生物物理
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メラトニン受容体の活性化における構造基盤
岡本 紘幸濡木 理
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2022 年 62 巻 6 号 p. 341-344

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Abstract

メラトニン受容体は睡眠障害の治療標的として注目を集めるGタンパク質共役型受容体だが,詳細な活性化機構は不明であった.本稿では,クライオ電子顕微鏡による解析で得られた立体構造情報から解明された,睡眠障害の治療薬によってメラトニン受容体が活性化し,下流のGタンパク質と共役する詳細な構造基盤を紹介する.

1.  はじめに

睡眠は我々の生命維持に必須であり,多様なホルモンで複雑に制御される.その中でもメラトニンは睡眠の誘導で中心的な役割を果たし,概日リズムの調節という機能も担う.その過程で,Gタンパク質共役受容体(GPCR)のメラトニン受容体が活性化し,Gαi,Gβ,Gγで構成されるGiタンパク質三量体による抑制性シグナルが伝達される.その生理作用ゆえにメラトニンおよびメラトニン受容体は睡眠障害の治療標的として注目され,様々なメラトニン類似化合物が開発されてきた.2019年にメラトニン受容体の立体構造がX線結晶構造解析で解明されたが,熱安定性変異などが導入されたことで,受容体を活性化させる作動薬が結合しているにも関わらず不活性状態の構造であり,メラトニン受容体の活性化機構は不明なままであった.筆者らは野生型のメラトニン受容体MT1とGiタンパク質三量体との複合体(MT1-Gi複合体)の立体構造を解明し,メラトニン受容体の活性化機構を解明することを目指した.本稿では,立体構造から得られたMT1の活性化メカニズムと,Giタンパク質三量体との複合体形成の構造基盤について,筆者らの研究成果を含めた最新の知見を紹介する1)

2.  メラトニン類似化合物の探索と構造生物学研究

メラトニン受容体はMT1とMT2の2つのサブタイプがあり,両者を標的とした睡眠障害治療薬,MT2を標的とした糖尿病治療薬が開発されてきた.このような化合物を効率的に探索するために,メラトニン受容体の構造情報が長らく求められてきた.2019年に,作動薬と結合した結晶構造がMT1とMT2それぞれについて報告された2),3).一連の結晶構造から作動薬の認識機構が解明され,作動薬は細胞外からでなく受容体側面に空いた穴から直接アクセスするモデルが提唱された.翌年には,結晶構造を用いた大規模なin silicoスクリーニング研究が報告され,MT1あるいはMT2選択的に作用する化合物がそれぞれ報告された4),5).このようにメラトニン受容体の結晶構造は,メラトニン類似化合物の探索を大きく進展させたが,結晶化のために導入された熱安定性変異と融合タンパク質により,作動薬結合状態にも関わらず受容体が不活性化状態を示した.そのため,作動薬の結合から受容体の構造変化を経てGiタンパク質との結合に至るまでのメラトニン受容体の活性化メカニズムは不明なままであった.

3.  メラトニン受容体シグナル伝達複合体の立体構造

MT1単独での精製は困難であり,作動薬ラメルテオンを用いた粗精製の途中でGiタンパク質三量体を添加しMT1-Gi複合体を形成させ,精製に成功した.その後クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析を行い,平均分解能3.3 ÅでMT1-Gi複合体の立体構造を決定した(図1).MT1の全体構造は結晶構造と同様で,第2細胞外ループ(ECL2)がリガンド結合部位を覆うことで細胞外に対し閉じた構造を示していた.Giとの複合体界面では,これまで報告されたGi複合体と同様にMT1の細胞内側に空間が生じ,Giタンパク質三量体を収容していた.

図1

(左)MT1-Gi複合体の全体構造.(右)受容体側面の穴と,リガンド結合部位での相互作用.

