生物物理
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支部だより
支部だより
~中部支部長自己紹介と支部の研究室紹介~
鈴木 健一島田 敦広広瀬 侑
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2022 年 62 巻 4 号 p. 253-254

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はじめに:支部長自己紹介

2021年5月より中部支部長を仰せつかりました鈴木健一(岐阜大学)です.私は,学生時代は工学部で化学専攻でしたが,細胞膜分子の1粒子追跡の研究を学会や論文で知った際に,「自分が追いかけていくべきものは,これだ!」と直感し,学位取得後,1粒子追跡法を開発したMike Sheetzのラボに留学しました.以後は一貫して,1粒子・1分子・超解像イメージングによって,ラフトや細胞外小胞などの課題に挑んでいます.分野を変える際には,いささか猪突猛進でしたが,その判断は今でも大正解だったと思っています.生物物理学会には,様々なバックグラウンドを持つ研究者が集まっていますが,私がそうであったように,他分野の研究者が参入してくる寛大で魅力ある学会であり続けていると思います.

この2年あまりのコロナ禍により,令和元年度の中部支部講演会は中止,令和2年度,3年度はオンライン開催となり,なかなか対面で交流する機会がない状況です.しかし,オンラインでの開催のメリットもあります.中部支部は東海地方から北陸地方まで広くカバーしていますが,支部講演会に遠方からでも学生さんが参加していただき,大変活気がありました.この状況を維持していきたいと思います.

今回の支部だよりでは,中部支部で最近独立されました若手PIの方々に研究室や所属機関をご紹介していただきます.今回は,岐阜大学応用生物科学部の島田敦広先生,豊橋技術科学大学の広瀬侑先生にお願いいたしました.

研究室紹介(岐阜大学 島田敦広研究室)

この度は研究室紹介の機会をいただき,感謝申し上げます.ここ数年,岐阜大学応用生物科学部棟は大規模改修工事を行なっており,私達の研究室は2020年8月から改修された新しい綺麗なスペースへと移動しました.実験室のレイアウトも私達の研究に適したように設計させていただき,とても快適に研究活動に従事することができています.

私達の研究室では,酸化的リン酸化の中枢を担う金属膜タンパク質であるシトクロム酸化酵素(CcO)に注目しています.その反応機構を解明するために,SPring-8やSACLAといったX線照射施設やクライオ電子顕微鏡を用いてその精密な立体構造の決定を行なっています.CcOは酸素を水へと還元する反応と共役してプロトンを能動輸送しますが,私達は,決定したCcOの静的な高分解能構造に基づいて,活性中心を構成するヘム鉄と銅イオンの電子状態や構造の変化によって駆動されるプロトン輸送機構を提唱してきました.しかし,私達とは異なるプロトン輸送機構を提唱するグループもあり,いまだにCcOの反応機構については議論が続いています.そこで,私達は,X線回折(CcOの構成原子の空間座標情報)だけでなく,X線発光分光(CcOの金属中心の電子状態情報)も同時に高い時間分解能で測定することで,CcOの化学構造変化を捉えること(動的な構造解析)に挑戦しています.これから私達のグループによって決定されたCcOの高分解能化学構造変化過程が,CcOのプロトン輸送機構に関する議論に終止符を打つことを期待しています.

また,近年はCcOの活性制御因子との相互作用解析も行なっています.CcOの活性促進剤は,先天的なCcOの低活性に起因する重篤な神経変性疾患の治療法開発につながることが期待されます.一方で,CcOの活性の穏和な阻害剤は,酸化的リン酸化を抑制し,過剰なエネルギー生産を抑えることで肥満などのメタボリックシンドロームの予防に効果があることが報告されています.すでにCcOの促進剤・穏和な阻害剤複数について,CcOとの相互作用機構を吸光度測定やクライオ電子顕微鏡による複合体構造解析によって明らかにしようと実験を進めています.

現在,当研究室は私を含め5名が所属しており,日々自由に楽しんで研究活動を行なっています.また,SACLAへの出張や学会発表などはできる限り全員で参加し,共同研究者などとの活発な議論を活かして,独創的かつ革新的な研究成果の発表を目指しています.

当研究室では大学院生や研究員を随時募集しておりますので,ご興味のある方は是非一度ご連絡ください.

実験室にて,研究室メンバーと.

研究室紹介(豊橋技術科学大学 広瀬侑研究室)

この度は,私たちの研究室を紹介する機会をいただき,誠にありがとうございます.私たちの研究室が所属する国立大学法人豊橋技術科学大学は,愛知県豊橋市にある工学部の単科大学で,学生数は約2,000名,教員約200名が在籍しています.本学は高等専門学校(いわゆる高専)の卒業生を3年次編入生として受け入れるために,長岡技術科学大学と共に作られたというのが歴史的な経緯です.学部3-4年から修士課程1-2年までの,学部・大学院の一貫教育を特色としているため,大学院への進学率も8-9割ほどと高くなっています.私は2011年より本学に在籍し,今年度より独立して研究室を運営させていただくこととなりました.

私たちの研究室では,光合成生物の光受容と,それによって引き起こされる光応答現象に着目した研究を進めています.解析対象とする生物は幅広いのですが,その中でも,シアノバクテリアの光合成機能を調節するフィトクロム様光受容体の光色感知機構については,特に力を入れて研究に取り組んできました.この光受容体は,緑色光吸収型と赤色光吸収型の間を可逆的に光変換する機能を有し,開環テトラピロール構造を持つビリンを発色団として結合します.私たちは,この光受容体のユニークな光変換が,ビリン発色団の光異性化とプロトンの着脱反応によって起こることを明らかにしてきました.

ところが,一般的な生物系の研究室で用いる手法だけでは,光変換におけるプロトン移動の分子基盤を明らかにすることができませんでした.そのため,今後の研究の方向性をどうしようか…と思案していたところ,生物物理学会への参加がきっかけとなり,ラマン分光解析や,時間分解吸収スペクトル解析,NMR解析,X線結晶構造解析,発色団の有機合成など,様々な手法を扱う専門家の先生方と出会うことができました.これらの先生方と実際に共同研究を行ない,共著の論文を書いてみて,自身の知識の幅が大きく広まりました.異なる手法によって得られたデータを組み合わせることで,より説得力のある結論が得られました.異なる分野の先生方と議論をかわすのは,時にスリリングで,とても楽しく感じられました.自分自身のグループの研究で得られる成果や知識は「足し算」のように積み重なってきますが,共同研究は「掛け算」のようなもので,とても大きな知見を得られる可能性があると感じました.今後も,新しい手法を持つ先生方と共同研究を積極的に展開し,その成果を生物物理学会で発表していきたいと考えております.

私たちの研究グループの内容にご興味があれば,是非ご連絡ください.大学院生や技術補佐員,タイミングが合えば研究員も募集しております.豊橋は,東海道新幹線でアクセスが可能で,温暖な気候で育った野菜や,伊良湖水道で水揚げされた魚介など,美味しいものが沢山あります.日本酒は奥三河の酒蔵で作られる蓬莱泉という銘柄がオススメです.お気軽にお立ち寄りください.

実験室にて,研究室メンバーと

 
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