生物物理
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2022 年 62 巻 6 号 p. 365-366

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プリオン Prion

タンパク質性の感染因子のことで,クロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病などで知られる哺乳類の神経変性疾患研究から見つかってきた.プリオンでは何らかの原因で生じた異常型構造(アミロイド線維)のタンパク質が自己触媒的に正常型を異常型に変換しながら増殖する.この増殖サイクルを起こすタンパク質は哺乳類ではPrPとして知られているが,出芽酵母にはPrPと関係のない10種類以上のタンパク質が「プリオン」になることが分かっている.その代表例がSup35という今回の研究で用いているタンパク質である.(327ページ)(紺野ら)

高速原子間力顕微鏡(高速AFM) High-speed atomic force microscopy

原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)は探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状をナノメートル(10–9 m)程度の高い空間分解能で可視化する顕微鏡.高速AFMは金沢大学の安藤敏夫特任教授のグループによって開発された超高速で観察できるAFMで,サブ秒(~0.1秒)という時間分解能でタンパク質などの生体分子の形状や動態を観察することができる.(327ページ)(紺野ら)

ひずみ効果 Strain effect

酵素において,基質に生じた構造ゆがみが遷移状態の形成に有利に働いて反応を容易にする効果.(331ページ)(藤澤,海野)

密度汎関数法:B3LYP/6-31+G** Density functional theory: B3LYP/6-31+G**

電子密度に基づいた量子化学計算手法で,安定構造の探索や各種スペクトルの予測ができる.本稿では具体的な計算方法を表す汎関数にB3LYP,原子軌道を模した基底関数に6-31+G**を用いた.(332ページ)(藤澤,海野)

310様構造 310-like structure

アミノ酸残基3つで1巻する310-ヘリックスに似た構造.(332ページ)(藤澤,海野)

複眼原基 Eye imaginal disc

完全変態昆虫において,成虫の組織は幼虫期に用意された成虫原基と呼ばれる円盤状の組織から産み出される.複眼原基は変態の過程で成虫の複眼へと変化する.(334ページ)(佐藤)

バーテックスモデル Vertex model

細胞を複数の頂点が構成する辺によって表現する数理モデル.細胞の周長と面積(および体積)等をもとに定義したポテンシャル関数を用いて頂点の運動を計算し,細胞形態の変化をシミュレーションするために用いられる.(335ページ)(佐藤)

色素細胞 Pigment cell

昆虫の複眼において個眼を構成する細胞の一種で,ショウジョウバエの場合は赤い色素を産生する.ここでは最も主要な第一色素細胞(primary pigment cell)に着目している.発生の過程で急速に成長し,レンズを分泌するコーン細胞を取り囲む.(336ページ)(佐藤)

反応拡散方程式 Reaction-diffusion equation

化学反応と拡散による化学物質の濃度の時空間変化を表す偏微分方程式.2変数(2物質)を用いると,進行波や定常な空間パターン(チューリングパターン)を表すことができる.(338ページ)(野口,爲本)

ブラッセレーター Brusselator

ブリュッセルのプリゴジンのグループにより提案された2変数の化学反応方程式による模型.2体,3体の化学反応を模型化している.(338ページ)(野口,爲本)

FitzHugh-南雲模型 FitzHugh-Nagumo model

神経細胞上での活動電位の伝播を表すために提案された2変数の反応拡散方程式.一定以上の刺激により進行波を生じるという興奮性の応答を表すことができる.(338ページ)(野口,爲本)

NanoBiT-Gタンパク質アッセイ NanoBiT-G protein dissociation assay

東北大学の井上飛鳥教授らが開発した手法で,GPCRによる活性化に伴ってGα,Gβ,GγによるGタンパク質三量体が乖離する現象を利用し,分割ルシフェラーゼシステム(NanoBiT)をGαとGγにそれぞれ融合することで発光を指標にGPCRの活性化レベルを測定する.(342ページ)(岡本,濡木)

活性化モチーフ CWxP, PIF, NPxxY, DRY

Class A GPCRで高度に保存されたアミノ酸残基群のうち,GPCRの活性化に伴って構造変化を示すものを活性化モチーフと呼ぶ.具体的には,TM6の跳ね上がりに寄与するCWxPとPIFや,TM7の受容体内側へのシフトに寄与するNPxxY,Gタンパク質との相互作用に重要なDRYといったモチーフが主に知られている.(342ページ)(岡本,濡木)

液-液相分離 Liquid-liquid phase separation: LLPS

溶液が複数の区別できる液相に分離する現象.LLPSにはsegregativeなものとassociativeなものがある.SegregativeなLLPSは物質の混合がエネルギー的に不利な環境下で生じる.associativeなものは物質間の会合に起因しておりコアセルベーションとも呼ばれる.(345ページ)(佐藤,瀧ノ上)

コアセルベーション Coacervation

AssociativeなLLPSの一種.液中に分散している物質(コロイド)が希薄な液相と濃密な液相に分離し,物質が濃密な液滴(コアセルベート)が形成される.なおコアセルベートは生命の起源の研究で長く研究されている.(345ページ)(佐藤,瀧ノ上)

トランスクリプトーム解析 Transcriptome analysis

RNA-seq法などにより遺伝子発現を網羅的に解析すること.(348ページ)(沖,大川)

空間バーコード配列 Spatial barcode sequence

10X Visiumなどに使用される技術で,基盤上に各空間座標に特有な10塩基程度の配列を付したオリゴDNA.(348ページ)(沖,大川)

ライセート Cell lysate

Proteinase Kなどによる細胞や組織の溶解物.(349ページ)(沖,大川)

単粒子解析 Single particle analysis(特に低温電子顕微鏡を用いた単粒子解析は,single particle cryo-EM)

電子顕微鏡を用いたタンパク質構造解析手法の1つ.低温電子顕微鏡の場合,薄氷に包埋したタンパク質を撮影した電顕画像から多数のタンパク質像(単粒子像)を取り出し,それらを平均化・再構成することで,タンパク質の3次元構造を得る.(354ページ)(岸川,横山)

ウェアラブルデバイス Wearable device

手首や頭など,身体(の一部)に装着し,生体信号の取得やメッセージの送受信,あるいはコンピューティング機能等を有する小型の装置.情報通信技術や半導体技術の進展に伴い,近年著しい発展を遂げている.(357ページ)(岸ら)

ランドスケープ Landscape

全体の風景,地形,様相のこと.我々の研究では,大規模睡眠解析に基づきヒトの睡眠パターンを16種類に分類した.すなわち,ヒトの睡眠の全体的な風景・様相を描くことに成功した.(357ページ)(岸ら)

ゴールド・スタンダード Gold standard

その分野で最も標準的な方法のこと.睡眠研究においては,脳波・眼電図・筋電図に基づく睡眠状態評価が最も正確で標準的である.これに対して,加速度計などから推定される睡眠覚醒状態の推定精度評価が行われる.(357ページ)(岸ら)

Wang-Landau法 Wang-Landau method

マルコフ連鎖モンテカルロ法によって状態密度を求める手法のひとつ.既に出現したエネルギーが出現しにくくなるよう1ステップごとにエネルギーの重みを更新するのが特徴で,詳細釣り合いを満たさない.(361ページ)(菊池)

 
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