2023 年 63 巻 2 号 p. 110-114
人工膜法は,チャネルタンパク1分子を流れる電流を高時間分解能で計測できる強力な研究ツールであるが,その測定効率は低い.我々は,新しい人工膜作製&タンパク組み込み法を開発,単一チャネル電流計測の自動化により,高い測定効率を実現した.さらなる効率化を目指して多チャンネルの同時計測システムの開発にも取り組んでいる.

チャネルタンパクは,その機能(イオン輸送活性)を1分子レベル,高時間分解で測定できることから,生物物理学における格好の研究対象となってきた.また,生体内において種々の重要な役割を担っていることから,医薬品創薬の標的としても注目されている.電気生理学的計測法,特に人工膜法やパッチクランプ法などの単一チャネル電流計測法は,チャネルタンパク研究の強力な武器であるが,その測定効率は低く,また測定にかなりの熟練を要する.そこで,様々な単一チャネル電流記録法の簡便化,効率化が試みられている1),2).本稿では,筆者らが開発した人工膜による簡便な単一チャネル電流記録法を紹介する.
現在広く用いられている「人工膜法」では,2つの水溶液槽を隔てる隔壁に開けた小孔に人工脂質二重層膜を形成し,この人工膜にベシクル融合などを利用してチャネルタンパクを組み込み,チャネルを介して流れるイオン性電流を記録する.このとき,上記の①人工脂質二重層膜形成および②チャネルタンパクの組み込みのいずれもが,数分から数十分を要する過程であり,これらがこの方法の効率を下げる原因となっている.そこで筆者らは,これら2つの障害を克服すべく新しい人工膜法の開発を行った.
図1は本法の測定原理を示している3).まず,電解質を含む記録水溶液上にリン脂質の有機溶媒溶液を積層し,そこに親水性のプローブ(表面をポリエチレングリコール(PEG)修飾した金電極)を浸す.このとき,プローブ表面および脂質溶液-水溶液界面に,いずれもアルキル鎖を脂質溶液側に向けたリン脂質の単層膜が形成されていると考えられる.次にプローブをゆっくりと界面に接触させることによって,単層膜間に存在する有機溶媒が排除され,2枚の単層膜が貼り合わされて二重層膜を形成する.膜を透過するイオン性電流はI-V変換されPCに記録される.プローブとしては金電極の他にアガロースゲルでも可能である.本稿前半では金電極による実験に限定して解説する.

人工膜によるチャネル電流計測原理3).記録水溶液層にリン脂質溶液を積層し,この脂質溶液層を通して金プローブを両溶液の界面まで移動させることによって,界面および金プローブ表面に形成された2枚の脂質単層膜を貼り合わせ脂質二重層膜を形成する.
脂質二重層膜が迅速に形成されることを示すために,グラミシジンによる電流の記録を行った.グラミシジンはアミノ酸15個からなる疎水性の高いペプチドで,水溶液中から極めて容易に膜中に侵入する.グラミシジンは膜が十分に薄いとき,つまり二重層膜に近い厚さになっているときのみ膜を垂直に貫通する2量体を形成し,イオンチャネルとして機能すると考えられている.すなわち,グラミシジンチャネル電流が計測できたならば,単層膜間の有機溶媒が十分に排除され,人工二重層膜が形成されたと考えて良い.
図2はプローブを上下に移動させたときのグラミシジンチャネル電流の記録である4).図中上向きの矢印はプローブを下向きに移動させた時刻を示しており,プローブを下げるのとほぼ同時にグラミシジンチャネル電流が計測されている.すなわち,2枚の脂質単層膜を脂質溶液中で貼り合わせることによって,極めて迅速に人工脂質二重層膜を形成できることが分かり,これは,本法によって人工膜法における第1の障害である膜形成の問題が解消可能であることを示している.

