Seibutsu Butsuri
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Perspective
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Yutaka KURODA
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2022 Volume 62 Issue 5 Pages 267

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高校時代から深い興味を持っていた生物学は,物理学と比べて正確性に欠けると感じていた.このような感想,また,父親の影響もあって大学は,スイス連邦工科大学(ETH;チューリッヒ)の物理学科に入学し,世界を数式で解明することを夢見ていた.ただ,物理法則と方程式に浸る毎日から物理の美しさを感じ取っていたものの,何か肌に合わない気もしていた.

そのような状況のなか,「Bio」の文字に憧れて履修した「Biophysik für Physiker(物理学者のための生物物理学)」という講義で,物理学と生物学の境界領域である生物物理学に出会った.講義は2002年にNMR(核磁気共鳴分光)でノーベル賞を受賞したK. Wüthrich研究室のG. Wagner講師が担当していた.履修生は私を含む3名であり,物理学科の他の学生からは「変わり者」や「物理が分からない人間」と思われていたかもしれない.ただ私にとって,この講義は「生物物理」をもっと勉強したいというきっかけになった.

卒業後は,注目の「脳研究」に憧れつつ,東京大学理学研究科の和田昭允研究室(和田昭允,50年前―胎動の頃,生物物理 50(2), 70-71, 2010)で蛋白質の物理化学や理論解析を学び,蛋白質のフォールディングの研究を極めたいと思うようになった.その後も,蛋白質工学,構造ゲノム科学,バイオインフォマティクスの研究に従事した.今は,生物物理学的手法を用いて蛋白質の溶解性及びアモルファス凝集を解析する研究を進めており,その解析に基いて蛋白質改変による免疫原性の制御を試みている.蛋白質製剤の変性や凝集による免疫応答のリスクが指摘されるなかでも,このような研究は意外と少ない.

昨今,生物物理学において,技術の飛躍的な発展によって研究領域が広がり,新しい発見が相次いでいる.私も,免疫学と蛋白質工学の境界領域はまだ開拓の可能性が大きい研究領域であると期待を膨らませており,若いときと同じワクワク感と好奇心を持って生物物理の新しいフロンティアに挑戦する研究生活を少しでも長く送りたいと考える今日この頃である.

 
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