生物物理
Online ISSN : 1347-4219
Print ISSN : 0582-4052
ISSN-L : 0582-4052
総説
Large pore channelの構造とチャネルの開閉メカニズム
大嶋 篤典
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 63 巻 2 号 p. 97-101

詳細
Abstract

Large pore channelはイオンや水分子のほか,核酸やアミノ酸などの代謝産物を通す大きな通路を持つが,その開閉の構造基盤は明らかではない.脂質ナノディスクを用いたクライオ電子顕微鏡法によって,タンパク質-脂質間の相互作用がチャネルの構造変化と通路の開閉に深く寄与する可能性を示した.

Translated Abstract

Gap junction channels and ATP release channels are called “large pore channels” because these have pore sizes that allow the permeation of various sizes of solutes, from ions to metabolites. We investigated the structures of C. elegans innexin-6 gap junction channels and human pannexin-1 channels with cryo-EM. Using nanodisc reconstitution, we found double-layer densities in the pore and lipid acyl chains in the intersubunit spaces. Together with the molecular dynamics simulation, these studies suggest a lipid gating mechanism for large pore channels in that phospholipids are diffused to the pore for channel closure.

1.  はじめに

細胞膜に形成される“チャネル”分子は,ナトリウムやカリウムなどのイオンの濃度調節に使われるイオンチャネルがよく知られるところであるが,ヌクレオシドやアミノ酸,あるいは更に大きなセカンドメッセンジャーや代謝産物等を通過させるチャネルも存在する.後者はチャネル径が大きいことから“large pore channel”と呼ばれ1),ギャップ結合チャネルを形成するconnexinやinnexin,容積感受性チャネルとして知られるleucine-rich repeat-containing protein 8(LRRC8),ATP放出チャネルとして同定されたpannexinやcalcium homeostasis modulator(CALHM)といったタンパク質ファミリーが存在する.これらはいずれも4回膜貫通型のタンパク質という共通点を持つ.しかしアミノ酸配列に基づく分類では,innexin,pannexin,LRRC8が同じ分子系統樹に属する一方,connexinとCALHMは他のいずれとも系統が異なる.ギャップ結合は隣接細胞の細胞質を直接連絡する細胞間結合様式で,その実体はチャネルの集合体である.一つの細胞膜上にギャップ結合チャネルの半分に相当するヘミチャネルと呼ばれる構造が存在し,隣接細胞間でそれらが向かい合って結合して導管型構造となる.生体内ではconnexinとinnexinのみがギャップ結合形成能を持つチャネルタンパク質で,pannexinとCALHMについてはチャネル形成能はあってもギャップ結合にはならないという解釈が一般的である1)

チャネル分子は文字通り通過孔を開閉する性質を持つが,ヌクレオチドやアミノ酸を透過するほどの大きなチャネル径(>10 Å)を持つlarge pore channelはどのようにチャネルを閉塞するのであろうか?この問題は長らく未解明であり,現在もその構造基盤が詳細に理解されているわけではない.その理由の一つとして,過去に報告された三次構造の多くはチャネルがオープン状態と解釈されるものが多く2),3),明確に閉塞していることがわかる構造の報告が少ないことが挙げられる.しかしながら,近年のクライオ電子顕微鏡単粒子解析法(以降cryo-EMと呼ぶ)の発展によりlarge pore channelの高分解能構造解析が頻繁に報告されるようになり,この問題が解決しつつある.筆者らはギャップ結合チャネルのconnexinやinnexin,そしてinnexinの脊椎動物ホモログであるpannexinの構造研究を行い,その開閉機構の一端を示してきた.本稿では,線虫が持つギャップ結合タンパク質のinnexin-6(INX-6)とヒトのlarge pore channelであるpannexin-1(PANX1)にナノディスクを適用した構造解析を中心として,脂質が寄与するlarge pore channelの開閉機構についての研究を紹介する.

2.  INX-6チャネルのcryo-EM構造解析

筆者らはcryo-EMを用いた解析によって,界面活性剤で可溶化状態のINX-6ギャップ結合チャネルの原子構造を明らかにした3).この構造はINX-6の8量体ヘミチャネルが向かい合って結合した16量体構造で,N末端領域がチャネル通路の内側でファネル(漏斗)を形成していた.これはconnexin26(Cx26)のX線結晶構造解析の結果2)と同様,オープン状態と解釈されるものであった.その後,より生体内の状態に近い脂質環境下での解析とギャップ結合が分離したヘミチャネルの構造解析の必要性を感じ,脂質ナノディスクへINX-6ヘミチャネルを再構成した状態の構造解析を試みた.