グラミシジンチャネル電流計測.グラミシジンによるイオン性電流.プローブを下向き(▲)および上向き(▼)に移動させ計測した.グラミシジンは測定開始前に記録水溶液中に添加した.文献4より改変.
グラミシジンなどのイオノフォアとは異なり,生体のチャネルタンパクは組み込み効率が極めて低く,人工膜に効率的に組み込む(あるいは再構成する)工夫をする必要がある.従来法では,膜中に目的のチャネルタンパクを持つベシクルを人工膜と融合させることによって組み込むのが一般的であるが,この融合過程は確率的で制御することが難しく,組み込みに数十分ないしは数時間要することも珍しくない.そこで,上記人工膜の形成と同時にチャネルタンパクを膜中に組み込む方法を開発した.
界面活性剤で可溶化したチャネルタンパク(末端にHis-tagを持つ)をNTA(nitrilotriacetic acid)を介してプローブ表面に固定する(図3a).記録溶液で洗浄し余剰の界面活性剤を洗い流した後,このプローブを用いて人工脂質二重層膜を形成すると,膜形成とほぼ同時にチャネルタンパクによる電流ゆらぎが観測される.図3bは金プローブ表面に固定されたMthKチャネルの電流記録である.図3cは単一チャネル電流のI-V関係を示している.これらが示すように,本法で測定されたチャネル電流は,パッチクランプ法や従来型の人工膜法で測定される電流の性質(整流性,単一チャネルコンダクタンスなど)をよく保持しており,この計測法が従来のチャネル電流計測法と同様にチャネルタンパクの解析に有用であることを示している.筆者らは,この他にKcsA,BK,P2X4チャネルの計測に成功している.

生体のチャネルタンパク再構成法.(a)His-tagを持つチャネルタンパクをNTA-PEGを介してプローブ表面に固定する.チャネルタンパクは脂質二重層形成とほぼ同時に膜中に組み込まれる.(b)MthKチャネルの電流記録.O(open)およびC(closed)は,それぞれ開状態および閉状態の電流レベルを示す.(c)MthKチャネルの単一チャネルI-V関係.文献4より改変.
次にプローブ先端に形成される人工膜の安定性について検討した.後述するように,筆者らはプローブとして,種々の太さの金電極や大きさの異なる親水性ゲルビーズを用いている.脂質溶液-水溶液界面とプローブ先端の接触面積,すなわちプローブ先端の曲率半径が大きいほど形成される脂質二重層膜の面積は大きい.実際に,細い金線と太い金線を比較すると,後者による人工膜の方が大きなチャネル電流が観測される.つまり,膜面積が大きく,より多くのチャネルが組み込まれる.
迅速に人工膜を形成し,効率良くチャネル電流を計測するためには,先端の曲率半径が大きく,大きな人工膜を形成できるプローブが有利である.しかし,大きな人工膜は脆弱で,小さな機械刺激が測定に影響する欠点を持っている.そこで,プローブ先端付近の表面を改質することによって人工膜を強化することを試みた.図4は表面改質による人工膜の安定化を示している.この実験では先端の曲率半径が約450 μmの金線を用いてKcsAチャネルの電流計測を行った.図4bにあるようにPEG修飾した先端部分に隣接する領域を疎水性の1-オクタデカンチオール層で覆い疎水性に改質したところ,人工膜の安定性が著しく向上した.

プローブ表面の改質による人工膜の安定化.(a)金ブロー部先端の電子顕微鏡写真.先端の曲率半径は約450 μm.(b)表面の化学修飾.先端から1 mmをPEG,その上部1 mmをオクタデカンチオールで修飾した.(c)プローブ先端が界面に接してからの「深さ」を計測した.(d)チャネル電流が消失する深さの比較.文献3より改変.
チャネル電流が検出された後,徐々にプローブを下げ,チャネル電流が消失するまでの移動距離を測定したところ(図4c),疎水改質したプローブを用いた場合,PEG層のみからなるプローブを用いた場合よりも,より「深く」水溶液中にプローブを差し込んでも安定してチャネル電流の継続が可能であった.脂質平面膜法でよく知られているように,脂質二重層膜を安定化するには二重層部分を取り囲む環状バルク相と呼ばれる厚い膜領域が必須である5).本実験においては,疎水性に表面改質した部分に同様のバルク相(bulk phase)が形成され,脂質(あるいは有機溶媒)のリザーバーとしての役割を果たしているため,人工膜の安定性が向上したものと想像している.
疎水化したプローブを用いて作製した脂質二重層膜の安定性をさらに検討するために,脂質溶液に使用する有機溶媒の種類を換えて計測を行った.水溶液層に積層する脂質溶液には,通常n-デカンに20~30 mg/mLのリン脂質を分散させて使用するが,有機溶媒をn-ヘキサデカンに換えてチャネル電流を測定した.従来の人工膜法では,ヘキサデカンによる人工膜はデカンによる膜に比べて薄く,不安定であることがよく知られている5).従来法においてよく使われるペインティング法ではヘキサデカンによる人工膜を安定に形成することは大変難しい.ところが,疎水性修飾したプローブを用いると,ヘキサデカン溶液を用いても チャネル電流を安定に測定可能であった.
これらの結果は,PEG層上に形成された脂質二重層膜が,疎水性修飾領域の存在により安定化されていることを裏付けている.また,興味深いことにI-V 関係から計算したシングルチャネルコンダクタンスはデカン溶液で測定したものよりわずかに大きくなった.単一チャネルのコンダクタンスは脂質膜の組成,あるいは膜厚に影響される可能性があり,本法はこれらの検討にも使用できるものと思われる.
測定の効率化のため,金プローブを用いた自動測定システムを開発した3).このシステムは,プログラマブルコントローラ(PLC)で制御される駆動装置とLabVIEWソフトウェアで構成されている(図5).駆動装置が金プローブを動かし,LabVIEWソフトウェアがチャネル電流を検出する.プローブの動きは,PLCを介してLabVIEWで検出された電流によってフィードバック制御される.

