2023 Volume 63 Issue 1 Pages 47-48
今年度の生物物理若手の会夏の学校(以下,夏学)は,2022年8月30日~9月2日に,岐阜県の「ぎふ長良川温泉 ホテルパーク」およびオンラインにおいて,ハイブリッド形式で開催されました(図1).15名の先生方にご講演いただき,現地113名,オンライン56名の参加者に盛り上げていただきました.ご講演いただいた先生方,会場をご提供いただいたホテルパーク様,日本生物物理学会をはじめとする,ご支援いただいた多くの研究所,財団,企業の皆様,そして参加者の皆様に厚くお礼申し上げます.この若手の会だよりでは,今回の夏学について報告するとともに,教頭として運営の中心に携わった立場から,現地開催を決定するまでの経緯,また,一参加者としての感想をまとめます.
第62回生物物理若手の会夏の学校の集合写真
今回の夏学は「故きを温ねて新しきを知る~ぼくらの香辛料~」をテーマとし,生物物理の黎明期からご活躍されている先生方,最新の技術を駆使して新しいことに挑戦している若手研究者の方々まで,幅広い年代の先生方をお招きしました.参加者(主に学生)より3倍近い歴史を持つ生物物理について改めて知り,今後の日本の研究を担う参加者にとって新たな知見を育むことができる会にしたい,参加者のこれからの研究生活,人生において,ピリッと引き立つアクセント(スパイス)になるような会にしたい,という思いをこめたテーマです.
本夏学では分科会(二つの会場で二講演が同時に進行する形式)を復活させ,15名という多くの先生方に講演いただきました.オープニングセミナー,メインセミナー,クロージングセミナーでは,最新の知見も含みつつ,生物物理の黎明期にあたるお話をうかがうことができました.分科会では,主に若手の先生方にご登壇いただき,生物物理の最前線について学ぶことができました.また,生物物理学に関連した講演のほかにNature PhotonicsのEditorの先生に論文の書き方についてご講演いただき,参加後アンケートでも好評を博しました.
ご講演いただいた先生方には,これまでのご経験を踏まえ,若手へのメッセージをお話しいただくよう依頼しました.今回,印象に残ったのは,多くの先生が“Curiosity-driven”の研究が大事だ,とおっしゃっていたことです.世の中の流行りに惑わされず,面白いと思ったことを突き詰めることが大事ということです.研究者として自己を確立する前の学生にとって,夏学が“My own curiosity”の火付け役になればよいと思います(後述).
また,夏学の目玉,全員がスライド1枚で自己紹介・研究紹介をするフラッシュトーク,希望者が自身の研究を紹介するポスター発表も催されました.今回,参加者による投票によって,60枚のポスターの中から,学生優秀発表賞2名を選出しました.また,野地先生からのご提案により,(株)東京化学同人様が発行する化学雑誌「現代化学」の編集部の方に直接会場までお越しいただき,『現代化学賞』の審査をしていただきました.学生優秀発表賞の受賞者には賞状,現代化学賞の受賞者には「現代化学」1年分と,現代化学への受賞内容に関する記事の掲載権が与えられます.
【学生優秀発表賞】
松元瑛司さん(大阪大学,博士前期課程1年)
増川日向子さん(東京大学,博士後期課程1年)
【現代化学賞】
飯田史織(総合研究大学院大学,博士後期課程1年)
まず,「今回の夏学はなんとしても完全オンラインではなく,現地で」これは杉浦さん(校長)と私(教頭)の意見でした.開催時期は8月下旬.会場を無償でキャンセルできる一ヶ月前には,コロナの感染者数は爆増していました.ただ,デルタ株の蔓延時と異なり,重症化率が低いこと,若者に限るとそれはさらに低くなること,欧米では学会が対面で行われていること,日本でも対面のみで学会をした事例があること,などを踏まえ,どうしたら現地開催できるか?を考えました.