INX-6ヘミチャネルのナノディスク再構成の手順は先行研究4)を参考に行った.0.05% n-dodecyl-β-d-maltopyranoside(界面活性剤)存在下のINX-6ヘミチャネルに,MSP2N2とPOPCを添加してバイオビーズで界面活性剤を除去する手順である(図1).INX-6のケースにおいて試行錯誤が必要となったのは,この三者のモル比であったが,対象タンパク質によっては三者の濃度や混合液の体積なども加味して再構成条件の検討を行う必要があるかもしれない.実験量は検討すべき条件の数に依存するが,一旦再構成の条件が見つかると再現性は非常に高かった.

図1

ナノディスク再構成の流れ.可溶化した精製タンパク質と脂質に,MSP2N2を加え,バイオビーズを添加して界面活性剤を除去することでナノディスクを作製する.

INX-6ヘミチャネルのcryo-EM構造解析は次の三つの条件で行った.①ナノディスク再構成野生型INX-6,②ナノディスク再構成N末ドメイン欠失変異体INX-6(INX-6ΔNと呼ぶ.N末端領域を18残基欠失した変異体),③可溶化野生型INX-6,である5).①のナノディスク再構成野生型INX-6は,チャネル通路の内側に二層の密度が膜面に対して平行に存在して通路を塞いでおり,膜面の細胞質側に沿ってN末端領域に相当する密度が存在した(図2A).チャネル通路を閉塞する二層の密度は,②のINX-6ΔNをナノディスク再構成したヘミチャネルにも見られた(図2B緑).一方,③の可溶化状態の野生型INX-6ヘミチャネルはN末端がチャネル通路内でファネル構造を持ち,オープン構造であることが確認できた(図2C).

図2

INX-6ヘミチャネルのcryo-EM構造解析.(A~C)密度マップ(上段)と対応する立体構造のモデル(下段).上が細胞質側に相当する.(A)ナノディスク再構成した野生型INX-6(B)ナノディスク再構成したINX-6N末端欠失変異体(C)可溶化状態の野生型INX-6.(D~F)INX-6ヘミチャネルをPOPCに再構成し,100ナノ秒のMDシミュレーションを行った後の原子モデル.モデルはナノディスク再構成した野生型INX-6(D),ナノディスク再構成したINX-6ΔN(E),可溶化状態の野生型INX-6(F)を示す.文献5の図を改変.

チャネル通路内に生じた二層の密度は脂質二重膜のリン脂質の頭部の配置に近い.一つの解釈として,脂質が拡散してチャネル通路を埋め,INX-6のN末端領域の構造変化が協調的に働いてチャネル通路を閉塞した可能性が考えられる.INX-6の隣接するサブユニットの膜貫通ヘリックス(TM)バンドル同士の間には隙間があり,アミノ酸側鎖は直接相互作用できない.分子動力学(MD)シミュレーションの結果,チャネルを取り巻く脂質はその隙間へアクセスし得ることが示された(図2D~F).ただし,シミュレーションでは脂質がこの隙間を完全に通り抜けることはなく,脂質の側方拡散のためには原子モデルよりも更にサブユニットの隙間が広がる必要がある.現時点ではそのような構造変化を構造解析では捉えることができていない.仮にチャネル通路の内側に脂質が存在する場合,その脂質の通り道がどこか,という問題は未解決であり,チャネル通路内の密度をINX-6ペプチドの一部が説明する可能性も含めてこれらは検証すべき課題である.

