2023 年 63 巻 4 号 p. 223-226
植物組織に直接タンパク質を導入し1塩基~数十塩基を欠失させたゲノム編集植物は,ゲノムDNAに外来DNAが残存しないため,遺伝子組み換え植物とはみなされない.本稿では,シリコンの微細加工により作製した角柱状マイクロニードルが一次元に配列したアレイ(MNA)による,植物組織に対するCas9タンパク質導入技術を紹介する.

生物のゲノムDNA配列を書き換えることができるゲノム編集は,生命科学分野だけでなく農業分野,つまり実用植物の育種技術への展開でも最近注目を集めている1).長い時間をかけて交配育種により望みの形質を示す個体を選抜する従来法と比較し,ゲノム編集では必要部位でのみ欠失変異を導入し標的遺伝子を破壊することが可能であることから,圧倒的に短期間で目的とする変異体を獲得できる.加えて従来の遺伝子組み換え植物はゲノムDNAに外来DNAを導入するため規制の対象となるが,ゲノムDNA配列に1塩基から数十塩基の欠失を持つゲノム編集植物は自然界に存在する突然変異の植物と区別がつかないため,日本においては遺伝子組換え生物に該当しない.一方で,DNAベースのベクターを導入し,細胞内でゲノム編集タンパク質を発現させる手法では,ゲノムDNA配列に外来DNAが残存してしまい,ベクター由来のDNAを取り除くために戻し交配が必要となる.そこで注目を集めているのが,ゲノム編集タンパク質を直接導入する手法である.この場合はDNA配列を使用しないため上記の問題を解決できる.しかし固い細胞壁を持つ植物細胞にタンパク質を導入する,という技術は未だ発展途上にあり,より広範な植物種に適応可能な技術が求められている.
これまでに我々は,ナノニードルが二次元に配列したナノニードルアレイを利用することで動物細胞に対して低侵襲に物質を導入する技術や2),抗体を修飾したナノニードルアレイを用いて標的細胞を分離するセルソーティング技術を開発してきた3).この知見をもとに最近では植物組織を対象としたマイクロニードルアレイの開発を行っており,これを利用して植物組織の標的箇所にタンパク質を直接導入しゲノム編集することに成功している4).本記事では,ベクターDNAによる植物組織のゲノム編集方法とタンパク質直接導入によるゲノム編集方法の違いについて説明し,植物細胞の細胞壁を突破可能なマイクロニードルアレイの開発,モデル植物や実用植物におけるゲノム編集に応用した具体例について紹介する.
ゲノム編集に利用されている人工ヌクレアーゼのうち,最も広範に利用されているCRISPR/Cas9は,DNA二本鎖を切断するCas9タンパク質,及び標的DNA配列を認識するガイドRNA(gRNA)が複合体を形成し,ゲノム内の標的配列を切断することで,切断箇所における変異導入を誘発する.通常,植物におけるゲノム編集では,一般的な形質転換手法であるアグロバクテリウム法やDNAを付着させた金属微粒子を打ち込むパーティクルボンバードメント法により,Cas9及びgRNAを発現するベクターDNAを植物細胞に対して導入し,植物体を再生することでゲノム編集植物を獲得できる.この場合,前述したようにベクターDNA由来配列がゲノムDNAに導入されるため,野生株との交配により宿主ゲノムから外来DNAを除去する戻し交配を行う必要がある.一方でCas9とgRNAの複合体であるリボヌクレオプロテイン(RNP)を直接導入する手法では,このような問題はない.
植物組織にRNPを直接導入する場合は,細胞壁を取り除いたプロトプラストあるいは胚を対象としてPEG法やパーティクルボンバードメント法を用いることが多い.しかし,プロトプラストから植物を再生するための組織培養は長い時間を必要とし,植物体を再生できる植物種も限られている.そこで,茎頂分裂組織にゲノム編集タンパク質を直接導入するin planta法が注目されている.茎頂分裂組織の3つの層(L1, L2, L3)のうち(図1),表皮下層のL2層に生殖細胞へと分化する細胞が存在する5).この細胞をゲノム編集すると,分化した生殖細胞がゲノム編集種子に成長する.この種子から植物を育成することで,植物体の再生過程を経由せずにゲノム編集植物を得ることができる.これまでに,パーティクルボンバードメント法によりCas9 RNPを修飾した金ナノ粒子をコムギの茎頂分裂組織に直接導入し,標的遺伝子がノックアウトされたT1個体を得た例が報告されている6).しかし,パーティクルボンバードメント法を用いたRNPの直接導入による茎頂分裂組織のゲノム編集は,他の植物種では報告されていない.パーティクルボンバードメント法による粒子の打ち込み方法では,位置の精密な制御が困難であるためと考えられる.また,パーティクルボンバードメント法によりオルガネラに導入された微粒子が標的細胞のストレスを引き起こすことも報告されており7),標的細胞の生存率が低いことも原因として考えられる.そのため,茎頂分裂組織に対して生育に影響を与えるほどのダメージを与えることなく,狙った箇所にタンパク質を導入する手法が求められている.

