Seibutsu Butsuri
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Review
Engineering of Plant Metabolome Using the Organelle Glue Technique
Kazuya ISHIKAWAYutaka KODAMA
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2023 Volume 63 Issue 5 Pages 247-251

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Abstract

植物細胞は変動環境に応じて,オルガネラの配置や相互作用を変更することで,代謝活性を調節することが知られている.これはすなわち,オルガネラの相互作用を人為的に操作することができれば,有用な代謝活性を持つ植物の作出が可能であることを意味している.近年,我々は「オルガネラグルー」という,蛍光タンパク質の多量体化を利用してオルガネラ間相互作用を操作する技術を開発した.さらに,この技術を利用して,経路レベルで代謝活性が改変されている形質転換植物の作出に成功した.本総説ではオルガネラグルー技術の現在の状況について解説したい.

Translated Abstract

Plant cells regulate their metabolic activity in response to fluctuating environments, in part by changing the arrangement and interaction of organelles. This means that if we can manipulate the interactions of organelles, the plant can be engineered to have desirable metabolic activities. We recently developed the “organelle glue technique”, in which inter-organellar interactions are manipulated by using the multimerization property of fluorescent proteins. Using this technique, we established transformed plants with altered metabolic activity at the pathway level. Here, we review the current state of the organelle glue technique.

1.  植物のオルガネラは細胞内を活発に動き代謝を調節する

植物細胞のオルガネラ(細胞小器官)は,動物細胞と比較して活発に動く1),2).その理由のひとつが,植物細胞がオルガネラの位置や相互作用を調節することで,変動する外部環境に応じた代謝経路を活性化しているためである.例えば,葉緑体は光合成を効率的に行うために,数分~数十分の時間で,弱光に対して集合する反応を起こす1)図1).また,光環境下では,葉緑体・ペルオキシソーム・ミトコンドリアの3者は,より強く相互作用をするようになる(図1).これは,これら3者のオルガネラ間に跨って存在する光呼吸経路を活性化するためであると考えられる3).光呼吸は,端的に記述すると,光条件下でO2を消費してCO2を産生する反応経路である.一見すると光合成と逆行する無駄な反応に思えるが,窒素同化や細胞の酸化還元レベルの調節に重要な働きをしている.このような環境に応じたオルガネラの活発な動きは,固着性の変温生物である植物が,周囲の変動環境に適応するために進化の過程で獲得したユニークな性質であると推察される.

図1

植物細胞は外部環境に応じてオルガネラの配置と相互作用を調節する.暗所では葉緑体は細胞側面に位置している(左).明所では,葉緑体は細胞の光が当たる面に整列し,光合成を効率的に行うとともに,ミトコンドリア,ペルオキシソームとの相互作用が強くなり,光呼吸経路も活性化される.

2.  蛍光タンパク質を「のり」として利用する

GFP(Green fluorescent protein)をはじめとする蛍光タンパク質は,タンパク質を簡便かつ高感度に検出することのできるツールとして,生命科学分野で広く利用されている.特に,細胞生物学において不可欠な技術であるライブイメージングでは,任意のタンパク質と蛍光タンパク質を融合し,生細胞中で観察することが頻繁に行われている.元々の野生型の蛍光タンパク質は多量体化する性質を有しているが4),これは融合されたタンパク質の性質や,タンパク質が局在するオルガネラ膜の構造に影響を与えることから,単量体化が進められている.しかし,現在利用されている多くの蛍光タンパク質にも,多量体化する性質が残っており,タンパク質の局在するオルガネラや細胞の種類によっては多量体化が誘導され,解析上の問題となる場合がある.

蛍光タンパク質を利用してタンパク質間相互作用を調べる技術として,bimolecular fluorescence complementation(BiFC:二分子蛍光補完)法が知られている5).この方法では,蛍光タンパク質をN末端側とC末端側のふたつに分割し,それぞれの断片を,相互作用を調べたい目的のタンパク質に融合させる.目的のタンパク質分子が相互作用すると,蛍光タンパク質断片が疎水結合および水素結合を介して会合し,構造補完が起きて蛍光タンパク質が再構成され,分子間相互作用が蛍光として検出される(図2).蛍光タンパク質断片の会合は,一度形成されると解離しない不可逆的な反応であり,蛍光タンパク質断片のランダムな衝突でも起こる.このため,BiFCの偽陽性の原因となり得る一方で,弱い相互作用や一過的な相互作用の検出に有効な性質である.加えて,BiFCによって再構成された蛍光タンパク質は,元々の蛍光タンパク質が有する多量体化の性質も維持されていると考えられ,接着力の高い分子と見なすことができる.