4.  リガンドのアクセスモデル

結晶構造と同様に,MT1の側面には第4膜貫通ヘリックス(TM4)とTM5の間に穴が空いていた(図1).結晶構造で提唱されたリガンドのアクセスモデルを検証するために,筆者らは分子動力学シミュレーションを実施した.MT1-Gi複合体からGiタンパク質三量体を取り除いたMT1を用いてラメルテオン有無の2条件で400 nsのシミュレーションを行い,穴の入口のAla158(TM4)とHis195(TM5)の距離を測定した.ラメルテオンが有る条件では,無い条件に比べて2残基間の距離が近づいたことから,ラメルテオンの結合で穴の入口が閉じやすくなり,リガンドが保持される機構が推定された.さらに2022年に報告されたMT1-Gi複合体とMT2-Gi複合体の立体構造では,筆者らの構造に比べて受容体側面の穴付近の局所分解能が高く,MT1がAsn162(TM4)とTyr187(TM5)の水素結合で穴の入口を狭める一方,MT2は逆にこの水素結合が活性化に伴って消失することが明らかとなった6).また,筆者らのシミュレーションで着目したHis195(TM5)はVal111(TM3)の主鎖と水素結合を形成している様子が明らかとなった.実際にリガンドが受容体側面の穴からアクセスする様子を捉えるには,アポ状態の立体構造を含め更なる情報が必要だが,一連の研究で受容体側面からアクセスするモデルを支持する結果が得られた.

5.  リガンド結合から受容体の活性化に伴う構造変化

リガンド結合部位は結晶構造とよく似ていたが,ラメルテオンのアルキルアミド基に近接する4つのアミノ酸残基(Thr188, Val191, Val192, Leu254)に筆者らは着目した(図1).これらをアラニン置換した変異体によるGi活性化能をNanoBiT-Gタンパク質アッセイで評価したところ,各変異体の活性低下に加えて四重変異体の顕著な活性低下が見られた.このことから,筆者らの着目した4つのアミノ酸残基が受容体の活性化に重要であることが明らかとなった.さらにリガンド結合部位の近くのPhe179は,結晶構造でMet200と相互作用して不活性化状態を安定化していたが,受容体の活性化に伴い大きく構造変化した.その結果,クラスA GPCRの間で保存された活性化モチーフ(受容体の活性化に伴い構造変化する一連のアミノ酸残基群)である「トグルスイッチ」のTrp251に近接した.Phe179のアラニン置換変異体のGi活性化能が低下したことから,Phe179がリガンド結合部位の構造変化を活性化モチーフに伝達することで活性化に重要な役割を果たすことが明らかとなった.この「トグルスイッチ」を含めCWxP,PIF,NPxxY,DRYという活性化モチーフは,これまでの研究と同様の構造変化を示した.各モチーフの構造変化の詳細は省略するが,最終的にMT1の細胞内側に空間が生じることでGi三量体の結合が可能となっていた.また,MT1-Gi複合体はTM6が大きく折れ曲がる構造的な特徴を示し(図2),2022年に報告されたMT1-Gi複合体とMT2-Gi複合体の立体構造でも確認された6).クラスA GPCRのTM6は活性化に伴い折れ曲がり,Gi複合体はGs複合体に比べてその構造変化が小さいことが知られ,この構造変化の違いは,GiとGsという対照的なシグナルの選択的な伝達に大きく寄与すると議論されてきた.しかしMT1-Gi複合体はGi複合体にも関わらず,Gs複合体のようにTM6が大きく構造変化した(図2).これは過去に報告されたGi複合体の立体構造で見られなかった特徴で,筆者らの後で報告されたGPCR-Gi複合体にも同様の特徴を示す構造は存在していない(2022年9月現在).この特徴は,他のGi共役型受容体ではTM6の下側に親水性残基が分布する傾向にあるのに対して,MT1の同じ位置に芳香族アミノ酸のPheが断続的に分布することに起因していると筆者らは考え,この領域のアミノ酸配列の比較を実施した.すると,MT1と同様にTM6に特徴的な配列を有するGi共役型受容体が存在することが明らかとなった.以上からGiとGsのシグナル伝達の選択性に,TM6の構造変化の程度が大きく寄与しない可能性が考えられた.

