヘリックス形成能が必要.a)zebrafish PIP5Kの結晶構造.触媒活性部位の近傍に両親媒性αヘリックス5Kloopが位置している.b)zebrafish PIP5K(zPIP5K),yeast PIP5K(yPIP5K)とその変異体の5Kloop領域のアミノ酸配列.zはnet charge,矢印の長さはhydrophobic momentを示す.黄色は疎水性アミノ酸,赤色は酸性アミノ酸,濃青色は塩基性アミノ酸,薄青色はヒスチジン,紫色はセリンとスレオニン,灰色はグリシンとアラニン.c)zPIP5K由来5Kloopの構造予測.d)yPIP5Kとその変異体の局在解析.Scale bars,4 μm.文献8より一部改変して引用.

まず,5Kloop領域に変異を入れた変異体解析を行なった.5Kloopの親水性側面に分布している正電荷アミノ酸を負電荷のものに置換した場合や(K720D/K721D),両親媒性を阻害するような変異を入れた場合は(L722K/L729K)(図3b下),いずれもPIP5Kの活性とPM局在が消失した(図3d).これらの結果は5Kloopの両親媒性と親水性側面の正電荷がPMの脂質膜認識に必要であることを示唆している.次に,PMの脂質膜組成認識には5Kloopだけでも十分なのかどうかを調べるため,細胞内で両親媒性αヘリックスと生体膜との結合アッセイ13)を行なった(図4a).その結果,5KloopだけでもPMに選択的に局在可能であることが分かった.これはつまり5KloopがPMの膜脂質組成を特異的に認識すること,またその認識には5Kloop領域のみで十分であることを意味している.興味深いことに,PI4P合成酵素変異体(pik1ts/stt4ts),PS合成酵素変異体(cho1Δ),ステロール合成酵素変異体(GL7 strain)14)では,この5KloopのPM局在が著しく阻害されることから,PI4P,PS,ステロール依存的な膜結合様式であることが明らかになった(図4b-d).さらにΔosh1-7/osh4ts変異体でも同様に5KloopのPM局在がほぼ完全に消失していた(図4e).以上の結果から,5KloopはPM上の膜脂質組成を厳密に認識しており,Osh分子によって形成されるPI4P,PS,ステロールからなるナノスケールの脂質膜環境の存在量を感知しているものと考えられた.

図4

Artificial dimerized constructを用いた5Kloopの膜結合能解析.a)コンストラクト設計.5Kloopの後ろにdimerizaion domainとGFPを付加してある.b)PI4P合成酵素変異体(pik1ts/stt4ts),c)PS合成酵素変異体(cho1Δ),d)ステロール合成酵素変異体(GL7 strain),e)Δosh1-7/osh4ts変異体.Scale bars,4 μm.文献8より一部改変して引用.

4.  PIP5K由来の両親媒性αヘリックスはナノスケールの脂質膜環境を認識し得る

一般的に,両親媒性αヘリックスはpacking defectと呼ばれる脂質分子間の小さな隙間を有する脂質膜と好んで結合する性質があり,in vitroの実験では不飽和脂肪酸含有リン脂質の増加やリポソーム膜の曲率増加により,両親媒性αヘリックスの膜結合が増強されることが知られている15).これらの知見と一致して,不飽和脂肪酸含有リン脂質が多い方が,5Kloopの膜結合能やPIP5Kの酵素活性が増加することは私達の実験系でも確認出来た.しかしながら,両親媒性αヘリックスによる膜脂質結合は,一般論としてそれほど特異的なものとは考えられておらず,両親媒性αヘリックスと脂質膜の結合様式は実のところあまり解析されていない.それでは,5KloopはPI4P,PS,ステロールからなる脂質膜組成をどのように認識しているのだろうか?

