生物物理
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総説
生体分子機能を有する新物質への有機合成化学によるアプローチ
佐藤 浩平金原 数
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2022 年 62 巻 4 号 p. 219-223

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Abstract

膜貫通タンパク質の構造を模倣した分子として,親水性ユニットと疎水性ユニットを交互に連結したマルチブロック型オリゴマー分子を設計し,これらの分子が二分子膜中でイオンチャネルを形成することを見いだした.さらに,張力応答性,リガンド応答性,電位応答性など,多様な刺激応答性を付与できることを明らかにした.

Translated Abstract

Inspired by the structure and dynamic functions of transmembrane proteins, we have developed a series of multiblock molecules having an alternating sequence of hydrophobic and hydrophilic domains. These amphiphilic molecules form unimolecular or supramolecular ion channels in lipid bilayer membranes, with responsiveness to external stimuli, such as osmotic pressure (tension), ligand addition, and electric fields. In addition, the molecules bearing phosphate ester groups allow directional control of molecular alignments in the membranes. This feature has great advantages for future applications in biological, medicinal and materials sciences.

1.  はじめに

タンパク質などの生体分子は有機化合物がもちうる究極の機能を有しており,化学者にとっては機能物質開発における手本となりうる.このため,これまでに酵素から着想を得た人工酵素,リガンドと受容体を模倣したホストゲスト複合体など,様々な機能性合成分子が開発されてきた.これまで,このような人工分子の設計においては,機能の化学的側面に重点がおかれており,合成分子による機能発現のメカニズムは,タンパク質とは全く異なっている場合が多い.このため,タンパク質の複雑な構造により初めて実現できるような,高度に制御された機能に関しては,合成分子ではいまだに実現できていないのが現状である.一方,タンパク質の構造解析手法の発展に伴い,様々なタンパク質の構造と機能の相関が明らかになってきた.このため,精密にタンパク質の構造を模倣することにより,これまで人工分子では実現できなかった高度な機能をも模倣できる環境が整いつつある.

生体膜は様々な生命現象において重要な役割を果たしているが,ここに存在する膜タンパク質の中で,イオン輸送を高度に調節しているイオンチャネル・イオンポンプは,細胞活動の維持や制御に特に重要な役割を担っている.これまでに,天然のイオンチャネルに触発され,大環状分子,円花状集合体(ロゼット),自発的に折りたたむ分子(フォルダマー),棒状分子の1次元集合化などによって形成される様々なチャネルが開発されてきた1),2).これに対し,我々は,膜タンパク質の構造を模倣することで,刺激応答性のイオンチャネルを開発できるのでないかと考えて検討を進めてきた3).膜貫通タンパク質の中で,刺激応答性をもつ分子の多くは,多回膜貫通構造という共通の構造モチーフをもっている.これは,ヘリックス型の高次構造を形成したペプチド鎖が集積化したもので,チャネルのような高次に制御された立体構造を構築するのに適している.この構造は,外部刺激によりその集合状態を変化させることが容易であるため,刺激応答性を付与するのに有利であると考えられる.そこで,多回膜貫通型タンパク質をモデルとした刺激応答性人工イオンチャネルを設計できないかと考え検討を始めた.

2.  分子設計

多回膜貫通型タンパク質は,脂質二分子膜内に収まる疎水的ペプチドからなるドメインと膜外にある親水的ペプチドからなるドメインが交互に連結したアミノ酸配列となっている.このような構造は,合成高分子の分野ではマルチブロックポリマーと呼ばれる.そこで,基本的な分子骨格として,疎水部にπ共役系の芳香族化合物,親水部としてポリエチレングリコール鎖を用い,これらを交互に複数連結した交互両親媒性型のマルチブロック分子を設計した.最初に三重結合の両端にベンゼン環が結合した「トラン」と呼ばれる部位を疎水部として利用した分子(1)を設計した(図14).この分子は,二分子膜内で4分子が会合して超分子イオンチャネルを形成することがわかり,マルチブロック型分子骨格の有効性を明らかにした5).そこで,この設計指針に従い,疎水部の構造を調整することにより様々な刺激応答性を付与できるのではないかと考え,検討することとした(図2).

図1

(a)膜タンパク質(左)を模倣したマルチブロックオリゴマー分子の概念図(右).(b)超分子イオンチャネルを形成したマルチブロックオリゴマー分子1の化学構造式.灰色の分子は脂質分子,金色の球は透過するイオンを表す.

