生物物理
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支部だより
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~女子中高生のための関西科学塾~
原田 慶恵
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2022 年 62 巻 6 号 p. 370-371

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「女子中高生のための関西科学塾」の始まり

少子化が進む日本では,将来の理工系の人材として,「女性」に注目が集まっています.大学や企業が理系女性研究者育成の重要性に気づき始めてから,何年も経過していますが,女性研究者の数は,思うように増えません.日本の女性研究者比率が低い原因として大学の理工系学部に入学する女子学生の数が少ないという問題があります.

このような社会的背景の中で,理工系の学協会で作る男女共同参画学協会連絡会が,女子中高生に科学のおもしろさを体験してもらい,理工系の進路選択を後押ししようということで,2005年に埼玉県にある国立女性教育会館で「女子中高生夏の学校」を始めたのが,本活動のきっかけです.関東でのイベントの参加が難しい関西地区の女子中高生のために同じような活動を展開しようと,関西地区の男女共同参画学協会連絡会関係者の有志が,2006年から始めたのがここで紹介する「女子中高生のための関西科学塾」の活動で,開始から今年で17年目となります.

「女子中高生のための関西科学塾」の概要

現在,関西科学塾は京都大学,大阪大学,神戸大学,奈良女子大学,大阪公立大学の5つの大学が協力して行っています.各大学が1年ごとに持ち回りで幹事校となり,その年度の関西科学塾を実施しています.

開催当初は各大学が半日で行う実験講座に近隣から60人程度が参加するイベントでしたが,年ごとに内容を充実させ,現在は5大学でおよそ30の実験講座,企業訪問,講演会などを年6回に分けて開催しています.関西地区だけでなく中部地方や中国地方からの参加者もふくめ,年総計およそ400人の女子中高生が参加する大規模なイベントになりました.

関西科学塾開始3年目の2007年度からは科学技術振興機構(JST)の「女子中高生の理系選択支援事業」に応募し採択され,いただいた支援金により運営してきました.しかし,関西科学塾をより安定かつ継続的に運営するため,競争的資金による運営ではなく,本活動の理念に共感いただいた企業等から資金提供を受けることとし,2017年に「一般社団法人関西科学塾コンソーシアム」を立ち上げました.現在は関西科学塾コンソーシアムの賛助会の企業等の賛助会費によって運営しています.

今年度の活動

今年度は大阪大学が幹事校を務め,A日程からF日程まで6つのイベントを企画しています.全日程定員合計424名の参加者の募集を5月から開始しました.コロナ禍のため,2020年度はすべてがオンライン実施に,2021年度はF日程以外オンライン実施となりました.今年度もまだまだ新型コロナの感染が収まっておらず,参加者の確保や実験講座の実施も心配したのですが,延べ1402人の申し込みがあり,参加者を決めるためにやむを得ず抽選を実施しました.

7月30日に大阪大学豊中キャンパスの大学会館で初回のA日程を久しぶりの対面で実施しました(図1).参加者は女子中高生99名,同伴者46名でした.前半は4名の講師の方の講演を聞きました.大学教員,研究所や企業の研究者など幅広い研究者を講演者にお招きし,事後のアンケートでもとても好評でした.

図1

参加者集合写真(A日程)

後半は参加生徒さんと同伴者を分けて交流会を実施しました.99人の参加生徒さんは数人ずつに分かれて,高校での教科選択や大学の勉強だけでなく,アルバイトの話や卒業後の話など大学教員や学生や過去に関西科学塾に参加したことがあるOG会員に熱心に質問をしていました(図2).46人の同伴者は引率の高校教員,保護者両親,兄弟姉妹などで,大学教員との交流会を実施しました.研究者として大学に残る以外の選択肢について,就職先の選択について,女子の理系選択の是非についてなどたくさんの質問があり,時間が足りないほど盛況でした.

図2

参加生徒と大学生,大学院生,大学教員,関西科学塾OG会員との交流会

続けて8月3にはB日程として企業訪問を企画しました.関西科学塾コンソーシアムの賛助会員のロート製薬株式会社の研究所「ロートリサーチビレッジ京都」を訪問しました.この企画はとても人気があり申し込み者数が定員を大きく上回り倍率12倍以上の抽選で参加者を選びました.当日は猛暑の中,22名が参加しました(図3).

図3

参加者集合写真(B日程)

研究所についての簡単な説明のあと,小グループに分かれて研究員の方に引率していただき①日やけ止め研究グループ②検査薬研究グループ③スキンケア研究グループの研究について紹介していただきました.最新の機器の見学や検査薬を使った簡単な実験も行い,最後には研究員さんや広報の方のお話をお聞きし,お土産もいただき解散しました.当初予定していた研究者とのコミュニケーションランチは残念ながら新型コロナ感染拡大の影響で直前に中止となってしまいましたが,解散後も残って研究員の方に熱心に質問する生徒さんもいて,とても楽しく交流ができました.

10月にはC日程として京都大学,大阪公立大学で中学生を対象に,11月にはD日程として神戸大学,奈良女子大学で高校生を対象に実験講座の準備をしています.さらに,12月にはE日程としてやはり関西科学塾コンソーシアムの賛助会員の日東電工株式会社の茨木事業所inovas[イノヴァス]を訪問する予定です.

年度の最後のF日程は2日間の日程で,グループに分かれて,1日目に行った実験について2日目にレポートにまとめて発表会を行い,賞を競い合うほか,大学生や大学院生とも交流できる,人気のイベントです.長年1泊2日の合宿形式で行ってきましたが,コロナ禍の影響で昨年度から宿泊をやめて2日間通いでの企画としました.今年度は大阪大学豊中キャンパスの8つの研究室で実験を行います.日本生物物理学会からは,毎年,F日程の参加者に配布するグッズのご提供をいただいており,大変感謝申し上げます.

女子中高生のための関西科学塾の成果

関西科学塾のこれまでの参加者は3000人を超え,すでに高校を卒業した参加者も1600人を超えています.高校卒業時に送ったアンケートに回答してくれた卒業生の77%が理系に進学しています.女子学生が少ない工学部に進学した方や,関西科学塾で参加した実験講座に魅了され,その大学に進学しその後,実験講座を行った研究室に進学した方もいます.

また,関西科学塾卒業生がOG会を組織し,現在75人程度の会員が在籍しています.OG会メンバーから10人程度の方が,関西科学塾のA日程やF日程での女子中高生との交流会に参加したり,広報担当者がSNS発信をしてくれたりと卒業後も関西科学塾にかかわってくれています.生き生きとしてとても楽しそうなOG会のメンバーに会うと,長年本活動を続けてきて良かったと思います.

これからも女子中高生に理系のおもしろさを伝え,理系好きな女子中高生が自由に進路を選択できるように,後押しする本活動を続けていきたいと思います.

女子中高生のための関西科学塾のホームページをご覧ください.http://www.kansai-kj.org/index.html

 
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