2022 年 62 巻 6 号 p. 327-330
生体分子の構造動態をサブ秒・ナノメートルの分解能で観察する高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用い,酵母プリオンSup35のアミロイド線維の伸長機構の詳細を明らかにした.線維末端への単量体付加による線維伸長の直接的な証拠が得られただけでなく,オリゴマーと線維の関係にも新たな知見を得ることができた.

Prions are self-templating protein conformations that form amyloid fibrils, highly ordered protein aggregates. We determined how the amyloid fibrils elongate from the monomeric state, using HS-AFM that can observe protein dynamics at sub-second and sub-molecular resolutions. We used the intrinsically disordered region of a yeast prion protein (Sup35NM) as a model, and successfully visualized the conversion of Sup35NM from monomers to oligomers and fibrils. This analysis not only provided direct evidence for the monomer addition to the fibril ends, but also sheds light on the relationship between oligomers and fibrils.
アミロイド形成タンパク質は,その立体構造を変化させ,β構造が交差したアミロイド線維を形成し,アルツハイマー病などの哺乳類の神経変性疾患や感染性プリオン病など多くの病態と関連している1).出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでは,多くのアミロイド形成タンパク質が同定されており2),酵母プリオンと呼ばれる遺伝子の変異を伴わない非メンデル型の遺伝的形質の伝播に関与している3).中でも,最もよく研究されている酵母プリオンタンパク質Sup35は,プリオン表現型の1つである[PSI+]の原因となるアミロイド線維を形成する4).[PSI+]に必須のSup35ドメイン(Sup35NM)のオリゴマー化や線維化の形成メカニズムに関しては,生化学的手法2)に加えて,蛍光異方性5),小角X線散乱6),分析超遠心法7),蛍光顕微鏡法8)などを用いて行われてきた.しかし,これらの方法では,Sup35NMのオリゴマー化や線維化に関わる構造とダイナミクスを同時かつ高空間分解能で評価することはできない.この限界を克服し,これらの動的プロセスに関する新たな知見を得るため,我々は高い時間および空間分解能を有し生体試料の形状と動きを直接可視化できる高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)9)-11)を用い,Sup35NMアミロイド線維形成のメカニズムの解明を試みた.その結果,Sup35NMのオリゴマー化や線維化の形成過程だけでなく,天然変性領域(Intrinsically Disordered Region: IDR)を含んだモノマーやオリゴマーの構造動態の観察も行い,Sup35NMの凝集体形成におけるIDRの役割について新たな知見を得ることができた.
はじめに,Sup35NMモノマーの構造ダイナミクスの観察に取り組んだ.Sup35NMモノマーは,特定の構造を持たずフラフラと動くIDRを含んでいるため,IDRの動態も観察しようとすると,凹凸が多い基板表面は使えず,基板は原子レベルでフラットなマイカ基板が唯一の選択肢となる.なお,マイカ表面は負に帯電しているため,溶液条件(イオン強度,pH)を調整し,静電相互作用をあらわにすることで,小さなIDRも固定されやすくなる.そのため,モノマーの動態観察は,イオン強度が非常に小さい条件(5 mM sodium phosphate (pH 7.0))で行った.さらに,Sup35NMは他のIDRタンパク質と比べ小さいため,時間分解能が50ミリ秒程度の高速観察が必要であった.このように,Sup35NMモノマーの構造動態観察は,従来のAFMの時間分解能では不可能であり,近年の高速AFM技術の進歩によって初めて可能となった.得られたAFM像から,モノマーは1つの球状コア構造を含んでおり,その球状構造を挟むように2本のIDRが存在し,この2本のIDRの長さは異なっていた(図1A).短いIDRと長いIDRの長さは,それぞれ7.0 ± 3.8 nmと14.5 ± 6.6 nmであった(図1B).球状部分の平均高さは1.0 ± 0.4 nm,短いIDRと長いIDRの平均高さはそれぞれ0.6 ± 0.3 nmと0.6 ± 0.4 nmであった(図1C).このIDRの高さはHS-AFMで観察された他のIDR中に含まれるIDRの完全に解けた状態での測定値~0.5 nmとほぼ同じで13),14),改めてSup35NMモノマーはIDRを含んでいることを確認することとなった.IDR予測サイトPONDRの予測結果では,Sup35NMのN末端80アミノ酸とC末端125アミノ酸がIDRと推測されているので,HS-AFMで観察された短いIDRがSup35NMのN末端,長いIDRがC末端側であると考えられる.

