2023 年 63 巻 4 号 p. 228-229
令和4年11月15日(火),日本生物物理学会の共催で,日本学術会議公開シンポジウム「異なるモダリティを統合するバイオ計測の最前線と展望」が開催されました.日本学術会議1)とは,「我が国の人文・社会科学,生命科学,理学・工学の全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関」であり,「科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること」をミッションの一つとしています.学術会議には30の分野別委員会があり,その分野別委員会の中にさらに分科会があります.分科会の重要な活動の一つに公開シンポジウムの企画・開催があります.学術の成果を国民に還元し学術上の問題を議論すること,また様々な学術上の問題や社会が抱える課題解決に向けての展望を話し合うために,複数の分科会が学会等と連携してシンポジウムを開催します.本シンポジウムは,基礎生物学委員会・統合生物学委員会の中にある生物物理学分科会,IUPAB分科会,および,基礎生物学委員会・統合生物学委員会・農学委員会・基礎医学委員会・薬学委員会・情報学委員会合同バイオインフォマティクス分科会,オープンサイエンスを推進するデータ基盤とその利活用に関する検討委員会が共同で主催しました.
近年,1細胞オミックス解析や大規模ゲノム配列解析,バイオイメージング技術が著しい発展を遂げています.これらの最先端バイオ計測から得られる異なるモードのデータ(たとえばイメージングデータと遺伝子発現情報など)を関連づけるための数理・情報科学的理論や,莫大なデータを管理・共有するためのデータベースの整備が進められています.本公開シンポジウムでは,イメージング,オミックス解析など突き抜けたバイオ計測の新技術を開発する研究者,平成28年度に発足した新学術領域研究「学術研究支援基盤形成」事業4領域で国内のバイオ計測拠点をリードする研究者や,またオープンサイエンスに向けたバイオ計測データベースを構築する最先端の研究者を一同に会し,「いかにしてバイオ計測の融合により新しい価値ある研究を展開し,国民の健康に資する知見を提供するか?」について議論しました.日本学術会議の講堂とZoomウェビナーのハイブリッド方式で開催し,対面・オンライン合わせて178名にご参加いただきました(図1).プログラムの詳細はこちら2)のリンクをご覧ください.

日本学術会議講堂で行われたシンポジウムの様子.Zoom Webinarとのハイブリッド形式で行った.
第1部(座長:原田慶恵先生)では,最先端の計測技術と,バイオ計測データ取得支援プラットフォームに関する話題提供が行われました.永井健治先生の講演では,大阪大学で開発されたトランススケールスコープAMATERASの性能,AMATERASによって得られるビッグデータ解析のための理化学研究所SSBD3)との連携について紹介されました.竹山春子先生は,lipid dropletを使ったsingle-cellオミックス,メタボロミクス計測と,ラマン共焦点顕微鏡によるサブ細胞解像度での物質イメージング,バイオDXによるビッグデータ解析研究を紹介されました.続いての上野直人先生,鈴木譲先生のご講演では,「学術研究支援基盤形成」事業4領域の「先端バイオイメージング支援(ABiS)「先端ゲノム支援プラットフォーム(PAGS)での支援内容を共有いただきました.ABiSでは電子顕微鏡から光学顕微鏡,fMRI,X線CTまで幅広いスケールを網羅したバイオイメージングの支援を行っており,実験デザイン,サンプル調整,画像取得,画像解析を包括して支援しているそうです.第二期となって,組織透明化やイオンイメージング,機械学習を取り入れた新規解析も導入されているとのことです.先端ゲノム支援プラットフォーム(PAGS)では,複数種の核酸の存在を組織上で可視化する技術など,空間的情報を含んだゲノム解析最先端技術の支援が受けられるとのことです.これらの学術研究支援基盤は,生物物理学会員の皆様にも,ぜひご自身の研究への活用をご検討いただきたいと思います.
第2部(座長:著者)では,生物学・医学・化学との連携により可能になった実用的バイオ計測,世界的なデータの共有や研究推進に関わるデジタルプラットフォームの構築に関する議論が行われました.神取秀樹先生のご講演では,光応答性分子ロドプシンの特性にはじまり,チャネルロドプシンによる光遺伝学の誕生,発展,光遺伝学の医療への応用や,オルガネラ特性の制御について話題提供が行われました.渡辺恭良先生には,PETを中心としたヒト個体レベルのイメージングについて話題提供いただきました.ハーバード大学やカロリンスカ研究所でのPETプローブ開発およびPET以外の手段のイメージングと一体となった医学研究開発組織が行われており,中国ではIT企業がPETデータ解析に参画していることが紹介されました.大浪修一先生のご講演では,データのオープンアクセス化,画像データの共有・リポジトリを行っている理研のSSBD3)が紹介されました.世界中でデータのオープンアクセス化を進める組織「Global Bioimaging」のバイオイメージングデータ作業部会がNature Methods誌に発表した提言をご紹介いただき4),データ形式の標準化の必要性,顕微鏡イメージデータ管理・共有のプラットフォームOMERO,プラットフォームのクラウド化などについて,国際的に連携しながら進めていることをご共有いただきました.山地一禎先生のご講演では,我が国で行われる研究データを管理,検索,公開するためのプラットフォーム「NII Research Data Cloud」,論文,本,D論,科研費等の国内の研究に関する3200万のコンテンツを網羅したデータベース「CiNii Research」,および各大学で使われはじめているデータリポジトリシステム「JAIRO Cloud」についての紹介がありました.今後は非公開のデータの管理・支援に国際的な枠組みで取り組み,現在研究者が求められているデータマネージメントを研究の一部に転換できるような仕組み作りを目指しているとのことです.
総合討論では,講演者全員,および日本学術会議第二部会員・小林武彦先生がパネリストとして登壇しました.諏訪牧子先生のモデレートにより,最先端のバイオ計測が今後どのように発展するかの展望,異なるモダリティの統合によって実現したい夢,モダリティ統合に向けた技術開発で生まれる波及効果,それらを推進していくための道筋,およびモダリティ統合を推進する上での課題や障害について論じました.研究人材を育成し活用できるような体制の構築,円安の学術への影響は緊急性の高い問題であることも,総合討論で浮き彫りになりました.有田正規先生による閉会の辞では,研究人材の育成・確保を見据えてチームワークで進めるサイエンスを我が国で確立していく必要があるということを述べられました.様々なモダリティのバイオ計測が行われている生物物理学会でも,ぜひ本シンポジウムのような話題を真剣に議論すると良いのではと思いました.
坂内博子(ばんない ひろこ)
早稲田大学理工学術院教授