生物物理
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総説
De novoペプチドナノポアの設計と精密1分子検出
清水 啓佑宇佐美 将誉溝口 郁朗藤田 祥子川野 竜司
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2022 年 62 巻 5 号 p. 271-275

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Abstract

近年ナノポア計測技術の進展はめざましく,DNAナノポアシーケンサが実用化された.原理的には,この方法でタンパク質のアミノ酸シーケンスも可能であるため,ポリアミノ酸鎖の検出に最適なナノポアが探索されている.我々は最近,アミノ酸配列を人工設計したペプチドにより脂質膜中でβバレルナノポアを構築しポリアミノ酸鎖の検出に成功した.本稿では,その詳細について紹介したい.

Translated Abstract

De novo protein design has emerged as a method to manipulate the primary structure for the development of artificial proteins and peptides with desired functionality. This paper describes the de novo design of a pore-forming peptide that has a β-hairpin structure and assembles to form a stable nanopore in a bilayer lipid membrane. We designed two kinds of peptides, SV28: forming multidispersely-sized nanopore and SVG28: monodispersely-sized nanopore, and succeeded to detect single molecule DNAs and polypeptides. Such de novo design of a β-hairpin peptide has the potential to create artificial nanopores, which can be adjust size to a target molecule.

1.  はじめに

ナノポア計測は,ナノサイズの孔を通過する分子を電気的に1分子レベルで検出する方法である1),2).ポア形成膜タンパク質が有する1分子レベルの分解能を利用し,90年代半ばからDNAシーケンスへの応用を目指した研究が行われ,2015年にその成果として安価・小型なナノポアDNAシーケンサーが実用化された.DNA以外にも小分子3),タンパク質やペプチドの検出が検討されており4),特に次世代の技術としてタンパク質のアミノ酸シーケンスの実用化が期待されている5).しかしながら,1アミノ酸を識別可能な高分解能を得るためには,検出対象分子の大きさや形状に適したナノポアを用いる必要がある.現在知られている天然のナノポア形成膜タンパク質ではポアのサイズや形状に制限があり課題となっている.そこで我々は,アミノ酸配列を人工的に設計することにより,目的のサイズやポア形状を持ち検出対象分子に適したナノポアを構築できるのではないかと考えた.

De novo設計とは,de novo―新たに,最初から―という言葉が示すように,天然にはない新たな物質設計と捉えることができる.特にタンパク質のde novo設計の場合は,任意の構造を持つ人工タンパク質をアミノ酸配列設計により作製しようとする試みのことを指し,約40年間にわたって研究が行われてきた.De novo設計における初期の研究では,αヘリックスやβシートといったタンパク質の基本構造である二次構造が設計された6).近年では計算科学的手法によるde novo設計が主流となり,水溶性のタンパク質だけでなく膜タンパク質の設計も報告されており7),その中ではナノポアセンシングへの応用について言及されている.

ナノポアタンパク質を設計して脂質膜中に構築する場合,膜への挿入・再構成が課題となる.そこで我々は,比較的脂質膜に挿入されやすい短鎖のペプチドによるナノポア構築に着目した.天然では抗菌ペプチドなど短鎖のペプチドが脂質膜中に不安定ながらもポアを形成する.30残基以下の短いペプチドでは膜外部分でポア構造を安定させることが難しく,そのためこれまで安定なナノポア構造の報告は少ない.天然配列の再設計の例として,ナノポア形成タンパク質Wzaの膜貫通部分に変異を加えた,ナノポア形成αヘリックスペプチドが報告されている8).これまで報告されている人工設計ナノポアの多くがαヘリックス構造を有している一方,ナノポア計測に多く利用されているβバレルタンパク質は,高い疎水性のため合成が難しいという課題があった.そこで我々は,分子検出可能なナノポアを構築する短いβヘアピンペプチドの設計に挑戦した.

2.  SV28の配列設計および合成

我々がSV28と命名したペプチドは,28残基のアミノ酸から構成されている.詳細なアミノ酸配列設計を以下に記す.はじめにアミノ酸全長を30以下で固相合成可能な28残基とした.βシート形成のため2本のβストランドとそれを繋ぐβターン構造,2つの末端構造から構成されるβヘアピン構造を設定した.βストランドは膜貫通のために10残基の長さが必要であり,末端構造にそれぞれ2残基ずつ,βターン構造に4残基を採用し,合計28残基のペプチドを設計した(図1a).次に,脂質膜中でナノポア構造を形成するよう,以下3つの設計指針に従い,骨格構造にアミノ酸配列を当てはめた.

図1

SV28ペプチドの配列設計.(a)骨格構造の決定.(b)脂質膜中βバレル構造を誘起する親水・疎水性アミノ酸の交互配列.(c)脂質膜中構造安定化のための芳香族アミノ酸導入.(d)ペプチドの膜貫通方向制御のための電荷アミノ酸の導入.(e)設計されたSV28ペプチドのアミノ酸配列.