図2

(左)MT1-Gi複合体と結晶構造(PDB: 6ME2)でのMT1の構造比較.(右)μOR-Gi複合体(PDB: 6DDE)とβ2AR-Gs複合体(PDB: 3SN6)とのTM6の構造比較.

6.  Gi三量体との相互作用とGタンパク質の選択性

GiシグナルとGsシグナルの選択性を決める要因を議論するために,MT1-Gi複合体と他のGi複合体,Gs複合体の立体構造を比較した.他のGPCR-Gタンパク質複合体と同様に,MT1とGiの界面はMT1の細胞内側とGαiのC末端にあるα5ヘリックスの相互作用で主に形成されていた.しかし受容体とGiの相対位置は,Gi複合体間で異なることが明らかとなった(図3).Gαiのα5ヘリックスにあるGly352のカルボニル基とGPCR間で保存されたArg(TM3)との水素結合はGi複合体間で共通だが,相互作用はその一点のみであるため,受容体とGiは様々な結合様式を取れる.NTSR1-Gi複合体が2つの異なる相対位置を示すという2018年に報告された現象からも妥当だと考えられる7).対照的にGs複合体は,Gαsのα5ヘリックスのTyr391と受容体間で保存されたArgのπカチオンスタッキング相互作用が共通であり,これによって受容体とGsの相対位置が強固に制約される機構が明らかとなった.また,Gs複合体は受容体の細胞内側の空間が閉じないのに対し,Gi複合体は受容体の細胞内側が相対的に閉じた構造を示した.Giシグナルを選択的に伝達するMT1は特に空間が狭く,Gsの結合を排除していると考えられた.以上から,受容体の細胞内側の空間の立体的な特徴と,Gαのα5ヘリックスと受容体との相互作用形式の違いが,GiシグナルとGsシグナルの選択性に寄与すると考えられた.さらにGs複合体ではGαsの疎水性ポケットに受容体の第2細胞内ループ(ICL2)の疎水性アミノ酸が収容される機構が共通しているのに対し,MT1も含めGi複合体にはICL2で相互作用を形成しない構造が一定数存在した.以上から,ICL2での相互作用の有無もGiシグナルとGsシグナルの選択性に寄与すると考えられた.

図3

(左)細胞内側から見た,シグナル伝達複合体の構造比較.受容体と,GαのC末端のα5ヘリックスのみを表示.(右)受容体と,GαのC末端のα5ヘリックスの相互作用形式の比較.

一連の構造比較から,GiシグナルとGsシグナルの選択性に寄与する要因がいくつか明らかとなったが,選択性の完全な理解には立体構造を含めた情報が不足している.さらにGαタンパク質は大きく分けて4種類(Gs, Gi/o, Gq/11, G12/13)が知られ,βアレスチンなど他のシグナル伝達タンパク質を含めたGPCRのシグナル伝達の選択性を包括的に理解するには,依然として研究が不十分である.最近では,同一の受容体ながら複数種類のGタンパク質によるシグナルを伝達するGPCRについての立体構造がいくつか報告されており,シグナル伝達の選択性への理解が期待される8)-10)

7.  終わりに

今回筆者らは,MT1-Gi複合体の立体構造からMT1の活性化メカニズムと,それに伴いTM6が特徴的な構造変化を示すことを見出した.さらに他のGPCR-Gタンパク質複合体との構造比較から,GiシグナルとGsシグナルの選択性に受容体の細胞内側の空間的な特徴が寄与することを提唱した.ここ数年のクライオ電子顕微鏡による構造解析技術の目覚ましい発展により,筆者らを含む世界中の研究グループが数多くのGPCR-Gタンパク質複合体の立体構造を報告してきた.Gタンパク質を含むシグナル伝達タンパク質と受容体が選択的に結合・活性化する仕組みを解明するために,もちろん新たにシグナル伝達タンパク質との複合体の立体構造を解明することも重要だが,蓄積された構造情報を統合して解釈し直す研究の進展も大いに期待される.

文献
Biographies

岡本紘幸(おかもと ひろゆき)

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程2年

濡木 理(ぬれき おさむ)

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授

 
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