3.  PANX1のcryo-EM構造解析

pannexinはinnexinの脊椎動物ホモログとして2000年に同定され6),当初はギャップ結合としての機能を有することが報告された7).現在では生体内においてpannexinはギャップ結合形成能のないチャネルとして機能するという解釈が主流となっている8).pannexinファミリーにはPANX1~PANX3の三種類のアイソフォームが存在する.PANX1は多くのがん細胞で発現が亢進しているほか,炎症反応やアポトーシスを誘導するATPの放出にも関与するなど重要性が示されている9)

筆者らは,ナノディスク再構成したPANX1を用いてcryo-EM構造解析を行い,異なる二つの立体構造を得た10).一つは野生型PANX1の apo状態の構造(PANX1-apo)である.残基番号2番目のAlaから始まるN末端領域は7量体チャネルの通路に入り込んで,ファネルを形成していた(図3A, B).この部分だけに注目すればINX-6ギャップ結合チャネルと同様にオープン構造と解釈されるが,PANX1-apoの細胞外領域の通路が狭くなった部分を不明瞭な密度が塞いでおり,生理的なオープン構造とは異なる可能性がある.脂質のアシル鎖に相当する密度が膜貫通領域の隣接サブユニットの隙間に確認され,タンパク質-脂質間相互作用がチャネルを安定化していた(図3A).

図3

PANX1の構造解析と脂質ゲーティング.(A)PANX1-apoの細胞質側から見た原子モデルとN末端ファネルの配置.(B)PANX1-apoのサブユニットのリボンモデル.右側のモデルは左のモデルを180°チャネルの通路中央の軸に対して回転したもの.(C)PANX1-occludedのリボンモデル.N末端ループ(赤),脂質(オレンジ,青),チャネル通路を閉塞する密度(マゼンタ)をcryo-EMマップで示した.(D)隣接するサブユニットの間に見られる隙間の比較.PANX1-apoの方がPANX1-occludedよりも広い.(E)PANX1チャネルの脂質ゲーティングモデル.このモデルでは脂質の拡散とN末端領域の構造変化が協調して開閉する.文献10の図を改変.

もう一つの構造はPANX1の阻害剤として知られるプロベネシド(probenecid, PBN)を3 mM添加した条件で,こちらはN末端領域が細胞質側に向いて細胞質ドメインの間に挟まった構造をしていた(PANX1-occluded)(図3C).添加したPBNが明確な密度として確認されることはなく,PANX1-occludedの立体構造が,PBNが添加されたことによって直接誘導されたものかどうかは結論付けられなかったが,チャネルの通路を閉塞する二重層の密度が確認された(図3C).またPANX1-occludedのチャネル通路の壁に相当するTM1とTM2に沿って脂質のアシル鎖が確認できる(図3Cオレンジ).PANX1-apoとPANX1-occludedのチャネル構造の間には,サブユニットの配置に差があり,PANX1-apoの隣接サブユニットの間にはPANX1-occludedよりも広い隙間が生じている(図3D).MDシミュレーションを行うと,サブユニットを取り囲む脂質が流動的であることが示された.これらの結果から,PANX1の開閉メカニズムとして脂質の拡散とN末端領域の構造変化が協調的に起こる脂質ゲーティングを考察した(図3E).この解釈については,今後も検証が必要であるが,INX-6やPANX1をナノディスク再構成した時にチャネル通路を閉塞する密度が共通して確認されたことは,これらの膜透過機構においてタンパク質-脂質間相互作用が深く関与することを示唆している.

4.  Large pore channelの開閉機構を示唆する最近の構造研究

ギャップ結合チャネルを含むlarge pore channelの高分解能構造の中で,開閉を示唆するいくつかの構造研究を紹介したい.CALHMは,脳や味蕾に発現する味覚の伝達に関わるATP放出チャネルをコードするタンパク質ファミリーで11),電位感受性の非選択性イオンチャネルを形成する.ギャップ結合ファミリータンパク質とはアミノ酸配列の相関が見られないが,connexinやpannexin以上に大きなチャネルの内径を持つ構造が報告されており12),これもlarge pore channelに分類される1).CALHMはアイソフォームによって7量体から11量体の構造が報告されている12)-15).ヒトのCALHM4やCALHM6では同じアイソフォームであっても異なる量体数の構造が同時に解かれているが15),量体数の決定因子や異なる量体数の生理的な意義は未解明である.CALHMのチャネル開閉については二つのメカニズムが示唆されている.一つは,N末端からTM1に至る領域が動的で,それらがチャネルの内側に傾斜してチャネルの通路を閉塞するモデルである12),13).もう一つは筆者らのINX-6とPANX1における解釈とほぼ同様で,チャネル通路を閉塞する密度を根拠とした,脂質二重膜が入り込んで通路を閉塞する脂質ゲーティングである14),15)

