生物物理
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若手の会だより
若手の会だより
~北海道支部「博士フェローシップセミナー」~
柴垣 光希
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2022 年 62 巻 5 号 p. 314-315

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はじめに

初めまして.生物物理若手の会北海道支部に所属しております,柴垣光希です.この度,生化学若い研究者の会北海道支部と合同で「フェローシップセミナー」と題したオンラインセミナーを開催しました.

昨今,博士課程学生への経済支援制度が拡充されています.特に北海道大学(以下,北大)では,令和3年度から始まった「DX博士人材フェローシップ」などにより,多くの博士課程学生が支援を受けられる状況です.一方で,現在は博士課程学生の経済支援状況の過渡期であり,具体的な支援の内容が学部や修士課程の学生にとって不透明な部分が多いという問題があります.そこで本セミナーでは,実際に支援を受けている大学院生の方々をお招きし,学部や修士課程の学生に向けてそれぞれの支援の具体的な内容や特色を伝えていただきました.本セミナーを通して,総勢51名の参加者へ経済支援についての情報を提供できたとともに,博士課程在籍中の先輩方に悩みを相談できる良い機会となり,博士課程への進学に前向きな印象を与えることができたと感じています.

開催概要と内容の総括

本セミナーでは,若手の会の活動紹介の後,5つのフェローシップについてそれぞれ採択者の方々にご講演いただき,最後に講演者の皆様とのパネルディスカッションを行いました(表1).修士1年の学生である私自身が本セミナーから得た重要な学びは,それぞれのフェローシップには相違点があるというものでした.本セミナー以前では,主に支給額の差に注目して比較検討していましたが,本セミナーにて各フェローシップに付随する参加必須プログラムの内容や,その負担の程度について知ることができました.一口にフェローシップといっても,教育プログラムとしての性質が強く,産学連携についての講義のような研究以外のカリキュラムが豊富なものから,経済支援としての色が強いものまでがあり,自身のキャリアパスを見据えてどのフェローシップを選ぶのかを考える必要があることに気付かされました.また,フェローシップの申請時には,募集要項を熟読して求められている人物像を理解し,それを意識して書類を作成することが重要であるというお話を聞くことができ,申請へ向けたより具体的なイメージを持つことができました.さらに,修士1年の早い段階で申請が必要なフェローシップの存在も知り,自分で情報を探しに行くことの重要性も再確認させられました.

表1 プログラムと講演者一覧
プログラム 講演者
開会式
「若手の会の活動紹介」
松浦暉さん 
生物物理若手の会北海道支部長
猪子雅哉さん 
生化学若い研究者の会北海道支部長
日本学術振興会特別研究員 石坂優人さん
北大DX博士人材
フェローシップ
千葉拓也さん
北大Ambitiousリーダー
育成プログラム
神田幸輝さん
北大アンビシャス博士人材
フェローシップ
伊東大輝さん
北大・日立協働
教育研究支援プログラム
吉澤晃弥さん
パネルディスカッション
~博士進学前の学生が知りたいこと~
司会:柴垣光希

パネルディスカッション(図1)では私が進行を務め,講演者の皆様に参加者からの質問に答えていただきました.関心の高かった話題の一つに,「博士修了後のキャリアパスについての不安」がありました.アカデミアでのポストの少なさや任期制による不安定な雇用への懸念があるという話題では,国内ではアカデミアのポストは少ないが,海外まで視野を広げたり,国内でも取り組む研究の分野を広げたりすれば雇用先が全く見つからないことはないのではないか,という意見が出ました.また,博士課程修了後の民間企業への就職は,修士課程修了時に就職をした場合と比較して,博士課程修了後の方が雇用の機会や生涯年収が減るのではないかという話題では,北大には博士学生の民間企業への就職活動を支援する「赤い糸会」というサポート体制があり,キャリア支援が充実しているという意見が出ました.実際に博士課程の中でキャリアを熟慮された年齢の近い先輩からご自身のキャリアデザインを聞くことができ,参加者の懸念が緩和されたのではないかと感じています.

図1

パネルディスカッション後の集合写真.様々な質問や相談への回答を提供できた.

オンラインでのフェローシップ周知の意義と今後

博士課程進学前の参加者の方に向けたセミナー後のアンケートにおいて,博士進学を考えている,または考えるようになったと答えた13人のうち,12人が「博士進学にあたって経済的な不安がある」と回答していました(図2).本セミナーの参加者が母集団であるというバイアスはありますが,博士進学には経済的不安が伴うという印象を持つ進学希望者がいることが分かります.今後もフェローシップの更なる拡充および周知を行っていくことで,博士進学を前向きに考える学生を増加させることができると思います.

図2

事後アンケート結果.

本セミナーはオンライン開催で,かつSNS等で広報を行ったこともあり,参加者のうち4割は北海道外の大学に所属していました.今回の内容は主に北大のフェローシップを対象としていましたが,今後他支部と合同で全国の大学の制度を紹介しあうような会を企画できれば,他大学への進学を検討している人にとって有益になります.このようなオンラインセミナーにより支部間の交流が活発化すれば,全国の若手研究者と交流ができるという若手の会の魅力1)がさらに増すだけでなく,地方学生の情報格差2)改善への一助にもなります.

若手の会活動のアウトリーチ

今回の参加者の学年内訳をみると,研究室に配属されているB4~M2が多いです(図3).学生にとって,若手の会に所属して年の近い研究者と研究の話ができる環境を得られることは,経済面以外での博士進学への不安を取り除くことにつながります3).多くの学生の博士進学に関する経済的・心理的不安を早い段階で軽減できれば,進学を視野に入れて学会発表をするなど,早くから積極的に研究活動へ関わろうとする学生も増えるのではないでしょうか.

図3

参加者の学年の人数内訳(全51人中).修士学生の他,多くの学部生にも参加いただけた.

博士進学というキャリアパスの更なる周知

博士課程の学生を取り巻く経済状況は改善されてきている一方で,博士課程終了後のキャリアパスについても非常に関心が持たれていることを本セミナーを通して感じました.フェローシップについての周知に加えて,博士課程修了後のキャリアを歩まれている先輩方と交流できるようなセミナーを今後開催できれば,具体的なキャリアプランの参考になり,より多くの学生にとって博士課程への進学がさらに魅力的に映るようになると考えます.

謝辞

本セミナーの開催を共同で開催していただいた生化学若い研究者の会の皆様に加えて,ご多忙の中素晴らしい発表をご用意して下さった講演者の皆様にも,心より御礼申し上げます.皆様のご尽力により大変実りのある会を開催できたと感じております.最後に,私に執筆の機会を与えて下さったことに感謝致します.

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