私達は5Kloopによる脂質膜認識機構を明らかにするため,マックスプランク研究所のGerhard Hummer博士らのグループにall-atom MD simulation解析をお願いした.このsimulation解析では,in vitroでPIP5Kが高い活性を示す脂質膜組成(POPC : DOPS : PI4P : cholesterol = 69 : 10 : 1 : 20)を用いて,5Kloopがどのように脂質膜と結合するのか,その分子機構を詳細に調べた.MD simulation上では,5Kloopはαヘリックス構造をとった状態で脂質膜と相互作用し,疎水性残基が多く存在する疎水性領域を脂質膜の内側に向けた状態で安定した結合をする様子が観察された(図5a-c).この条件下で各脂質分子の分布を調べたところ,負電荷を持つ酸性リン脂質であるPI4PとDOPSが挟み込むような形でPI4PとDOPSの極性頭部が5Kloopの正電荷アミノ酸残基と相互作用していた.この5Kloopと脂質分子の相互作用が偶発的なものではないことを確かめるために,10 μsのsimulation解析において各脂質分子位置の軌跡解析を行なった.リン脂質に関してはリン酸基の位置を,コレステロールに関しては酸素原子の位置をもとに,各脂質の分布を算出した.その結果,脂質膜の主要な構成因子であるPOPCは比較的一様に分布していたのに対し,DOPSやPI4Pはホットスポットが存在し特定のエリアに優先的に分布することが分かってきた(図5d-g).また驚くべきことに,DOPSとPI4Pの分布は互いに排他的であった.5Kloopと脂質膜との相互作用の時間的な変化を追っていくと,いずれのMD simulationにおいても,最初のステップでは5KloopとPI4Pが迅速に結合する様子が観察されていた.これらの結果は,PI4Pの負電荷(–2.5)がDOPSの負電荷(–1)よりも大きいことに起因しており16),まずは5Kloopが静電相互作用依存的にPI4Pと結合して片側の側面を占拠し(図5g #1,#2),その後にDOPSが5Kloopのもう一方の側面と電荷依存的に結合するためと推察された.さらに,ステロールはDOPSと5Kloopの隙間を埋めるような形で5Kloopの近傍に局在していた.以上のsimulation解析は,5KloopがPI4P,PS,ステロールからなるナノスケールの脂質膜環境をある程度の特異性を持って認識し得ることを強く示唆しており,PIP5KがPSやステロール存在下で高い活性を示す主な要因であると結論付けられた.

図5

5Kloopと脂質二重膜相互作用のall-atom MD simulation解析.a-c)代表的なMD simulationの解析結果.オレンジ:5Kloop,灰色:POPC,紫色:DOPS,黄色:PI4P,シアン色:コレステロール.d-g)脂質分布解析.PI4Pは5Kloopの近傍にホットスポット(#1, #2)が観察された.Scale bars,2.5 nm.文献8より一部改変して引用.

5.  まとめと今後の展望

本研究から,Osh分子がPI4,5P2の合成に必要であること,またPI4,5P2合成酵素PIP5KがPM上で十分な活性を示すためには適した脂質膜環境が必要であり,さらに両親媒性αヘリックス5Kloopがナノスケールの膜脂質を認識するセンサーとして機能していることが明らかになった.つまり,Osh分子は単に脂質を輸送しているだけではなく,脂質交換反応によりPI4Pが豊富に存在している膜にPSやステロールを挿入していくことで,ナノスケールの脂質膜環境を効率的に形成するという重要な機能を果たしていると考えられる(図1).誌面の都合上,内容は割愛したが,ERとPMのコンタクトサイト形成がほぼ完全に消失した酵母変異体でも,Δosh1-7/osh4ts変異体と同様の表現型を示すことも私達は見出している8).故に,コンタクトサイトを介したオルガネラネットワークの形成状態に応じて,細胞内ではナノスケールの脂質膜環境やPI4,5P2の代謝がダイナミックに変化している可能性があることを示唆している.今後は様々なナノスケール脂質膜環境がどのように形成され,さらにどのような生理機能に関与しているのか明らかにしていく必要がある.

また本研究で行なった両親媒性αヘリックスによる脂質膜認識機構のMD simulationは,非常に驚くべき結果であった.通常,不飽和脂肪酸含有リン脂質とステロールは相互作用が弱いと考えられているが,そこに両親媒性αヘリックスが加わることで,互いに安定した相互作用が観察されるようになっていた.従来の生化学的,生物物理学的なアプローチだけでは解析が困難であった脂質認識の分子メカニズムが,今後はMD simulationなどのin silico解析により次々と明らかにされていくものと考えられる.また一方で,両親媒性αヘリックスはすでに様々なタンパク質に存在することが知られている.これまでは単なる膜結合モジュールとしてのみ考えられていたが,今後はナノスケールの脂質膜環境を認識する脂質センサーとしての分子機能を明らかにしていく必要があるものと考えられる.

文献
Biographies

西村多喜(にしむら たき)

JSTさきがけ専任研究員

 
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