生物物理
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談話室
第19回レチナール蛋白質国際会議の報告
永田 崇
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2023 年 63 巻 1 号 p. 41-42

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1.  オンサイトでの開催

去る10月30日から6日間の日程で第19回レチナール蛋白質国際会議(19th International Conference on Retinal Proteins)が開催された.札幌市のロイトン札幌ホテルでの完全なオンサイト開催で,160名程度の参加者のうち,60名あまりが海外からの参加となった.筆者の知る限りでは,新型コロナウイルスの世界的大流行が始まって以来,国際会議を完全オンサイトで国内開催したのはまだ珍しい例ではないかと思う.本会議は元々2020年6月に開催が計画されていたが,ちょうどその直前に流行が始まり,三度の延期を経て,ようやく今回の開催にこぎつけた.通常2年に1回開催される会議なのでちょうど1回分を延期することとなり,その間に他の国際会議がオンラインで行われるようになる中,大会組織委員会がオンサイトでの開催にこだわった結果だった.その甲斐あって,コロナ流行前の会議と比べ参加者数などに遜色のない盛況な会議となった.

筆者は実行委員の一人として準備に関わっていたが,コロナ感染対策はやはり大きな課題の一つだった.会期中に感染者が発症した場合にどのように対応するかなど事前の準備が入念に進められた.会場で様々な業務に当たる実行委員やアルバイトのメンバーは,会場入りした際に迅速抗原検査キットによる自己検査を行い,陰性を確認した.マスク着用に関しては,海外の一部の国では好まない人が多いという情報もあるが,筆者が見た限り,ほぼ全員が会場でマスク着用を守っていた.昼食やバンケットでは会場で用意された食事をとったが,他の食事は各々でとることとなった.それ以外では対面での講演やポスター発表など,基本的にはコロナ流行前と同じように行われた.世界的にも新規感染者数が下火のタイミングだったという幸運もあったかも知れないが,結果として5日間の会期を問題なく完遂した.これは,ほとんどの参加者と同様に久しぶりのオンサイトでの国際会議を心から楽しんだ筆者にとっては,コロナ禍で失われていたものをこれから取り戻せるという希望を感じさせてくれた.尽力して頂いた関係者の皆様には感謝しかない.

2.  会議の概要

レチナール蛋白質国際会議は,1984年の第1回以来2年に一度,欧州や日本を中心に開催されてきた.日本では5回目の開催となる.主に,発色団としてレチナールを結合する光受容タンパク質・ロドプシンに関する研究が発表される.ロドプシンは微生物ロドプシンと動物ロドプシンに大別されるが,特に微生物ロドプシンに関する生物物理学的研究の発表がメインである.一方,動物ロドプシンは生物物理学的研究だけでなく,体内でどのように機能しているかといった生理学的研究の発表もあり,幅が広い印象だ.

今回の会議では,約70演題の講演が午前中から夕方にかけて,約90演題のポスター発表が夕食後の時間にそれぞれ行われた.講演会場は一つのみ,しかも会場のインターネット接続状況が良くなかったこともあり,多くの参加者が講演を集中して聞いていた.質疑応答も盛況だった.また,特に印象的だったのは大半の演者が講演の持ち時間を大幅にオーバーしていたこと.これは前回までの会議と比べ,明らかな違いがあったと思う.長いコロナ禍のトンネルを抜け,各演者が文字通り時間を忘れるくらいに話したい熱意に溢れていたのだろう.実際に,対面ではそのような熱気も感じることができた.時間配分が下手になったという可能性も思いついたが,そうではないと思うことにした.

バンケットは,席の間隔こそ広くとられてはいたが,円卓にブッフェ形式の食事,酒類の提供と,良い意味でコロナ禍以前と同じ様子だった.日本で開催する回の定番となっている鏡開きや,地元のよさこいダンスチームによる迫力満点のダンスの披露もあった(図1).エクスカーションとしてバスツアーも行われ,多くの参加者が札幌市内や小樽の観光を楽しんだ.海外からの参加者も久しぶりの異国を満喫できたのではないかと思う.

図1

バンケットでの一幕.コロナ禍で失われていた,研究発表以外の部分での“国際会議らしさ”を感じた.(左)鏡割りの様子.(右)地元のよさこいダンスチームによる踊り.

3.  研究発表について

今回発表された研究について,いくつか触れておきたい.まず目を引いたのは,X線自由電子レーザーを用いた時間分解X線結晶構造解析による,ロドプシンの光励起後の構造変化に関する研究だった.今回の講演者でもあった南後恵理子先生(理化学研究所)らによって,バクテリオロドプシンの光励起後ナノ秒からマイクロ秒の間に生じる構造変化を,各時間帯でのスナップショットとして捉えた論文が2016年に発表された1).今回の会議では同様の手法を用いた構造変化の研究成果が,チャネルロドプシン(東京大学の濡木理先生講演)をはじめ,他の複数の微生物ロドプシンや,動物の視覚ロドプシンについても発表された.構造変化を捉える非常に強力な研究手法の登場によって,ロドプシンの機能の違いがどのような構造変化の違いに由来するのかが明らかになりつつあり,どの発表も非常にエキサイティングだった.

また,新奇ロドプシンの発見に関する発表も印象的だった.近年ではメタゲノム解析などの発展により,膨大な数の新奇ロドプシン配列が同定されてきているが,その中でも特に,これまでになかったようなユニークな性質を示す微生物ロドプシンが本会議で報告された.一つはNeoRと呼ばれる,細胞内側に酵素ドメインを持つロドプシン2)である.既知の微生物ロドプシンでは,最も長波長側に吸収極大を示すものでもせいぜい600 nm程度であったが,NeoRの吸収極大は690 nmと,規格外の長波長吸収特性を示す.また,イオンチャネルであるベストロフィンとロドプシンが融合したベストロドプシン3)も報告された.こちらも660 nm付近に吸収極大を示すことや,巨大な複合体としてイオンチャネルを形成すること,特異なレチナール異性化反応など,多くのユニークな性質を示す.また,カリウムイオンを選択的に透過するチャネルロドプシンの発見4),5)に関する発表もあった.更に印象的だったのは,いずれのロドプシンも論文として発表されてから2年以内であるにも関わらず,既にこれらを題材とした発展的研究が数多く発表されたことである.この研究分野のアクティビティの高さを表わしていると感じた.

4.  おわりに

今回,オンサイトでの国際会議に参加して,オンラインと比べ得られる体験の密度にはっきりと違いを感じた.対面ならではの,演者と聴衆の間に作られる空気感.ポスターボードの前で顔を突き合わせとことん議論したり,食事の席で予期せず盛り上がって親しくなったり.そのような体験や交流の一つ一つが様々な形で研究の推進力となっていく.新型コロナ感染症対策では“密”は厳禁.だからこそリモート技術が一気に普及した.距離を隔てて交流できることはとても便利だ.それでも,やはり,研究者同士のコミュニケーションには同じ空間で共に過ごす“密”も重要なのだ.そう実感した会議だった.

文献
Biographies

永田 崇(ながた たかし)

東京大学物性研究所助教

 
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