生物物理
Online ISSN : 1347-4219
Print ISSN : 0582-4052
ISSN-L : 0582-4052
若手の会だより
若手の会だより
~他の人と違う道を歩むことを恐れない~
水野 陽介
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 63 巻 4 号 p. 234-235

詳細

はじめに

はじめまして.生物物理若手の会中部支部に所属しております,名古屋工業大学博士前期課程2年の水野陽介と申します.この度は生物物理若手の会会長の杉浦雅大さんから執筆の機会をいただいたことに感謝します.現在は,視覚を担う光受容タンパク質(視物質)の研究を行っています.

私は,これまで自分のやりたいことをやる!という信念のもと,人生の選択をしてきました.そのため,一風変わった人生を歩んでいます.人と違った人生というものは,怖さがつきものですが,誰も見たことのない世界を見るためには,挑戦・選択が必要です.そこで,私のこれまでの人生の選択をご紹介することで,皆様の挑戦することへの恐怖心を少しでも払拭できれば良いなと思っております.

15歳に至るまで

皆さんご存知の通り,日本には教育を受けさせる義務と教育を受ける権利があります.そのために義務教育といった制度が整っており,誰もが平等に教育を受けられます.ただし,私は6歳の時点で小学校での勉強に興味を持てず,家で自分の興味のあることに集中していました.決して親や交友関係の問題ではなく,自ら決断しました.そして,自分がそのとき思ったやりたいことに全力で取り組んでいました.

特に,折り紙には力を入れていて,鶴を折ったり,12枚の紙を使ってくす玉を作ったりしていました.それだけでは満足できず,くす玉から派生して,約100枚の折り紙を使い,高さ20 cm大のピラミッドを作製しました.さらに,時間は無限にあったので,自分の創作意欲のままに,約150枚の折り紙を使って,当時の体で一抱えもある車を作っていました.

虫を捕まえることにも夢中になり,カブトムシの幼虫を探し出してきて,家で成虫になるまでを観察したり,卵を産ませて繁殖させたりしていました.野生のカブトムシの幼虫を見つけることはなかなか難しいですが,学校では培えない自分なりの感覚を使って,難なく見つけていた思い出があります.結果的に,このとき磨かれた野生の勘は,その後の人生の選択に役立っているわけです.今思えば,これらの経験が総じて,研究者を目指す原点になっています.

同年代の子が中学生に進学する頃になると,平面から立体を作る折り紙から派生して数学の作図に興味を持ち,平日はフリースクールにほぼ毎日通うようになりました.フリースクールは,私と同じように小・中学校や高校,大学へ行っていない人たちが集まる場所で,普通の義務教育では接点を持つことがないような方々と接する機会に恵まれました.その中には,中学校に通わず,高校で海外留学をしたのちに大学に進学するも,自分のやりたいことを全力でやるために大学を変えてまで勉強を続けている人がいました.この先輩の姿を見て,自分のやりたいことをやる!という信念がより確固たるものになったことを覚えています.

一方で,「このままで大丈夫だろうか」という将来に対する漠然とした不安を抱えるようにもなりました.ただし,「ここまで来て自分の信念を曲げるのは違う」と思い,全力でやりたいことをやっていました.そして私が15歳になったとき,興味のあった数学を学びたいと思い,高校に進学することを決意しました.そこで,必修科目さえ選んでいれば,その他の時間割をすべて自分で決められるという,大学よりも自由なシステムを採用している定時制高校に入学しました.今まで好きなように過ごしていた私にとって,うれしいことこの上ない条件でした.

高校時代

ほとんど学校に通っていなかった私にとって,高校は初めての連続で,授業そのものが新鮮でした.また,自分の興味のなかった内容に初めて触れた瞬間でもありました.そんな初めての科目の中で,特に化学反応によってできる化合物や,反応前の化合物を予想する問題がパズルのようで面白いと感じ,有機化学が学べる大学を目指そうと決めました.そして,自分のやりたいことをやる!ために,必死に受験勉強し,現在所属している名古屋工業大学へと進学したわけです.

大学学部時代

大学は希望通りの応用化学科へと進学し,高校生の頃に学びたいと思っていた化学をがむしゃらに勉強しました.ただし,大学のカリキュラムは不自由なもので,興味のない必須科目がかなり多く設定されていました.その中でも一番眠くて退屈だったのが「物理化学」分野の講義でした.この講義では熱力学や量子化学を教えていただくわけですが,特に面白いと感じることもなく,量子化学に関しては何を言っているのか理解できず,嫌気まで差していました.そのため,学部2年生までは,絶対にこの分野の研究室には入らないだろうと考えていました.しかし,3年次に現在所属している研究室の主催者である神取教授が,ご自身のロドプシン研究の根幹にある「なぜ人は目が見えるのか」というお話をされたとき,興味がわき,その研究をしてみたいと思いました.結果的には,入学当時一番興味のあった有機化学分野ではなく,一番興味をそそられなかった物理化学分野の研究室に配属することとなりました.これも「自分のやってみたいことをやろう」という選択の結果です.

研究室配属後

神取研に所属後は,色覚視物質の動作機構を解明すべく,日々研究に打ち込んでいました.その結果,サルが持つ青色光感受性色覚視物質が,223 Kで蓄積するルミ中間体でシッフ塩基が脱プロトン化することを発見しました1)図1).この発見はこれまでの視物質の常識からは考えられないことで,常識から外れた人生を歩んできた私にとって,不思議と親近感を覚えます.

図1

青視物質のシッフ塩基が,ルミ中間体で脱プロトン化することを発見した論文の概要を表した図と裏表紙

また,同研究室の先輩である現生物物理若手の会会長の杉浦雅大さんから「生物物理若手の会夏の学校」という若手主体で運営されている研究会があることを教えてもらい,学部4年次に初めて生物物理夏の学校に参加しました.一番驚いたのは,参加者の積極性で,これまで少数派だと思っていた自分のやりたいことをやっている学生があふれていたことでした.このとき,研究の分野にはこんなにも楽しいコミュニティがあるのかとワクワクしたことを覚えています.そんな若手の会に魅了され,昨年開かれた第62回では,運営委員に立候補し2),3年ぶりの現地開催を成功に導くことができました(図23).こんな最高なコミュニティに出会えたのも,自分の信念を曲げずに貫いてきた結果だと思っています.

図2

第62回生物物理若手の会夏の学校の運営メンバー

アドバイス

私のこれまでの選択は,必ずしも万人の手本とはなりませんが,自分のやりたいことをやる!という信念は,これから研究者を目指す人や就職を考えている人にも必要だと思っています.これから皆さんが経験する社会人生活や研究生活には,義務教育といったレールはなく,先が見えないことがほとんどです.そのため,これまで誰一人として経験したことのない選択をしていく必要が出てくることもあるでしょう.そのような選択をするときは,不安で仕方ないと思います.そんなとき,ここに示した私のハチャメチャな選択を思い出していただければ,その不安も少しは和らぐのではないかと思います.人生は選択の連続です.ぜひ人と違う道を歩むことを恐れないでください.

謝辞

これまで私の自由を許し,支えてくれた両親をはじめ,今まで私に関わってくれたすべての人にこの場を借りて感謝申し上げます.

文献
 
© 2023 by THE BIOPHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
feedback
Top