自動測定装置.(a)装置の構成(b)KcsAチャネル電流の自動計測における時間経過.
図5bは,このシステムで記録された典型的な電流トレースである.スタートボタンが押されると,プローブは一定の速度(260 μm/s)で下降を開始し,プローブ先端が脂質溶液に接触すると大きな(おそらく)容量性の電流が観測される.その後は2秒間隔で10 μmずつ下降させ,ソフトウェアがチャネル電流を検出するまで下降を続ける.この実験では,電流値が10 ms以内に2 pA以上変化し,0.01~1 s以内に元の値に戻る電流をチャネル電流と認識するように設定した.チャネル電流が5 pA以上の場合,システムはチャネル電流を完全に検出した(n = 30).5 pA未満の電流は検出しにくく,4 pA以上5 pA未満のチャネル電流の検出成功率は67%(n = 6),4 pA未満の電流は全く検出されなかった(n = 17).このような小さな電流ではチャネル電流をバックグラウンドノイズと区別することが困難であったためと考えられる.また,システムがバックグラウンド電流スパイクをチャネル電流と誤認識し,プローブ移動が中断されることもあり,測定功率を上げるためには,バックグラウンド電流ノイズを下げることが必要であることが分かっている.
自動化装置で作製したチャネルを含む膜は安定しており,95%のチャネル電流が3分以上測定され(n = 29),脂質二重層膜の破断はどの実験でも観察されなかった.脂質二重層膜に取り込まれたチャネルの数を調べたところ,シングル,ダブル,マルチチャネル電流がそれぞれ71%,20%,9%で検出され(n = 41),5チャネル以上検出された記録はなかった.したがって,この装置を用いてチャネルの特性を単一チャネルレベルで解析可能と言える.
自動化システムにより,数分間でチャネル電流を検出することが可能となった.冒頭に記したように従来の人工膜法では,脂質二重層膜の作製とイオンチャネルの組み込みに時間がかかるため,電流の測定に数十分~数時間かかっていた.本システムは,従来の手法に比べ,はるかに高い測定効率を実現していると言って良いであろう.
さらに測定装置の小型化,効率化を進めるために,測定の同時多チャンネル化を試みている7).先端を細く加工したガラス管にチャネルタンパクを表面に固定したアガロースゲルビーズを吸引し,脂質溶液層を通して記録溶液に接触させると金プローブの場合と同様に単一チャネルレベルでの電流記録ができる(図6a,b).これを応用すれば,複数のゲルビーズから同時にチャネル電流の記録が可能となる.図6cにあるように,リン脂質溶液中でゲルビーズと記録水溶液を接触させることにより,ビーズ表面に脂質二重層膜を形成すれば,小さな流路上で単一チャネル電流記録が可能となる.図6dは2本の流路を用いた同時計測結果で,一方はアラメチシン,他方はグラミシジンチャネルによる電流ゆらぎを示している.それぞれの流路は独立しているので,複数の流路で異なる種類のチャネルタンパクの計測ができることになる.あるいは,各流路内の溶液を調整することにより,同一のチャネルタンパクに対して複数のリガンドの効果を観測したり,リガンド濃度を変化させ,その効果を同時に計測したりすることも可能となり,本計測法の測定効率が一層高まるものと期待している.

ゲルビーズによる多チャンネル化.(a)ガラスピペットに吸引固定されたアガロースゲルビーズ(b)人工膜作製過程.金プローブと同様にチャネル電流の計測が可能.(c)吸引固定されたビーズに記録溶液を接触させることで電流計測ができる.(d)アラメチシン(上)とグラミシジン(下)電流の2チャンネル同時計測.文献7より改変.
本研究の一部は公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団,文部科学省 地域イノベーション・エコシステム形成プログラムの助成を受けて行われた.
平野美奈子(ひらの みなこ)
岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域准教授
朝倉真実(あさくら まみ)
岡山大学工学部創造工学センター技術専門職員
井出 徹(いで とおる)
岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域教授