図2

刺激応答性イオンチャネルを形成するマルチブロックオリゴマー分子2-5の化学構造式.

3.  メカノセンシティブチャネル

細胞は,剪断力,重力,接触,あるいは浸透圧等によって加えられる機械的な力を感知することができる.これを担うのが,細胞膜内にあるメカノセンシティブチャネルと呼ばれるタンパク質で,機械的な刺激によりコンホメーション変化を起こすことで,イオン輸送能を動的に制御している6),7).このようなメカノセンシティブチャネルに触発され,三量体マルチブロック両親媒性分子(2)と,その単量体(3)を設計した(図28).これらの分子は,疎水性ユニットが平面ではなくねじれた構造をとり,疎水性ユニット間の芳香族のスタッキングが適度に不安定化されるように設計されている.このため,膜に対して加えられた機械的な力に対しスタッキング状態が変化することで,感受性を示すことを期待した.

2および3の二分子膜内への取り込みは疎水部のトラン部位が発光性を有することを利用して蛍光顕微鏡によって確認した.また電流値測定により,張力を変化させた場合のイオン輸送特性を評価した.図3aおよび図3cに示すように,膜張力が低い(<5 mN m–1)場合には,2を含む二分子膜は大きな電流値を示す頻度が高かったが,3を含む二分子膜が示す頻度は極めて低かった.これとは対照的に,膜張力が高い(=16 mN m–1)場合には,2を含む二分子膜は大きな電流値を示す頻度が大幅に減少し,3を含む膜では著しく増加した(図3bおよび3d).この傾向はpH変化に応答して発光が変化する蛍光性色素(HPTS)を使用したイオン輸送能評価でも確認された.低い膜張力下でのイオン輸送におけるHill係数(分子の協同性を表す指標)は,2では1.27,3では2.98であり,イオンを輸送する主な活性種が2では単分子チャネル,3では三量体のイオンチャネルであることを示唆している.2および3が作るイオンチャネルの直径は,それぞれ0.92および0.74 nmと見積もられた.

図3

(a),(b)マルチブロックオリゴマー分子2を導入した二分子膜の(a)低膜張力(<5 mN m–1)および(b)高膜張力(=16 mN m–1)下での電流値の経時変化.(c),(d)マルチブロックオリゴマー分子3を導入した二分子膜の(c)低膜張力(<5 mN m–1)および(d)高膜張力(=16 mN m–1)下での電流値の経時変化.

蛍光分光測定の結果,3の芳香族部の分子間スタッキングは膜張力の影響を強く受けるのに対し,2の芳香族部のスタッキングは膜張力の影響を受けにくいことが明らかになった.これらの結果から,図3に示した膜張力応答性について,3においては,膜張力の低い状態では,疎水的な芳香族部がスタッキングすることでイオンチャネルを形成できない一方で,高い膜張力条件下では,脂質二重層膜の流動性が上昇し,結果的に芳香族部のスタッキングを弱め,イオンチャネルの形成が可能になったと考えられる.一方で,2の場合,芳香族部間のスタッキングが比較的弱いため,張力のない条件下では単分子でチャネルを形成しイオンを輸送できるのに対し,高い膜張力下では,膜の流動性の増加により単分子チャネル構造が不安定化し,そのイオン輸送活性を損なったと考えられる(図3).3が動作する膜張力(つまり,膜貫通イオンチャネルの活性化に必要な張力)は13.6 mN m–1と見積もられた.この値は,細菌のメカノセンシティブチャネルであるMscLが動作する値(12 mN m–1)と同程度であり6),7),タンパク質とは構造の異なる分子でも同じような値となったことは極めて興味深い.

4.  リガンド応答性チャネル

次の課題として,リガンド分子との結合によってイオン輸送を制御できる合成イオンチャネルを開発することを考えた.分子設計としては,疎水性部位と親水性部位の境界に,カチオン性を有する芳香族アミンと相互作用することを期待してアニオン性のリン酸エステル基を組み込んだマルチブロック両親媒性分子(4)を合成した9).興味深いことに,事前に調製しておいたベシクルに4を添加すると,リン酸エステル基がベシクル外側に面するように自発的に配向することがわかった.これは,リン酸エステル基の極性が高く,膜を通過できなかったためだと考えられる.ベシクルの表面電荷を評価できるゼータ電位測定に基づき,4の配向選択性は95%と見積もられた.