容積感受性陰イオンチャネルをコードするLRRC8ファミリーはinnexinファミリーと低い相同性を持ち,LRRC8A~LRRC8Eの5つのアイソフォームが存在するが,ギャップ結合形成能はない.生体内ではLRRC8Aを必須の構成タンパク質とするヘテロ6量体チャネルとして機能している.cryo-EMによってマウスLRRC8Aの6量体の高分解能構造が報告されており16),膜貫通ヘリックスの配置はCx26やINX-6とよく似ている.ヒトLRRC8Aでは,6量体を構成するサブユニットにcompactとrelaxedという二つの立体構造が存在し,異なるサブユニット間相互作用を示す3回対称の構造が報告されている17).この構造では一つのチャネルの中で,隣接サブユニットの膜貫通領域の隙間が異なっている(図4A).LRRC8AのN末端領域はチャネル通路の内側に存在すると考えられるが,不安定化のため17残基目までは解明されなかった.その後構造解析されたヒトLRRC8Dは第一細胞外ループがLRRC8Aよりも長い特徴を持つ.LRRC8Dは残基番号2番目のPheからモデリングされており,こちらはN末端ヘリックスがチャネル通路内側でファネル構造を示している18).LRRC8DやPANX1がギャップ結合チャネルのCx262)やINX-63)と類似したN末端ファネル構造を取り得ることは,N末端のファネル構造がギャップ結合ファミリータンパク質における膜透過機構としての役割を果たすのに不可欠であることを示唆している.

図4

Large pore channelに属するタンパク質の構造研究の例.(A)容積感受性陰イオンチャネルLRRC8Aの原子構造17).6量体から成るチャネルの隣接サブユニット間の隙間に違いが見られ,Tight(右上)とLoose(右下)が存在する.(B)Cx31.1ヘミチャネルの原子構造19).向かい合う二つのサブユニットのみを表示している.N末端ヘリックス(マゼンタ)が細胞質側のチャネル通路の入口をカバーしており,それを支えるようにチャネル通路の内壁に沿って脂質が存在する(青色メッシュ).

ギャップ結合タンパク質ヒトCx31.1の6量体ヘミチャネルの構造もcryo-EMによって報告された19).この構造はN末端領域が特徴的で,ヘリックス構造がチャネル通路の入り口をカバーするように配置している(図4B).この構造は界面活性剤可溶化状態であるが,チャネルの内側の膜貫通ヘリックスに沿ってN末端ヘリックスを支えるように脂質の密度が存在していた(図4B).この研究はconnexinにおいてもチャネル通路に脂質が入り込む可能性を示唆しており,ナノディスク再構成した状態でCx31.1の構造解析が実現すれば,チャネルの通路内の様子に変化が見られるかもしれない.

5.  おわりに

筆者らが行ったcryo-EM構造解析において,INX-6 ヘミチャネルは,可溶化状態とナノディスク再構成の状態で立体構造が異なっていたが,これはINX-6が持つタンパク質―脂質間相互作用が,その構造変化に寄与しているとも解釈できる.現状,large pore channelの通路を閉塞する密度が脂質であるという主張は,いずれの研究においても推定の域に留まる.チャネル通路に沿うN末端領域のアミノ酸は,ファネルを形成する場合を除けば密度が見えないほど不安定化していることが多く,細胞質ループやC末端領域の密度もしばしば不安定化して見えない.こうした原子座標がアサインされていない領域がチャネル通路の閉塞に寄与する可能性も否定できず,今後の検証が必要である.複数のlarge pore channelの構造研究が脂質のチャネル通路への拡散を主張するのは興味深い一方で,large pore channel全てが同じ開閉機構を持つとは限らない.ナノディスク再構成が可溶化状態よりin vivo条件を模倣するとはいえ,生体内環境とは大きな隔たりがあることにも注意を払う必要がある.large pore channelの生理的な膜透過機構の理解には,より生体内に近い環境での構造解析が望ましく,その実現のための技術開発が今後期待される.

謝辞

藤吉好則特別栄誉教授(東京医科歯科大学),谷一寿特任教授(三重大学),渡邉正勝准教授(大阪大学)寺田透准教授(東京大学)には,データの取得や議論につきまして多大なるご支援とご協力をいただきました.この場をお借りして心より感謝申し上げます.

文献
Biographies

大嶋篤典(おおしま あつのり)

名古屋大学細胞生理学研究センター教授

 
© 2023 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
feedback
Top