Sup35NMモノマーの構造動態とオリゴマー形成過程のHS-AFM観察.(A)モノマーのHS-AFM像.スケールバー,15 nm.イメージング速度,50ミリ秒/フレーム.(B)上,モノマー構造の概略図.下,モノマーの球状コア構造から延びている2本のIDRの長さ(S-G(青)およびL-G(赤)の分布.(C)2本のIDR(HS, HL)および球状コア構造(HG)の高さの分布.(D)Sup35NMオリゴマー形成過程のHS-AFM画像).スケールバー,20 nm.イメージング速度,200ミリ秒/フレーム(文献12より改変転載).
つぎに,モノマーからオリゴマーへの形成過程の構造ダイナミクスのHS-AFM観察に取り組んだ.尿素で変性させたSup35NMを希釈して(終濃度0.5 μM),200ミリ秒でHS-AFM観察を行うと,30分ほどで高さ約1.7 nmの粒子が観察された(図1D).この高さは,モノマーの球状コア構造(約1.1 nm)より高いことから,この粒子はオリゴマーであることが示唆された.オリゴマーの高さは,時間と共に徐々に増加し,3~4 nmでプラトーに達する12).なお,3~4 nmのオリゴマーを含む溶液を0.5 μMから10 nMに希釈しても,オリゴマーのサイズは変化しなかったことから12),オリゴマー形成反応は不可逆であるようだ.また,高濃度(1.5 μM)ではオリゴマーが急速に形成されるが,長時間経過してもオリゴマーの高さは3~4 nmを超えなかった12).これらの結果は,3~4 nmのオリゴマー形成が今回調べた条件下でのSup35NMの固有の特性であることを示唆している.なお,変性させたSup35NMを希釈してから数時間の観察では線維は現れなかった12).線維の形成には,溶液中と同様にAFMサンプルチャンバー内でも長い時間,通常2~3日かかる12).これらの結果は,オリゴマーが直接線維形成の種として作用していないことを示唆している.
Sup35NM溶液(0.5 μM)を4日以上インキュベートして調製した自然発生的なSup35NM線維を線維核として使用した.マイカ表面に固定化した形成済みのSup35NM線維に,新たに調製したSup35NMモノマー溶液(0.5 μM)を加えると,モノマー添加後3分以内に線維の伸長が認められた(図2A).モノマー添加後3分未満の時間は,モノマーからのオリゴマー形成に十分な時間ではないため12),線維は,オリゴマーではなくモノマーが線維端に結合することで,伸長することを示唆している.また,オリゴマーが線維伸長に関わっていると仮定すると,オリゴマーの大きさ程度(3~4 nm)の離散的なステップ状の伸長が観察されることが予想される.しかし,オリゴマーを含むSup35NM試料を添加し,高い空間分解能(ピクセルサイズ,0.5~1 nm)および100ミリ秒の時間分解能で観察した場合でも,線維は離散的なステップなしに滑らかに伸長した(図2B).線維伸長は,モノマーが線維末端に取り込まれた後,取り込まれたモノマーが徐々に線維構造の一部に変換されていることで生じると考えられる.これまで,線維核にオリゴマーではなくモノマーが結合することで線維が伸長するというモノマー結合伸長説(モノマーアディション)が示唆されているが5),今回のHS-AFM観察は,モノマー結合伸長説を直接的に検証した初めての報告である12).