図2

蛍光タンパク質の高い分子間接着力を利用して,オルガネラを接着させる.BiFC法で用いられる蛍光タンパク質断片は,水素結合,疎水結合,蛍光タンパク質の持つ多量体化の性質から,分子を接着する高い能力がある(左).この性質を,オルガネラを人為的に接着させ,オルガネラ間相互作用を操作する技術として利用できないかと我々は考えた(右).

そこで我々は,この蛍光タンパク質断片の高い接着力に着目し,オルガネラ膜上に発現させることで,オルガネラを人為的に接着させる「のり」として使えるのではないかと考えた(図2).

3.  オルガネラの相互作用を人為的に操作する技術「オルガネラグルー」の開発

植物の葉緑体は二層の膜で囲まれており,その外側の膜を外包膜という.外包膜への局在化シグナルと蛍光タンパク質N末端断片を融合させ,遊離C末端断片と同時に,植物細胞に発現させた.すると,葉緑体が団子状に凝集している様子が観察された6).これは蛍光タンパク質断片が多量体化し,葉緑体同士をつないでいるためと考えられた.我々はオルガネラ間相互作用を操作する本技術を「オルガネラグルー(organelle glue)」と名付けた.冒頭に記述したように,オルガネラ間相互作用は植物の代謝と密接に関わっている.そこで我々は,オルガネラグルー技術を利用したオルガネラ相互作用の人為的操作によって,植物の代謝産生の改変を試みることにした.以降では,この取り組みについて,これまでに得られている成果7)について解説する.

4.  葉緑体外包膜上の赤色蛍光タンパク質mCherryは葉緑体の凝集を誘導する

上述の実験ではBiFCに使う蛍光タンパク質断片の多量体化に着目して,葉緑体の凝集を誘導した.しかし,上述の通り,元々の蛍光タンパク質自体に多量体化する性質があることから,我々は蛍光タンパク質全長でも葉緑体の凝集を誘導することができるのではないかと考えた.そこで,緑色蛍光タンパク質sfGFP,黄色蛍光タンパク質mVenus,赤色蛍光タンパク質mCherryを葉緑体外包膜への局在化シグナルと融合させ,タバコの仲間Nicotiana benthamianaの細胞に一過的に発現させた.その結果,sfGFPおよびmVenusの融合タンパク質は葉緑体に影響を与えなかったが,mCherryの融合タンパク質を発現した細胞では葉緑体が凝集し,形態が異常になっていた(図3).BiFC蛍光タンパク質断片を利用する場合と比較して,1種のタンパク質を発現するだけで済むので,以後はmCherry融合タンパク質を葉緑体凝集の誘導に用いることにした.

図3

mCherry蛍光タンパク質を葉緑体外包膜に局在させると葉緑体が凝集する.上図はsfGFPもしくはmCherryを外包膜に局在させた植物細胞の葉緑体を共焦点レーザー顕微鏡でライブイメージングした様子.sfGFPを発現させた場合(左)では葉緑体の凝集は起こらないが,mCherryを発現させた場合(右)に葉緑体が凝集した.外包膜上のmCherry分子が,多量体化を介して「のり」のような働きをしているものと考えられる(下図).

ところで,なぜmCherryだけが葉緑体の凝集を誘導したのだろうか?我々の実験によって,細胞内でmCherry分子が多量体を形成していることが分かっており,これが葉緑体同士を張りつける「のり」のような働きをしていると考えられるが(図3),mCherryで特異的にこの現象が見られる理由については,はっきりとした答えは得られていない.蛍光タンパク質の多量体化がオルガネラ膜に与える影響の度合いについては,organized smooth endoplasmic reticulum (OSER) assayと呼ばれる方法で動物細胞内で評価され8),データベース上にスコア化されている(FPbase: https://www.fpbase.org/).しかし,sfGFP・mVenus・mCherryの間に大きな値の違いはなかった.現在のところ知られている明確な違いは,sfGFPおよびmVenusはオワンクラゲ由来であるのに対して,mCherryはサンゴの仲間であるイソギンチャクモドキ由来である点である.いずれも改良されて単量体化が進められているものの,元々オワンクラゲ由来蛍光タンパク質は2量体化,イソギンチャクモドキ由来の蛍光タンパク質は4量体化する性質を有している9).このような元来有しているタンパク質の性質の違いが,植物細胞の葉緑体外包膜上に局在した時に多量体化の性質の違いとして現れるのかも知れない.

