生物物理
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支部だより
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~2021年度合同支部例会の開催~
次田 篤史
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2022 年 62 巻 3 号 p. 200-201

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はじめに

支部だよりの執筆を担当致します,東北大学大学院生命科学研究科,博士後期課程2年の次田篤史と申します.本稿では,2022年3月9日にオンラインで開催されました,2021年度生物物理学会北海道支部―東北支部合同例会の話題を中心に,東北支部の近況について報告致します.

オンライン開催となった北海道―東北合同例会

昨年度に引き続き,COVID-19感染予防の観点から,2021年度支部例会は,北海道支部・東北支部合同支部会として,オンラインで開催されました.昨年度の例会では,オンラインかつ合同開催という初の試みゆえに,運営スタッフ,参加者ともに若干の戸惑いがありましたが,今年度は,遅延もなく無事に合同例会を終えることができました.

考えてみると,COVID-19の発生から約2年が経過し,学会や日々の研究会議がオンラインで行われることに違和感を覚えることもなくなってきました.国内でも,オンサイトとオンラインを組み合わせたハイブリッド開催での学会も見られるようになり,完全なポストコロナ時代の到来もさほど遠くない未来のように感じられます.

合同例会の開会(特別講演・一般口頭発表)~個体・細胞・分子の枠を超えて~

今年度の例会は,昨年度を超える135名もの参加者が集う,大盛況の会となりました.特別講演として,今年度で北海道大学大学院先端生命科学研究院をご退職される金城政孝教授より,生きた細胞内で分子間相互作用を直接検出するための蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy, FCS)とFCSの発展手法である蛍光相互相関分光法(Fluorescence Cross Correlation Spectroscopy, FCCS)の基本原理から今後の展望についてご講演いただきました(講演タイトル:「タンパク質相互作用解析と蛍光相関分光測定の展開」).

全26演題の一般口頭発表では,AlphaFold2を代表とする最新の計算科学・情報科学分野の発表に始まり,ラマン分光イメージングやNMR,蛍光顕微鏡観察などの高度分析手法を駆使した細胞内分子(または個体自身)および生物学的相分離の動的観察の発表がありました.会の後半には,X線結晶構造解析法や電子顕微鏡観察を用いた生体分子の立体構造解析や,蛋白質の相互作用解析に関する多くの発表がありました.質疑応答を含め1人あたり15分という限られた時間ではありましたが,さまざまな研究背景をもつ参加者が集い,活発な議論が行われました.筆者も自身の知見を広める非常に良い機会となりました.それぞれが興味・関心を抱く対象は違えども,「生物物理学」という分野を軸に,個体・細胞・分子が「どのように動き,どのように相互に関わって,どのように機能するのか」という,単純かつ魅力的な問いに取り組むことの素晴らしさを改めて感じることができる1日となりました.

閉会・オンライン懇親会

閉会の挨拶終了後は,昨年度に引き続き,オンライン交流ツールRemoを使って,懇親会が開催されました.画面上で,参加者同士が4~6人の小さなテーブルに自由に着席し,交流を深めました.会の途中には,2021年度支部例会 発表賞の表彰が行われ,審査の結果,6名へ優秀発表賞が授与されました(図1).

図1

2021年度北海道―東北支部合同例会優秀発表賞受賞者.a.横澤公平(東北大院・薬)「ラマンイメージングを用いたALS関連タンパク質FUS LCの単一液滴内での濃度変化の定量」,b.橋本翼(東北大院・生命)「非結核性抗酸菌Mycobacterium abscessusリボソームにおけるマクロライド耐性機構の解明を目指したクライオ電子顕微鏡構造解析」,c.荒井彩花(北大院・先端生命)「ポリエーテル系天然物生合成経路に存在する新奇ペア型エーテル環化酵素反応の解析」,d.次田篤史(東北大院・生命)「放線菌由来TetR型転写調節蛋白質LanKのX線結晶構造解析」,e.影山大夢(東北大院・生命)「海洋生物由来レクチンThCの構造機能相関研究」,f.志賀翔多(山形大院・理工・タンパク質工学)「アミロイド繊維を模倣したモデル蛋白質によるβシート末端の構造基盤の解明」.

以上の通り,今年度の支部例会も大盛況の内に終了しました.開催に向けてご尽力下さった,北海道支部代表,永山昌史教授および東北支部代表の田中良和教授を中心とした運営委員の皆様に厚く御礼申し上げます.また,合同例会にご参加いただいた全ての皆様に感謝申し上げます.

おわりに~ウクライナ リヴィウ大学との共同研究~

合同例会にて私は,放線菌由来の転写制御蛋白質の構造解析に関する発表で,優秀発表賞をいただくことができました.この研究は,ウクライナのイヴァン・フランコ記念リヴィウ国立大学との共同研究です.授賞したことを大変光栄に思うとともに,構造解析に用いたリガンドの調製・送付,およびアッセイを行っていただいたBohdan Ostash教授(リヴィウ国立大・細菌遺伝学)をはじめ,本研究に携わっていただいた全ての方々に心より感謝を申し上げます.

Ostash教授と私の所属研究室の間で共同研究が始まったのは2018年でした.以前から,Ostash教授は,高い抗腫瘍活性を有する化合物を生産する放線菌の生合成経路の研究を行っており,その分子機構の解明に向けて,我々が転写因子の立体構造を解析するということで,共同プロジェクトが始まりました.2019年には,私自身,研究成果の途中報告と,放線菌の培養,および化合物の単離方法を習うために,リヴィウ国立大学を訪問しました.大学がある,ウクライナ西部(ポーランドとの国境近く)に位置する都市リヴィウは,世界遺産に登録され,教会や石畳の古い街並みが残るとても美しい都市でした.リヴィウの街並みの美しさもさることながら,当時,修士課程1年だった私は,はじめての国際的な研究交流に胸を躍らせていたことを今でも鮮明に覚えています(図2).

図2

ウクライナ リヴィウ国立大学への訪問(2019年9月).a.講義後の学生と田中良和教授,b.リヴィウ国立大学のキャンパス中庭,c.Ostash研究室と田中研究室の集合写真,d.石畳と古い建物が残るリヴィウの街並み.

研究室を訪問して,最も衝撃的だったことは,滅菌用オートクレーブ装置が置いてある部屋へOstash教授に案内していただいた時のことでした.その部屋は,実験ベンチがある部屋とは少し離れた薄暗い地下にあり,それが第二次世界対戦時から残る防空壕の跡であることを知りました.リヴィウ国立大学は,日本の国立大学と比較して,実験設備の面で必ずしも充実しているとは言えませんでした.それでも,はじめてX線結晶構造解析を学習するOstash研究室の学生が,臆せずに何度も質問を投げかける様子が,とても印象的で,研究に向き合う姿勢について,改めて考えるきっかけとなった出来事の一つでした.

最後に,今回の合同例会が開催される2週間前の2月24日にロシアがウクライナへ侵攻することが報道されました.Ostash教授の研究室では,細菌やサンプルを保存するための冷蔵・冷凍庫以外の電源を切り,全ての実験は中止しているそうです.また,Ostash教授のご家族は現在ウクライナ国外に避難しているそうです.このような悲惨な状況の中,投稿中だった私たちの共同研究の論文が最近,Acceptになりました.研究ができず家族とも離れ離れでストレスの多い状況下のOstash教授も喜んでくれました.少しでも明るい話題を提供できたことを大変嬉しく思っています.このような悲惨な事態が1日でも早く終わりを告げ,平和な世界が戻ること,そして以前のように,一緒に研究を行える日がくることを心から祈っています.

 
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