茎頂分裂組織の模式図.
これまでに我々は先端直径200 nm,長さ20 μmのナノニードルが動物細胞の細胞膜を貫通し細胞内に効率よく挿入できることを見出してきた.ニードル表面にプラスミドDNAやタンパク質を修飾し,細胞に挿入することで物質を細胞内に導入することも可能であり,ナノニードルを二次元に配列したナノニードルアレイを用いてCas9 RNPの直接導入による動物細胞のゲノム編集に成功している8).そこでこの技術を応用し,植物の茎頂分裂組織のL2層に挿入可能なマイクロニードルアレイの開発に着手した.半導体の製造原料として利用されている単結晶シリコンを材料として,5 mm角のチップの端面にマイクロニードルが一次元に30 μm間隔で配列したマイクロニードルアレイ(MNA)を設計した.SOIウェハは,酸素をシリコン基板中に高エネルギー・高濃度で注入した後熱処理を行うことにより表面から1~2 μmの深さにSiO2の層を形成したもので,ウェハ表面からSiO2層までの深さが最終的なマイクロニードルの厚みとなる.このSOIウェハにレジスト材を塗布し,MNAのフォトマスクを用いてフォトリソグラフィーを行い,パターンを作製する.ドライエッチングによりパターンのない箇所のシリコンを除去する際,ウェハの両面からシリコンがエッチングされ,SiO2層に到達した時点で停止する.さらにレジストを除去し,ウェットエッチングによりSiO2層を除去することで,167本のニードルが配列したMNAが完成する(図2).

MNAの作製方法の概要(文献9より一部改変).
実際の挿入操作では,MNAを水平方向に操作可能な専用の動作装置を用いて,実体顕微鏡観察下で植物組織に機械的にニードルを挿入する(図3).本装置はネジ穴の空いた治具の上にMNAをネジで固定する方式となっており,この治具と接続された1軸ステージはピエゾモーターにより24 nm単位の動作が可能である.MNAの反対側には,針に対して垂直な面を持つ試料台があり,この試料台にサンプルを設置し,タンパク質溶液を滴下した状態でMNAを挿入する.

MNA動作装置の模式図.
作製したMNAを用いて組織への挿入操作を行うと,組織を押し込んだ際ニードルが急激に折れ曲がり挿入されないという現象が見られた.この現象は座屈と呼ばれ,座屈したニードルは最終的に破損する.ニードルが破損せずに挿入されるためには,対象組織の弾性率を考慮した針形状の選択が必要である.そこで導入対象として選択したモデル植物のシロイヌナズナ,実用植物のダイズを用いて原子間力顕微鏡及び直径1 μmの針状探針により弾性率を測定した.その結果,シロイヌナズナ本葉表面の弾性率は2.2 ± 1.0 MPaであり,ダイズ茎頂分裂組織の弾性率は4.9 ± 4.7 MPaであった.動物細胞の表面弾性率が数kPa~数十kPaであるのに対して,比較的柔らかいと考えられる上記2つの植物組織でも,100倍以上高い弾性率を有することがわかる.一方,二種類の組織の弾性率が同程度であったことから,どちらの組織も同じ形状のMNAで挿入可能であると考えられた.まず,幅1 μm,長さ60 μmで針先端形状が角柱形,もしくは楔形のMNAを用いて,シロイヌナズナ葉組織への挿入を確認した.図4Aのように,角柱形では挿入時に針の座屈が生じていることから,先端形状が楔形の方が植物組織への挿入に適していることが確認された.そこで,先端形状を楔形とし,幅1~2 μm,厚さ2 μm,長さ40~60 μmのMNAを用いて,ダイズ・ナズナ両組織への挿入試験を行った.挿入前のMNAの針の総数に対する挿入後のMNAの折れていない針の割合を挿入効率として算出したところ,幅2 μmの針で座屈・破損せずに挿入可能であることが明らかとなった(表1).以降,組織深部のL2層への到達を目指し,座屈せずに挿入可能な最長の針として幅2 μm,厚さ2 μm,長さ60 μmのMNAを用いることとした(図4B).