5.  葉緑体の凝集体にはペルオキシソームやミトコンドリアが包埋される

葉緑体は他の細胞小器官と比較して体積が大きいことから,比較的に小さいペルオキシソームやミトコンドリアが,オルガネラグルーによって形成される葉緑体の凝集体に巻き込まれているのではないかと予想した.そこで,葉緑体外包膜局在mCherryに加え,ペルオキシソームとミトコンドリアに局在するマーカー蛍光タンパク質を発現させて,葉緑体の凝集時にペルオキシソームとミトコンドリアの配置がどのようになっているか観察した.すると,葉緑体の凝集体の中にいくつものペルオキシソームとミトコンドリアが無秩序に埋め込まれていた(図4).通常,葉緑体とペルオキシソーム・ミトコンドリアの相互作用は緻密に制御されており,光条件下では,1個の葉緑体に対し,1,2個のペルオキシソーム・ミトコンドリアが近接している(図4).このことから,オルガネラグルーによる葉緑体の凝集時には,葉緑体とペルオキシソーム・ミトコンドリアの物理的あるいは機能的な相互作用が撹乱されていることが示唆された.

図4

葉緑体凝集時のミトコンドリアとペルオキシソームの配置.上図は共焦点レーザー顕微鏡でライブイメージングした様子を示す.通常(左)はひとつの葉緑体(青色)に1~2個のミトコンドリア(黄色)とペルオキシソーム(水色)が近接しており,オルガネラ間の分子輸送が調節されている.対して,外包膜局在型mCherry(ピンク色)の発現による葉緑体(青色)の凝集時(右)は,多数のミトコンドリア(黄色)やペルオキシソーム(水色)が,凝集の中に無秩序に包埋され,分子輸送が撹乱されていると考えられる.複数の蛍光が重なっている領域は白く見えている.下図は,ライブイメージングで捉えられた様子を基に,オルガネラの配置を模式的に示している.

6.  葉緑体が凝集した形質転換植物個体の作出

これまでのタバコ細胞を用いた一過的発現実験で,葉緑体外包膜局在mCherryを発現させることで,葉緑体-ペルオキシソーム-ミトコンドリア間の相互作用を人為的に操作できることが分かった.次に,オルガネラの相互作用を操作することで,代謝を改変できるかを検証するために,葉緑体が凝集した植物個体の作出を行った.個体の作出には,代謝物解析や形質転換の容易さを考慮し,モデル実験植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いた.葉緑体外包膜局在mCherryを発現する形質転換シロイヌナズナ個体(At cTP-mCherry)と合わせて,コントロールとして葉緑体外包膜局在sfGFPを発現する形質転換シロイヌナズナ個体(At cTP-sfGFP)を,それぞれ作出した.これらの形質転換体の葉緑体の様子を観察すると,タバコでの一過的発現の場合と同様に,At cTP-mCherryでは葉緑体の凝集や形態異常が確認された.それに対し,At cTP-sfGFPでは葉緑体の分布や形態の異常は確認されなかった.また通常の生育条件では,これら2種類の形質転換シロイヌナズナ間で,個体の成長について有意な差は認められなかった.葉緑体の凝集や形態異常にも関わらず,生育がコントロールと比較して差がないのは,一見すると不思議であるが,光・水・気温の条件が整えられた実験室環境下では,生育に顕著な影響が現れなかったものと考えられる.

