生物物理
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若手の会だより
若手の会だより
~ストレスを撲滅したい筆者のストレス予防法~
奥田 裕己
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2022 年 62 巻 6 号 p. 372-373

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はじめに

関西支部の奥田裕己と申します.神戸大学大学院医学研究科にて,慢性ストレスが脳の神経回路に与える影響を調べています.ストレスへの抵抗力を上げるにはどうすればいいか,基礎研究を行いつつ,私生活で様々な方法を試しながら,日々考えています.

大学院生活はストレスフルだと感じていませんか?良い研究計画が書けない,実験が失敗続き,自身の能力の低さに失望したりなど….ストレスを感じると,思考力や気力が落ち,研究や私生活の質が悪化します.ストレスを減らすスキルは,大学院生活を生き抜く上で必須です.ストレスは,溜まる前に予防することが重要です.そこで今回は,筆者がオススメする,ストレス予防の考え方を3つ,行動を3つ紹介します.

【ストレスが減る考え方3選】

① 他人と結果は制御できないことを思い出す

他人の感情と,努力の結果は,完璧には制御できません.これは,ストレスを極限まで減らす上で非常に重要な事実です.私達がすべきでないことは,制御できないものを,制御できる,制御しないといけないと錯覚することです.他人を変えようとしても無駄です.自分の働きかけ程度で他人が変わるなら,戦争はなくなり,犯罪者はいなくなります.また私達は,幼少期から点数を付けられてきたためか,結果は制御できると誤解しています.現実の世界では,あなたとは関係のない運要素で結果が変わってしまいます.例えば,提出した論文の査読者が,査読前に家族と大喧嘩して非常に機嫌が悪いときは,どんなに良い論文でも厳しく見られるでしょう.逆に,気分が非常に良い状態だと,つい甘めに査読するかもしれません.こうした要素を全て自分で制御するなど不可能です.「全ては自分の責任と考えて努力すること」と,「全てをコントロールできると考えること」は,全くの別物です.

② 自分のありのままを受け入れる

ストレスのない生活を手に入れるには,自分のありのまま,特に長所と短所を受け入れる必要があります.私達の長所や短所は,幼少期から続くクセや気質が根底にあります.筆者にも,物静かな気質や,物忘れのクセ,興味がないことに全く身が入らないといったクセが,子供の頃から残っています.

周りに「優秀なあの人」がいて,「優秀じゃない私」と比べていませんか?このとき,優秀なあの人の長所と,優秀じゃない私の短所を比べていませんか?自分の短所を他人と比べている限り,ストレスを感じ続けます.他人との比較で落ち込まないように,自分の長所を磨き,短所を捨てる勇気が必要です.

自分の長所と短所を再認識しましょう.自分の良いところを,友達や家族に聞いてみましょう.また,自分の短所を直させようとする人とは会わないようにしましょう.そして,長所を使って小さな成功体験を積んでいきましょう.長所の活かし方が分かってくれば,自分の短所が気にならなくなり,自分を受け入れることができるようになっていきます.

また,もし,長所を磨いても勝てないと感じる優秀なあの人がいれば,「普通であることの勇気」を持つことも必要です.自分の優越性を誇示することをやめ,自分なりの長所を磨き,自分の人生を作りましょう.考えることは,与えられたものをどう使うかです.私達は同じ山を登っているのではありません.あの人とあなたが登っている山は,別の山なんです.

③ 妄想,判断しない

人のストレスは,妄想,出来事に対する判断から生まれます.これは,古代インドの賢人ブッダの考え方で,『反応しない練習』1)という本で詳しく解説されています.ここでは簡単にご紹介します.

妄想はストレスの源です.特に調子が悪いときは,悪い妄想が止まらなくなります.試験に落ちるんじゃないか,学位が取れないんじゃないかといった妄想です.妄想したことは現実ではないにも関わらず,大きなストレスを感じてしまいます.あなたにも,悪い妄想が止まらなくなった経験が一度はあると思います.

妄想の源は承認欲求です.試験に落ちる,学位が取れないといった妄想は,家族や友達から失望されるかも,という承認の消失に対する不安から生まれます.

