生物物理
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中心体の位置制御におけるアクチン繊維網の力学的寄与
山本 昌平
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2023 年 63 巻 4 号 p. 196-198

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Abstract

微小管網を形成する中心体の位置は,細胞の機能や力学的特性に様々な影響を与える.我々は,人工細胞モデルの作製により,アクチン繊維網と微小管の力学的な相互作用が,中心体の位置を多様に制御し得ることを明らかにした.

1.  はじめに

細胞骨格や細胞小器官といった細胞内構造体の位置を見てみると,細胞内で一様な分布を示す場合もあれば,不均一で偏った分布を示す場合もある.特に,中心体の位置は,細胞周期や細胞の分化状態,周囲の環境などに応じて,動的に変化することが知られている1).中心体は,多くの動物細胞で主要な微小管形成中心(Microtubule organizing center, MTOC)として働く細胞内小器官であり,放射状の微小管網を形成する(図1A).中心体という名の通り,中心体は様々な細胞種で細胞の中心付近に局在し,対称な微小管構造を形成する.また,中心体が細胞の端に局在することで,細胞内で極性化した微小管網を形成する場合もある.中心体の位置は,微小管網だけでなく,核やゴルジ体などの細胞内構造体の配置にも影響を与えるため,その制御は適切な細胞の機能のために重要である.例えば,様々な動物の受精卵において,中心体の細胞中心への移行は,細胞分裂における紡錘体微小管および分裂面の位置を規定し,均等な分裂を保証するために重要だと考えられている2).一方,中心体が細胞の端へ移行することは,細胞表層での繊毛の形成や,免疫細胞が標的細胞に対して効率よく分泌顆粒を放出するために重要であると考えられている(図1B3)

図1

中心体-微小管網の位置と構造.(A)左:HeLa細胞の染色画像.右:細胞から抽出した中心体による放射状微小管網の形成.(B)中心体の位置制御は,多様な細胞現象において重要な役割を果たす.Scale bar;10 μm.

中心体の位置はどのように制御されているのだろうか?これまでの研究から,中心体から派生する微小管が細胞膜や細胞皮層を押す力や,微小管上のモータータンパク質が駆動する力が,中心体の位置制御に寄与することがわかってきた4)-6).また近年,アクチン繊維網の存在も中心体の位置に大きな影響を与えることが示唆されている7).しかしながら,中心体の位置は,生化学的にも物理的にも多様な因子によって制御されると考えられるため,生きた細胞の解析だけで,各因子の寄与とその作動原理を明らかにすることは困難である.特に,アクチン繊維網は,その構造や構成因子の多様性のために,アクチン繊維網が中心体の位置に与える影響とその原理を明らかにすることは容易ではない8).そこで我々は,最少構成因子を用いた試験管内再構成によって,中心体の位置が制御される仕組みを理解しようと考えた.本稿では,微小管とアクチン繊維網の力学的な相互作用による中心体の位置制御について,最近の我々の成果を中心に紹介する9)

2.  中心体様MTOCを内包した人工細胞モデルの設計

アクチン繊維網が中心体の位置に直接与える影響を調べるためには,細胞内の生化学的および構造的な複雑性を排除した再構成実験が有用である.そこで我々は,精製タンパク質とマイクロ工学技術を用いて,中心体-微小管網とアクチン繊維網の試験管内再構成を試みることにした.まず,細胞様の微小空間内における,中心体の位置の変化を解析するために,ガラス基板上に細胞スケール(直径35 μm・高さ約20 μm)のウェルを作製した.細胞を模倣するために,ウェル表面を脂質二重層で加工し,ミネラルオイルを用いてウェルを閉じることで,細胞スケールの閉鎖空間を作り出した(図2A左).さらに,安定化した短い微小管をポリスチレンビーズに架橋することで,中心体を模倣したMTOCを作製した.これにより,効率的な放射状微小管網の調製と解析が可能となった(図2A右).

図2

MTOCを内包した人工細胞モデルの設計.(A)左:蛍光標識した脂質で表面加工した細胞スケールのウェル.右:中心体を模した人工MTOCによる放射状微小管網の形成.(B)ウェル内におけるMTOCの位置変化.(C)チューブリン濃度に応じた微小管網の形成(文献9より改変).Scale bar;10 μm.

まず我々は,アクチン繊維の非存在下で,MTOCの挙動を観察した.チューブリンの濃度を調整し,微小管の長さを変化させると,ある一定のチューブリン濃度では,MTOCがウェルの中心付近に局在した(図2B, C).この結果は,MTOCから派生する放射状で対称な微小管網がウェルの縁を押すことで,MTOCの位置が変化し,一定の微小管の長さではMTOCがウェルの中心付近で安定化したためだと考えられる.一方,チューブリンをより高濃度にすることで,より長い微小管の形成を誘導すると,MTOCはウェルの端へ移行した(図2C).この結果は,微小管が伸長に伴いウェルの縁に沿って滑ることで,微小管網の対称性が破れ,さらに微小管がウェルの縁を押すことによってMTOCがウェルの端へ移動したためだと考えられる.これらの観察結果は,過去に提示されたモデルと一致しており5),本実験系は,MTOCの位置に影響を与える因子を調べるための有用なツールであると考えられた.