①親水・疎水アミノ酸の交互配置によるβシート形成

親水性アミノ酸・疎水性アミノ酸の交互配列により,βシート形成が誘起されるように設計した(図1b).さらにこの配列は親水面と疎水面が分かれた両親媒性構造を有するβシートを形成する9).そのため,βバレル形成時に脂質膜と接する外側が疎水性,イオンを通過させる内側が親水性のナノポア形成を可能とした.側鎖の立体障害を防止するために,親水性および疎水性残基に側鎖の小さいセリンとバリンを採用した(アラニンはαヘリックス構造を誘起するため不採用とした).

②芳香族アミノ酸によるナノポア構造安定化

天然の膜タンパク質では脂質膜界面にチロシンやトリプトファンが多く局在していることが知られている.これらのアミノ酸の側鎖は脂質の頭部と水素結合を形成することで,タンパク質の膜貫通構造の安定化に寄与しており,これはSnorkeling効果と呼ばれている10).今回は,βバレル構造をより安定化させるチロシンを採用した(図1c).

③膜外部分の電荷アミノ酸による膜貫通方向制御

ペプチド間に逆平行βシート構造を形成させるため,ペプチドのターン部分に負電荷,末端部分に正電荷を持つアミノ酸を配置し,電圧印加によりペプチドの膜貫通方向を揃えるよう設計した(図1d).ターン構造として,負電荷を持つアスパラギン酸を含みかつ4残基のβターン構造をとりやすい配列-DSDG-を採用した11).また,末端構造は正電荷を持つアルギニンと,スペーサーとしてグリシンを配置しRG-,-GRとした.

このようにして28残基のナノポア形成βヘアピンペプチドSV28を設計した(図1e).このSV28が脂質膜中で会合しβバレル型のナノポアを形成可能か,分子動力学(MD)シミュレーションにより確認した(図2).まずβヘアピン構造を持つSV28の11量体βバレル構造を脂質膜中に形成させた.それを初期状態として,1000 nsのMDシミュレーションを実施し,βバレル構造が維持されたことを確認した.このMDシミュレーションを5量体,7量体でも同様に実施し,それぞれにおいて1000 ns後のβバレル構造の維持を確認した.これらの結果からSV28が脂質膜中で形成するβバレル構造の安定性の高さを確認した.

図2

11量体のSV28ペプチドから構成される脂質膜中ナノポア構造のMDシミュレーション結果.

続いて,我々はSV28ペプチドの固相合成を試みたが,SV28は疎水性が高く凝集しやすいため一般的な手法では合成困難であった.そこでイソアシルジペプチド法12)により下記2段階の手順で合成した.まず,βシート構造を形成しない親水性の前駆体を固相合成することで凝集を防止しながら合成および精製を実施した.その後,イソアシルジペプチドの転移反応により前駆体からSV28を合成した.このSV28が脂質膜存在下で設計通りβシート構造を形成することを,円偏光二色性スペクトル測定により確認し,さらに放射性同位体アミノ酸を有するSV28を用いた固体NMR測定により,SV28が脂質膜中でβ-turn-β構造をとることを確認した.

3.  SV28のチャネル電流計測

SV28が形成するナノポアの安定性やサイズを評価するために,脂質二分子膜中に形成されたナノポア内を流れる微小電流を計測する,チャネル電流計測法を利用した.我々は液滴接触法により安定な人工平面脂質二分子膜を簡便に作製できるため,長時間のチャネル電流計測をスループット高く実施可能である13).さらに,これまで様々な天然のナノポア形成タンパク質およびペプチドの計測データを蓄積しており,電流波形の形状からナノポアの安定性を予測することが可能である14).このチャネル電流計測の結果,SV28の安定なナノポア形成はわずか3%であった(図3a).そこで下記3つの計測条件を変更することにより,SV28ナノポアの安定化を試みた.

図3

(a)SV28ナノポアの安定性評価.(b)SV28ナノポアの直径の分布.(c)SV28ナノポアを用いた二本鎖DNA電流計測.

①印加電圧を100 mV→200 mVに変更

SV28は印加電圧により膜貫通方向が揃い,分子間逆並行βシート形成が促進されるように設計されているため,高電圧印加によりナノポアの構造安定化を狙った.

②インキュベートによる構造安定化

SV28を脂質存在下での37°C,24時間インキュベートし,最安定構造のナノポア形成を促進させた.

③脂質膜へのコレステロール導入

コレステロール導入により脂質膜の流動性を低下させ,脂質膜中でのペプチドの拡散を抑制することで,一度形成されたナノポアの安定化を狙った.