7.  葉緑体が凝集した植物個体では光呼吸関連代謝物の蓄積量が増加する

葉緑体の凝集が代謝物の産生に与える影響を解析するために,葉緑体が凝集したAt cTP-mCherryと,葉緑体が凝集していないコントロールとしてAt cTP-sfGFPをメタボローム解析に供した.その結果,15種の代謝物に関して,At cTP-mCherryとAt cTP-sfGFPの間で有意な蓄積量の差が認められた.15種の代謝物のうち13種がAt cTP-mCherryでの蓄積量が増加しており,残りの2種は低下していた.どの代謝経路が影響を受けているか解析するためにPathway enrichment analysisを行うと,光呼吸に関連のあるグリシン・セリン・トレオニン代謝や,グリオキシル酸・ジカルボン酸代謝がAt cTP-mCherryで有意に変化していることが分かった.具体的に見ていくと,実際に光呼吸経路においてオルガネラ間を跨って輸送される代謝物であるグリセリン酸,グリシン,セリンの蓄積量が増加していた(図5).これらの代謝物について,野生型とAt cTP-sfGFPの間で有意な蓄積量の差は確認されず,At cTP-mCherryのみで蓄積量が増加していたことから,葉緑体の凝集が光呼吸関連の代謝物の蓄積を引き起こしていることが分かった.この理由としては,葉緑体が凝集した細胞では,葉緑体-ペルオキシソーム-ミトコンドリア間の相互作用がうまく調節できなくなり,代謝物の受渡しが滞ることで,光呼吸においてオルガネラ間を跨って輸送される代謝物の蓄積量が増加したのではないかと考えている(図5).以上の結果から,葉緑体が凝集した植物体では,生育に影響が生じない形で光呼吸が抑制されていることが示唆される.

図5

葉緑体凝集時の光呼吸系代謝物の輸送.グリセリン酸,グリシン,セリンは,葉緑体-ミトコンドリア-ペルオキシソーム間で輸送されている代謝物である.オルガネラ相互作用が撹乱されたことにより,オルガネラ間の輸送が停滞し,各代謝物の蓄積量が増加したと考えられる.

8.  オルガネラグルー技術の更なる改良に向けて

我々はmCherryの多量体化を利用して,葉緑体の凝集を誘導し,オルガネラ間の相互作用を人為的に操作することで,代謝物の産生を改変した植物を作出した.蛍光タンパク質の多量体化は,これまで回避すべき性質として認識されてきたが,我々はこの多量体化の性質を逆手にとり,オルガネラの相互作用を一部操作することに成功した.mCherryがなぜ葉緑体外包膜上で多量体を形成するのか,どのような性質や条件が揃うと多量体化するのかなど,植物細胞内での蛍光タンパク質の多量体化には不明な点が多い.今後オルガネラ間相互作用を,より緻密に操作するためには,これらを明らかにする必要がある.また,本研究で相互作用が操作できたのは葉緑体のみであり,オルガネラグルー技術を汎用性の高いものにするためには,葉緑体以外のオルガネラの相互作用を操作できるのかを検証する必要がある.葉緑体よりも小さいオルガネラは,その他のオルガネラと接する面積が少ないことから,相互作用を操作するためには,蛍光タンパク質以外の強力な多量体化タンパク質の検討が必要である.

形質転換によって植物の代謝物の産生を改変した取り組みは数多く存在するが,オルガネラグルー技術を用いる利点としては,直接オルガネラ間の相互作用を操作することで,特定の遺伝子の発現レベルではなく,代謝経路レベルで代謝物の産生を改変できることである.例えば,本研究で人為的操作に成功した光呼吸経路は,光合成で作ったATPやNADPHといったエネルギーを消費してしまうため,光合成効率が向上した植物を開発するための主なターゲットとなっている.しかし,光呼吸経路に関連する単一の酵素を欠損させたり,過剰発現させたりすると,しばしば生育に大きな影響を与えることが報告されており,複数の酵素を協調的に調節する必要があると言われている10).これに対して,我々のオルガネラ相互作用を操作する試みでは,植物の生育に大きな影響を与えることなく,光呼吸の代謝を改変することに成功している.これは,オルガネラ相互作用を操作することで,代謝経路全体へ同時にインパクトを与えているためと考えている.今後さらにオルガネラグルー技術を改良していくことで,新たな植物バイオテクノロジーの可能性が開けると期待している.

文献
Biographies

石川一也(いしかわ かずや)

岡山大学学術研究院医歯薬学域助教

児玉 豊(こだま ゆたか)

宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター教授

 
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