3.  アクチン繊維はMTOCの位置を力学的に制御し得る

アクチン繊維の形成は,MTOCの位置にどのような影響を与えるのだろうか?我々は,微小管とアクチン繊維をウェル内で共重合させ,MTOCの挙動を観察した.まず,アクチン繊維の形成は,MTOCから派生する微小管の重合効率とその長さには影響しなかった.一方,MTOCの位置変化を見てみると,アクチン非存在下と比較して,高密度なアクチン繊維の存在下では,微小管の重合に伴うMTOCの運動と中心移行の効率が顕著に低下していた.これらの結果は,MTOCの運動と中心移行が,アクチン繊維網の存在による立体障害によって妨げられたことを示唆する(図3).最近,ウニの受精卵において,細胞質全体におけるアクチン繊維網の存在が,紡錘体微小管の位置の安定性に寄与することが報告されている10).そのため,実際の細胞においても,細胞質全体におけるアクチン繊維網の存在は,力学的な相互作用によって中心体-微小管網の位置を制御し得ると考えられる.

図3

アクチン繊維網がMTOCの位置と微小管網の構造に与える影響.

多くの細胞種で,アクチン繊維は細胞膜直下で高密度に存在しており,この構造は細胞皮層と呼ばれる.我々は,ウェル内で細胞皮層構造を模倣したアクチン繊維網を再構成するために,アクチン繊維の形成起点として働き,アクチン繊維の枝分かれ構造を生じさせるArp2/3複合体を用いることにした.ウェル表面の脂質膜にArp2/3複合体を活性化する因子(WASP断片)を結合させておき,その後,単量体アクチンとArp2/3複合体を添加した.この手法により,アクチン繊維をウェル表面で一様に形成させることが可能となった.この条件でMTOCの位置変化を見てみると,細胞皮層を模したアクチン繊維網の存在下では,微小管網の対称性がある程度維持され,MTOCの位置が中心付近で安定化する傾向を示した.アクチン非存在下では,微小管の伸長に伴い,微小管がウェルの縁を滑ることで,微小管網の対称性が破れ,最終的にMTOCは細胞の端へ移行する.一方で,細胞皮層を模したアクチン繊維網の存在下では,アクチン繊維網の存在による立体障害によって,ウェル表面上での微小管の滑りが抑えられ,微小管網の対称性が維持されることで,MTOCが中心でとどまることが示唆された(図3).ウェルの縁におけるアクチン繊維と微小管の立体的相互作用を考慮した数理シミュレーションも,同様にMTOCがウェルの中心にとどまる傾向を示した.これらの結果は,細胞皮層のアクチン繊維網は,微小管との力学的な相互作用によって,中心体の細胞中心での局在を安定化し得ることを示唆する.

4.  アクチン繊維網の分布は微小管網の極性に影響する

前述のように,ウェル表面に均一に分布する細胞皮層様構造は,MTOCの位置のウェル中心における安定化を促した.実際の細胞では,細胞皮層のアクチン繊維網が不均一な分布を示す場合がある.例えば,細胞の遊走時には,遊走方向の細胞先端でより厚いアクチン繊維の層が形成される8).このような不均一なアクチン繊維の分布は,MTOCの位置にどのような影響を与えるのだろうか?我々は,生化学条件の調整により,ウェル内に不均一な細胞皮層様のアクチン繊維網を作り,その影響を調べた.その結果,MTOCの位置は微小管の伸長に伴い,ウェル中心で安定化せず,アクチン繊維網の厚みが薄い側へ移行する傾向を示した(図3).微小管の挙動を見てみると,アクチン繊維網の厚い側では微小管のウェルの縁における滑りは抑えられ,薄い側では微小管がウェルの縁を滑る様子が観察された.これらの結果から,アクチン繊維の分布の偏りによる非対称な微小管の挙動により,微小管の伸長に伴って微小管網の対称性が破れ,MTOCはアクチン繊維網の薄い方向へ移動することが示唆された.これらの結果は,アクチン繊維網の分布の偏りは,中心体の細胞端への移行とその方向性を制御し,微小管の配向に極性を生み出す因子となり得ることを示唆する.

5.  まとめと今後の展望

今回我々は,中心体を模倣したMTOCからなる微小管網とアクチン繊維網を細胞スケールのウェルに内包し,MTOCと微小管網の挙動を解析した9).我々の結果は,アクチン非存在下では,微小管が細胞の縁を押すことによって,微小管の長さに応じて,中心体は細胞の中心または端へ移行できることを示唆する.一方,アクチン繊維網の存在下では,微小管とアクチン繊維の立体的相互作用により,中心体の位置の安定化や移動の方向付けといった,中心体の位置制御の多様性が生まれることが示唆された.このような細胞骨格間の力学的な相互作用による中心体の位置制御は,多様な細胞の極性化に寄与しているかもしれない.

実際の細胞内では,アクチン繊維だけではなく,核やゴルジ体を含む他の細胞内構造体の存在,また細胞質の粘弾性など,多様な因子が中心体の位置に影響を与える可能性がある.特に,微小管やアクチン繊維に結合するモータータンパク質によって,微小管網とアクチン繊維網の構造は動的に変化する.実際に,ダイニンやミオシンの活性が中心体の配置に寄与することが報告されている4),7).今回我々が作製したような再構成系に,関連因子を加えていくことで,動的な中心体の位置制御原理の理解がさらに進むことが期待される.また,細胞の形状も中心体の位置に影響を与えることも示唆されているため5),細胞の形や大きさといった因子も含めて理解することが今後の課題である.本稿で紹介したアプローチのように,細胞の部品を組み合わせ,細胞を組み立てていく過程から,我々は細胞の構築および作動原理を理解するための重要なヒントを得ることができるだろう.

文献
Biographies

山本昌平(やまもと しょうへい)

東京大学大学院薬学系研究科助教

 
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