上記3つの工夫により安定なナノポア形成は67%まで向上し(図3a),SV28ナノポアの構造安定化に成功した.得られたナノポアは単一の会合数で形成されず,電流値から算出されたSV28ナノポアの直径は1.7-6.4 nmであることが確認された(図3b).

チャネル電流計測では,複数のサイズのポア形成が見られるが,そのうち約5.4 nmのポアが形成された際に二本鎖DNA分子の検出を試みた.まず50 bpの二本鎖DNAの検出を試みたが,DNAの通過を示す阻害電流シグナルは観察されなかった.そこでより長鎖の1 kbp DNAを計測したところDNAの通過による電流阻害シグナルが再現よく観察された(図3c).この結果より,de novo設計されたナノポアによる分子検出に成功した.さらにはより大きなサイズのポア(6.4 nm)が形成された時を利用しグアニン四重鎖構造を持つDNAの検出にも成功した.

4.  SV28の再設計およびポリペプチドの検出

SV28は直径1.7-6.4 nmという幅広いサイズのナノポアを形成した.異なるサイズの標的分子を検出可能である点では有用であるが,特定の分子の効率的な検出には単一サイズのナノポアが望ましい.そこで,SV28のアミノ酸配列の再設計により単一サイズのナノポアの構築に挑戦した.計算機による設計の先行研究において,βストランド構造の中央にグリシンを導入すること(グリシンキンク)で,βバレル構造中の立体障害と構造的ひずみを減少させ,水溶液中のβバレル構造の安定性を上げることが報告されている15).我々も既報を参考にSV28の膜貫通領域の中央部分にグリシンを導入したβシートペプチドSVG28を再設計した.

SVG28ナノポアの構造安定性確認法および合成法は,SV28と同様にそれぞれMDシミュレーションとイソアシルジペプチド法を使用した.合成したSVG28が脂質膜存在下でβシート構造を有することを円偏光二色性スペクトル測定により確認した.チャネル電流計測を行った結果,SVG28のナノポア形成率は90%となり,ポアの直径はおよそ1.7 nm付近の狭い範囲に収束することがわかった(図4a).

図4

(a)SVG28ナノポアの直径の分布.(b)SVG28ナノポアを用いたポリペプチドアミノ酸のナノポア計測.

将来的なアミノ酸シーケンスへの応用を目指し,SVG28を用いて分子量の異なるpoly-L-lysine(L-PLL,分子量50000~70000,S-PLL,分子量10000)の検出を試みた結果,電流阻害シグナルが再現よく観察され(図4b),阻害シグナルの持続時間の差異からL-PLLとS-PLLの識別に成功した16).SVG28を用いたナノポア計測では,ポリアミノ酸の検出と,その長さの違いに関しては識別が可能であったが,ストランドに含まれるアミノ酸の種類毎の識別は難しく,今後機械学習を利用したシグナル解析などさらなる検討が必要になる.

5.  おわりに

アミノ酸配列を人工的に設計することで,脂質膜中にナノポア構造を構築することに挑戦してきた.運良く複数のサイズのポアや,単一に近いナノポアの構築に成功した.この過程で,親水疎水の界面を持つ脂質二分子膜中で,どのようにアミノ酸配列を設計すれば3次元的な構造を作らせることができるのかに関し,多少なりとも理解ができたと感じている.今後は完全な会合数の制御を試みるほか,分子認識能のあるナノポア構築に挑戦していきたい.

ナノポアを利用したDNAおよびポリペプチドの検出手法は現在研究途上の分野であり,これらの高感度検出や迅速・簡便な検出が求められる分野において高く注目されている.今後,人工ナノポアの設計技術はタンパク質のde novo設計手法の発展とともに向上していくと予想される.1アミノ酸レベルでのポリペプチドの識別等,より高精度の検出が可能な人工ナノポアの誕生に期待したい.

最後に本研究は,疎水性の合成が難しいペプチドをイソアシルペプチド法で合成可能にしていただいた甲南大の臼井研究室,脂質膜中でのペプチド構造を固体のNMRで評価していただいた横浜国大の川村研究室,MDシミュレーションを行っていただいたモンゴル国立大のMijiddorj博士との共同研究でなければ得られなかった成果です.共同研究者と研究室の皆様に深く感謝いたします.また本研究は新学術領域「発動分子科学」をはじめ,複数の助成金の補助により成された成果であり,サポートに心から感謝いたします.

文献
Biographies

清水啓佑(しみず けいすけ)

東京農工大学大学院生命工学専攻

宇佐美将誉(うさみ まさたか)

東京農工大学大学院生命工学専攻

溝口郁朗(みぞぐち いくろう)

東京農工大学大学院生命工学専攻

藤田祥子(ふじた しょうこ)

東京農工大学大学院生命工学専攻

川野竜司(かわの りゅうじ)

東京農工大学大学院生命機能科学部門教授

 
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