Sup35NM線維伸長過程のHS-AFM観察.(A)伸長しているSup35NM線維の連続HS-AFM像.スケールバー,20 nm.ピクセルサイズ,1 nm.イメージング速度,100ミリ秒/フレーム.(B)Sup35NM線維伸長の時間経過.異なる線は異なる線維を示す.挿入図は,赤線で示した線維の11~14秒までのタイムコースの拡大図(文献12より改変転載).
つぎに,HS-AFMで明らかとなったオリゴマーや線維間に形成される隙間構造(ギャップ構造)について紹介する.時間分解能5秒のHS-AFM観察において,オリゴマー間に空間的ギャップが生じている様子が観察された(図3A).これは,オリゴマーが相互に反発しあっていることを示唆している.また,線維とその周囲のオリゴマーの間にも空間的ギャップが観察された(図3A).隣接するオリゴマー間のギャップサイズは約6 nm,線維と隣接するオリゴマー間のギャップサイズは約10 nmであった12).各粒子間の静電的反発がこのギャップの原因である可能性も考えられたが,観察溶液のイオン強度におけるDebye Hückel距離は約0.72 nmであり,ギャップ距離よりもはるかに短く,さらに粒子間距離が塩濃度に依存しないことも確認している12).したがって,粒子間の静電的反発がこの粒子間距離の原因である可能性は非常に低い.そこで,観察されたギャップはオリゴマーや線維から伸びるSup35NMのIDRに由来すると考え,60ミリ秒の時間分解能で単一オリゴマーを観察した(図3B).その結果,オリゴマー周辺にもIDR領域が存在していることが明らかとなった.この各オリゴマーから延びているIDRによってオリゴマー間の相互作用が妨げられていると考えられる.一方,線維周辺のギャップ構造は,1秒/フレームのイメージング速度でも確認できたことから,線維から伸びる構造はIDRではなく特定の立体構造を持っていることが分かった(図3C)(IDRの構造動態は,50~60ミリ秒以上の時間分解能で観察しないと可視化できない).興味深いことに,線維周辺の構造体は線維の側面でのみ観察され,線維末端では観察されなかった(図3D).また,線維末端では,非常に近い距離までオリゴマーが接近できることが観察された12).すなわち,線維末端とは異なり,線維の側面には,IDRとは別にオリゴマーやモノマーとの相互作用を積極的に拒む構造体が存在していると考えられる.この構造体の役割については不明であるが,分岐を伴わない直線的な線維伸長において重要な役割を担っている可能性がある.

オリゴマー間,オリゴマーと線維間の空間的ギャップ.(A)空間的ギャップを示すHS-AFM像.白矢印:線維の周囲に存在するオリゴマー.スケールバー,50 nm.イメージング速度,5秒/フレーム.(B)オリゴマーを高時間分解能で観察したHS-AFM像.上,Sup35NMオリゴマーのHS-AFM像.スケールバー,10 nm.イメージングレート,60ミリ秒/フレーム.下,上図の画像の高さをレインボーカラーで表示した図.(C)Sup35NM線維のHS-AFM像.スケールバー,30 nm.イメージングレート,1秒/フレーム.(D)(C)のAFM像の高さをレインボーカラーで表示した図(文献12より改変転載).
HS-AFMを用いて,Sup35NMモノマーの構造動態,オリゴマーや線維の形成過程をサブ秒およびサブナノメートルの分解能で直接可視化した.この観察により,線維伸長はオリゴマー付加のような離散的なステップなしにスムーズに起こり,モノマーのIDRが線維末端に取り込まれ,その後,クロスβ構造への構造変換が徐々に起こると考えられる(図4).クロスβ構造は,モノマーが線維軸と垂直方向にβ鎖構造をとり,さらに線維軸方向に他のモノマーとβシート構造をとる構造で,アミロイド線維に見られる特徴的な構造である.Sup35NMオリゴマーは互いに分散したままであり,線維も分散していた.HS-AFM観察により,各オリゴマーに存在するIDRが互いに反発しあうことで,隙間が形成されていることが示唆された.オリゴマーが核になりにくいのは,このIDRが引き起こす構造的ギャップが原因であると考えられるが,線維核の実体はいまだ不明である.最後に,アミロイドに関する研究は,アミロイド線維の伸長機構の解明を中心に展開されてきたが,形成されたアミロイド線維の脱凝集や分断メカニズムの解明も非常に重要である.実際,プリオン線維が分子シャペロン(Hsp104とHsp70系)によって脱凝集されることで,それが小さな線維核となり,細胞分裂後の娘細胞に伝播されることが分かっている.脱凝集の詳しい分子メカニズムについても不明な点が多いが,最近,in vitro再構成系におけるアミロイドの脱凝集反応観察系が確立され,脱凝集の分子機構についても明らかになりつつある15).アミロイド線維の伸長メカニズムだけでなく,脱凝集機構の理解にもHS-AFMの活躍が期待される.

Sup35NMが作るオリゴマーとアミロイド線維の形成機構モデル.オリゴマーはアミロイド線維形成に関与せず,アミロイド線維が伸びる際には,モノマーのIDRが線維末端に結合してから徐々にアミロイド線維に取り込まれる.
名古屋大学・内橋貴之教授,金沢大学・古寺哲幸教授には高速AFM観察や得られたデータに対する議論など多岐に渡りご協力頂いた.この場を借りて感謝申し上げたい.
紺野宏記(こんの ひろき)
金沢大学ナノ生命科学研究所准教授
中山隆宏(なかやま たかひろ)
金沢大学ナノ生命科学研究所准教授
安藤敏夫(あんどう としお)
金沢大学ナノ生命科学研究所特任教授
田口英樹(たぐち ひでき)
東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター教授