結果,現地の参加者には,1.ワクチン3回目の接種証明 or 開催一週間前のPCR検査 2.誓約書の提出(過去2週間以内に感染者との接触なし,自覚症状なし,マスク着用の誓約)の2点を求め,会場入場時に検温とアルコール消毒を励行するようにしました.今回,開催によるコロナ感染の報告が一件もなかったのは,参加者の皆様に,コロナを持ち込まないように会期前から気をつけていただいたおかげとも思います.また,参加者の感想では,「オンラインと違って本当に『交流』ができて,人脈が広がったのを実感した.他の人の研究や考えを聞くことで,自分の視野が大きく広がったように感じる.」「特にポスター発表では,自分の知らない分野や興味のある分野で双方向的に化学的コミュニケーションができてすごく楽しかった.」など現地開催について評価する声が多く挙がりました.
一方で,ハイブリッド開催におけるオンライン配信には課題が残りました.この反省を次回に引き継げたらと思います.ただ,業者に任せられる学会のハイブリッド開催と違い,学生のみでの夏学でハイブリッドを運営するのには限界があります.来年こそ,コロナウイルスの感染が収まり,完全対面で開催できることを切に願います.
夏学の間に「現地開催できて本当によかった,現地で決行してくれてありがとう」と何人もの参加者に言われました.私も今回,顔を突き合わせて議論することの重要性を強く感じました.先生方のご講演においても,ポスターや懇親会といった場においても,話している人の熱意,気迫,議論の双方向性,仲良くなりやすさ,といった部分は,電波に乗せると削がれてしまいます.ポスター会場の熱気は,今まで参加した学会の中で一番凄まじかったです.
研究には常に“新規性”(=いかにユニークか,いかに他の研究と違うか)が求められます.そこには,自分の持つ知識・経験を使って,自分独自の感性によって,どうやって自然というものに切り込むかという,新しい価値を創造するような取り組みが求められます.そのためには,多くの先生が言っていた“Curiosity-driven”の研究,自分が面白いと思うことをとことん突き詰める姿勢が重要です.では,どうしたら“My own curiosity”の方向性を見つけられるでしょうか?どうしたら自分の知識・経験・感性を磨いて,唯一無二にできるのでしょうか?その答えは,同年代の研究者との交流にあると思います.他の人の研究,視点を学ぶと,自分との差異がわかります.自分がいかにユニークであるかは,自分と他の人との違いがわからないと絶対にわかりません.生物物理の夏学参加者は,学びのバックグラウンド,置かれた環境,研究で何をしているか何を使っているか,多種多様です.対面の交流で,新しい視点を取り入れれば,自身の新しい武器になりますし,考え方の違いを見いだせれば,自分のユニークさを担保してくれます.今回の夏学は,私にとって大いに刺激(スパイス)になり,自信にも繋がりました.多種多様な若手研究者と顔を突き合わせ,深く議論する機会は,夏学以外では得られないものです.
とある先生が「若手の会の熱気があってこその生物物理学会」とおっしゃっていました.若手の会や夏学にかかる期待の大きさ,また自分もその一員であることの誇らしさを感じました.夏学に参加したことで少し見えてきた自分の方向性を胸に,“My own curiosity”を煮詰めていこうと思います.
校長:杉浦雅大,教頭:飯田史織,会計:杉本哲平,石川和季,犬飼紫乃,大橋沙也佳,関根由佳,予稿集:加藤壮一郎,青山真子,奥山あかり,市川雄貴,講演:西山尚来,高橋拓矢,広報:水野陽介,杉浦勇也,山下陽,会場:沈佳娜,目黒瑛暉,HP:伊藤冬馬,犬塚健剛,Twitter:岩田聖矢,Slack:渡辺航平
来年度の夏の学校は,関西支部・九州支部による運営です.関西支部のパワフルなメンバーを中心に,来年はどのような夏学になるのか,温かく見守っていただけると幸いです.