植物組織に挿入可能なMNA(A)楔型及び角柱形のMNAを用いたシロイヌナズナ葉組織の挿入試験(B)MNAの走査型電子顕微鏡(SEM)画像(文献9より一部改変).
| 長さ(μm) | 40 | 60 | ||
|---|---|---|---|---|
| 幅(μm) | シロイヌナズナ | ダイズ | シロイヌナズナ | ダイズ |
| 1 | 77.4% | 77.9% | 50.4% | 60.2% |
| 2 | 96.3% | 97.2% | 97.2% | 98.0% |
このMNAを用いてGUS(β-glucuronidase)レポーター遺伝子がゲノムDNAに挿入されたシロイヌナズナ葉組織に対してCreタンパク質の直接導入を試みた.GUS遺伝子の上流にCreタンパク質が認識・切断するloxP配列に挟まれたGFP遺伝子が存在するため,Creタンパク質が細胞核内に導入されてGFP遺伝子が切り出されると下流のGUS遺伝子が発現する.GUSの基質5-Bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-glucuronide(X-Gluc)は分解,二量体化を経て青色を呈色する.無処理の葉,MNAの挿入のみ行った葉,MNA挿入後にCre溶液を滴下した葉では,いずれも青色呈色が観察されなかった.この結果はMNAにより穿たれた孔を通してCreタンパク質は輸送されないことを示す.一方で,Cre溶液滴下後にMNAを挿入した葉はすべて青色呈色箇所が確認された.GUS発現による青色呈色を指標としたMNAの導入成功率は100%であり,MNAによる細胞壁の突破とMNA表面からの放出により組織深部へのタンパク質送達が可能であることが証明された.また,GUSの発現はMNA挿入箇所から離れた細胞内でも観察された.その理由としては細胞外分泌シグナルと融合したGUSタンパク質が,挿入後24時間の培養時間の間に挿入箇所から葉脈を通って他の箇所へ移動した可能性などが考えられる9).
さらに,実用植物のダイズ茎頂分裂組織に対して内在性の遺伝子を標的とした遺伝子破壊を試みた.内在性遺伝子の標的として,植物の色素合成にかかわる酵素である15-cis-phytoene desaturase 遺伝子PDS11を選択し,gRNAを設計した.濃度10 μMのCas9 RNP溶液をダイズ茎頂分裂組織に滴下し,10 μm/sでMNAを挿入した後1分間停留することで,RNPの導入を促した.MNAを抜去したダイズを寒天培地上で培養後,挿入箇所を切除し,ゲノムDNAの抽出とこれを鋳型として用いたPCRを行い,得られた産物の次世代シークエンス解析を行うことで,ゲノム編集による変異導入が生じたかどうかを確認した(図5A).RNP導入サンプルで得られた全リード数約3 × 104のうち,Cas9切断部位近傍で確認された変異数は,11 bpの欠失が7リード,1 bpの欠失が3リードであった(図5B).1 bpの欠失はPCRやNGS解析におけるエラーの可能性も考えられるが,11 bp欠失はMNAにより導入されたRNPによるPDS11遺伝子の切断及びその後の非相同末端接合によるものと考えられる.欠失を含むリード数の割合が少ないのは,茎頂分裂組織から切り出したサンプルにMNA未挿入の野生型細胞が多く含まれるためであると考えている.結果から総リード数における変異導入リード数の割合として変異導入率を算出すると0.03%となる.MNAが挿入されたであろう細胞数に対して,切り出した組織に含まれるダイズ細胞の全数はおよそ200倍である10).したがって,針が挿入された細胞では約6%の頻度で欠失が生じているものと目算される.パーティクルボンバードメント法によりコムギの茎頂分裂組織に対してCas9 RNPを導入した報告では,標的胚の6.9%が組織中に変異導入アレルを保有しており11),MNAによる導入でも同等の効率で,実用植物であるダイズ茎頂分裂組織における内在性遺伝子PDS11の破壊に成功したと考えている4).

MNAを用いたダイズ茎頂分裂組織に対するCas9 RNPの導入(A).Cas9切断部位近傍で確認された1 bpもしくは11 bpの欠失変異配列(B)(文献9より一部改変).
MNAはサイズ及び形状を変更することで,どの組織にも挿入できるという利点がある.また,MNA挿入後のシロイヌナズナの葉では緑色が保持され,ダイズの茎頂分裂組織では根が発生することを確認しており,本手法は試料への損傷を抑えながらRNPを導入することが可能である.本項で示した例では,RNPをMNA表面に対して積極的に固定化する方法を検討していないが,今後シリコン表面の化学修飾等によりRNPの安定な固定化と効率的な放出を制御することで,より高効率な植物組織のゲノム編集を行うことが可能であると考えている.
山岸彩奈(やまぎし あやな)
産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門AIST-INDIA機能性資源連携研究室研究員
中村 史(なかむら ちかし)
産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門AIST-INDIA機能性資源連携研究室連携研究室付