妄想に囚われないようにするには,まず,自分はあの人に認められたいと思っていることを自覚しましょう.他人に認められようとすることは,他人を制御しようとすることと同じです.①で記載した通り,他人は制御できません.妄想したことが起こらなければ,あの人はあなたを絶対に認めると言い切れるでしょうか?また,妄想したことが起これば,あの人は本当にあなたに失望するでしょうか?一度冷静に考えてみましょう.次に,妄想していることを自覚しましょう.そして,「妄想しない」と何度も唱えましょう.妄想する光景は目の前に一切ないことを,目を見開いて,今の身体の感覚に集中し,しっかり自覚しましょう.

妄想ではなく,出来事が実際に生じたときのストレスは,判断(≒決めつけ,思い込み,一方的な期待・要求)から生まれます.出来事そのものに対してストレスが生じるのではありません.例えば,実験で使う予定の試薬を無くしたとします.ここで,「失敗した,もううまくいかないな(決めつけ,思い込み)」といった判断はストレスになります.同様に,後輩が指示を聞かなかったときの,「後輩は言うことを聞くべきだ(一方的な期待・要求)」という判断はストレスになります.人が判断をしてしまう理由は,分かった気になれて気分が良いからです.気分の良さに負けず,判断のたびに「あ,今判断したな」と自覚しましょう.出来事と,自分の判断を明確に区別し,出来事をただ理性的に理解して,次の行動を決めましょう.

【ストレスが減る行動3選】

① 「これからどうするか」だけを考え行動する

「これからどうするか」だけを考えて行動することは,ストレスを減らす上で非常に重要な行動原理です.ストレスが溜まり,過去や他人に執着しているときは,行動する気力が失われています.なんであんなことしたのかという後悔や,あいつが悪いという思いで頭が一杯になっています.しかし,自分の人生は,これからの自分の行動でしか変えることはできません.ストレスで頭が一杯になって動けないときは,「これからどうするか」と何度も唱えてください.実際に口に出してください.それだけで,頭のモヤが少しずつ晴れていきます.そして,今この瞬間にのみ目を向け,行動を積み重ねることに集中しましょう.

これからどうするかを考える際に重要なことが,関心の輪と影響の輪です(図1).他人や結果など,興味を持っているだけの関心の輪に時間を使ってはいけません.自分の影響が届く影響の輪にのみ時間を使い,具体的な行動を起こしましょう.自分が時間を使っているものは,影響の輪の中にあるのかどうか,具体的な行動を起こせるか,冷静に考えましょう.

図1

関心の輪と影響の輪.自分の影響力が届かない関心の輪に時間を使わず,自分の影響力が届く影響の輪に時間を注ぐことが重要.

② 依存先を増やす

一つのことに依存していると,必ず気分が落ち込むことになります.依存先がうまくいかなくなる瞬間が必ず来るためです.もし研究にだけ依存していると,実験や論文投稿が何度も失敗すれば,大きく気分が落ち込みます.依存先を増やせば,一つ一つの影響力が軽減されるため,一つうまくいかなくても,メンタルが安定しやすくなります.

筆者の場合,研究,教育系の仕事,メンタルクリニックでの業務,仲のいい人達,筋トレに依存しています.研究での失敗は多いものの,「研究が全然だめなら教育やメンクリの仕事によりコミットすればいいや」と思えてメンタルがブレにくいです.

③ 運動・睡眠

運動と睡眠は,科学的にもメンタルヘルスの安定への効果が大きいと考えられます.一日数分程度の運動でもうつ病予防になること2),7時間以下の睡眠は,メンタルヘルスの悪化を招く可能性があること3)が分かっています.適度に運動をし,しっかり睡眠を取りましょう.

最も重要なことは,「良質な人間関係」

以上,オススメのストレス予防法を6つご紹介しました.これらの方法は,書籍『反応しない練習』1)と『嫌われる勇気』4)を大いに参考にしています.一つでも役立つものがあれば幸いです.個人的には,特に考え方③と行動①に何度も救われてきました.「妄想しない」「判断しない」「これからどうするか」は魔法の呪文です.しかしながら,これらの方法は,大学院生活を乗り切るため程度のその場しのぎでしかありません.ストレスフリーな人生を送る上で最も重要なことは,「良質な人間関係」を作ることです.ハーバード大学の75年に渡る研究の結果,幸せに起因する最大の要因は,良質な人間関係であるそう5)

今回ご紹介した方法を用いながら,良質な人間関係の構築に集中することこそ,ストレスフリーな人生に繋がっていくと思います.一緒に頑張りましょう.ストレスよ,さよならバイバイ.

文献
 
© 2022 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
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