次に,リガンドとして2-フェニルエチルアミン(PA)を加えた滴定実験により,4がPAと1 : 1の複合体を形成することを確認した.さらに,PAの添加により4が直径0.39 nmの超分子イオンチャネルを形成し,そのHill係数は3.1であることがわかった(図4).4の配向の影響については,リン酸エステルが面している方向からPAを加えたときには,イオンチャネルが形成されるのに対し,反対方向からPAを加えた場合には,イオンチャネルが形成されなかった.さらに,PAの添加後に,(R)-プロプラノロール(PPN,天然のナトリウムイオンチャネルタンパク質を遮断することが知られている抗不整脈薬10))を添加したところ,イオン輸送が観察されなくなった.全原子分子動力学(MD)シミュレーションに基づく解析により,PA分子は4の疎水性ユニットとリン酸エステル基の境界で4と結合し,チャネル構造を安定化することが示唆された.対照的に,PPNはチャネルの内孔をブロックし,イオン輸送を妨げることが示唆された.

図4

マルチブロックオリゴマー分子4を導入した二分子膜の(a)リガンドなし,および(b)PA添加後の電流値の様子.

外部からの添加により配向を揃えて二分子膜に導入できるという4の特性を利用して,マウス線維芽細胞(L細胞)に添加した場合の応答を検証した.カルシウムイオン応答性の緑色蛍光色素であるFluo-4を導入したL細胞を準備し,細胞内へのCa2+流入を可視化した.L細胞に4とPAを添加したところ,細胞内のFluo-4の蛍光強度が増強され,生体膜においても4はリガンド応答的なイオン輸送能を示した.

続いて,4の構造をもとに,リン酸エステル基に加えて,長軸に沿って永久双極子モーメントを有するフッ素化疎水性部位を組み込んだ5を設計した(図511).疎水部の双極子モーメントにより,電圧への応答性も示すことを期待した.5は4と同様に,外部から二分子膜へ導入することにより分子配向を制御できる.この状態において,印加電圧の極性および振幅を調整してイオン透過能を検討したところ,印加電圧の方向が5の永久双極子モーメントの方向と同じである場合(+60 mV),5を含む二分子膜は大きな電流値を示さなかった(図5a).対照的に,反対の極性の電圧(–60 mV)を印加すると,5を含む二分子膜はイオン透過性に伴う大きな電流値を示した(図5b).これらの条件下で見積もられたイオンチャネルの直径は0.26 nm程度であった.電圧を印可した状態での5の蛍光スペクトル解析により,5の疎水性ユニットのスタッキングは,印加電圧の方向が5の永久双極子モーメントの方向と反対である場合にのみ強化されることが示唆された.これは,印加された電界により疎水性ユニット間の双極子間反発が抑制されたためと考えている.興味深いことに,5によるイオン輸送に必要な閾値電圧は,哺乳類のニューロン(CA3 neuron)に見られる電位依存性カリウムイオンチャネルの閾値電圧に匹敵していた12)

図5

マルチブロックオリゴマー分子5を導入した二分子膜の(a)+60 mV,および(b)–60 mVにおける電流値の経時変化.

また,5によるイオン輸送は,チャネルアンタゴニストとして知られているPPNの添加により阻害され,PPNと強く相互作用するβ-シクロデキストリンの添加により再び活性化される,という可逆的な制御が可能であることもわかった.

5.  今後の展望

本稿で紹介してきたように,マルチブロックオリゴマーは刺激応答性膜タンパク質の機能を模倣するための分子骨格として極めて有効であることがわかった.特にリン酸エステル基の導入により,二分子膜内での配向性制御が可能な点は,リガンド応答性に限らず,膜関連機能分子の開発という観点から応用可能性が広い.これまでに様々な刺激応答性が実現されたが,従来の系はすべてイオンが拡散により高濃度領域から低濃度領域側に流れる受動輸送を行なう,イオンチャネルであった.このような観点から,次に取り組むべき課題は濃度勾配に逆らってイオンを輸送できる合成「イオンポンプ」(能動輸送)の実現と言えよう.人工イオンポンプの開発は,生物学的に重要であるだけではなく,微小なエネルギー変換装置としての生体外での利用という観点からも重要である.合成分子による能動輸送を実現するために,分子設計内に2つの「ゲート」を導入する必要がある.複数刺激応答性を有するイオンチャネルは,このプロトタイプとしての発展が期待される.

文献
Biographies

佐藤浩平(さとう こうへい)

東京工業大学生命理工学院助教

金原 数(きんばら かずし)

東京工業大学生命理工学院教授

 
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