2023 年 63 巻 1 号 p. 43-44
私は現在,京都大学生命科学研究科分子動態生理学分野(渡邊直樹教授研究室)で講師を務めています.子どもの頃から理科が好きで,動物好きなので特に生物が大好きでした.また,宝探し的要素に強く惹かれ,考古学者になりたいと思ったり,某番組のミステリーハンターに憧れたりしていました.現在は細胞生物学の分野で,研究を通して宝探しをする日々であり,「好き」を職業にすることが出来て幸運に思います.私自身のキャリアも未だ道半ばで,研究室主宰者(PI)を目指して奮闘中ですが,これまでの経緯や研究経験の中で気づいたことなどを紹介したいと思います.
卒業研究で初めて自分の研究テーマが与えられ,私は研究室に通うようになってすぐに,研究に(というか実験に)夢中になりました.最初に指導して下さった斧正一郎博士(現・アメリカEmory大教授,当時は博士課程3年で卒業間近だった)の教え方が非常に良かったと思いますが,実験手法を習得することが楽しく,結果が出る瞬間にドキドキして,実験にのめり込みました.研究室も未知の世界で,先輩たちの会話に出てくる「非特異タンパク質」を,人喰いタンパク!?と誤解したり,「コンタミ大発生」という張り紙を見て,コンタミってどんな生き物…?と妄想したりする日々でした.今では「実験が好き」だけでは自立した研究者たり得ないことは承知していますが,研究の入り口に立った当時の経験は強烈で,卒研時代の情熱が,その後も研究を続けるための原動力になったと思います.私は全く優秀な大学院生ではありませんでしたが,親身になって下さった指導教員の先生方や,研究意識の高いラボメイトたちに恵まれ,東大総合文化研究科(馬渕一誠教授研究室)でツメガエル初期胚発生におけるアクチン結合タンパク質IQGAPの機能解析を行い,学位を取得しました.
学位取得後は,アメリカで7年間,ポスドク修行をしました.卒研を指導して下さった斧さんがジョージア州アトランタのEmory大学で研究室を主宰しており,迷わず留学させて頂きました.斧さんの研究室では,少人数でも研究のスピードがとても速く,効率的に研究が進められていました.斧さんからは,実験しながらも頭は休ませず,「考える力」をつけることを強く指導して頂きました.研究を進める上で,実験の原理をしっかり理解して遂行し,データを精査し,不明な点や疑問を考え尽くして解決し,次の新しい課題を見つける.当時の私は未熟で苦戦しましたが,とても大事なことを教わったと思います.自発的に考え続けることが独自のアイデアや生産性の向上に繋がり,研究の基礎体力になると思います.
斧さんの研究室で筋原繊維形成におけるアクチンダイナミクス制御を研究して4年目頃,アメリカで就活を始めました.この時期,将来的には日本の研究機関に戻るつもりだったのですが,せっかく留学していたので,アメリカ的な研究室も経験したいと考えました.Scripps研究所(サンディエゴ)のVelia Fowler教授(現・デラウェア大)の研究室は筋原繊維を含むアクチン細胞骨格高次構造の形成機構を研究しており,自分の興味に合っていました.カバーレターを送って面接し,ポスドクとして採用して頂きました.PIのVeliaはイタリア系アメリカ人で,人情家で家庭的,非常に知的で面白可愛いと魅力の塊で,今でも私のナンバーワン憧れの女性研究者です.Fowler研も少人数でしたが,みんな明るくとにかくおしゃべりで,複数の人が同時に話す弾丸トークのラボミーティングに,私はなかなかついていけませんでした.そこで,Veliaに勧められ,Scripps研究所のポスドクたちが主催するトーストマスターズというスピーチクラブに参加しました.トーストマスターズは世界中に支部があり,プレゼンスキルの上達を目指すクラブです.Scrippsでは週に1回,ランチタイムに1時間弱の集会があり,順番で司会やスピーチ,評価者などを担当しました.参加者の多くは同世代・多国籍のポスドクたちで,楽しいクラブ活動でした.仲間の一人による “Setting up your independent research project”というスピーチが印象的で,資料が残っていたので研究主題の見つけ方の図を改訂して紹介します(図1).研究に限らず,進路を考える際に,自分自身について整理するために役立つかと思います.自分の特技や向いていること(赤),興味・情熱(緑),社会的な重要性やニーズ(青)を自由に書き出し,三つの円が重なるものは何か,考えてみて下さい.

オリジナルは研究主題の見つけ方の図ですが,キャリアデザインの一助としてお役立て下さい.
アメリカ留学中には人生の相棒も得ました.夫(日本人,研究と全く関係のない人)は私のキャリアを全面的に応援してくれ,感謝しています.Fowler研3年目に,筆頭著者,兼,責任著者(Veliaと共同責任著者)の論文を発表し,日本に帰国しました.
帰国後は,アクチン研究で世界を牽引している渡邊直樹教授研究室に加わり,現在に至ります.渡邊研では,細胞内で蛍光1分子を直接可視化する蛍光単分子スペックル顕微鏡を主な手法として,細胞における力学シグナルの役割解明に向けて研究を行っています.生きた培養細胞内でアクチンやその制御分子を1分子レベルで直接可視化すると,予想外の振る舞いをすることが多々あり,研究の興味は尽きません.
渡邊研(当時は東北大・生命科学研究科)にポスドクとして加わって2年目に特任助教になり,研究室が京都大・生命科学研究科(医学研究科と兼任)に異動したタイミングで助教に採用して頂きました.その後,2018年より講師を務めています.現在は,小さいながら自分の研究グループを率いて,大学院生たちとメカノバイオロジー研究を進めています.日本に帰国した翌年より研究代表者として継続して科研費のご支援を頂き,その成果として国際学術誌に責任著者の論文3報と総説4報,筆頭著者または共著者の論文・総説7報を発表しました.現在も研究を進めながら複数の論文の投稿・準備を抱えており,ようやく自分の研究ワールドを展開する手応えを感じます.
また年に数回程度ですが,学部や大学院での講義,実習,演習を担当しています.自分が関わる学生たちは,研究・学問・生活等の多方面で,少しでもより良い方向に成長するようサポートしたいと考えています.私は両親,祖父母(祖父は戦争で若くして亡くなりました)とも学校の先生で,自分にとって教育職は第一選択ではありませんでしたが,力不足ながら教育の仕事はまあまあ性に合っているかな,と思います.
私は不器用な方で,たくさん失敗しながら上手くいく方法を見つけてきました.私の成功のメソッドの一つは目標を明確にすること(Goal-orientedという考え方)です.毎日目標に向かってコツコツ前進すれば,多くのことは達成出来ます.もう一つは準備をしっかりすることです.新しい実験,成果発表,研究費の申請等,大事な場面は十分に準備して臨むと成功する確率が高いです.ただ,成功のメソッドは人それぞれなので,経験を積みながら,失敗しても何かを掴んで立ち上がって下さい.そして自分自身を良く理解し,自分に合ったキャリアで幸せな人生を歩んで下さい.
最後に,本文中にお名前を出させて頂いた先生方に加えて,ご指導下さった大日方昴先生(千葉大),土屋隆英先生(上智大),神澤信行先生(上智大),野口立彦先生(防衛医大)に感謝申し上げます.
山城佐和子(やましろ さわこ)
京都大学大学院生命科学研究科講師